「ストーリーは……、よし、こうだな。ここで、リクが……」
「あの、風見君?授業中なんだけど……?」
「うん?どうした橘先生?教えづらいところでもあったか?」
「あ、あのね?」
「分かった分かった、授業代わるよ。ほら、座ってて橘先生」
「い、いや、そうじゃなくってね?」
「文字式の話だな。これは簡単だ、分からない数のことをアルファベットのxと置いたとして考えることで……」
私、千川ちひろの同級生、風見新九郎君は物凄い人だ。
文武両道、才色兼備、おまけにハンサムで性格も良い。
だけど超の付くほどの天才で、私を、いや、学校中を、いやいや、世界中を振り回すことが多々ある。
本当に、とんでもない人だ。
小学生の頃、何を思ったのやら一企業を買収して、無理矢理社長の座を獲得したと思いきや、今までにないRPGを発表。
結果は大成功。
500万本の売上を見せた。
学校のみんなも、ファイナルファンタジアを買う為に学校を休んでゲーム屋さんに並んだ。
因みに私も買った。
次に出したのは、ドラグーンクエスト。
有名漫画家、ドクトルスランプやドラゴンポールで大人気の烏山先生にデザインを外注した、大作ファンタジーだ。
こちらはFFのリアル志向ファンタジーと違い、よりポップな内容が人気を博した。
売上はFFと同じくらいだったらしい。
因みに私も買った。
FF派とドラクエ派で論争が起こったこともあったかな。
フェミ通で特集されてたっけ。
そして続いて発表されたFatherと男神転生。
Fatherは現代を舞台に超能力者の少年少女達が地球を救う旅に出るストーリー。独特の雰囲気が大人気に。
男神転生は各種神話の神々や霊獣、悪魔達を従えるコンピュータープログラムを開発した少女が、大魔王ルシファーと戦う物語。悪魔合体システムは他では真似できない内容だった。
二つともFFやドラクエほどではないが売れたらしい。
因みに私も買った。
その後もこれらRPGは続々と続編を出しながら株式会社スクエアウェニックスの名を世界中に広めていった。
全部買った。
その他にも、新九郎君が何となくで出したロック音楽のCDが三千万枚売れたり、数学の未解決問題をあっさり解いたりしてたが……、まあ、新九郎君にとっては何てことはないのだろう。
「ちィーっひ。ライトノベル時代の幕開けだァ……」
「ライトノベル、って何ですか?」
私と美優さんは、流石にもう中学生になったということで、女性らしく、男性である新九郎君には敬語で話しかけるようになった。
淑女ならこれくらい当然だ。本当は苗字で呼ぶべきだけど、新九郎君が、「俺とちっひの仲だろぅ?やめろょん」と言ってきたので新九郎君と呼ぶようにしている。
……私と新九郎君の仲って、どういうことなのだろうか、期待して良いのだろうか。
分かっていると思うけど私は、私だけじゃない、新九郎君に近づく女の子はみんな新九郎君が大好きだ。
男離れしたモデル体型に溢れんばかりの父性、鍛えられた筋肉。その上で一般的な男性とは違い勉強もできて、スポーツも万能。明るい笑顔が最高にカッコいい。
私はいつも新九郎君の隣にいても怒られないし拒否されないから、これは脈ありと見て良いのだろうか……?
「ライトノベルってのは、新しい時代のポップな小説だ。流行る、流行らせる」
その一言とともに、角丘と言う出版社を買い取り、小説、スレイヤースを発表した。
既にサブカルチャー界隈には、デザイン、ストーリー、作曲において天下一と称される風見新九郎の名前で発表されたその小説は、話題に話題を呼び、全国で発表された。
そしてその内容は、と言うと。
「新九郎君、やっぱり貴方は天才です!」
「ああ、知ってる」
その内容は、普通の小説と比べてポップで、より分かりやすい文型を持った内容で、各所に新九郎君お手製の美麗イラストが散りばめられている。
ストーリーは、自称天才イケメン魔導師リク・インバースが各地を旅して回る内容。
その分かりやすい内容は、今まで、活字本を読むのが苦手だ、と言う人にも大いに受けた。
主人公リクの可愛らしさ、格好良さと言ったキャラクターの魅力もさることながら、作り込まれた世界観はFFともドラクエとも違ったファンタジー感を演出し、少年少女、と一部大人達のハートを鷲掴みにした。
まだ既刊は一巻のみだが、文学界に新たな風を吹き込んだことは誰もが知ることだ。
新九郎君が買収した出版社である角丘も、規模を拡大しまくっているらしい。
「次はアニメ作るぞ。既にアニメ会社のガンナックスとダイナソープロ、クイーンレコードは買収済だ」
「この前もクロムソフトウェアってゲーム会社買収してませんでしたか?」
「ああ、クロムか。あそこは良い仕事するぞ。今は俺の趣味でロボットゲーム作らせてる」
「他にも何社か……」
「オオナミとカブコンだな。いずれ新天堂も買収する予定だ」
「あの、そこまでして、何がしたいんですか?」
「ん?んー、ちょっと世界を変えてみたくてね」
……まず、一人で世界を変えると言う発想が思い浮かぶ時点で異常なんですが。
常日頃から「ちっひ達と楽しい日常過ごすのたーのしー!」と本人は言っているけど、自身の手で日常を打ち破っている自覚はあるんだろうか。
今もほら。
「ちょっと待って電話……、お、角丘の編集の神崎か。お前産休とったっつってなかったか?まあいいや、はいもしもし、俺だけど。あぁ?スレイヤースの二巻?お前の机の上に置いといたぞ」
「クイーンレコードの梅木?CDはもう出さないのかって?んあー、気が向いたらな」
「修煉社の荒木か。バスダードの巻頭カラーやりたい?そう来ると思ってカラー版用意しといたから、俺ん家の机の上から持って行け」
「誰だお前、デザイナーの吉岡?俺のデザインを学びたいって……?面倒臭えやだよ。あーあーあー、分かった分かった、俺ん家の位置分かるか?じゃあ土曜の午後三時頃来い!」
忙しそうだ。
「あの、忙しいなら私達になんか時間を割いてくれなくても」
「んー?別に義務感で遊んでる訳じゃないからね。ちっひ達と一緒だと楽しいからさ」
「んなっ?!」
お、女と一緒にいて楽しい?!!!
誘ってるんですか!そうなんですか?!
って言うか名前呼び通り越してあだ名呼びとか夫婦でもしませんからね本当に!!
あー!
本当にこの人は!
でも成長するにつれて加速度的に可愛くなっていくちっひ達を見て、あ、こりゃまずいと思い始めた、