「おお、いるなぁ、マリンよ」
翼の王、ネツァワルピリが告げる。
「戦争か。まあ、慣れたもんだな」
アギエルバが告げる。
「マ、マリンさんは私が守りますっ!」
サラが告げる。
さて。
ゼニス高地にて。
戦争の時間だ。
何が起きたのか詳しく説明すると。
先日依頼を受けて、アウギュステのゼニス高地にて帝国軍の大群との戦闘になった。以上。
……と、我が騎空団、白き翼に説明したところ、分からん、もっと詳しく、と言われた。
俺はそれを受けて、いや、普通にそのまんまの意味だが。戦争やるんだってよ。と、伝えたところ。ボレミアに、
……「サラに戦争をさせる気かお前は!」
と怒られる。
確かにそうだな、サラには後ろで控えていてもらおう。
しかしサラは、
……「人を傷つけたりは、できません。けれど、マリンさんを、皆んなを守りたいですっ!!」
と答えた。天使でしょ。
その他、団の良心ことネツァワルピリにも、自分は帝国が侵略をしてくるのが悪いと思うので、戦うことも吝かではないが、女性陣を戦争に出すのはどうなんだ?と諭される。
だから俺は言ってやったのよ。
……「俺の全体攻撃魔法で全てを吹き飛ばす」
ってね!
しかしそうするとアルルが。
……「駄目だ、君を殺戮者にする訳にはいかない」
と大反対。
アルルは善人で、正義という言葉に重きを置く。
だから、非殺傷の魔法でどうにかすると説得。
戦争なのに極力殺すなと言われるのは謎だが、アルルの頼みだ。
対人用の非殺傷デバイスの使い所だなー。こんなこともあろうと、レイジングハートを作っておいた。魔法青年リリカルマリン始まります!
まあ、そんな感じで、色々あって。
「ふふふ、魔法が使える、魔法が使えるぞ」
「魔法なぞ、常に使っているであろうに」
「たまには広域殲滅魔法とか使いたいのよ」
「危険な奴だな……」
黙れ翼の王。
さて、位置関係。
主戦場はゼニス高地の真ん中辺り。
北に帝国軍、南にアウギュステ本隊。
主戦場となるだろうど真ん中に俺達白き翼。
主戦場から外れた南の方にジータちゃん御一行。
そんな感じ。
状況は、今にも軍と軍が大激突ってところ。
あー、イア・シュブニグラス使いてえ。
イア・シュブニグラスは、即死効果のある黒い風を展開したのち、それで殺した敵の数に応じた黒い仔山羊を召喚する魔法なんだが、最高に派手な見た目で実にエンターテイメント。
やりてぇー、けどやったらアルルに嫌われるし、非殺傷非殺傷と。
よーし、ではでは、早速魔法だ。
ふわり、と、宙に浮かんで。
『メラガイアー、トルネド、フラッド、マハジオダイン、白竜の息、アルテマ、マハラギオン、メギドラオン、マヒャデドス、バハムート召喚ギガフレア、オーディン召喚斬鉄剣、ヨグ=ソトースのこぶし……』
「は、は」
ああ、良いなぁ、魔法は良い。
素晴らしい。
破壊だ。
創造だ。
全てだ。
「ははは、あはははははははは!!!!」
「やめんかー!!!」
驚異的な脚力でジャンプ、俺に掴みかかるネツァワルピリ。
「ぐっ?!ぬおおおお?!!」
足を掴まれて真っ逆さま。トベルーラ、飛行魔法で空中で静止。
「何しやがるこの野郎!!!人が気持ちよく魔法をぶっ放してると言うのに!!!」
「馬鹿者め!最初の一発で敵は総崩れ、二発目で完全敗北であろう!!無駄撃ちするでない!地形が変わってしまったではないかっ!!!」
あ?
あー?
「そんなことどうでも良い」
「加減しろとあれほど」
「目一杯加減したぞ」
「どの辺がだ?!」
チッ。
「まあ直せば良いだろこんなもん」
『ザ・クリエイション』
平地になったゼニス高地を高地に戻す。
「相変わらずふざけた魔法であるな……」
ドン引きするネツァワルピリ。
ええー、僕、またやっちゃいましたぁ?と、なろう主人公並の感想しか抱けねえんだが?
「そんな大したことしてねぇだろうがよ」
「気付け、一撃で軍隊を滅ぼす魔法の戦術的価値を!!」
「帝国軍が雑魚だったんだろ」
「お主が強過ぎるのだ」
そうかい。
「こんな程度の魔法、才能と百いや千年程の修行で誰でも使えるようになるぞ」
「知らんのかマリン、人は千年も生きられない」
「うん?不老の魔法教えてやろうか?」
「お主は全く……」
んだよ。
「さて、金もらって帰るか。今日はジータが帰ってき次第宴会するぞ」
×××××××××××××××
私、ジータは、ゼニス高地に帝国軍が集まっていると聞いて、そこへ向かった。
でも、主戦場じゃない。
主戦場では、アウギュステの本隊が戦うそうだ。
私の予想だと……。
師匠がこっち側にいるって時点で、勝負は決まっていると思う。
「しかし、大魔導師マリンを味方にできたのは中々デカイんじゃねえのか?」
と、オイゲンがヒゲをさすりつつ言った。
んー、それは違うかな。
「師匠がいる時点で、勝負にならないと思うよ」
「はは、そんなにか」
むう、オイゲンってば、信じてない?
「おっと、始まるみたいだぜ」
ラカムがタバコを咥えながら戦場を見やる。
「ん?何だありゃ、人が空を飛んでる……?」
「あ、師匠だ」
「はぁ?!あ、あんな前線に陣取ってんのか?!戦場のど真ん中だぞ?!頭おかしいんじゃねえのか?!!」
「え?師匠の頭はおかしいよ?」
「いや、おかしいよって……、あれじゃいくらなんでも死んじまうぜ!!」
「大丈夫じゃない?」
「大丈夫な訳あるかよ!!見殺しにするのも何だ、今からでも助けに……」
「大丈夫、大丈夫。見てて」
師匠が動く。
すると、師匠の頭上に、半径数キロメートルの巨大な火球ができた。
ルリアが呟く。
「太、陽……?」
そして、生み出された破滅の太陽は、ゆっくりと帝国軍に落ちる。
あは、すっごい❤︎
流石は師匠。
着弾と同時にずしんと大地が揺れる。
帝国軍は死屍累々。
炎の塊に押し潰されたせいで、ピクリとも動かない者、余波の熱でのたうちまわる者、衝撃で吹き飛ばされる者。
ああ、これ、師匠は、非殺傷設定だ。
師匠が普通に今の魔法を使ってたら、帝国軍の人達は骨も残らないだろうし。
「何だ、こりゃ……!!何だこりゃあ!!!これじゃあ、まるで……!!!」
狼狽えるオイゲン。
「まるで、カミサマじゃねえか……!!!」
師匠の魔法はまだまだ終わらない。
次は風の魔法だ。巨大な竜巻が帝国軍を通り過ぎていく。帝国軍の兵士は、紙切れみたいに吹き飛んだ。
次は水。アウギュステの海みたいな、膨大な質量の水が帝国軍を圧砕した。
そして雷。白亜の稲妻が轟いて空を焼く。
ああ、ああ。
これが、これこそが。
魔法なんだね。
凄いよ師匠。
「なんだありゃあ……」
「魔法でしょ」
「なんなんだよありゃあ!ふざけやがって!あの野郎、天地をひっくり返しやがった!!」
どうしたのオイゲン。
「馬鹿なんじゃねえのか!ありゃ何だ!」
頭を抱えてるみたいだけど……?
「ありゃあ、破壊そのものじゃねえか!一人の人間が持って良い力じゃねえ!!」
「うーん、大丈夫じゃない?師匠は、支配とか征服とかは管理維持が面倒だからやりたくないって言ってるし」
師匠、ああ見えて引き篭もり体質だし。声かけないとずっと研究してるタイプだ。歳もとらないし。
あっ、でもどうだろう。女の子大好きだから外には出る、かなあ。
「……ジータ、さっきのあれは、マリン殿が?」
カタリナは苦虫を噛み潰したような顔をしている。
「そうだと思う。全空を探しても、あの規模の魔法を使えるのは師匠だけだと思うよ」
「マリン殿は、神なのか……?あり得ない、何だあの力は……」
「確かにありゃまるでカミサマだ……。戦艦すら消し飛ばすんじゃねえか……?」
同じく、苦い顔のラカム。
「そん、な……」
「あの魔法は……、何……?」
ルリアとイオも震えている。
んー、やっぱり怖い、か。
そりゃあ、私も最初はちょっと怖かった。
世界を滅ぼす力を持った人だもん。
けど、師匠は、精神は普通の人なんだ。
普通に、泣いたり笑ったりする。私と同じだ。ただ、ちょっとワガママで女好きなだけ。
理由もなく人を殺したりなんてことはしないのに。
でも、その力は、みんなから怖がられてしまう。
私が支えてあげなきゃ……。
「ねえ、みんな、聞いて?師匠はね、力はあるけど悪いことをする人じゃないんだよ……」
魔法使ってテンション上がった。