ハードオンの楽しい思いつき集   作:ハードオン

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親戚のガキにお年玉渡すような立場になるの、やだなあ……。


51話 グルメシーン

ブランチダンジョンは、百階層に到達しても特にご褒美とかはないらしい。

 

あ、因みに、最後に手に入れた透明な果実は『進化の実』と言って、食べるとスキルを一つ進化させるそうだ。

 

面白いなー。

 

さあ、早速旅館に帰って、調理してもらおうか。

 

 

 

調理してもらいました。

 

正直、旅館中から、もう本当に洒落にならないくらいの良い香りが漂い、我慢するのが苦痛なレベルだった。

 

下手な拷問訓練よりキツいぞこれ。

 

とりあえず、待ちきれないので、出せるものから順に出してもらった。

 

まず、お通し。

 

枝豆やひじきの和え物、軽い刺身、ささみ肉の梅紫蘇和え、生野菜スティックなど。

 

あっ、美味い。

 

これは……、ヤバいな。

 

いや……、美味い。

 

語彙力が消滅するほど美味い。

 

「ぴゃあ」

 

あ、美味過ぎて杜和が狂った。

 

酒……、いやー、これもヤバいな。

 

頭おかしいだろ。

 

何百何千万円もかけてロマネなんちゃらやらシャトーなんちゃらやらを買うのが馬鹿らしくなる美味さだ。

 

この世の食品では出せない味わい。

 

地球では、何百何千万円かけようが、物理法則以上の美味いものは食えない。上限が決まっているのだ。

 

だが、ダンジョンでは、肝心のその物理法則がぶっちぎれるからな。

 

地球という星では許されていない美味さ……。

 

麻薬はセックスの何百倍何千倍の快楽がー、などと言うが、この食事もまさにそれ。

 

依存性がないだけで、実質的には麻薬のようなものだ。

 

そして……、米!

 

米はこれ……、ヤバいだろ。

 

光とか当ててないのに、ピカピカ輝いていやがる!

 

比喩じゃないぞ、恒星よろしく自ら光を発しているのだ。

 

発光する米か……。

 

同じく、発光する刺身を一口……。

 

………………?

 

はっ?!

 

ヤベェな、今、意識飛んでたぞ。

 

剣士が起きてる時に意識飛ばすとか致命的だな。

 

俺ですらフリーズする美味さか……。

 

怖くなってくるな……。

 

「?!??!!?!!」

 

杜和は完全に飛んでる。

 

そっとしておこう。

 

一方で、日和と桐枝は……。

 

『ピィ……』

 

『きゅう……』

 

二人も飛んでるな。

 

ハヤ?あいつも飛んでるっぽいな。

 

その辺で生肉咥えながらフリーズしてる。

 

どんどん出てくる、蟹、蠣、ノドグロ丼……。

 

う、美味過ぎる……。

 

この蟹!

 

生前は鋼鉄より遥かに硬かった化け物が、プリプリになっていやがる。

 

殻なんて薄氷のように柔らかく、そのまま食べられるくらいだ。

 

殻をパリッと剥がすと、物理的におかしい量の身が溢れ出す!

 

太さが二倍になった蟹の足に、タレをつけて食べると……。

 

「うっま……」

 

これはヤバい。

 

あー、ヤバい。

 

生牡蠣……。

 

口に含んで、噛んだ瞬間、口内で爆発した!

 

いや、比喩表現……、と言いたいところだが、マジだ。

 

身が詰まり過ぎていて、風船のようにパンパンなんだよ。

 

犬歯で表面を傷つけると、そこを起点に旨味の籠った中身がぶわっと弾けるんだ!

 

弾けたエキスが口内に落ちたその瞬間、その部分がカッと熱を持ったかのような錯覚に陥る。美味さのあまり、熱に似た何かを感じるのだ。よく冷えた生牡蠣だと言うのに……。

 

う、美味い……。

 

ここでワイン。

 

これもまた、凄い。

 

日本各国から、お偉いさんが俺の気を惹くためなのか何なのか知らんが、高級なお土産をどかどか送ってくるんだが……。

 

その中に、ビン一本で何百万円っていうワインもあった。

 

確かに、美味かったさ。

 

フランスだかイタリアだかの酒蔵で、職人が選び抜いた葡萄の、年に数十本しか作れない高級なワイン。

 

不味い訳がない。

 

けど……、この、八十八階層の、ワイン泉で沸いているワインと比べれば、そんなもんは葡萄ジュースに過ぎない。

 

香り、深み、渋み、辛さ……。あらゆる要素が、信じられないレベルで調和しており、良いところが潰し合うことは一切ない。

 

酒にも色々あるだろう?

 

甘みが良いとか、香り高いとか、高貴な渋みだとか……。

 

このワインは、それら全てを同時に持ち、更にその一つ一つの要素だけでも、地球の酒を遥かに超えているのだ。

 

正に、器用万能な味わいだな。

 

そうして、散々に飲み食いして……。

 

鯛茶漬けで締め。

 

これもまた美味い……。

 

更にデザートに、進化の実のパイ。

 

……旅館でパイなんて焼いてもらえるんだ。

 

アリなのそれ?

 

まあ良いや。

 

アップルパイのような見た目だが、アップルの代わりに、ガラスのように透き通った果実が、塗られた糖蜜をテカテカと光らせている。

 

プリズムのような七色の光がバチバチと明滅しているこのパイを、思い切ってひと口……。

 

「……あ?」

 

あーーー?

 

あ?

 

あーーー。

 

これはヤバいわ。

 

これを食えるなら殺人も厭わないという人がいてもおかしくないレベル。

 

いやーーー、スゲェ。

 

こんなレベル?

 

まだ、旅館側も当然、ダンジョン食材の扱いに慣れていない訳だろ?

 

それが……、だからつまり……、今後はもっと旨くなるってことか?

 

ヤバい……。

 

 

 

「いやー、素晴らしかったな」

 

「はいっす!最高だったっすね!」

 

『本当だねー』

 

『ねー』

 

「ワン」

 

その後も、旅館の料理人さん達に三食おやつに晩酌のおつまみまで作ってもらい、英気を養った俺達。

 

これで、十一月の疲れは取れたな。

 

さあ、残りの冬休みは、手に入れた食材の一部を手土産に、杜和の実家に挨拶しにいくか……。

 

 

 

「お久しぶりです、お義父さん、お義母さん」

 

「「ははは、はいぃっ!!!」」

 

恐縮している杜和の両親。

 

かわいそうに……。

 

気の毒だなあ。

 

まあ、飯食って、他の親戚とやらと顔合わせしたらすぐ帰るから安心してほしい。

 

「こちら、お土産に、新潟食料ダンジョンで獲ってきた食材です」

 

「「あああ、ありがとうございますぅっ!!!」」

 

親戚になったにはなったが、お互い、経済感覚やらが違い過ぎるからなあ……。

 

あんまり、過度に干渉しない方がお互いのためだ。

 

こうして、たまに、ダンジョンのものを持ち寄るくらいで良いだろう。

 

とりあえず、正月なので、割とたくさんいる杜和の親戚のガキ共にお年玉を配布する。

 

中身は十万円包んだけど、こんなもんでいいよな?

 

俺、お年玉をもらったことがないから、相場が分からん……。

 

金は毎月、親から口座に二十万くらい振り込まれてる感じで、顔も滅多に合わせねえからな……。

 

ジジイも、お年玉なんざ絶対にくれねぇもんよ。

 

「いちにーさん……、すっげー!十万円も入ってるー!」

 

「やべー!さすが、世界一の金持ちだー!」

 

ガキが、ポチ袋の中を開いて喜んでいる。

 

んー?多かったかな?

 

「こ、こらーっ!失礼でしょ!」

 

「びええーっ!ママがぶったー!」

 

おー、ガキのお袋さんが、ガキを引っ叩いた。

 

失礼……、なのか?

 

よく分からん……。

 

「十万円も入れたんすか?」

 

「多かったか?」

 

「多いっすねえ……」

 

「まあ、少ないよりは良いだろう」

 

「うーん……、そうっすね。でも、身内とはいえ、あんまりお金をあげちゃ駄目っすよ。お金は、人間関係を壊すっすからね」

 

「おう」

 

 

 

こうして、無難に親戚とコミュニケーションを取った俺は、家に帰ってのんびりと正月を過ごした……。

 




マジ申し訳ねえが本気で書き溜めがないです……。

新作を書き過ぎた……。

みなさん、新作を読むにしても、一度に「第一章完!」ってキリがいいとこまで読みたいですよね?

それが、最近はバラバラに三本くらい新作を書いてしまって、それぞれが15話ずつ……、みたいな有様です……。

本当に申し訳ない。


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