「いてててて……」
ベッドが固え。
ハンモックにすりゃ良いのに、なんでわらのベッドに?
まあ良いか。
さて、宿は一晩五千円のところに泊まったのだが、まあ酷かった。
だが、このくらいなら、親父と行った南米の謎部族の調査による二ヶ月の旅。あの時の方がキツかったし、俺にはなんのダメージもない。
朝飯!
……黒パンだ。
黒パンと、臓物ソーセージのぶつ切りが入ったシチュー。
それとチーズふたかけらと、エール。
朝からエールである。
未成年?異世界だからセーフでしょ。
あ、日本人はシチューと言えば、牛乳が入った白いのを想像するだろうが、海外やこの世界でのシチューと言えば、塩肉じゃがみたいな感じだ。
ポトフ的な……?いやコンソメほど繊細な味はしてねーけどもさ。
臓物のミンチが詰まった黒いソーセージのぶつ切り、それとキャベツとにんじん、レンズ豆の入ったスープだ。
味付けは……、ローリエと……、ワインビネガーかな?それと塩。セージもがっつり入ってるんだが、その風味が臓物ソーセージのモツ臭さを軽減してくれている。
うん、うん。
まあ割と美味いぞ。
やっぱりこう、モツの臭さはあるんだけど、ハーブ多めだと気にならないね。
ワインビネガーの酸味が爽やかで良いなー。
あ、エールはクソ不味かったです。
チェックアウト。
観光タイム!
「城壁の上って登れねーの?」
俺がセシルに問いかける。
折角だし、高いところから街を一望したいじゃん?
「無理だ。町の防衛に関わるから、兵士しか登れん」
「あー、そっか」
現地政府からNG出ちゃったかー。
そう言われるとどうしようもねーなー。
んじゃ、街でも歩くか。
さっき食べた宿屋の朝食は少なかったしな。
食べ歩くか。
まず、ここ。
「こりゃなんだい?」
「知らねえのか兄ちゃん!こいつは、ウルカストル名物の『ラッセル塗りパン』だぜ!」
茶色いペーストが塗られたパンだ。
「ラッセルってのは?」
「むかーし、このウルカストルの長をやっていたラッセル伯爵って人がいてだな!そいつが発明した料理だって言われてんだ!」
「へえ、作り方はどんなんだ?」
「お貴族様には精進日ってのがあんのは知ってるか?なんでも、精進日には、動物から取れるものは食っちゃならねえらしい。だが、ラッセル伯爵は相当に食い意地が張った奴でな、精進日にも大好きな豚が食いてえって思ったんだよ」
「ほうほう」
「それでな、ひよこ豆をすり潰したのに、ラードを混ぜるんだ。すると、見た目は豆のペーストで精進料理にしか見えないんだが、味はラードの味だ。で、ラッセル伯爵はこいつを精進日のたんびに食うようになったんだ」
ははあ、なるほどなあ。
「でもな、ラッセル伯爵は結局、後で精進日破りを坊主にバレちまって、腰が抜けるほどどやされたらしいぜ!ははは!」
「そりゃ面白いな、一つくれよ」
「おう!三百フリンだ!」
味は……、うん!美味えな!
ひよこ豆をラードで伸ばしたペースト。美味い。
ほんのり塩味で濃厚だ。
無限に食える味してるぜ。
別の屋台へ。
「おい兄ちゃん!ウルカストル名物はどうだ?」
「ん?さっき食ったぞ?」
「『ラッセル塗りパン』がウルカストル名物ぅ?はっ!バカ言っちゃいけねぇ!本当のウルカストル名物はこれだ!」
串焼肉だ。
「こりゃなんだ?」
「マムートの肉だよ!知らねえのか?」
「知らねえなあ」
「良いか?マムートってのは、この辺にいるデッカいモンスターだ!見た目は、長い牙と長い鼻を持つ毛達磨だが、こいつの肉が美味いんだよ!」
へー?マンモス的な?
「じゃあ一つくれ」
「よし!六百フリンだ!」
もぐ。
お!結構美味い!
筋だらけの見た目なんだが、筋は全然噛み切れるし、脂も乗ってて美味いな!
アフリカで象を食ったことがあるが、アレに近いかな?
胡椒を振ると美味いと思うんだが……。
「胡椒はないか?」
「胡椒?ははっ!こんな場末の屋台にそんな高価なもんがある訳ねーだろ!」
へえ、高級なのか。
後でセシルに聞いてみよう。
あ、言い忘れてたけど、セシルは冒険者ギルドの方で仕事してるみたいだ。
しばらくはこの街に滞在するし、宿も俺が今日泊まったところと同じとこに泊まるらしい。
それに、セシルは千里眼のスキルがあるから、この町の範囲内ならどこにいても見つけてくれるそうだ。
「おい、兄ちゃん!これはどうだ?今朝とれたての『ペリエの実』だ!」
「おー、買おう」
んー?何かこう、オレンジ的な?
「あんちゃん!こっちの『焼きヴルスト』はどうだ?うんめぇぞ〜!」
「買う買う」
ソーセージだ。
んんっ、ラードの細切れと臓物がたくさん詰まってるな!
これはこれで美味い!
「マスタードとかないの?」
「何だそりゃ?」
ないのね。
そうやって買い食いして回っていると……。
「おい兄ちゃん、景気が良さそうだな?」「ヒヒヒ……」「くけけ……」
人相の悪い男達に囲まれた。
ああ、物盗りか。
よくいる、よくいる。
治安悪いなあ。
「ああ、景気は良いぜ、最高だ」
「それじゃ、オレ達にもその景気の良さを分けてもらおうじゃねえか!ぎゃはははは!!!」
「へえ」
なるほどな。
「なあ、聞きたいんだが」
「あ?なんだぁ?」
「物盗りってのは、間違って殺しちまっても罪に問われたりするのか?」
「……てめぇ、舐めてんのか?」
「ん?ああ、舐めてるよ?だってほら」
俺は拳を突き出す。
「はぁ?何だそりゃ?」
それをゆっくり引いて……、目の前の男を殴り飛ばす。
「ぁ」
「うわ!やっべー……、ステータス効果を甘く見てたなー……。かなり手加減したんだが、ありゃ死んじまったか?」
十メートルくらいかっ飛んだぞ。
「ひ……?!」「お、お前」
「ん?やるのか?」
「お、お前、オレ達が誰だか分かってんのか?!」
「知らんけど」
「オレ達は『鰐の顎団』だぞ?!分かってんのか?!」
「知らねーって。何だそれ?」
「て、てめえ」
「で?やるのか?」
「お、覚えてろ!」
何だ?マフィアがなんかか?
新作の話なんですけど、ダンジョンで失った四肢や臓器なんかを再生させるポーションがドロップするんですよ。
そして、主人公の親(学者)が、研究所を作って、そこでポーションの実験をするんですね。
でも、政府はダンジョンについての情報を秘匿していて、このままだと、ダンジョンで手に入れたものを取り上げる法律とかできそうな感じなななるかも?と主人公の親が予想するんですね。
だから主人公の親は一計を立てて、ポーションの治験を下請け業者にやらせることにするんですよ。
そして、ポーションの治験は、下請けが孫請けに、孫請けが更に下にとたらい回しにされて、最終的に、コンプライアンスのかけらもない中小企業が治験を実施するんですね。
それで、ポーションに関する情報が漏れて、世論が「ダンジョンにはどんな病気も治るポーションがあるらしいぞ!政府はダンジョンを一般公開しろ!!!」って方向になる……、って感じ。
そんな話を書いてたんですが、俺は内心、「いやあり得ねーだろこれ」って思ってたんですね。
でもそこに、「日興証券のソースコードをジットハブにお漏らししたおじさん」がいるとツイッターで話題になってるところを見つけちゃって、「事実は小説より奇なりじゃん」ってなりましたね。