ハードオンの楽しい思いつき集   作:ハードオン

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あつつあつあつあつ。しぬ。


81話 新出島

鎖国法の段階的な解除。

 

その第一弾として、『出島』が解放される。

 

出島は、名称を『新出島』と言い、小笠原諸島付近に作られた人工の島である。

 

現在の金と技術を湯水のように注ぎ込んで作られた超巨大メガフロートで、軽く沖縄並みの大きさを誇る。

 

更に、内部にはブランチダンジョンが三つもあり、島一つだけで独立して生活できるようにもなっているのは、特筆すべき点だろう。

 

因みにだが、行政区分的には東京都の新たな市町村の一つとしてカウントされるようだ。

 

そんな新出島は、2025年4月1日に外国人に向けて解放される予定になっている。

 

これらに問題がなければ、横浜や長崎などを特区として開放し、それから本州への出入り許可のような形で、段階的に開国が行われると日本は発表した……。

 

更に、それだけではない。

 

調査によると、ダンジョンに入れるのは「日本国籍を持つ者だけ」であることは、日本国内外に知れ渡っているが……。

 

であれば、一時的に日本国籍を持たせて、ダンジョンへの侵入を許すのはどうか?と、時城総理は一計を案じた。

 

「日本国籍を持つ者」という条件は、明空命こと、ソラががそう定めたもの。

 

それもそのはず、日本にもかつては、渡来人などと言って大陸から流れてきた人々がおり、それとの混血になっている日本人が山ほどいるからだ。

 

そもそも、大昔の話ではあるが、渡来人の血は天皇家にも入っている。

 

純日本人でなければダメだ、などとは言えないだろう。

 

第一、ソラが日本にいた時代にも、外国人はいたはずだ……。

 

そんな訳で、時城総理は、ソラに直接訊ねた。

 

外国人に対する、限定的な日本国籍の付与は許可できるか、と。

 

その答えは「良いんじゃないかな?」の一言で終わった。

 

ソラの思いは、大神イザナギの最後の願いである、日本国民の守護を引き継ぐこと。

 

ああ見えても神であるからして、人の世界の政治や社会にあまり意味を見出してはいない。

 

理由はなんであれ、一時的にでも日本国民になるならば、ダンジョンに挑む権利は与える。

 

ただそれだけで、それ以上の手助けはしない。

 

それが、ソラの考え方だ。

 

……まあもちろん、時城総理は、日本に反抗的であればワンタッチで仮配布した日本国籍を取り上げられるように細工しているのだが。

 

 

 

「おおよしよし、ひいひいおじいちゃんだぞう」

 

「「「「わーい!」」」」

 

およそ半年ぶりの休暇をとった、総理大臣の時城政史郎。

 

日光の、赤堀家の館で見せたその姿は、玄孫に会いにきたおじいちゃんそのものだ。

 

「全く、ままならんものよ。部下には休めと言うが、儂本人は全く休めん」

 

仮面のように張り付いた、優しいおじいちゃんそのものの笑顔から、地獄の果てのような低い声が漏れる。

 

顔と声が一寸たりとも一致していない……。

 

完全に、表情筋の一本一本全てを制御して作り笑いをして、声のみは地声で話している……。

 

背後に立つ藤吾は、「本当に器用なジジイだな」と悪態をつきながら、どかっと畳に座り込んだ……。

 

「で?何の用だ?」

 

「クハハ……、玄孫に会いにきたジジイ、ではいかんか?」

 

「テメェがそんなタマかよクソ妖怪ジジイ……。とっとと話せや」

 

「これはこれは、ご挨拶よなあ?玄孫に会いにきたのも真の事よ。ついでに仕事をやると言うだけのこと」

 

くつくつと、喉を鳴らして笑うその姿は、まさに「妖怪ジジイ」そのもの。

 

その、「妖怪ジジイ」は、サラッと口を開いた……。

 

「婿殿を、世界一の冒険者と見込んで、仕事を一つ任せたい」

 

「ふむ」

 

「まず、鎖国法の解除は……、流石に知っておろう?」

 

「ああ、流石にな。ニュースで最近はそればっかりなんだ、嫌でも分かる」

 

「であれば、『仮国籍』の販売と、外国人のブランチダンジョン立ち入りの件も?」

 

「ああ、テメェの曾孫が言ってたな」

 

「では、どうなると思う?」

 

「……俺ァそう言う、自分で考えろみたいなこと言うオッサン一番嫌いだわー」

 

「クハハ!それは仕方ないだろう?我々老人としては、子供らに考える力を身につけてほしいのよ」

 

「はん、無能が考えても無駄だろうに」

 

「無能ではあるまいに」

 

「いや、無能だね。俺は殺し合い以外じゃ凡人だよ」

 

「ふむ……、では、凡人でも気づく事は?」

 

「チッ、あー……、そうだな。折角、ダンジョンの技術を取り入れてここまで復興したのに、外国にダンジョンを渡したら無意味じゃねえか?」

 

と。

 

藤吾は、「外国の方が人数多いし、研究とかも上手なんじゃねーの?」と、存外に的を射る事を言った。

 

「そうだな、確かにそうだろう。だがしかし、婿殿は忘れておらんか?」

 

「あぁ?」

 

「ブランチダンジョンは、『深度』と『出土品の傾向』を選べるのを覚えておらんのか?」

 

「あぁー……」

 

藤吾は本気で覚えていなかったが、実はそうなのだ。

 

ブランチダンジョンは、作成前に色々とカスタムができる。

 

国内のブランチダンジョンでは設定されていないが、最大深度を定めれば、その深度以上にレベルは上がらない。

 

出土品、ドロップアイテムの傾向を絞れば、核心的な技術は奪われない。

 

それだけのことだ。

 

無論、スパイなどに核心的技術を盗まれる事はあるかもしれないが、それはまた別の話だろう。

 

「つまり、ガチガチに制限したダンジョンを与えるってことか?」

 

「うむ、そうなるな。そして、仮国籍は電子データでやり取りされており、こちらの胸先三寸でいつでも消せる……」

 

「え?ダンジョン内にいる奴に、ダンジョンに入る資格奪ったらヤバくねぇか?」

 

「いや、その時は、ダンジョン外に強制転移されるようだ」

 

「あ、そう」

 

「ともかく、こちらの意に反する者は、即座にダンジョンから追放できる。そして、入れるのは、百階層までの制限塗れのダンジョンモドキよ」

 

「なるほどな」

 

で、と。

 

一言置いてから。

 

「そんな事してなんか意味あんのか?」

 

と、全く分かっていない藤吾。

 

「それを餌に、国際的な非難を躱すのよ」

 

「はあ、そうなのか。それは、やると何か良いことがあるのか?」

 

「確かに、海外に依存せずに、資源を全て自弁できる今、国際関係に気をつかうというのは無駄に思えるかもしれん……」

 

だが、と言葉を切って。

 

「だが、我々日本人も地球の軛からはまだ逃れられておらん。日本だけが宇宙の彼方に飛び出て生活しておるなら、遠く離れた地球のことなど斟酌せんでもよいだろう?」

 

「まあ、そうだな」

 

「しかし、そうはならん。まだ当分はな。地球という小さな星に住み着いた生き物である以上、隣人との関係は重要だ」

 

「うーん……」

 

「例えば、お主の館の近くにも、『お隣さん』は住んでおるだろう?そのお隣さんに対して、お主は、『弱いから完全に無視しよう』だとか思うか?」

 

「ああ、まあそう言われりゃそうだな」

 

「そう、それと同じよ。隣に住む者、近くに住む者、それらがなんであれ、無闇矢鱈に敵対すべきではない。多少飴を与えるだけで貸しを作れるならばやらない手はないだろう?……『お裾分け』や『お歳暮』は我が国の文化だろう?」

 

それに、と前置きして。

 

「それに、婿殿も、『プリゾンブレイク』の続きがそろそろ見たくはないか?」

 

「あー、それはあるわなあ」

 

ぶつくさと、「杜和もマーブルシネマが見たいとか言ってたし……」と呟く藤吾。

 

「まあ、そう言う訳よ。して、任せたい仕事とは……」

 

「仕事とは?」

 

 

 

「新出島ブランチダンジョンの、調整だ」

 




つまり……、スローライフ主人公が見たいってコト?!!

投票した人は運がよかったですね、「マジで何もしないスローライフ主人公もの」は、丁度15話分くらいの書き溜めがあります。

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