ハードオンの楽しい思いつき集   作:ハードオン

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寒いっすねえ。


11話 雇用

「君達三人、俺が雇う」

 

「「「えっ……?!」」」

 

最初から考えていた。

 

俺は、ネットに繋がる端末を持つとはいえ、現在のこの世界については何も知らない。ネットワークの更新は停止していて、今現在のこの荒廃っぷりはウィキに書かれていないのだ。

 

クイナは、あまり知識がないようだし、となるとやはり、誰かこの世界の生活に詳しくて、護衛などができる存在が欲しかった。

 

しかし、信用ならない人間を側に置くのは、護衛がいないよりも危険である。

 

なので俺は、試すことにした。

 

もちろん、エンジョイ勢なので、調子に乗りたい気分でもあったのだが、あえてこんなにもふざけたのは、俺に突っかかってきたり警告してきたりする奴を探すことが目的でもあった。

 

得体の知れない謎の男に話しかけ、街を守ろうとする正義感がある奴。

 

得体の知れない男が貴重品を安売りするのを、ちゃんと咎められる奴。

 

得体の知れない男に貴重品をチラつかされても、飛びついてこない慎重な奴。

 

そんな奴らを探していた。

 

「……と言う訳だよ」

 

「なるほど……、試していたのか」

 

イロハが言った。

 

「そうだ、俺は、どうしても信用できる人間が欲しかった。気分を害しただろうから、それは詫びよう」

 

「いや、それだけの財を持つのだ、他人を警戒するのもおかしくはない」

 

「ありがとな。それで……、君達三人は、俺に雇われてもらいたい。食事、水、衣服、武器、乗り物はいくらでも融通する。だが、金銭はそこそこしか出せない」

 

「いや、充分な条件だ。私だって、この街の用心棒だが、一日働いても一万円しか稼げない」

 

とイロハ。

 

「ウチはもうちょい稼いどるけど、それでも大差ないわ」

 

とフミナ。

 

「私も同じくらい」

 

とミヨコ。

 

「雇われてくれる場合は、色々と話をしよう。だが、話を聞いたら、必ず雇われてもらう。聞かれちゃまずい話だからな」

 

「ふむ……、だが、犯罪者として追われている、とかではないのだろう?」

 

「もちろんだ、それは保証しよう」

 

「ふむ……、私はまだ、よくわからない。考える時間が欲しい」

 

イロハは言った。

 

「せやね、あんちゃんに信用してもらえたのは嬉しいけど、ウチらはまだ、あんちゃんを信用できへんから」

 

フミナが言った。

 

「私は……、まあ、機械をいっぱい見せてくれたし、ちょっとは信用したいと思う」

 

ミヨコが言った。

 

ふむ、その意見はよく分かる。

 

信用を得る……、となると、お使いクエストだろうか?

 

いや、現実はゲームとは違う。

 

都合よくクエストなんざ転がっちゃいない。

 

となると……、よし。

 

「分かった。しばらく、この街で商売をやりつつ、君達に信頼してもらえるように頑張ってみよう。だが、俺は一人では本当に何にもできないんだ。戦うことも、商売も、機械いじりもできない。だから、明日からお試しで雇われてくれないか?」

 

「まあ、私達は基本的に日雇いだから構わないが……」

 

「一人につき、一日六千円払おう。しばらく、俺と仕事をしてみないか?」

 

「うむ、良いだろう」

 

「まあ、ええで」

 

「ん、分かった」

 

 

 

とりあえず、今日のところは休むことにした。

 

車を収納して、宿をとる。

 

宿は、素泊まり一泊で二千円の個室に、クイナと二人で泊まった。

 

室内でシャワー室を出して、シャワーを浴びてから、寝る。

 

 

 

次の日、朝。

 

折角なので、宿の食堂で朝食を摂ることにした。

 

メニューを見る。

 

《30%オセンスイ 500エン》

《キビカユ 1000エン》

《フカシイモ 1000エン》

《キビダンゴノスープ 2500エン》

《マメイリタマゴヤキ 2500エン》

《カンヅメ 8000エン》

 

ふむ……、見まごうことなくポストアポカリプス。

 

カンヅメはどうやらランダムらしく、カレー缶、シーチキン、焼き鳥などらしい。

 

きび粥は……、ああ、農園でたくさん育ってたイネ科の何かはどうやらきびだったらしいってことか。

 

芋もある。じゃがいもだ。なんか色が嫌に赤いんだけど、おそらくはじゃがいもだ。

 

黍団子のスープって何?すいとん的なサムシング?

 

豆はどうやら、赤い豆だ。レッドキドニーっぽく見えるけど、なんでこのご時世の日本にレッドキドニーが?

 

よし、試しに黍団子スープと豆入り卵焼きを頼んでみよう。

 

俺は小声でパンチに話しかける。

 

「これ、食っても平気か?」

 

『直ちに影響はないぜ』

 

「ンモー、大震災か?」

 

まあ、行けるっぽいな。

 

黍団子スープは……、あ、これ、ミルクスープだ。

 

具材はちょっとのニンジンとタマネギ、黍団子。

 

そのニンジンも、鮮やかなオレンジ色ではなく紫色で、タマネギも紫色。

 

味は……、不味いなこりゃ。まあ、食えない!無理!拒否反応!ってほどじゃないが、無難に難がある。味もうっすい。

 

黍団子はもちもちだから食感は良いんじゃない?色がやたらと黒いんだけど。

 

豆入り卵焼きは……、茹でたレッドキドニーらしき豆に、つなぎ程度に入った卵。ほぼ焼き豆。焼き豆の卵ソースかけって感じ。

 

味は……、不味いなぁ……。

 

このレッドキドニーみたいなの、青臭いんだよなあ……。当然のように味がうっすい。

 

不味いなぁ……、これは不味い。

 

この世界の人達はこんな不味いもん食ってんのか、かわいそ。

 

食後、口直しにチョコレートをかじる。あー、美味いなあ。

 

さて、約束の時間だな。

 

昨日と同じ場所に移動しようか。

 

……それと、この時代の食事は極力食べないようにしよう。




そろそろ実家に帰るのだが、親兄弟に、万一俺が死んだら俺のツイッターアカウントで死亡報告を呟いてくれと伝えておこう。

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