俺とセシルは、ショッピングモールにやってきた。
「じゃあ、欲しいもんあったら言ってくれ」
「おお……!」
セシルは、感嘆の声を上げていた。
「ここ全てが商店なのか?」
「そうだ」
「素晴らしいな。呆れるほどに豊かだと前に言ったが、まさかここまでとは思わなかった」
「んん?エルフなんだから、森と共に生きてー、みたいなことを言うもんじゃないか、そこは?」
「ふん、それは年寄り連中の常套句だ。私のような若いエルフは、より豊かな生活を求めている」
そう言うもんなのかねえ?
「まあ、まずは食事を買いに行くぞ」
「ああ」
俺とセシルは、ショッピングモール一階のスーパーに来た。
「ここでは、食品と日用品を売っている」
「ふむ……、興味を惹かれるものが山ほどあるな」
口ではそう言っているが、お登りさんのように挙動不審にはならない。その辺は実にエルフって感じだ。
因みに、セシルには武装解除してもらい、外套と革鎧を脱いでもらった。なので、緑色のシャツとカーキーの革ズボンにブーツって感じの出で立ちだな。
俺?俺はフライトジャケットにジーパン、ハイカットのスニーカーで、シャツは、シャケの切り身の絵とハリフキダシで『シャケ!』と書かれたクソダサTシャツだよ。
「まずはパンだな。ここはメーカーのベーカリーがあるそうだから、買っていくぞ」
「うむ」
パンコーナーに向かう。
「これは……、パンに具材を挟んでから焼き上げたのか?」
惣菜パンを指差して言うセシル。
「そうだぞ」
「パンの利点は保存が効く事だ。何故、保存性を下げるようなことをする?」
「良いか?この店では、毎日これが同じ量並ぶんだよ。不作だろうがなんだろうが、な。だから、必要なのは保存できるかではなく、『美味いかどうか?』ってことだ」
「また、豊かさを見せつけられたな……。なるほど、保存するまでもないのか」
「保存食も別にあるから、それも後で買うぞ」
「うむ」
「じゃあとりあえず、カゴ一つ分は買っておこう」
「そんなに必要か?」
「ん、ああ……、もしかしたら、不測の事態があるかもしれないだろ?アイテムボックスに入れておけば腐らないんだから、食料や日用品はたくさん買っておく」
「そうか」
あとは……。
「惣菜も買っておくか。何か欲しいものとかあるか?」
「ふむ?ここでは、出来合いの料理が売っているのか」
「そうだ。味はまあ、普通に美味いぞ」
「では……、ふむ、これはフリッターの一種か?」
そう言って、メンチカツを指差すセシル。
「ああ、玉ねぎと挽肉を捏ねたものに、パン粉をつけて揚げた料理だ」
「ふむ、良いな。これは?」
「チキン南蛮か。揚げた鶏肉を甘辛いソースで味付けして、酸味のあるソースをかけたもの」
などと、色々買う。
「カップ麺や乾麺も買って行こう」
「乾麺?」
「あれ?そっちに麺ってないのか?」
「いや、あるが……、あれは白麦を贅沢に使う故、贅沢な品だ」
「ふーん?こっちだとありふれた品だよ。麺を乾燥させてな、保存が効くようにしておくんだ」
「では、湯で戻すと言うことか?」
「そう言うこと。で、このカップ麺は、スープや具材も乾燥させたものだ」
「興味深いな……。この材質、どのようなものなのか検討もつかん」
あとは、青果コーナーにも寄る。
「……なんだここは?」
「青果コーナー」
「この野菜の瑞々しさ……、収穫してから一晩ほどだろうか?しかし、近くに畑の気配はないが」
「車で運ぶんだよ」
「なるほど。あの無人馬車の速さを見れば、それも納得できるな」
「おっ、贈答用のメロンじゃん。買い占めようぜ!」
「これは?」
「メロンだけど、知らないのか?」
「知らんな」
「果物だよ。高級なやつ」
「ほう、果物か」
「苺も箱買いーっと」
それと、ちり紙や替えの下着辺りも揃えて、一旦会計。
買ったものは、持ち帰ると見せかけて、ショッピングモールの死角に隠れてから、アイテムボックス袋に詰めておいた。
次は、アウトドア用品店だ。
調理器具や刃物を買う。
薪や炭、ガスコンロ、発電機、小型冷凍庫やテントをたくさん。
「因みに、エルフって金属製品持ってて良いのか?」
「ただの鉄には魔力が定着しない故、金属製品はエルフに嫌われている。が、しかし、そんなことを言っているのは老人だけだ。あるものは使う」
なるほどね。
「まあ、私が愛用しているショートソードはミスリル製だが」
「へえ!ミスリル!やっぱりあるんだ、そういうの」
「うむ、ミスリルは魔力を良く通し、鉄よりも遥かに丈夫で軽い」
「良いねえ、そのうち探してみるか」
「となれば、『鉱山都市ガロニカ』だろう。ガロニカには、ミスリルの鉱脈があるらしいからな」
「じゃあ、次はそこに向かうか」
「馬車で三ヶ月ほどかかるがな」
「うーん、まあ、車は馬車の数倍は速いが、週に二日しか移動できないとなると……、結局、三ヶ月くらいかかりそうだな」
そんな話をしつつ、俺はカゴに色々と放り込む。
そして最後に、旅の最中の暇つぶしにって事で、書店コーナーに寄る。
「これは……!」
セシルは、今までは大きな驚きを表面に出さなかったが、ここに来て度肝を抜かれたようだった。
「これは、全て本なのか?」
「ああ、そうだ」
「あり得んぞ……、写本師をどれほど抱えているんだこの国は」
ん?ああ……。
「活版印刷って、そっちの世界にはないのか?」
「活版印刷……?」
「要するに、文字の書かれたハンコでたくさん本を作るんだよ」
「ハンコ?そんなもの、本一冊作るのにどれだけ必要になるというのだ?!よしんば、それができたとしても、これほど大量の紙はどこから……?!」
「いやあ、俺も詳しくは知らんけど、亜麻とかサトウキビとかじゃなかったかな?」
「それにこの紙の色だ!雪のように白く、繊維質も見られない……。我らエルフの里で作られる特級品よりも質がいい!」
へえ、エルフって製紙やってるんだ。
「そして、驚くべきはこの内容だ!娯楽本だと?本を読むのが娯楽だと?!私の世界ではそもそも、文字を読むこと自体が一つの技能だというのにだ!つまり、この世界の人間は、みな文字が読めるのか!」
「ん、ああ、そうだな。義務教育ってのがあって、九年間は学校に通う国民の義務があるんだよ」
「義務教育!素晴らしい響きだ!教育を義務とするまでの経済力、工業力、安定した政治……。私の世界にはどれもない!是非、学ばせて欲しい」
「あー、ここの本はどれも大体、銅板一枚くらいの値段だから、好きなだけ買って良いぞ」
「感謝する、リック」
そう言って、本を物色するセシルを横目に、俺はジャプンの今週号を購入した。
プロット、プロットぉおお!!!
俺だってえぉなとトルネコくらいしかローグライクはやったことがないんじゃーい!
じゃあ何で書こうと思ったんですか?
どうして?どうしてですかね……?