『昭和の怪物』『キングメーカー』『必殺剣』『快刀乱麻』……。
数々の異名を恣にした、伝説的な政治家。
時城政史郎……。
この男の復活に、各国は震え上がった。
そもそも、『若返りのポーション』など、馬鹿らしくて信じている奴は殆どいなかった。
秦の皇帝、偉大なる始皇帝すらもが手に入れられなかったその『霊薬』が、現実に存在する訳がないと……。
ダンジョンが見つかったまだ最初の頃は、低ランクポーションくらいなら輸出していたのだが、現在のように国際関係が悪化して鎖国状態ではとてもじゃないが輸出は不可能。
増してや、若返りのポーションのような貴重な品は滅多に出回らないし、出回ったとしても、それを使った人間は雲隠れしてしまう。
一歳二歳の若返りなら見た目はあまり変化しないが、十歳若返るようなポーションは段違い。目に見えて分かるくらいに老人が若返れば大騒ぎになるに決まっている。
日本では、連日の報道により、「Dマテリアルは存在する」と国民は大体理解しているが、海外ではそうはいかない。
海外で若返りのポーションを飲んだセレブは、皆、どこか遠くへ逃げてしまった。
まあ本人も、半分ネタのつもりで買った薬が本物だったなどとは予想できないだろうし、それが普通だろう。
しかし、日本では、彼らは違った。
政界のフィクサー、戦後最大の政治家、時城政史郎。
官界の英雄、苛烈な手腕から『日本のゲシュタポ』とまであだ名された元警視庁長官、戦場新左衛門(せんばしんざえもん)。
財界の大御所、日本四大財閥の一角の会長、香月嵐山(こうつきらんざん)。
三人とも、百歳を超える老人だったが……。
———「ご、ご覧ください!時城老!時城老です!第七十一代目総理大臣が!昭和の怪物が、今、蘇りました!」
———「戦場老です!戦場老が官界に舞い戻りました!」
———「香月老!財界の王、香月老が再び表舞台に!」
それが、立って歩き、テレビの前に出てきたのだ。
これはもう、全世界に衝撃が走ったと言うものだ。
政史郎は、立って歩くのがやっとの半死人。
新左衛門と嵐山に至っては、延命のための機械に繋がれて、かろうじて生きているだけのほぼ死人同然の存在だった。
それが今、立って歩き、明瞭な受け答えをして、テレビの前で胸を張って話すのだ。
それも、話の内容もまた驚きに満ちたものだった。
「時城政史郎だ。私は今回、日本一の冒険者である赤堀氏の厚意により、『若返りの霊薬』を複数用意していただいた。今の私の肉体は、三十代ほどまでに若返っている!」
「「「「おおおっ!」」」」
「若返ったが故に……、儂は再びこの国に奉仕したい!つまり、今の衰退した日本を建て直すため、再び政界に舞い戻ったということだ!!!」
「「「「おおおおおっ!!!」」」」
伝説の政治家の復活……。
戦前の英雄的政治家、憲友会の時城政玄を父祖とする、戦後を建て直した偉大な元総理大臣……。
それが今、どん底の日本を再び、戦後のあの時のように建て直すと、そう宣言したのだ。
話題性はこれ以上ないというくらいに高い。
そして、瞬く間に。
当たり前のように国会議員となった政史郎は、これまた当たり前のように総裁選で勝ち上がり……。
当たり前の、ように。
内閣総理大臣へとなったのだ……。
ついでに、十七の若造を、冒険者管理庁長官などという謎の役職に指名して……。
当然、全世界はもう、面白いくらいに大混乱した。
アメリカの大統領は、顔が映り込むほどに磨かれた美しい執務机に思い切り蹴りを入れて叫ぶ。
「何だそれは?!!!訳が分からんぞ、ジャァップ!!!」
「大統領!落ち着いてください!」
秘書の悲鳴のような言葉を無視して、大統領はノートパソコンを投げ飛ばした。
「これが落ち着いていられるか!!!私が……、私が三十八の時だ!まだ私が中堅の上院議員だった頃に、七十代で総理大臣をやっていた老耄が……、何故この私よりも若くなっているのだ!!!ふざけるなあーっ!!!」
ジョンソン・ローデン大統領は、感情的に許せなかった。
必死に政治家を続け、国に身命を賭して仕えて、老人になるまで仕事をして、やっと掴んだ大統領の席。
それなのに、あのという政史郎は、何度も一国の首相として居座っていた過去がありながらも、今度は若返ってまで首相に返り咲いたのだから。
しかも、自分の時のように、接戦でギリギリの選挙ではなく、国民ほぼ全てに諸手を挙げて歓迎されながら……。
そして、怒りの理由はそれだけではない。
「それに、セイシロウ・トキシロだと?!!事実上日本を動かしていたフィクサーが、表に出てきた?!認めたくはないが、あの老耄の手腕はッ……!」
今までの与し易い、謂わば「ちょろい」政治家ではなく、自分よりも確実に上手と言える超人がトップに立ったのだ。
刀と比喩される果断な判断力と圧倒的な知性、おまけに、何十年間もの政治家経験を持ち、更に若返って再登場など、悪夢そのもの。
そんな男が、日本という、都合の良い国のトップに立たれるのは迷惑極まりない。
金持ちで、弱腰で、おまけに親米。その上で共産圏の盾になる位置にある島国は、今までは都合の良い駒だった。
無論、それは思っていても、事実上そうであったとしても誰も口にはしないが……。
実際の話、一億の人民と世界三位の金持ちであるのに、核も持たず戦争も仕掛けないと明言している国など、どこの国からしても使い勝手のいい駒扱いはされて当然なのだが、まあ、それは良いとしよう。
そして、それが国際社会で孤立し始めたのだから、叩くのも当然のこと。
極東のアジア人の分際で、普段から儲け過ぎなのだ。殴られて然るべき、というのが世界の総意。
ロシアのように、天然ガスなどの必要不可欠な資源の産出する国であれば、かなりの無茶もできるだろうが……。
日本のように、技術力を売りにしている国ならば、間違って叩いても経済的に損になるだけで済む、という背景も当然あった。
食料や原油を売る国から、それらを売ってもらえなくなったら、どんな国も困るどころの騒ぎではないだろう。文明が維持できなくなるのだから。
しかし、日本の自動車などの工業製品が買えなくなったとしても、最悪、「困る」程度で済んでしまう。
無論、経済的な損失は計り知れないが……、落ち目の日本を叩いておきたい国や、日本に金を貸し付けて復興させてその借金のカタに技術なり何なりを接収したい国など、様々な思惑が重なり合った結果が、この世界のこの現状である。
都合の良い国が、都合良く弱って、都合良く隙を見せていた。それが悪い。
まあ実際のところ、日本が本気で債権の回収などを始めたら、世界中の経済が崩壊するだろうが……、こういう流れを作る人間は、そんなことを理解していない。
もしくは、理解しながらもあえてやっているか……、それは不明だが。
だが、そこで。
瀕死の日本が……、明らかに、国そのものがひっくり返るレベルの革新、ウルトラCで大勝利とは、一体誰が予想できたであろうか?
「おかしいのだ、あり得ない!本来なら今頃には日本は零落しきっていて、そこに我々が手を差し伸べて利益を得ていたはずだろう?!」
そう、そのはずだ。
日本経済を一人で支える田舎剣士が居なければ……。
田舎剣士が国にブランチダンジョンを提供していなければ……。
時城政史郎が生きていなければ、若返っていなければ……。
外圧により日本という国が一つにまとまらなければ……。
そのまとまった国を、時城政史郎という最高クラスの政治家が完全に制御していなければ……。
御影流に足を引っ張る政治家や利権団体などの、国家に服属しない存在が暗殺されていなければ……。
どれか一つが欠けていたとしても、日本の存続はなし得なかっただろう。
が、事実。
現代の国際社会でほぼ鎖国状態という、気の狂ったかのような采配をしながらも、何故か日本は生きている。
生きて、いるのだ。
「予想できるかあああっ!!!何故まだ国体を維持できている?!我が国のシンクタンクは、日本はもう国体を維持するどころか、文明的な生活を送ることすら不可能だと予測していたんだぞ?!もう半年も前からだ!!!」
日本が国体を維持できている理由?
簡単である。
あの、カッペの剣術馬鹿が、毎日ノリノリで数百億円単位のDマテリアルを持ち帰り……。
剣術馬鹿の親である人格破綻者らが、Dマテリアルを日本のリソース全振りで解析し……。
そして労働人口のほぼ全てが、ブランチダンジョンから得られる、本来なら外国から輸入しなければならない原油、天然ガス、鉱物、食料などの資源を自弁しているからである。
本来なら、派閥などの違いで協力することのない組織や企業が、戦時よろしく国家総動員体制で、最高の政治家の制御下で完全稼働。
腐っても一億人のマンパワーを持つ大国だ、その底力は流石と言うべきか。
まあ大体は、大統領の語る「シンクタンク」は、ダンジョンの無限の資源などは勘定に入れていないと言うオチなのだが。
「とにかく、抗議しろ!」
「ど、どのように?」
「名目など何でも良い!『軍国主義への回帰に対する批判』とでもしておけ!」
「は、はいっ!」
「そして、更に関税を上げろ!日本の合意などどうでも良い、『日本への警戒度を引き上げる為』とでも理由をつけて、日本を牽制するのだ!」
「わ、分かりました、大統領!」
こうして、世界は回る……。
どんな国にも良いところと悪いところがあるのは理解してるけど、どうせなら自分側が勝った方が面白いよね。
ってかマジでどうしよ。
最近全然書けてない。
バイオre2やったり、モン娘ものRPGやったりしてたら時間が溶けてしまった。
幸い、今は既存作の書き溜めをしているので、読者は安心できるかもしれない……。
でも新作も書きたくはあるんですよ。
投稿してないだけで書き始まっている新作は五本くらいあるし、構想段階だけどプロットが数万文字ある新作も五本くらいあるし……。
既存作の書き溜めを優先してはいるんですけどねえ。
既存作の続きの方も、10話くらい書き溜めてから投稿したいんですよね。皆さんもキリがいいところまで読みたいでしょうし……。
あー、大変だ。