第三次世界大戦、その最中。
速攻で一抜けした日本は、この世の春のような戦勝ムードで浮かれ切っていた。
なんか知らんが勝手に戦争の英雄呼ばわりされた俺は、「ロシア中枢をピンポイントで攻撃した人道的行為!」だとか何だとか言って持て囃されている。
笑えるな、殺し合いに『人道的』だとか。
こんな連中には付き合ってられん。
俺はダンジョンに潜るぞ。
とりあえずは、愛人にも龍の心臓を配布して、龍心人(ドラグナー)に転生してもらった。
ああ、それとだな。
全員妊娠した。
まあ、避妊とかしてなかったしなあ……。
子供はどうなるんだろうか?
やはり、子供も龍心人なのだろうか?
気になったのでソラに電話したら、「そうだよ」と返ってきた。
それを聞きつけたクソ親共は狂喜乱舞しながら現れて、人の嫁や愛人を『貴重な検体』呼ばわりして研究所に押し込んだ。
まあ俺も、妊婦複数人の世話を焼くのは大変だしな。
一応、うちにはメイドやら料理人やらがたくさんいるんだが……。
それでも、どうせなら医療の専門家やらが揃っている研究所の方が良いだろう。
その間、俺は、再びダンジョン攻略に戻るのであった……。
「こうして二人きりの戦いも久しぶりだな、ハヤ」
「ワン」
「攻撃役の日和と、回復役の桐枝がいないが、行けそうか?」
「ワンッ!」
任せておけ、か。
良い返事だぞ、ハヤ。
さあ、五百階層。
『幻想領域』の攻略を始めていこうか。
……幻想領域。
二百階層までは、草原や凍土、森に火山などの一般的な領域……、『一般領域』だった。
それが四百階層までの領域は違う。
二百一階層から四百階層までは、『極地領域』と言われるエリアだ。
人類が生存できないような空間で、例えば海の中や、遥か空の上、溶岩の中に永久凍土。他にも毒沼や呪いの森、放射線空間や強酸雨など、特別な装備品などがなければ生存すら不可能な空間だな。
まあ、種族進化した冒険者なら余裕だ。
だが、四百一階層から恐らくは六百階層までの『幻想領域』は、種族進化を果たした冒険者でも命懸けになる。
例えば、超高圧プラズマが乱舞し、真空の刃が全てを破壊する『破壊嵐』や、酸素も気圧も一切ない上に猛毒の宇宙線や不明のエネルギーが舞い踊る『苦しみの宇宙』……。
鉄が蒸発する温度の炎の海に包まれた『炎獄海』、空間全てが虫モンスターに満ちている『死蟲窟』、魔法によって無理矢理作られた絶対零度を超えるマイナス数千度の領域『氷殺界』……。
どこも限りなく地獄だ。
そんな地獄に足を踏み入れた俺とハヤ。
ここは五百階層、『極酸毒域』だ。
二百階層のボスであるアダマンタイトゴーレム、三百階層のボスであるマザーマシン、四百階層のボスであるジャイアントヒュドラ……。
そんなものは比ではないド級の化け物が雑魚敵として襲いかかってくる。
ああ、楽しいな。
命の削り合い……。
人の親になろうとも、こればかりは辞められん。
ギャンブルと同じだな、使っちゃいけない金でギャンブルするのが一番気持ちいいとはよく言うだろう?
それならば、人間が一番使ってはならない、己の命を賭けての殺し合いは、何物にも替え難い快楽だと思わないか?
「ワン」
何々?「思わない。俺とご主人では価値観が違う」だと?
この犬ゥッ!!!
それはさておき、殺し合いだな。
さっきから毒の弾丸がボコボコ降ってきている。
弾速はマッハ10くらいで、着弾点は異様な魔法毒で半径100メートルくらい抉れるように消滅する感じだ。それが一秒に十発くらい降ってきている感じだな。
そもそも、周囲一帯が激烈な毒と酸に満ちており、呼吸をするだけで肺が焼けそうな感覚になるというのに、だ。
そんな、毒酸の領域を、更に強い毒で消滅させるってことは……、相当な威力だな。
「えーと、何々?『ヘルズアシッドポイズンスライムタンク』だと?何が何だかよくわかんねえな」
見た感じは、箱型の青白いスライムだが……。
『ーーーッ!!!』
「あー、なるほど」
箱スライムの上側が開いて、そこから紫色のスライム弾丸が上空に放たれて……。
マッハ以上の勢いで着弾。
なるほど、戦車(タンク)ね。
……この挙動ならむしろ自走臼砲じゃないのか?
まあ良いや、同じようなものだ。
「面白いが、そりゃ悪手だな」
俺は、音速で迫るスライム砲弾を、真空の刃で斬り裂く。
今のステータスならそれくらい可能だ。
そして、斬撃を飛ばす。
「御影流……、『飛酸漿』」
魔力を圧縮して作った赤黒い剣閃が、箱スライムをまとめて両断。
大したことはない……、っと?
『ーーーッ!!!』
「なるほど、自己再生能力持ちか」
そして……。
『グオオオオッ!!!』
「近接戦闘はこいつがこなす、っとぉ!!!」
えーと、何々?
こちらは、『ロッテンヒーロー』か。
腐った英雄?
確かに、美しいがボロい宝剣を持った、腐り果てたゾンビだが……。
『ギアッ!ガアッ!オオオアッ!!!』
「ほう!上手いじゃねえか!」
袈裟斬り、脚払い、フェイントからの範囲魔法攻撃。
英雄とはよく言ったもの、かなりの武技だな。
しかも恐ろしいのは、癖が全然ないことだ。
ここまで平坦な剣技は初めて見るな、対応が難しいぞこれは。
その時。
『ーーーッ!!!』
箱スライムが、ロッテンヒーローごと俺に毒弾を放ってきた。
「やべ」
避けるか……、と思ったが、ロッテンヒーローは組み付いてきた。
こいつ、死ぬ気か?
まあ、死んでも問題はない存在なんだろうが。
ふむ、どうするかな?
このロッテンヒーローを即座に崩して、毒弾に投げつけて無効化するか……?
ああ、良いな、命の危機は頭が冴えて最高だ。
茶だのコーヒーだのエナドリやらのカフェインなんて馬鹿らしい。
殺し合いをすると頭がすうっと冴えて、最高に気持ちがいいんだ。
何故皆はやらんのだろうか?意味分からんな。
っと?
「ワン!」
ハヤが、無属性魔法で作り出した力場の障壁で、迫り来る毒弾を弾いた。
「良い子だ!」
『ゲハアッ?!!』
俺はそう叫ぶと、組み付いてきているロッテンヒーローの腹に膝蹴りを入れて怯ませ、下段の回し蹴りで片膝をへし折った。
そして、バランスを崩して膝を折ったロッテンヒーローに、思い切り前蹴りをかます。
すると、ロッテンヒーローは音速でぶっ飛び、箱スライムに叩きつけられた。
そこに……。
「『火尖槍』」
俺は、お得意の火属性魔法を叩き込んだ。
巡航ミサイルほどの大きさの火の塊を投げつけて爆殺する、それだけの単純な魔法だが……。
今では、音速の数十倍の速度で飛翔し、数千キロメートル先まで届き、一度爆発すれば半径数百キロメートルを灰燼に帰すほどの威力を込められるようにまでなったのだ。
無論、全開で放てば俺も被害を受けるので、範囲は絞るが威力は最大にして、ロッテンヒーローと箱スライムに攻撃する。
『ーーーッ?!!』『ゲハアーーーッ?!!』
が、一発じゃ死なない。
おお、素晴らしいなオイ。
こんなに丈夫なのか?
スライムとアンデッドの弱点である火属性なのに、耐え切るのかよ。
流石は五百階層域といったところか。
「だが死ね」
なら、連打するってだけの話なんだがな。
『『ーーーッ!!!!』』
五発も叩き込めば流石に死んだか……。
『『『『………………!』』』』
で、おかわりはまだまだいますよ、と。
「最高だ!退屈しないな、オイ!!!」
暑くて死んだゾ。
異世界転生が如く書きてえ〜!
スタミナンZが如く濫用されるポーション、戦っているだけで何故か増えるヒートゲージ(MP)、(威圧的なフォントで)「たちの悪い男」「不良冒険者」「邪神教団」とか出てきて殴り合い……。