円環世界のマギアレコード   作:鎌井太刀

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第二話 円環都市<神浜市>

 ◇◆◇◆◇

 

 

 【円環の理】に導かれし魔法少女たちは、輪廻からの解脱を果たし、新たな世界へと導かれる。

 【円環世界】――そこは過去と未来全ての魔法少女たちが最後に集まる場所。魔法少女たちの楽園。

 

 私、来栖蒔苗もまた円環の理に導かれ、この世界へとやってきた。

 自身が何者なのか、己の起源とも言える記憶を失いながら。

 

 

 

 

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 ――――神浜市中央大通り。

 

 教会を後にした私は、千里先輩の案内でこの街――『神浜市』の事を紹介される事になった。

 先輩の指示でマギホからこの街の地図を呼び出した所、不自然なほど真円を描く代物が表示された。

 

「ここは現世と違って独立している概念世界だからね。私達ではこの地図の外へは行けない。ここはいわば女神様の箱庭なのさ」

 

 閉ざされた楽園。

 そんな言葉が私の脳裏に思い浮かんだ。

 

「……円環世界にこの街――神浜市と同じ都市は、どれくらいあるんですか?」

「それは……残念だけど詳しい数は私にも分からないな。最低でも魔法少女が生きた時代の数だけ存在するとは思う。

 <結界門>と呼ばれる場所があってね。そこから他の都市に行く事ができるんだけど、行き先はそれこそ無数に存在するから、多分だけど平行世界とも繋がってるんじゃないかな? まぁその辺りは君自身の目で確かめて欲しい」

 

 過去と未来全ての魔法少女が集うのがこの円環世界だ。

 先輩の話では、その<結界門>によって他の都市と交流する事ができるらしい。

 地図上では孤立している様に見えるこの街も、その門によって無数の都市と繋がっているようだ。

 

(なんだか凄い世界に来てしまったみたいだ……)

 

 先輩の話では、たまに他の都市と協同でお祭り騒ぎをする事もあるらしく、そういう『イベント』の時はかなり盛り上がる様だ。

 

「歴史に名を遺した過去の偉人が、実は魔法少女だったとか知って驚いたりもするし、未来の時代から来た魔法少女から話を聞くのも面白いよ。まぁ平行世界として考えると、彼女達のいた歴史と私達の生きた時間軸が直接繋がってはいない可能性もあるんだけど、それでも参加する価値はあるかな。イベントの景品もかなり豪華だしね」

 

 そのイベントでは縁日のお祭りみたいに様々な催し物が出され、そこで豪華賞品をゲットするのが凄く楽しみなのだとか。

 やたらお洒落な二階建ての循環バスの上で、私は楽し気にこの世界の事を語る先輩の話に相槌を打つ。

 

 この世界は想像以上に面白そうな所だった。

 先輩の話が上手いのもあるかもしれないけど、私もこれからの生活が楽しみになってきた。

 

 二階のオープントップから見渡す街並みは、景観という意味ではかなり見応えがある物だった。

 外縁部には個性的な住宅地が多かったのだが、中央に近付くにつれ様々な施設が目に入るようになる。

 中でも一際目についたのが、道行く人達が皆魔法少女としての姿で出歩いていた事だった。

 

「この世界はね、魔法少女がそのままの姿であり続けられる場所なんだよ」

 

 私の視線に気付いたのか、先輩が誇らしげに言う。

 この街全ての住人が魔法少女であるという、その事実に改めて驚く。

 元の世界では絶対に見られない光景だろう。

 

 所々でマスコットキャラみたいな生き物も視界に映るが、よく観察するとそれ等はどうも魔法生物のようだ。

 魔法少女の使役するペットか何かだろうと納得し、ふと私は自身の格好に疑問を抱く。

 

(そういえば、私も魔法少女姿のままだった……あれ、変身の解除ってどうやるんだろう?)

 

 普段はソウルジェムを使って変身を解除するのだが、現在代わりにあるのはマギホだけだ。

 やり方がよくわからない私に、先輩はにこやかに答えてくれた。

 

「ここだと変身の解除は『着替え』扱いだよ。マギホの設定でコスチュームの着脱ができるから、予めセットしておけばタップ一つで着替えられるよ。まぁ普通に着替える事もできるけど、マギホに収納した方が省スペースで楽だからね」

「……まるで自分がゲームのキャラクターになったみたいですね」

「ははっ、それは言い得て妙だね」

 

 ちなみに私が現在所持しているコスチュームは、今着ている魔法少女衣装のみだ。

 マギホ内にもそれらしい装備は見当たらない。という事は、だ。

 

「……変身を解くのは、着替えを買ってからにした方が良さそうだね」 

「……そうします」

 

 変身を解除したら全裸になるとか、一体いつの時代の魔法少女なんだか。

 サービスシーンとか断固お断りだ。わざわざ他人に見せるほど面白い体でもないし。

 

(――拝啓女神様。せめて替えの下着くらいは、初期装備としておまけしてくれてもいいんじゃないでしょうか?)

 

 両手を組んで、女神様にお祈りという名の陳情電波をゆんゆんと飛ばす。

 すると「ごめんね~」と女神様の困ったような声が返ってきた気がした。

 

 ……まさかね。

 

 

 

 

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 ――――結界門前、ショッピングモール。

 

 この街における<結界門>というのは、いわば駅のような役割を持つ場所らしい。

 つまり人の行き来の激しい場所であり、必然的に集客を見込んでか様々な店舗が密集する事となる。

 

「結界門について詳しい説明をする前に、マキナの着替えを買ってしまおう」

「あ、はい。お願いします」

 

 先輩に連れられた私は、服飾店に案内された。

 ちなみにこの世界に流通している通貨は【GP】であり、会計では財布代わりにマギホで支払いを行うシステムになっている。

 

(この世界ってかなりマギホに依存してるな……失くしたら身動きが取れなくなるって言うのも本当みたいだ)

 

 そして肝心の現在私の所有するGP残高だが、なんとゼロだ。

 無一文である。何と言う事だ。うんまい棒一本も買えやしないとは。 

 

 そんな私なんかが本来買い物など出来るはずもないのだが、先輩のご厚意に甘える形になってしまった。

 

「まぁ君は来たばっかりなんだからしょうがないさ。ここは私が奢らせてもらうよ」

「……恐縮です」

 

 再び女神様に(追伸。初期資金くらいは――)と陳情電波を飛ばしつつ、なるべく安い物を選ぼうと思ったのだが、それを察した先輩に「遠慮するな、こう見えて先導者(ナビゲーター)を務めるくらいには稼いでいる」というお言葉を頂いた。

 そんな先輩の言葉に私は首を傾げる。

 

「えと、GPを稼ぐのと先導者を務めるのに、何か関係があるんですか?」

「基本的に先導者は高位階の者が務めるからね。ちなみに私の位階はLv.(レベル)38だ。これでも都市ではそこそこ上位なんだぞ?」

 

 と先輩は悪戯っぽく笑う。

 ますますゲーム染みてきたなと思いつつ、そういえば私にもその位階とやらが付いていたなと思い出してマギホを確認してみる。

 固有魔法とか特殊装備とか、よく分からない項目を除いたのがコレになる。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

【ユーザー名】来栖 蒔苗(くるす まきな)

【位階】Lv.1

【SP】100/100

【GP】0

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 いまいちよく分からない【SP】はともかく、この世界の通貨である【GP】は何度見てもゼロのままだ。ぐぬぬ。

 そして肝心の【位階】とやらはLv.1、初心者丸出しの数字だった。

 

「……何というか、すごくショボい感じがします」

 

 魔法とかの項目を見ても、別に大した事なさそうな気がしてならない。

 何ヵ所か『???』と隠されているが、ゲーム的に考えるとレベルが上がって解放されるとか、そういうパターンだと思われる。

 

(別に自分が特別だとは思ってなかったけど……もしかして私って、弱いのかな?)

 

 なんとなく微妙な気持ちになる私を、先輩は「あははっ」と笑い飛ばした。

 突然笑われてしまい思わずムッとしてしまった私に、先輩は慌てて謝った。

 

「ごめんごめん。なんだか懐かしくなってね。私も最初は勘違いしたものだよ。『位階の高さこそが強さの証なんだ』ってね。でもね、実はこれ全然違うんだよ。

 位階は【GP】の獲得量によって上昇するんだけど、上昇によって能力が強化されたりとかはしない。もちろんこの世界で鍛錬して強くなる事は可能だけど、強さと位階の高さは比例しないんだ。多少目安にはなるかもしれないけどね。

 だからLv.38の私より、Lv.1のマキナの方が強い可能性もあるんだよ。もちろん先輩として易々と負けるつもりはないけどね」

 

 と、凛とした表情で先輩は言う。

 つまり位階とはどれだけこの世界に馴染んでいるかの目安のような物で、実際の強さとは関係ないらしい。

 

「まぁ位階が高ければそれなりに特典とかもあったりするから、上げといて損はないけどね。私達魔法少女の強さってこういう数値じゃちょっと測れないから、しょうがない部分もあるんだけど」

 

 なるほど、と私は納得した。

 本来、私達魔法少女の扱う魔法は、感情をエネルギーにして発動する分振れ幅が大きい。

 そしてこの世界の魔法少女は皆、結末はどうあれ現世でそれぞれの戦いを全うした少女達だ。

 

 そんな魔法少女達の強さなんてピンからキリまで幅広いし、魔法の相性なんかも考えると『絶対的な強さ』なんて物は有り得ないと言っていいだろう。

 それを数値で表そうとする方が無茶だ。だからこの世界における位階とは、ある種の身分証明証として存在するのだろう。

 

 疑問の解消された私に、先輩はお待ちかねとばかりに両手に可愛らしいデザインの服を広げて見せた。

 

「さて、マキナの疑問も解決したことだし遠慮せずに選んでくれ。これなんか似合うんじゃないか?」

「……千里先輩、薄々と思ってましたが、実は可愛い物好きですか?」

「ふふっ、実はそうなんだよ。マキナは小っちゃくて可愛いし、私じゃ似合わないような服もばっちり似合うだろうから楽しませて貰うよ」

「私に可愛い服とか必要ないと思うのですが……安いので十分ですよ」

「分かってないね。君は私に奢られる立場だ。大人しく私の着せ替え人形になるといい」

 

(先輩、玩具にする気満々ですね?)

 

 喉元まで出かかった言葉を無理やり押し込め、私は目の前の困難に立ち向かうのだった。

 

(……しばらく変身は解除しなくてもいいかな)

 

 

 その後、私のマギホ内には大量の衣類が詰め込まれてしまった。

 某青狸の四次元ポケットみたいに吸い込まれていく様は面白かったけれど、ここまで奢られてしまうと申し訳なさが半端なかった。

 

 その所為で気付かなかったのだが、後で確認した所、先輩の悪戯心によって紛れ込んでいた【スク水】【メイド服】【バニーガール】といったイロモノ装備の存在を発見してしまい、私は心底戦慄した。

 装備品としては無駄に高性能なところに、この世界の闇を見た思いだ。

 

 

 

 

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 ――――結界門前、喫茶店<豆蔵>。

 

 ショッピングの後、私達は近くの喫茶店で昼食をとる事にした。

 体力的にはそうでもないのだが、精神的には何だか疲れてしまっていたので丁度良かった。

 

 とはいえ、またも先輩の奢りなのは非常に心苦しい限りだったが。

 

「あの、先輩」

「ん、なんだい? メニューが決まったのかな? 私は今パスタにするかオムライスにするか悩んでる所なんだが……」

「いえ、メニューの話ではありません」

 

 というか、先輩は和風な見た目に反している気がする。喫茶店で和風っぽいメニューもあんまりないけど。

 

「このまま先輩に奢られ続けるのも心苦しいです。せめてGPを稼ぐ手段を教えては貰えないでしょうか? 返す当てもないままだと、私の精神衛生上よろしくありませんので」

「そうかい? 後輩に奢るのも私の役目だと思うんだが……まぁどうせこの後説明する事だし、君の気が楽になるのなら先に話しておこうかな」

 

 取りあえず注文してからにしようか、という先輩の言葉に頷き、私はメニューから無難にカレーライスを頼んだ。

 結局先輩はパスタにするらしく、ペペロンチーノを頼んでいた。

 

 ウェイトレスの少女が二人分のコーヒーを置いて去って行く。魔法少女衣装ではなく普通のウェイトレスとしての制服の様だったが、それが逆に新鮮に感じられた。

 この世界に居るという事はあの子もまた魔法少女なんだろうけど、この世界では私なんかでもバイトとかできたりするのだろうか。

 

 戦いを終えた私達魔法少女もまた、この世界では何らかの仕事をしなければならないのだろうと予想していた。

 GP(おカネ)を稼ぐという事はそういう事だ。

 

 だから次の先輩の言葉は意外でもあった。

 

「この世界にもね、私達魔法少女の敵となる存在がいるんだよ」

 

 平和だと思っていたこの円環世界にも、どうやら穏やかではない存在がいるらしい。

 この世界にもいるのだろうか。あの人類に仇なす天敵が。

 

「それは……魔獣、なんですか?」

 

 乾いた喉から絞り出した私の問い掛けに、千里先輩は首を横に振って否定する。

 

(魔獣じゃない? なら一体どんな敵が……)

 

 想像もつかない私に、先輩は説明を続ける。

 

「光があれば闇があるように、私達魔法少女にも裏となる面がある。

 それは女神様が浄化した呪いの結晶、その残滓と呼ぶべき存在――『魔女』。

 私達は『円環の理』の一部として、魔女を倒して呪いを昇華させる使命を持っているんだ」

「魔女……それが、私達の敵の名前ですか?」

「そうだよ。本来女神様がいなければ、そう成っていたかもしれない『私達の絶望の象徴』だ」

 

 そこからの先輩の話は、私にとって驚愕するべき代物だった。

 

 もしも女神様がいなければ、私達魔法少女は絶望の果てに魔女となる運命だったらしい。

 けれど女神様のお蔭でその呪われた因果から解放された私達は、こうして世界を呪わず消滅し、この新たな世界へと導かれた。

 

 だが幾ら女神様の力が強大であろうとも人の世から呪いは消えず、女神様は永遠に魔女を消滅させるべく戦い続けているらしい。

 それを手伝うのが、私のような『円環の理』に導かれた魔法少女達の使命。

 

「魔女を倒すのが一番手っ取り早くGP(グリーフポイント)を稼ぐ方法なんだよ。

 勿論戦うのが嫌な子もいるし、女神様は私達に何の強制もしない。その気になれば街中で好きな仕事にも就ける。夢のような環境さ。

 でもね、今一度魔法少女として戦う意思があるのなら……マキナ、君にも『魔女』を倒して欲しい」

 

 そう言って、千里先輩は真っ直ぐに私を見た。

 私はと言えば、答えはもう決まり切っていた。

 

 全ての魔獣を滅ぼす。

 その激情は未だ私の胸の奥に燻っている。

 

 その『魔女』とやらが、魔獣の様に人々に仇なす存在だと言うのならば。

 

「はい。私で良ければ微力を尽くします」

 

(魔獣も魔女も、みんな■してしまえば良い)

 

 抑え切れない感情が溢れ出しそうになる。

 自分でもわけがわからない激情に、私は必死に蓋をする。

 

 その感情はきっと、良くない物だと思うから。

 自身が何者なのか分かれば、この感情とももう少し上手く付き合える気がするのだけど。

 

「――マキナ?」

「……あ、はい。なんですか?」

「いや、随分と怖い顔をしてたから……ごめんね、別に脅かすつもりはなかったんだ。ただ私達が戦う事の意味を理解して貰いたかっただけで。

 ああは言ったけど本当に無理しなくて良いからね? ここにいるみんな、何だかんだで第二の人生を満喫してるし、幾らこの世界では()()()()からって無茶していい道理もないからね?」

「……死なないんですか?」

「そうだよ。正確に言えば死んでも復活するんだ。君の目覚めた教会、あそこでね」

 

 それは、なんと言えばいいのか。

 正にゲームの世界だ。

 

(正直死んでもいい戦いなんて楽勝過ぎる気も……なんて、ちょっと舐め過ぎかな)

 

「戦い続けるかはともかくとして、取り敢えず当面の生活費が稼げるくらいにはなりたいです。その為にも一度、その魔女とやらを見てみたいですね」

「そうだね。それじゃあ昼食の後に行ってみるかい? 予定だともう少しこの辺をぶらぶら案内しようかと思ってたんだけど」

「腹ごなしも兼ねて丁度良い運動だと思いますから、前倒しでお願いします」

「りょーかい。頼もしいね、君は」

 

 私の言葉に先輩が苦笑していると、折よく頼んでいた料理が運ばれて来た。

 こうして現世から消滅しても食事している事を思うと何だか変な感じがするけど、空腹だったお腹が満たされると「生きてるんだ」という実感が湧いてくるから不思議だ。

 

(先輩も言ってたけど、第二の人生か……私の記憶の件もあるし、焦らずやってこうかな)

 

 そんなマイペース宣言が脆くも崩れ去ってしまう事を、この時の私はまだ知らなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




【MEMO】
『スク水』
 学校指定の水着。特殊装備。
 水中での行動にプラス補正。
 水属性の耐性を得る。
 回避能力が上がる。

『メイド服』
 メイドの仕事着。特殊装備。
 家事行為にプラス補正。
 防御力がかなり上がる。

『バニーガール』
 兎さんスーツ。特殊装備。
 魅力値が上がる。
 素早さが上がる。
 幸運値がかなり上がる。

『喫茶店<豆蔵>』
 結界門近くにある喫茶店。バイト募集中。
 店主の魔法少女は変身するとミニスカサンタ姿になる。
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