「何だか、あっという間だったっすねえ」
東京、武蔵大異界。
俺と共に街を歩く杜和は、そう言ってオーバーに両手を挙げた。
「日本は終わりだー!みたいな風潮だったのに、あっさり復興しちゃいましたし」
杜和はそのまま、賑わうダンジョンシティを見渡す。
確かに、その言の通りに、街並みは活気に溢れている。
嫌味なくらいに真っ白で清潔な美しい白亜の塔。SFアニメで描かれる未来都市そのもののビル街。
道の脇は緑豊か。手入れせずとも、真冬でも青々と美しい最適状態を保つダンジョン植物の並木。
あらゆる広告、信号機も標識も全て、魔法式の立体映像。
俺が倒してテイムして国に五百億円で売り渡したマシン系モンスター、『マザーマシン』が、このダンジョンシティ相模大異界の中央におり、それが総合管理AIとして、小型のマシン系モンスターを制御し、街全体を管理維持している……、まさに生きた都市。
そしてそこには多くの人々と、働いている人型モンスター。物騒な武装をした姿で歩いていることを除けば、幸せそうな姿に見える。
自動運転の乗り物が反重力発生装置で空を浮き、輝く光輪から燐光を発しながら、空を音もなく飛んでおり……。
バスはないが、バスに相当する「大型トランスポーター」と呼ばれるUFO的な乗り物が人々を乗せて空を駆け、「リニア電車」が凄まじい速さで行き来する……。
そんな街で俺達は、午前に遊び歩いていた。
学校?
もうどうでも良いんじゃないか?
卒業資格もらったし……。
俺は、迷宮端末を自動販売機に翳す。
『ご注文は?』
機械音声とは思えない流暢な声。
俺はそこまで詳しくないが、昔から日本にあった合成音声ソフトの最新版らしい。
ダンジョン技術によるアップデートで、完全に人間と同じイントネーションで話せるようだな。
ゲーム実況動画などでよく聞く声……、柚木ユリエだったか?
そのキャラクターの声がする。
それと同時に、立体映像でそのキャラクターが出てきた。
どうやら、この自販機の飲料のメーカーとコラボしているらしく、「シントリー」と大きく書かれたエプロンを着ている。
俺は、そのキャラに向かって「茶をくれ」と一言。
『煎茶と麦茶がございますが、いかがなさいますか?』
と、聞き返されたので。
「煎茶で頼む」
と返す。
すると、自販機から、ダンジョン産茶葉の煎茶がポンと出る。
『お買い上げ、ありがとうございます!』
俺は、茶をそのまま一気飲みして、その辺に空きボトルを投げ捨てた。
『Beep』
すると、自販機の近くにいた清掃ドローンが、空きボトルを拾って処理する。
この街はだいたいこんな感じだ。
「知ってるっすか?」
「何をだ、主語を言え主語を」
「今、日本って鎖国してるじゃないっすか?それもあるのかもしれないっすけど、海外の人達は未だに、ダンジョンが嘘だと思っているらしいんすよ」
「ほー、そうなのか」
「まあ、日本も公式見解は出してないっすからねえ」
「経済とか大丈夫なんだろうかね?」
「日本は、元々債権をたくさん持ってたっすから。それをいくらか手放したりして、日本の国債の発行数を絞ったり……、とにかくかなり無茶したそうっす」
俺は、端末に思考入力して、杜和の話した内容を検索する。
経済については理解できんが、まあ、子供向けにもわかりやすく書かれたWebページには、「大量の債権、溜め込んだ外貨を放出し、足りない分は黄金をダンジョンから掘り出して、外国から借りたものを返しつつ借りを作らないようにしている」とあった。
理由は、海外と縁を切る為だとか。
事実上のブロック経済化?だのなんだのと書かれているが……。
俺は何度も言うが、経済は知らん。
全くの門外漢だ。
だがそれでも、そんなことをすれば日本は大変なことになるのは元より、海外も拙いことになるだろうと思うのだが……。
「もちろん、拙いことになってるらしいっすよ?海外はせーんぶ、未曾有の不景気に襲われてるらしいっす」
そう言って杜和は、端末から出てきた立体映像で、阿鼻叫喚の世界経済のデータを見せてくる。
んん、まあ……、確かにそうだよな。
どうやら海外では、日本は完全に狂ったと扱われているようだ。
要するに「海外からは借りないし貸さない!」と、縁切りを宣言して、その上で黄金をガンガン押しつけて日本の債権を返せと言ってる訳だもんよ、そりゃ狂ったと扱われて当然だ。
それどころか、全世界がブチギレを通り越してガチ心配してくる有様。
あの中国やロシアでさえ、「日本が歩み寄る姿勢を見せればこちらも誠意を見せる」とか弱気発言をする辺り、海外は相当ヤバいんだなと察せられるな。
日本の海外企業も殆ど撤退して、本気の鎖国が始まりつつあるとのこと。
俺達は会話をしながら、蕎麦屋に入った。
ちょうど昼時だからな。
蕎麦屋の出汁の風味が利いたカツ丼と、スープ代わりの天ぷら蕎麦……。
そんなことを考えながらの入店だ。
「らっしゃい……、って、お前さんは……」
ん?
このおっさんは……。
「あんた、墨田区の、藪蕎麦みどり屋の店主じゃねえか」
「ああ、みどり屋は畳んでな。今はここで息子夫婦と、蕎麦屋兼定食屋をやっているんだ」
なるほどねえ……。
「じゃあ、倍盛り天ぷら蕎麦特上と、倍盛りカツ丼と、倍盛りカレーうどんと、ご飯特大で。それとこの、ポーションベース水使用の純米大吟醸『迷宮王』も二瓶くれ」
「あ、私は鴨南蛮の倍盛りでお願いするっす。それと稲荷寿司八つ」
「あいよ!まいどあり!」
店内の音声認識システムが注文を聞き届け、客も店員も何もせずとも、自動的にDポイントが支払われる。
そして、店内のテーブル席に座りながら、俺と杜和は会話を続けた。
「あー、で、何だったか?」
「日本の縁切り宣言の話っすよ」
「ああ、そうだったな。だが、語るまでもないだろう?」
「まあ、そうっすね」
語るまでもなく、ヤバい。
「黄金とか大安売りしてるっすけど、単なるレアメタルくらいなら四十階層くらいで出揃うっすからねえ。それが信じられない海外は、『日本の保有している以上のレアメタルが市場に流れてる!何故だ?!どこかの国の陰謀かー!』とかって大騒ぎらしいっす」
「最近は、国内に半導体や衣類の工場なんかが増えているらしいな。どこもかしこも冒険者やった方が儲かるからって、作業員が足りないんだと」
「でも、ドワーフとかなら、酒代と食事代くらいで毎日喜んで働くから、雇用問題は解決したとか言ってなかったすか?」
「そうは言っても、最終的に責任を取るのは人間だからな。人間もある程度雇用しなきゃならないはずだ。万事が上手くいくとはいかないだろうよ」
「お待たせしましたー」
「「いただきます」」
お、美味いな。
ダンジョン食材で、しかも料理スキル持ちの調理だ。
スキルスクロールにて『料理』のスキルを得ると、ステータスが上がったり、心身が回復したりする特別な料理を作れるようになるんだったか。
料理スキル派生の『高速調理』は料理の完成時間を大幅に短縮するが、味や効果には影響が出なくなるし……。
『和食料理』『洋食料理』『中華料理』などは、それぞれのジャンルの料理を作ったときに色々とプラス補正が入るとか。
今じゃ、料理スキルがないと、一流の飲食業では雇ってもらえないとも聞くな。
同じような要領で、『鍛治』『細工』『木工』『大工』などのスキルも大注目されており、これらの職人系スキルスクロールは、むしろ戦闘スキルより余程高値で売れるとか……。
まあ、それは余談か。
「にしても、時城さんも酷いことするっすよね!今回の騒ぎで大打撃を受けた国、かなりあるっすよ?」
「一応、アフリカとかのモノカルチャーで、日本に作物を買ってもらえないとヤバいような国からは買い取っているらしいがな」
「国連とかWHOとかの拠出金も、もう殆ど出さなくなったとか?」
「らしいな。時城のジジイ、本気で世界と縁切りするつもりだぞ」
「……大丈夫なんすかね?」
「本人が言うには、『何をやっても滅ぶのが確定している状態ならば、賭けをやった方がマシだ』とのことだ」
つまり、今の日本はダンジョン技術を積極的に取り入れて走り続けないと、一瞬にして墜落する状態にある訳だ。
だから、座して死を待つくらいなら、ヤバくても突っ走ろうぜ、というのが時城のジジイの政略ってことだな。
まあ、誰もが理論は理解できるが、理性ではどう考えてもヤバいと断じるだろうよ。
こんなことを本気でやれるキチガイはあのジジイくらいのもんだろう。
何で俺の身内のジジイはみんなマジキチなんだよ……。
「まあ最悪、日光の田舎で畑でも耕しながら暮らせば良いんだ。失うことは怖くないだろ?」
「……それもそっすね!」
「「ごちそうさまでした!」」
あああ!続きが生えないのなんで?!!
俺の読みたい小説は俺が書くしかないの、本当にバグだろ。
あ、あと最近、巡り廻る始めました。
フリーゲームの波が俺の中に来ている……。