滋賀に到着。
えー、滋賀だが。
名古屋に勝るとも劣らないほどに繁盛していた。
「おー、結構人いるね」
俺がそう言うのもおかしな話じゃない。
何せ、街に入るのに並ぶ必要があるのだから。
「そうですね……、ここに来るのは久々ですが……、ふふっ、相変わらずだ」
そう言ったのはイロハ。
イロハは、浪人時代に各国を放浪していたので、ここも知っているらしい。
ここは近江八幡市……、『ハチマンの街』だ。
ここ、ハチマンは、アザイ家の領地。
日本でも屈指の、汚染が少ない水のある『ビワ湖』を占拠する豪族であるアザイ家は、現在の日本の首都にして『テンノウ』のいる場所である『キョウト』との繋がりも深い。
日本史では信長を裏切ったアホ扱いされる浅井だが、実際は天皇家に血を残したりしてるし完全に無能って訳じゃなかったんじゃないかな。
まあ、今のアザイは、恐らく、なんも関係ない人が勝手にそう名乗ってるだけなんだろうけどさ。
ともかく、かなり有力な国家であることには変わりはない。
でもアレだね。当然、水利権の話は荒れるよね?古今東西、水の話は荒れるよなあそりゃあ。
現在、アザイは、隣接する『サイトウ』『アサクラ』と揉めに揉めているそうだ。
京都一帯を支配する『ロッカク』は傍観の構え。
何故争ってるかというと、実効支配できてないのにも関わらず、アザイ家はビワ湖全域を領有していると宣言し、こっそりビワ湖から水を汲んでくるサイトウとアサクラにブチ切れているという、割としょーもない話だ。
現代人からすれば、実効支配できてないなら分けてやりゃ良いじゃん!って思うかもだが、この人道とかないポストアポカリプスワールドでは、軒を貸せば母屋を取られるものだ。
つまり、実効支配してない?じゃあここまでうちの兵置くね。うちの兵がいるね?じゃあここうちの領地ね。みたいな感じでどんどん侵略されちゃう恐れがある訳だよ。
だから、嘘でも全部ワシのじゃ!って言わないといけなかったんですね。
まー、そんな訳で、毎日小競り合いしてるらしいよ。
毎日毎日飽きもせずドンパチやってるらしくて、傭兵達のホットゾーンなんだとか。
まるでビザンティン帝国みたいだあ。
「……と言う訳です」
と、そんな話をイロハ達から聞いた。
どうやら、イロハ、ムサシ、オオシオは、この辺の小競り合いで戦っていた経験があるみたいだ。
ここ、ビワ湖周辺は、アザイ家周辺の小競り合いはもちろんのこと、水があるのでクリーチャーも大量に沸くそうで、その退治のために傭兵やら何やらの需要が大きいそうだ。
イロハは浪人……、異世界で言う冒険者みたいなの出身、ムサシとオオシオは傭兵出身なんだとさ。
俺は女の子の過去とかあんまり気にしない派だからどうでもいいけど、そうだったんだ。
昔の話を振るとちょっと言い淀むから、あんまり話したくないのかなーって思ってたんだけど、どうなんだろうね?
触れちゃいけない系の話だと、その話の内容は気にならないけど、概要は知っておかないと日常会話の途中で地雷踏んでギクシャク……、とかなりそうだし、一応聞いておくか。
「あのさ、もしも嫌だったら言わなくても良いんだけどさ、君ら昔は何やってたの?なんか話したくないこととか触れて欲しくないこととかある?」
「あ、いや、気にしないでほしいです。特に辛い過去がある訳ではないので」
とイロハ。
「私も特には」
「ですぅ」
ムサシとオオシオ。
「じゃあ、改めて聞くけど、君ら昔何やってたの?」
「実は私はこの辺りの出身でして、ローニンとしてこの辺りで紛争やクリーチャー狩りに参加していました。因みに、アザイ側に味方していました」
とイロハ。
「私達は流れの傭兵団の団員だったんだけど、団長が変わってから色々とやり辛くなったから抜けたんだ。傭兵だから、アザイ側とかアサクラ側とか関係なしに、金さえもらえればどこでも戦ったよ」
「ですぅ」
とムサシとオオシオ。
「あ、じゃあ、触れちゃいけないトラウマとかはない感じ?」
「まあ、特には。ですが、アザイ側に今もいるであろう同輩と殺し合うことになれば、少し躊躇ってしまうかもしれません」
イロハはそう言って、昔を懐かしむような顔をした。
「私達は傭兵だからね!昔の知り合いでも敵になったら容赦なく殺すよ!」
「そして、戦場の外では戦場の出来事を持ち出さないのが傭兵のマナーですぅ」
とムサシとオオシオはなんでもないかのようにそう言って笑った。
なるほどね。
無理してる様子もないし、こりゃ本当に古巣がこの辺ってだけだな。
まあ、あんまり気を遣わなくて良いのは楽で良いわ。
そんなこんなで、門に入る手続きをする。
門番は優秀ではないが無能でもない、程々の人材だった。
オダの領地の門番は、不正をしない上に主君への忠節もあるそこそこに有能な存在だったし、イマガワの領地の門番は、相手を見て袖の下を要求するある種賢い奴だった。
しかし、ここアザイの領地の門番は、不正はしないが、あくまでも仕事でやってますと言った感じのやる気のなさを感じる。
何というか……、学生バイトみたいな感じ?
ひょっとしたら、家臣ではなく雇われなのかもしれない。
「なあ、あんた」
「はあ?何ですか?」
「おすすめの宿屋とか教えてくれないか?」
「いやー、ちょっとわかんないっすね」
ふむ、この態度。
「もしかして、あんた、兵士さんじゃないのか?」
「あ、俺、バイトなんすよ」
バイトなんだ……。
門番をバイトとか、アザイ家って大丈夫なのかな?
チラリとイロハの方を見る。
「恐らくは、長く続く小競り合いで家臣が減っているのでしょうね。門番程度に人員は回せないのでしょう」
なるほどね。
門番程度とは言うが、入口が汚い飲食店は何やらせてもダメみたいな理論で、一番人目につく門番はしっかり教育すべきと思う俺がおかしいのかね?
「でも、あそこ見てよ」
とムサシが門の奥を指差す。
見てみると……、迷彩ズボンにブーツ、そしてタンクトップの筋肉野郎集団が巡回していた。
筋肉野郎共は、皆一様に銃器や刃物で武装している。
「あれは……、傭兵か?」
「そうだよ。多分、アザイは街の防衛を外注してるみたい」
えぇ……。
防衛戦力まで外注しちゃってるのん?
流石にそれはまずいでしょ。
「そんなことして良いの?危なくない?」
「アザイに限っては危なくないかも」
「と言うと?」
「アザイって、要するに、傭兵達からしたら金蔓だからね。きれいな水は絶対に需要がなくならないし、そこそこ高値で売れるから、そんな水売りのアザイは絶対に経済的には潰れないの」
なるほどね。
「必ず金を持っているアザイが潰れると、傭兵共も稼ぎがなくなって困る訳だ。だから必死に街を守る、と」
「それに……、ほら、バラバラの傭兵団を、人員をシャッフルして警備させてるでしょ?ああすれば、一つの傭兵団が街の乗っ取りを企てても、他の傭兵団に潰されるんだろうね。よく考えてるよ」
見てみれば、筋肉野郎共にも所属が違う奴らがバラバラに組み合わさっていることが分かる。
服装も年齢も武装も、全員がバラバラなんだもんよ。そりゃあ、同じグループではないなと気づくだろうよ。
なるほどな、バラバラの人員をひとグループにまとめて、相互監視させてるのか。
アザイもアホじゃないな、侮れん。
ゲス野郎の貞操逆転ものを書きたい。
「俺の好みのタイプ?美人で、俺が言ったことに何でも『はい』と答える人形かな。人格とかなくて、ただ馬車馬のように働き無限に奉仕する道具みたいな女がいい」
みたいな。
いや、救済ものだ。やっぱり救済ものを書かなくては。
いや、違うんだよな、TRPGものの第二章もちょっと触りたい。