◇◆◇◆◇
――――<結界門>前広場。
私達が喫茶店を出て目的地である<結界門>前の広場に出ると、そこには『門』というよりも巨大な羅針盤を思わせる代物があった。
広場その物にも魔法陣が緻密に刻まれており、その中央部には高さ二メートルほどに石塔が建っている。
その頂上に<結界門>の中核と思われる羅針盤の様な球体が浮かんでいた。
魔法の力が働いているのか、支えもなく虚空に浮かぶ球体は針と歯車を緩やかに回転させている。
(……綺麗過ぎて何かの美術品みたい、かな)
円環都市間を繋げる門であるということは、それすなわち世界と世界を繋げる大魔法に他ならない。
女神様による奇跡の御業と言い換えても良い。単なる魔法少女には逆立ちしても真似できない芸当だ。
見渡す限り門の周辺では大勢の魔法少女達が賑わっており、私の視線の先ではマギホを掲げた魔法少女達が、次々とその姿を消していくのを目撃する。
そして逆に、誰もいなかった場所から見知らぬ魔法少女達が突如現れては、何事もなかったかのようにその場を離れて行った。
(……なるほど、ここが<結界門>。この都市唯一の、外界との窓口)
感心する私をよそに、付き添いである先導者の千里先輩が私の手を引いた。
「この広場では混雑防止のため長居は禁止されている。待ち合わせは近くに専用の施設があるし、私達がさっき居た喫茶店みたいな所で打ち合わせとかするのが定番だね。というわけで、早速だが転移してみよう」
先輩に促され、私は喫茶店で説明された通りにマギホを操作する。
この門の使用にもマギホが必要なのだ。つくづく重要なアイテムだと実感してしまう。
操作の初めとしては、まず画面上にある<結界門>アプリを選択する。
これはマギホ内に標準で入っているアプリで、他にも色々便利なアプリを追加でインストールする事もできるらしい。この辺りはスマホと似たような物だ。
そしてアプリが起動すると『転移コード』の選択画面が表示される。
これは行き先を示すアドレスのようなもので、今回は予め先輩に教えられていた『チュートリアル』コードをリストの中から選択して入力する。
ちなみに表示されたリストによると、今の私が行ける場所はそれほど多くはないようだ。今回のチュートリアルエリアを含めて三つほどしかない。
私は喫茶店での先輩の説明を思い出す。
『――というわけで、これらのコードはこれから転移する『結界』内の敵を倒す事でも手に入る。他にも売買やトレードなどでも手に入れられるが、それはこの世界のシステムに慣れてからの方が良いだろう』
『このコードって、単なるデータじゃないんですか? みんなで共有したり教え合うとか……』
『残念だけどコードは複製不可なんだよ。ここでのコードは言わば『鍵』と考えればいい。譲渡は可能だが、渡してしまえば失われる。合鍵を作ることも不可能だ。
それに貴重なコードであればあるほど入手は困難になる。だから互いに不要なコードをトレードしたり、売買したりするというわけだ』
たくさんのGPを稼げたり、貴重なアイテムをドロップする様なエリアに行けるコードであるほど、その貴重性は増していくらしい。
先輩は鍵と称したが、説明を聞いた私は高価な『旅行チケット』といった印象を受けた。使い切りじゃないのは嬉しい限りである。
(何にしても、面白そうな事に変わりはないけど。旅行かぁ……記憶にないけど、そういうのも良いかな。先輩によると温泉エリアとかあったりするらしいし)
なんて、私がズレた感想を持っている事など露知らず、先輩は説明を続けてくれる。
『次に人数設定だが、通常時は最大六名まで一緒に転移できる。一人じゃ倒せないような敵と戦う場合は仲間を集めて行くと良い。大きなイベントとかがあれば上限も解放されるが……まぁ今は置いておこう』
そんな先輩の親切な説明を思い出し、同行者の所に『天津千里』と先輩のID(この世界での固有番号)を入力する。
お互いのIDは既に交換してあるので、ぽちぽち打ち込まなくても良いのは楽だった。
そして転移準備を終えた私は、マギホから顔を上げて先輩に報告する。
「準備できました」
「よろしい。では行こうか。チュートリアルマップ『薔薇園の魔女』へ!」
先輩の言葉に頷き、『転移』アイコンをタップする。
すると私達の体を魔法の光が包み込み、あっという間に広場から別の空間へと景色が切り替わった。
◇◆◇◆◇
――――
そこは薔薇園とは名ばかりの廃墟だった。
かつては大勢の人が居たのであろう集合住宅は、今では無人の静寂に包まれていた。
黄昏の光が建物の陰影を強調し、夜の闇がすぐそこまで迫っている事を殊更に告げている。
(……ここが<魔女の領域>。確かに、なんとなく魔獣と似た気配を感じるかな)
無言で戦闘態勢に入る私に、先輩は先導者として説明する。
「転移成功だね。ここは既に敵である魔女の領域『結界』の中だ。今回はこの結界の主である魔女の討伐までがチュートリアルになる。
私は基本的に見守るだけにするから、初めはマキナだけで頑張ってみてくれ。流石に危なそうになったら私も手を出すけど……まぁ君ならば大丈夫だろう」
「了解です」
先輩の手を煩わせないように頑張ろうと決意し、私は周囲を警戒しながら一番気配の濃い建物の中へと入っていく。
「ところでマキナ、自分の武器は出さないのかい?」
「……この拳が目に入りませんか?」
私はふっとニヒルに笑って自身の拳を掲げて見せる。
私だって、何も用意してないわけじゃないのだ。
「へぇ、珍しいね。徒手空拳かい? それで君が戦えるのならいいが……あんまり無茶はしてくれるなよ?」
「自慢じゃありませんが――どうも私の武器は魔獣に食われて、記憶と一緒になくなってしまったみたいです。武器とか、全然出せません」
「駄目じゃないか!?」
単純に、何も用意できなかっただけなのだ。私は悪くない。
私に残された最後の記憶では、私の愛剣はぽっきりと折られてしまっていた。
おのれ魔獣め。
「まったく……君って奴はほんとにイレギュラーな子だね。ちなみに前の武器は何を使ってたんだい?」
「剣ですね。刀とかじゃなくて、よくあるロングソードって感じの武器でした」
一応固有の魔法剣としてはかなり強い部類だったと思う。
まがりなりにも魔獣の群れを屠れるだけの力はあったのだから。
とはいえ超巨大魔獣を倒すと同時に、砕けるように半ば程から折れてしまったわけだが。
「うーん、それじゃ仕方ないね。流石に武器なしだと……あんまり強い武器をあげても君の為にならないだろうから、これくらいかな?」
私が失った愛剣を惜しんでいると、先輩は自身のマギホから一振りの剣を取り出した。
それはぱっと見では無骨な、どこにでもあるような剣にしか見えなかった。
「……うん、これをあげよう。銘は『
「頂けるだけで感謝の極みです。なんだか本当にすみません。大切に……できるかはわかりませんが、使わせて頂きます」
己の魔法剣すらぽっきりやってしまった前科のある私が、酷使するであろう武器を大切にできる自信なんか全くなかった。
服といい食事といい、良い加減奢られ慣れたと言えば人聞きが悪いが、恩は将来三倍にして返せばいいと割り切る事にしていた。わざわざ口には出さないが。
そんな私に苦笑しながら、先輩も「それでいいよ」と頷いてくれる。
「平時ならばともかく、戦いの中で武器に気を使うのは骨だからね。
執着も過ぎれば隙になりかねない。だったら遠慮なく使ってくれた方がソレも武器として本懐だろう」
先輩に渡された剣を受け取り、早速私は柄を握って二三ほど素振りしてみる。
剣の長さや重さ、重心から振った時の慣性といった剣の持つ癖を自身の隅々まで覚え込ませる。
(……うん。良い剣だ。振っていて楽しい)
見た目は凡庸ながら私はこの剣が気に入ってしまった。
再び先輩にお礼を言って、私達はチュートリアルを再開する。
早く敵が現れないかな、と期待に胸を膨らませながら。
◇◆◇◆◇
――――魔女領域<造園の使い魔>。
一匹、二匹……と最初の内は数えていたのだが、その内あまりの多さに数えるのを諦めた。
現れた敵は私の予想外に小さかった。
それ等は先輩曰く<使い魔>と呼ばれる魔女の手下であり、ゲームで言う所の雑魚モンスターだ。
見上げるほどの巨体揃いだった魔獣共とは打って変わって、遭遇した使い魔達はぬいぐるみ並の体躯しかない個体が多かった。
「その白い綿に黒いカイゼル髭を付けた使い魔の名前は『
などと先輩が割とどうでもいい情報を教えてくれるが、この使い魔はチュートリアルに出てくるだけあって都市の魔法少女達にもかなり親しまれている様子だ。
確かにふわふわな白綿に無駄に偉そうな髭を付けた姿は非常にコミカルであり、人気が出るのもわかる気がした。
とはいえそれも、大量に群れて襲ってこなければの話だが。
ちなみに攻撃体勢に入った奴らは化け物の本性を剥き出しにして、黒く落ち窪んだ眼窩と青白い唇を曝け出し軽くホラー染みた外見に変化していた。
(戻って、お願いだから。見た目的にも物理的にも)
私は手にした<ヴォーパルソード>を一閃して使い魔達を薙ぎ払う。
倒されたアントニーが蝶々に変わってどこかへと飛んでいくが、その行方を気にする余裕もなかった。
私は囲まれそうになる度に壁を蹴って三次元的に動き回り、息をつく間もなく使い魔達を殲滅していく。
魔法少女らしい超人的な身体能力を制御し、攻撃の瞬間や回避の刹那に強化魔法を使い、使い魔達に反撃させる機会を奪い続ける。
戦い方は身体が覚えていた。
私はどうにも一対多数の戦闘に慣れているようだ。
(的が小さいから精度が必要だけど、その分思った以上に
予想以上に簡単に倒せてしまうので、ついつい夢中になってしまう。
そんな風に淡々と作業的に処理していくと、やがて波が収まるように使い魔達の怒涛の攻勢も引いていった。
「……ふぅ」
ほっと息を吐き、剣の状態を確かめる。
一応魔法の剣とは言え、初っ端から無茶し過ぎたのではないかと今更な心配をしたのだが、無骨な刀身は刃毀れ一つないままだった。
その事に満足していると、戦闘が一時終わったのを確認した先輩がパチパチと拍手してくれる。
「中々やるね。慣れない得物だろうに、あれだけの数を余裕で切り捨てるとは」
「ありがとうございます。でも、あれくらいなら先輩だって楽勝でしょう? その腰に提げた刀、伊達じゃないですよね?」
などと、少々挑発気味に言ってみる。
この世界の魔法少女の強さがどれほどの物なのか、先導者と呼ばれる高位階の者の実力を知る事で図ろうとしていた。
そんな私の意図に気付いてか、先輩はやんちゃな子供を見るような生暖かい視線で私を見ていた。
「うん、大分遠慮がなくなってきたね。良い傾向だ。それはそれとして、私も魔法少女としてそれなりに強いという自負がある。マキナがどうしても『死に戻り』を経験したいというのなら、先導者として協力するのもやぶさかではないな」
「ごめんなさいでした」
即座に頭を下げて許しを乞う。
些か戦闘で興奮し過ぎていたようだ。調子に乗ってしまった、恥ずかしい。
(私は戦闘狂じゃない……と、思いたかったかな)
どうにもその気があるように思える。気を抜くとその片鱗が無自覚に出てしまっている様子だ。
まあ気付いて自重できる程度なので、それほど重症でもなさそうだが。その辺りは記憶を失っている事も影響しているのかもしれない。
それから私達は更に結界の奥へと進んでいく。
途中からアントニーの他にも『
こいつもカイゼル髭を付けているのだが、複数の目が付いているのでそれほど可愛くはない。心なしかアントニーよりもおっさん化が進んでいる気がする。
(ここの魔女はオジサマ好きなのかな?)
などという疑念を持ちながら、突進してくるアーデルベルトを飛んで火に居る夏の虫とばかりに切り捨てる。
仲間がバッタバッタと切り捨てられているにも関わらず、凝りもせず頭突きしてくる奴らに昆虫染みた習性を感じずにはいられなかった。
ちなみにもう一種のヒゲであるアントニーの方は、ちょくちょく黒い鋏を出現させては切りかかって来ていた。
鋏よりもコードの様に巻き付いている茨の方が厄介だった。下手をすれば足を取られかねない。
とはいえ私の方も、戦っているうちにどんどん勘を取り戻していくのを実感していた。
正直、チュートリアルというだけあって、ここの使い魔達はそれほど強くはないのだろう。
数は確かに面倒だが、遠距離攻撃だとか特殊な攻撃をしてくるわけでもなく、随分素直に突撃してくるので対処も慣れてしまえば楽だった。
「そうだ。まだ大丈夫だとは思うが、魔力の配分には気を付けなよ?
この世界でも無制限に戦えるわけじゃない。【SP】がゼロになったら魔法が使えなくなるばかりか、身体能力も一般人レベルまで落ち込むから気を付けてね」
と、先輩が思い出したように忠告してくれる。
そういえばGPの近くに【SP】の項目もあったな、と思い小休止がてらにマギホを確認する。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
【ユーザー名】来栖 蒔苗(くるす まきな)
【位階】Lv.1
【SP】92/100
【GP】1,450
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
(おお、GPが増えてる……!)
ようやく無一文から解放されたとはいえ、これまでに倒した数を考えるとあまり使い魔は美味しい獲物ではなさそうだ。
まだここはチュートリアルでしかないのだから、それも当たり前なのかもしれないが。
そして改めてその上にある項目を見ると【SP】の値が少し減っていた。
身体強化以外の魔法は使っていないし、体に染みついた癖なのかそれも最小限に抑えていたので魔力効率としては悪くないと思う。
ちなみにSPはパーセント表示になっているらしいので、100が上限値との事だ。
「今のSP残量は92ですね。まだまだ余裕みたいです」
「ほう? 思った以上に消耗してないね。元々の魔力量が多いのか、あるいは魔法の使い方に無駄がないのか。見たところマキナは両方だな。これは凄い」
このSP効率によって継戦能力、言い換えればGPの獲得量に差が出るらしい。
高威力の大魔法をばんばん使うのはロマンはあるけど、やはり効率としては良くないらしい。
それでも機会があるなら、一度くらいはそういう戦いもしてみたいものだ。
(――と言っても、私はそんな必殺技なんて覚えてないんだけど)
元々使えなかったのか、あるいは忘れてしまっているのか。その線引きは難しい。
何にせよ私の戦闘スタイルは魔法少女としてはかなり地味な部類に入ってしまうだろう。
派手な魔法を使うわけでもなく、淡々と敵を倒すだけなのだから。
そんな感じで、それ以降は特に苦も無く使い魔達を排除しながら結界の奥深くまで進んで行った。
そして私達はようやく最奥にいる魔女の元へと辿り着いたのだ。
◇◆◇◆◇
――――魔女の間<
私が最後の扉を開けると、その先にはドーム状の空間が広がっていた。
眼下にはこの結界の名に相応しく、薔薇が絨毯の様に敷き詰められている。
ぱっと見では見事な物だが、私がこの世界で初めて見たあの薔薇園の物と比べてしまうと、色合いも品格も劣っているように感じてしまう。
教会裏に広がっていたあの幻想的な景色と、異形の化け物が巣食う魔窟を比べる方が間違っているのだろうが。
目の前の魔女の姿は、魔獣とは異なり何とも形容し難い姿だった。
少なくとも人型ではない。
背中には毒々しいほど巨大な蝶の羽が生え、胴体は皮膜にもワンピースにも見える赤と白のコントラスト。
下部には根を思わせる無数の触手が蠢き、粘液に塗れの頭部には薔薇が幾つも咲いていた。
見れば見るほど異形としか思えない化け物だった。
ゲーム的に言うならば、ここでの戦闘がいわばボス戦になるのだろう。
とはいえあまり緊張感はない。かといって油断もしてはいない。
自然体であり、中々良いコンディションだと自己判断する。
それにいざとなれば後ろで千里先輩が見守ってくれているので、保険もあると思えば気は楽だ。とはいえそれもいざ戦いに入ってしまえば、頭の中から忘れてしまうのだろうが。
私が剣を構えて薔薇園に降り立つと、そこで初めて魔女は私の存在に気付いたかのようにその巨体を向けた。
私は先手必勝とばかりに詰め寄るが、下部の触手が槍衾のように広がり私の突進を阻んだ。
思わず後方に回避するが、それを見越したかのように使い魔達が追撃してくる。
「邪魔!」
足元に纏わり付いた小さめのアーデルベルト達をまとめて踏み潰す。
するとそれを見た魔女が激昂したかのようにその巨体を震わせ突っ込んできた。
ダンブカー並の迫力を前に、私は間一髪のタイミングで地を蹴り天蓋に張り付くようにして躱した。
(あの魔女、見かけによらず部下想い?)
部下を殺されて怒るなど、魔獣だったら考えられない反応だ。
などと僅かばかり感心させられはしたが、勢い余って壁に激突した魔女の隙を見逃すつもりもない。
私は天蓋を蹴って魔女に向かって落ちていく。
狙いは魔女の首らしき部分だ。その大きな頭部や胴体とは不釣り合いなほど細い首を断ち切るべく、私は目標に向かってダイブする。
魔女は頭を打ったせいか、ふらふらとしており動きが鈍かった。
そんな主を守ろうと使い魔達は自らの身で壁を作るが、生憎とその程度の障害で私の勢いは殺し切れない。
雲を切り裂くように難なく使い魔達を蹴散すと、狙い通り魔女の首まで肉薄。
交差する刹那、私は剣を振り抜いた。
(手応え……あり!)
手応えの余韻と共に着地し、余った勢いを殺すべくゴロゴロと地面を転がる。
地を這う様に無理やり態勢を整えて振り向けば、そこには地面に落ちた頭部と、首なしの胴体があった。
恐らく殺せたとは思うものの、それでも相手は異形の化け物だ。
まだ奥の手があるかもしれないと警戒しつつ様子を窺っていると、魔女の体は光の粒子となって虚空に消えて行った。
それと同時に、指輪形態にしたマギホから虚空に【CLEAR!】という文字が浮かび上がる。
何事かと思わず端末形態に戻してみると、そこには先の戦闘の戦果が表示されていた。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
エリア『薔薇園の魔女』【CLEAR!】
【RESULT】
総獲得GP:12,494
戦闘評価:S
戦利品:【黒ヒゲ】
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
まずはGPが大幅に増えていることを確認する。
(魔女との戦闘で得たのは大体一万GPくらいか……悪くないかな)
使い魔を倒した時とは比べ物にならないGP量だ。
効率を考えれば使い魔を無視して魔女だけを倒すのもアリだろう。
現在のSP残量は80と少しなので、同じ内容を後四セットやれる事になる。
SPが尽きて死に戻り、などと間の抜けた事はしたくないので実際はもう少し余裕を見るが、うまくいけば日に五万ほど稼げる計算になる。
SPは一晩寝れば回復するそうなので、中々の高給取りではないだろうか。
先輩の話では、殆どの魔法少女は一日に一回結界に潜るかどうかといったペースらしい。これはSPの問題もそうだが、戦いへの集中力も問題のようだ。
ゲームキャラならばともかく、実際に何度も結界に潜って魔女を倒すのはかなりしんどいのだ。私もまだ余裕があるとはいえ、そう何回も出来そうにはない。
無理をすればこの世界の魔法少女といえども倒れかねず、結果的に無理のないペースで挑んだ方が効率が良いようだ。
ちなみにこの世界の物価は、これまでの印象だと飲食関係は現世と比べてかなり安い傾向にあった。喫茶店のメニューからの判断だが、大体相場の半値以下だったのには驚いた。何かのキャンペーンかと思ったほどだ。
その反面、洋服なんかは少々高めな印象を受けた。特に魔法効果が付いた物なんか一番安い物でも軽く桁が違っている。そうでないただのファッションとしての服は現世に近い値段だったが、それでも高いように思える。
この世界でただ生活するだけならば何とでもなるが、必要以上に贅沢したり上を目指したりする場合はGPが幾らあっても足りないだろう。
余談だが、私が今まで先輩に幾ら奢られたかを考えると非常に背筋の凍る思いだ。
お金がまとまり次第、感謝を込めて色を付けて返さねばなるまい。
先輩は気にしなくていいとは言ってくれたが、恩は出来るところから返さなくてはいけない。
特にお金(ここではGPだが)の絡む事はキッチリしないと私の精神衛生上よろしくないのだ。
それと戦闘評価はS評価が最高で、最低がD評価だそうだ。
これは主に戦利品のランクに影響するらしく、高い評価であるほど希少性の高いアイテムがドロップする可能性が高くなるらしい。
「この【黒ヒゲ】ってまさか使い魔のアレですかね? というかこのアイテム、レアなんでしょうか?」
「レアではあるけど、所詮はチュートリアルだからね。アイテムとしての価値はあまり高くないよ。
都市でもパーティグッズとして普通に売られてるしね。ちなみにお値段は500GP」
百均にありそうなアイテムとしては微妙に高い気もするけど、ここでのアイテム系の値段は総じて高い傾向にあるので、まあ妥当な所だろう。
「ちなみに専門店で売ることもできるけど、このレベルだと半値以下になるね。なにせ数が多いから、売っても雀の涙くらいにしかならないだろう」
先輩に教えてもらった所、不要なアイテムなどは門近くにある買取専門店で売却する事ができるらしい。
とはいえこの『店売り』は最安値で買い叩かれるため、希少な物は売らずにとっておいた方が良いらしい。
ちなみに私が先輩から貰ったこの剣<ヴォーパルソード>もそうした戦利品だったとか。
なんでも『不思議の国のアリス』に似た結界の魔女からドロップしたのだという。
希少性の割に売値も安かったため、なんとなくマギホに仕舞われたまま今日まで埃を被っていたらしい。
「何にせよ、君にとってこの世界における初の勝利だ。おめでとうマキナ」
「あ、ありがとうございます。先輩に頂いた剣のお蔭です」
「謙遜しなくてもいい。正直、魔女と戦う辺りで手助けが必要かとも思ってたんだが、どうやら杞憂だったようだ。流石は私の後輩だ」
などと先輩は過剰に褒めてくれるが、正直私としては面映ゆいので切実に止めて欲しい。
さっきまでの戦いはGPを得られた事以外に達成感とかあんまりなかったので、そこまで評価されても困惑してしまう。
拍子抜け、というわけでもないのだけど。
(出来ればもっと強い敵を、■■を覆すほどの……って、こういう考え方が危ないんでしょうかね)
それでも胸の疼きが治まらないのは、大きく息を吐いて誤魔化した。
◇◆◇◆◇
――――住宅街区新人寮<サクラ荘>。
主の倒された結界から出ると、今日の
後二日ほど先輩に教えてもらうと、先導者としての任期は終わってしまうらしい。余りにも短い気がするけど、積み重なる恩を考えると、一刻も早く独り立ちするに越したことはないだろう。
取りあえず当面生活する場所としては、新人用の寮があるという事なのでそこにお邪魔する事になった。
GPに余裕が出来たり、仲間と一緒にルームシェアしたりなど、この世界での生活に余裕が出来たら引っ越せば良いらしい。
そして案内されたのは予想以上に綺麗な建物だった。おまけにオートロック付きで、家賃的にはかなりお高そうな物件だ。
正直新人寮というくらいだから、使い古されて結構ボロいのではないかと思っていたのだが、良い意味で予想を裏切られた。
与えられた個室にはトイレバスキッチンの他にエアコンと冷蔵庫も完備しており、公共スペースや食堂なども付いている。自炊ができなくても全く困らない感じになっていた。
更には大浴場やシャワールームなど、個室とは別に用意されているというのだから、ちょっと贅沢過ぎやしないかと。
ちなみにお値段は諸々込みで、月々一万GPという破格の賃貸料だった。
この世界にきたばかりの私ですら、ちょっと魔女を退治しただけで稼げてしまったお値段だ。逆に裏を疑いたくなるレベルである。
ちょっとどこの世界の住宅事情かと、突っ込みを入れたくなってしまった。
だがそう言えばここは、ある意味では異世界である事を思い出して乾いた笑みを浮かべる。
(……まぁ、汚くて狭い場所よりは断然こっちの方が良いかな。贅沢過ぎて落ち着かないのは、私が貧乏性だからなのかな?)
規則も常識的な事ばかりで実質ないに等しいし、これでは寮というよりもホテルに滞在しているような物だ。
だが一応、制限らしき物がないわけではない。
この新人寮に滞在できるのはあくまで新人だけであり、三カ月を過ぎれば出て行かなくてはならないのだ。
(生活レベルを強制的に上げさせて贅沢に慣れさせ、その後に放り出して苦労させるという罠の可能性が……ないな)
先輩に聞いた所、物価の安さは住宅事情にまで及んでいるらしい。いざとなれば魔法での増設が容易なこの世界では、賃貸事情は総じて安い傾向にあるようだ。
こうなると本当に、この世界での生活には困りそうにない。
(女神様は……この世界を魔法少女達の楽園にしたかったんだろうな。すごい方だ)
管理人の女性に挨拶を終え、私は早速新しい住処となる自室のベッドに転がった。
ちなみに現在の格好は魔法少女衣装ではなく、先輩に買って貰った私服に着替えている。その際に見慣れない装備を見つけてしまったのだが……まぁそれは良い。
何にしても私一押しのジャージは楽で良い。先輩には悪いけど、誰の目もない所でお洒落をする意味が本気で私には分からないのだ。
「うにぅあ……なんだか、眠くなってきた……」
身体を解す様に伸ばすと、無意識に変な声が漏れてしまった。
真新しいシーツにスプリングの利いたふかふかのベッドは、何だかこのまま眠ってしまいそうなほど気持ち良かった。
私はぼんやりとまだ見慣れない天井を見上げ、これからの事を考える。
GPを稼ぐ手段にも目途が立ち、このまま何となくこの世界で平穏に過ごしていくのだろうと、私は当初漠然とした未来を思い描いていた。
だが今日の別れ際に先輩が教えてくれた情報が、今も私の頭から離れなかった。
『それからマキナ、君の記憶の件なんだが――『レコード』を集めれば、あるいは君の過去も分かるかもしれない』
【レコード】――それは世界の記録だという。
この円環世界が通常とは違う領域にあるが故に、稀に発見されるという希少アイテムだ。
クリスタル状のそのアイテムに触れる事で、結晶体に内包された記録を再生する。
地層に遺された化石から当時の記録が丸々読み取れるようなものと考えれば、中々ロマンはあるだろう。
偶然かあるいは女神様の意図した物なのか、レコードは魔法少女に関係する物が殆どらしい。
とはいえ、ただでさえ希少な上に都合良く欲しい情報を持っている可能性は極めて低い。
そんなほとんどのレコードは現状では単なる観賞用の蒐集アイテムとして、この世界の好事家達に取引されている程度だという。
だが一部の特殊なレコードは、使用者に望む記録を見せてくれる。
かつて過ごした世界で残された者達のその後の様子だったり、「もしも」の世界である平行世界の情報であろうとも、どんな条件でもそのレコードは再生するのだという。
そんな一部のレコードは通常の物とは別に【マギアレコード】と呼ばれている。
頭に超が幾つも付くような超々希少アイテムだった。
「レコードを見つければ、私は過去を取り戻せる……だけど今更取り戻す必要なんて、あるのかな?」
恐らくきっと、幸せな記憶ばかりではないだろう。
私自身の思考と行動傾向から察するに、あまり平和に生きてきたとも思えない。
そんな地雷染みた記憶を無理して取り戻さずとも、このぬるま湯のような環境に心置きなく浸ってしまえば良いのではないだろうか。
勿論この世界の魔法少女の義務として、魔女は積極的に狩っていくつもりだが。
(……分からない。過去なんか忘れてしまえばいいと思うのに、何だか胸がもやもやする。私は、どうすればいいのかな?)
私の過去の手掛かりとなるだろうアイテム【マギアレコード】――それを探すべきか否か、私は未だに決めかねていた。
【MEMO】
『
天津千里から譲渡された剣。名前から物々しい大剣のように思えるが、実際は片手でも扱えるシンプルな西洋剣。
クリティカル率アップ(小)効果を持つ。
マキナは密かに「ヴォ―たん」と名付けている。
(公式)『
薔薇園の魔女の使い魔その一。その役割は造園。
おヒゲは魔女にセットしてもらう。
(架空)円環世界ではチュートリアルエリアに登場し、魔法少女達と初めて戦う使い魔(つまりドラ○エでいう所のス○イム)ポジション。
傍目からは可愛らしい見た目もあって都市内でグッズ化もされている。
(公式)『
薔薇園の魔女の使い魔その二。その役割は警戒。
人間を見つけると、ベルのような警戒音を鳴らし容赦ない頭突きを食らわせる。視力は 2.5。 小さなタイプは侵入者を阻む薔薇の蔦に変身可能。
(架空)同僚のアントニーとは大の仲良しだが、その人気に思わず嫉妬。壁に向かって頭突かずにはいられない。
同僚と比べて影が非常に薄いのが最近の悩み。
(公式)『
薔薇園の魔女。性質は不信。なによりも薔薇が大事。その力の全ては美しい薔薇のために。
結界に迷い込んだ人間の生命力を奪い薔薇に分け与えているが、人間に結界内を踏み荒らされることは大嫌い。
(架空)実はこの円環世界のどこかに魔法少女として存在している。(ヒント:教会裏)
『黒ヒゲ』
装備アイテム。立派なカイゼル髭。
チュートリアルマップで手に入るため、レア度の割に価値は低い。
装備すればダンディな紳士になれる(気がするだけ)。
『サクラ荘』
神浜市に来たばかりの魔法少女達の初期宿。他にもツキミ荘、トケイ荘など複数ある。
なおペットな彼女はいない模様。
◇◆◇◆◇
(余談)【マギレコ公式PVを見て作者が思ったこと徒然(本編とはあんまり関係ありません)】
PVに出てた新規の魔法少女達って、実は原作の<魔女>達の生前の姿なのでは?
見た目じゃ特定できないけど、魔女と魔法少女の姿が乖離しているのは今更なのだし(正に不可逆の存在)。
それっぽいのだと青い子がH.N.Elly(Kirsten)じゃないかと予想……したんだけど、多分違う(汗)
だってエリーとか言ったら「働きたくないでござる」の魔女だもの。ビジュアル的にヒッキー要素が見当たらない(笑)
でも外伝としては、「原作に登場した魔女達の生前の姿」っていうのは、非常に興味深いコンテンツだと思う。
(そうであって欲しいという一ファンの願望)
ちなみにそれ以外の予想。
『奇妙な力に導かれて』→円環の理に導かれて。
『魔女から新たな力を』→生前の自分の力。というかスタンド化決定に歓喜。
『そのままの姿で~』→死後の世界(円環世界)だから。
本作品とは違い、皆記憶を失って導かれていると予想。
つまりほむほむが円環世界に導かれてしまったIFルートの可能性。
そうとは気付かないまま、彼女は『まどか』を救う手掛かりを求めて神浜市を探索する。
……とか?
つまりハッピーエンド後の世界ってわけだね(白目)!
悪魔ほむらとかいなかったんや(強弁)!
ちなみにこの場合、円環世界にも『まどか』は存在しているが、神としての記憶と力を封印して一魔法少女として楽しく過ごしている。
つまりほむほむの空回り(これぞ原作準拠キリッ)。
――とまあ、そう考えればまだ設定的に本作とそんなに乖離していない可能性ががが(錯乱)
一番の誤算はマギレコ主人公格の『環いろは』。
最初は見た目から絶対ツンデレだと思ってました……更新後の公式設定を見ると、何故か気弱な世話焼きお姉ちゃんとしか思えなくなってしまった(笑)。
こっちのプロットも急遽変更。ふぅ……危なかった(遅筆の言い訳)
いろはちゃんの正体? まどかとの関係が各所で囁かれておりますね。
今の時点だと妹の『うい』が不確定過ぎる……。
とりあえず予想としてはこんな感じ。
①女神様の端末。
円環世界における使い魔のような存在。(叛逆のクララドールズみたいな、魔法少女に近い何か)
妹も同じ存在で、何故か消えてしまったので探しているとか?
②平行世界のまどか魔女。
平行世界のまどか魔女達も円環の理に導かれてしまい、普通に円環世界に『転生』している。
彼女達もそれぞれ円環世界の住人として新しい人生を歩いていたものの、その身に秘められた因果がそれを許しはしなかった(厨二病並感)。
③【大穴】困った時は大体キュゥべえの所為。
「僕と契約して<新しい>魔法少女になってよ!」
円環世界の魔法少女として無理矢理送り込まれてきたインキュベーターのスパイ。
『円環の理』の調査と解明を無意識に刷り込まれ、『円環の理』を存在しない妹として認識させられている……。
……うん、QB干渉しすぎ。ないな(遠い目)
でもこの説だと『うい=まどか』で「青い鳥」みたいに探し物はすぐ近くにあったエンドが期待できる(ネタとして)。
以上、自分の脳内では今の所こんな感じで妄想してますw
っていうか予想の前提として舞台が円環世界って事になってるんで、盛大に外れてる可能性大。
これからもどんどん乖離していくのでしょうけど、それもまた一興。マギレコ楽しみにしております。