夏休み明け、久々の登校。
一限は数学……、だったはずだが。
何故か、全校生徒が体育館に集められていた。
おまけに、手元には『新カリキュラムのガイダンス』などという用紙を添えて。
「うおっほん!校長の貞松です。えー、去年の十月十日に、世界にダンジョンが生まれて以降、日本経済は低迷の一途を辿り……」
長い話なので要約すると、ダンジョンのせいで海外から見捨てられて日本は一度地獄を見たが、ダンジョンのお陰で息を吹きかえした!これからはダンジョンの時代だ!ということ。
そんな程度のことを話すのに、五分も長々と話しやがって。
老人は喋りたがりなのが嫌だよなあ。
日本人なら、『もののあはれ』……、目には見えないものこそを大切にすべきだろう。
口で全てを説明してしまうのは、酷く無粋だ。それはそれとしてはっきりしない奴は殴るが。つまり、方便であり、気に食わない奴はどの道殴るんだよ。
そんなことを考えつつも、長話に辟易とした俺は校長に声をかける。
「おーい、話が長いぞー。結論を言え結論をー」
「むっ……?んんんっ?!!あ、赤堀君?!へ、へへへ、いやぁ、申し訳ないね!結論ね、結論!あー、ええと、新しいカリキュラムとして、他の授業を削って、ダンジョンについて学ぶ時間を、週に五コマほど入れる予定でね!」
権威に弱い校長は、俺に頭を下げてからそう言った。
なるほど、『ダンジョン学』みたいな授業ができるのか。
しかも週に五回も。
高校教育の場で、週に五コマ分の授業が潰れるなんて、丸々一教科分が入れ替わるような暴挙だ。
そんなことが罷り通るのは、やはり、冒険者が日本の主要産業になったからだろう。
ついこの前の、赤堀ダンジョン研究所による発表……、通称『ダンジョンショック』から、ダンジョン関係の株価は頭がおかしいくらいに高騰した。
冒険者の稼ぎも、正気を疑うほどに高い。
例えば、チュートリアル領域をうろうろしているような底辺冒険者が、週に一回、数時間のダンジョンアタックをするだけで、平均的な国立大を卒業した新卒と同じ分だけ稼げてしまうのだ。
週一はサボり過ぎだから、身体のことを労って、週に三回潜るとしよう。そうしたら?五、六十代の管理職の月収を簡単に超える。
ニート、フリーター、ホームレス、それどころか中学生のガキでも、ちょっと命をかければ、五、六十代の管理職のサラリーマンより稼げるんだ。
それも、管理職のように、週五で毎日残業せずとも、隔日に、一日五、六時間働くだけで。
仕事の内容もモンスターを殺して持ってくるだけで、高度な知識や技能は一切必要ない。
更に言えば、職場の人間関係もほぼない。
一般の会社員と言えば、大学まで行くために寝る間も惜しんで勉強して、クソみたいな謎かけ入社面接を切り抜け、ゴミ虫のような上司に媚び諂い……。
残業を重ねてプライベートを削り、心身をボロボロにして、そうして給料を手に入れている。
……冒険者は、それと同じ額を難なく稼ぐのだ。
しかも、そいつらは、中高生のガキだったり、低学歴のニートやフリーター。
どうだろうか?
馬鹿らしくならないか?
世の中のサラリーマン達は、必死に勉強して勉強して、人間関係で苦しんで、家庭で苦しんで、その末に給料を貰ってるのに。
勉強せずに遊んでいた、ニートやフリーターのようなクズが、ダンジョンに潜っているというだけで、自分より楽に、自分と同じ分の金をもらっている……。
断言するぞ。
こんなんで、真面目に働ける奴は、この世にいない。
その後はもう、早かった。
ブラック企業なんてのはすぐに、下々の若さだけが取り柄の職員に辞職され、経営が立ち行かなくなって倒産。
若さ、体力という取り柄は、冒険者の最大の資本故に。
そうして、多くの国民が冒険者になり……、冒険者の総数は、今や、日本人口の10%にまでに及ぶという。学生がアルバイト代わりにスライム潰しをしているような、専業ではない冒険者も含めば、総人口の20%を超える。
実際の話、うちの高校でも、勉強して大学に行くよりも、気の合う友人などと組んで冒険者をやった方が良い、という論調が主流になっている。
そりゃそうだろう、偏差値五、六十の大学を出るよりも、冒険者になる方がよっぽど楽に稼げてしまうのに、何が嬉しくて受験戦争なんざするんだろうか?
もちろん、真面目に勉強して、研究者やら経営者やらになりたいという奴も多数いるが、高卒者の進路の41%が就職を希望し、その中の殆どが冒険者志望であるのは事実。
つまり、今回のダンジョン学の設立については、「どうせみんな冒険者になるなら、学校教育の段階で冒険者について教えてしまおう!」という思惑がある訳だな。
配布された授業用のテキストの方は、ハードカバーの……。
「四六判だね。W127mm × H188mmの、新刊小説などで見られるものだ」
と青峯が横から。
つまりは、小説……、読み物としても楽しまれることを前提とした、冒険者の手引き書。
その名も、『日本迷宮入門書日光編』だ。
作者はもちろん、赤堀ダンジョン研究所名義。
スペシャルサンクス欄には、デカデカと俺とキチレンジャーの名前が掲載されている。
前書きには、『この本の作成に協力してくれた我が息子、藤吾と、その友人達に捧ぐ』などと書いていやがる。
この気取った文章は、親父の本の特徴だな。
……で、そうなんだよ。キチレンジャーの研究所でのアルバイトとは、この本の完成を手伝うことであったのだ。
聞いたところ、時給は三万円だったとか。
労働の内容は、定期的な体力知力のテストや、血液サンプルなどの提出。レポートの作成や、ダンジョン内での動画、写真撮影など。
要するに、普段俺がやっている仕事と同じだ。
日本迷宮入門書をパラパラとめくる……。
内容は、まず前段にポエムじみた演説があるが、これはうちの両親が本を出す時に必ず書くもので、前書きにごちゃごちゃと自己陶酔したようなポエムを並べるのだ。
格言というか、名台詞というか、そういうものを執拗に残したがるのがうちの親のムカつくポイントの一つ。
人類史に刻まれるレベルの発見をしたこともいくつかあるので、言った言葉が格言として残りそうなのは確かなのだが、こうもあからさまにやられるとイラっとするな。
しかし、内容は真面目だ。
ダンジョン二十階層までのダンジョンについてと、登場するモンスターについての概論、そのモンスターから取れる素材についての概論が掲載されている。
因みにこれは、俺の家の敷地にできた赤堀ダンジョンの情報であり、日本に八カ所ある他のダンジョンの情報が記載されている別バージョンも存在していると、冒頭のポエム混じりの挨拶欄にある。
まあその……、明らかに教科書ではないが、これしかダンジョン関係の書籍はまだ出版されてないんだよな。
日本の誇る理化学研究所?彼らは今、赤堀ダンジョン研究所の下請けになっている。
国立法人である理化学研究所は、国難の最中にある現在、もう本当にげっそりするほど予算を削られていらっしゃった。
そもそも、日本が防衛やら研究やらに予算を出す訳がないということは周知の事実だし……。
まあそんな訳で、機能不全に陥っていたそうだ。
一方で、赤堀ダンジョン研究所は、スポンサーを『反則技』で捕まえて、兆円単位の予算を確保していた……。
あ、反則技ってのは、俺が持ってきたポーションのバラマキだな。金持ち諸君は健康寿命が延ばせるならいくらでも出してくれるそうだ。
こうして、予算不足で研究者が逃げ出す理化学研究所から研究者を引き抜き、『反則技』で集めたクソデカ資金で研究していた赤堀ダンジョン研究所は、文字通り世界一のダンジョン研究所なんだな。
更に言えば、俺が持ってくるようなダンジョン深層の素材は、この世でまだ俺しか手に入らないもの。
黄金よりも価値のあるそのダンジョン深層素材を、好きなだけ使って研究している赤堀ダンジョン研究所が、他の民間のダンジョン研究所に負ける要素は何一つない。
つまりこの本は、赤堀ダンジョン研究所という、世界初で世界一で世界最大最高のダンジョン研究所が出版させた、公式の書籍なんだ。
だから、とりあえず今は、この本を読んで勉強して、冒険者になれということか……。
高まる希死念慮……!
なろうでよく見る、目立ちたくないとか口では言ってるくせに、全力で厄介事に首突っ込んでいく主人公何なんですかね?
僕はそういうのがムカつくんで、厄介事に首を突っ込むのはそうだけど、ちゃんと頭がおかしい主人公を書いてます。褒めて。
いやだってそうでしょ?どの道世界に混乱を撒き散らすなら、「目立ちたくない」とか言ってる小物野郎じゃなくって、「俺が世界を獲ってやる!」みたいな奴が主人公の方が好感が持てないっすか?
……持てないんだよな、一般の人からすれば。そう思うのは俺だけなんだよな。
でも僕はどうしても、目立ちたくないマンが世界を良くも悪くも混乱させる!みたいなのに納得いかないんですよね。
だから、「俺はゲームキャラなので、NPC共を弄って遊んでやろう」とか「人心も市場も全て混乱させて、俺が天下を獲ってやろう」とか「とにかく他人を苦しめたいから、周りの亜人を隷属させて人間を殺そう」とか、そういう主人公を書いてるんですね。
それはさておき、海洋もの書きてえですねえ。
たまには青い海!白い雲!小麦色に焼けた肌!みたいなノリで……。
んー、構想が固まらない。
1.二十歳くらいに若返って転移する、船は最初はボートくらいで、レベルが上がると進化する
2.異世界転生、五歳頃に神の祝福という体で人々は神からひとつだけ神器を授けられる、主人公は最初はボートでレベル上げで進化するのだが、最初のボートがハズレ扱いされる(追放もの?)
3.若返り転移、金を使えばボートが進化
4.異世界転生、スキル制で、ユニークスキルの『船召喚』的なのを持っている
うーん、うーん。