2021年の11月を迎えた日本だが、この頃には、様々な『変化』が顕著になっていた。
世界七位までに失墜し、半分ほどになったGDP(国内総生産量)だったが、今は世界五位までに持ち直していた。
GDPとは、身も蓋もない言い方をしてしまえば、「国民が稼いだ金」の総量のことである。
当然、輸入品の物価が上がったり、失業率が10%を超えたりなどすれば、「国民の稼いだ金」の総量はガクンと減るのは自明の理だ。
逆に言えば、GDPが半分などというふざけた値になった理由は、不景気のせいである。
これは何も、老害が言うような「政治が悪い世間が悪い」などという愚痴ではなく、真に景気が悪いのだ。
ダンジョン発生に伴い、日本企業の株が売られて、外国人が空港に押し寄せ、外国企業は日本の足元を見て輸出品の値段を釣り上げた。
特に、日本の株の七割は外国人の持株であるから、それらが殆ど手放されたというと、日系企業はいかほどのダメージを受けたか簡単に思い浮かぶだろう。
失業率はリーマンショックの頃の倍。体力のない中小企業は軒並み倒産し、大手でもリストラが横行。
一家心中は当たり前で、自殺率は過去最多の六万人。
治安の悪化も甚だしく、カルト宗教などが夜の闇に跋扈した。
国内の生産者……、例えば、農家なども安心できない。
彼らの使う化学肥料は?トラクターの燃料は?と、そう言う話だ。
国際社会においても、「最早日本は終わりだ」などと実しやかに囁かれており、事実、日本の失墜はあらゆる面から見て明らかだった……。
だがそこで、今までのダンジョンへの偏見を破壊する出来事が起きる。
『ダンジョンショック』である。
赤堀ダンジョン研究所が、ダンジョン素材の有効活用法を発表したのだ。
それらは、人類が百年先、二百年先に到達できるような技術の塊で、中には、「科学的に不可能と証明されている」現象すらをも可能にする超物質すらあった。
もちろん最初は、ダンジョン素材……、国際的には『Dマテリアル』と呼ばれるそれらは、国内ですら半信半疑な代物であった。
『若返りの薬』『万能薬』などの噂は、各国の上流階級の中で実しやかに囁かれている眉唾物だったのだが、それが公認され、更には大々的に販売を開始されたのだ。
それ以外にも、ほぼSF小説同然の技術が使われた物品が日本国内で合法的に流通して、それらの研究の成果すらいくらか上がっていた。
国際的な学会でのDマテリアル物品の紹介や、各国の著名人の若返り、寝たきりだった富裕層の老人が健康になって立ち上がるなど、ふざけた報告が現実となり、初めて、世界はダンジョンの価値を理解した……。
ここで選択肢を間違わなければ、世界の全てが豊かになれたかもしれない。
しかし、もう全てが遅かった……。
『ダンジョンショック』により、ダンジョンの中にあるのはモンスターという絶望だけでなく、その絶望を跳ね除けてあまりあるほどの『希望』たる、Dマテリアルの宝庫だと全世界が認識した。
そんな時、海外国家がやったのは、最悪の悪手。
日本からダンジョンを取り上げようとしたのである。
なんだかんだと理由をつけて、軍隊の駐留やら国際的な捜査団の立ち入り申請やらをしてきて、それを断ると報復関税などを課してきたのだ。
ダンジョン出現以来、日本の領土問題……、例えば、魚釣島や北方領土からは、バイ菌に触れたかのような勢いで外国人が撤退していき、「領土問題などありませんでした」かのような態度をとったし……。
在日米軍もなんだかんだと理由をつけてほぼほぼ撤退し、日本に出稼ぎに来ていたり、日本の福祉を求めて日本に住み着いていた外国人も故郷に帰り、「最初から居ませんでした」としておいた癖に、だ。
これらの海外の人々の冷酷さと残酷さは、日本人達の怒りに触れた。
日本人達から見れば、日本国民が一番苦しんでいた時にあっさりと見捨てて、更には足元を見て蹴落としてきてすらいたのに、ダンジョンが宝の山だと気付くと手のひらを返して擦り寄ってきたことになる。
更には、武力などを背景にした脅しまでも……。
そんな外国に怒り心頭の日本国民。世論は当然、「海外に手を借りず、日本のみで自立する」という論調になる。
普段、親中派親韓派などと罵られているマスコミらも、ダンジョン発生当初の『最悪の不況』の時に、普段あれだけ海外に味方していたと言うのに一切助けてもらえなかった。
その裏切りにより地獄を見たマスコミ各社は、怒りのままに『日本独自路線論』を広めていった……。
結果として、今の日本は、「海外の手を借りず、独自路線で発展していく」という、心理的な鎖国状態になっている。
そして……。
そこに更に、日本への福音たる、『ブランチダンジョン』の出現……。
ブランチダンジョンの創造により、輸入品のうち55%相当の物品を国内から無限に産出する『資源産出国』になった日本は、凄まじい快進撃を始めていた。
第二次世界大戦後のあのどん底から這い上がった時のような、異常な立て直しと成長が始まったのである……。
十一月。
この頃になると、ブランチダンジョンからの資源採掘システムや関連施設も完成して、日本の真の意味での独立国としての活動が始まっていた。
また、自衛官や警察官、消防士なども、ダンジョンによるレベル上げが義務化されたのもこの頃である。
国内でも、続々と冒険者達が生まれていった。
この、最初期の冒険者達は『ファーストエイジ』とされる。
ファーストエイジには、まず筆頭として、2121年現在も『原点にして頂点』『覇龍皇帝』と恐れられ、崇められる大冒険者である、龍心人(ドラグナー)の『赤堀藤吾』を始め、様々な大冒険者が綺羅星の如く輝き始めた。
まず、赤堀氏の友人や身内ら……。
『白雪龍姫』龍心人(ドラグナー)赤堀(旧姓:白崎)杜和
『万呪魔人』魔翼人(デモニクス)青峯弥太郎
『融心淫魔』魔翼人(デモニクス)青峯(旧姓:黄場)由乃
『阿修羅王』鬼腕人(オーガス)緑門結弦
『不動明王』鬼腕人(オーガス)緑門(旧姓:桃瀬)鈴華
彼らは、現代日本においてもトップ層の冒険者であると周知されているだろう。
『妖角剣鬼』鬼腕人(オーガス)設楽九郎
『牛頭天王』獣牙人(ビースター)草薙鷹音
『七星崩天』星脳人(スターナー)北斗垓人
『破邪大聖』天翼人(エンジェリー)鷺沢シャロン
『鋼鉄要塞』鋼指人(メタロン)真壁無限
『万蟲母姫』蟲脚人(ヴァーミナー)御坂三笠
『霊樹翠界』笹耳人(エルファン)瑛伝蔵人
『大海呑鯨』水鰭人(アクアイア)海千頑真
『魂葬魔霊』妖眼人(フェアリス)礼譲莉愛無
と言った、現在でも伝説級と名高い冒険者も、この時期に生まれた。
今や、日本人口の半分ほどが超越種(エクストリア)となっているが、当時は、人外に転生すると言うのは非常に勇気が必要なことだった。
超越種については156pを参照してほしい。
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次から、異世界と行ったり来たりする話の続きをちょっと出しますかね。