『シャロちゃん、私遠くへ引っ越す事になったの』
『え、そんな急に・・・どうして?』
『魔道士になるために学校へ行って寮に入って勉強しなくちゃいけなくなったの』
『それじゃあもう千夜とは会えないの・・・?』
『しばらくは会えないかもしれないわ。でもね、いつか絶対に戻って来るから』
『・・・うん、分かったわ。それまでに私は立派な騎士になって千夜を守ってみせるから』
『うん、私もあっちで沢山勉強して魔道士になるから』
『・・・元気でね、千夜。いってらっしゃい・・・」
『・・・行って来るわね』
『・・・千夜・・・』ポロポロ
シャロはこの別れから一度も涙を流していない
彼女との約束を果たすために_______
「仲間を、探してくるんだ」
「仲間、ですか・・・」
仲間を探してこいと言うリゼ王子にシャロは微妙な表情を見せる
彼女は騎士だから、同じ騎士同士で隊列を組み、仲間と共に戦う集団戦には長けている
だが、リゼ王子の言う仲間とは決して騎士とは限らない
魔道士、僧侶、盗賊、etc…。役職は沢山あるものの、シャロはそんな人達と関わった経験が無いため不安を感じていた
あまり乗り気では無いシャロだが兎恐怖症が無くならない以上、一人で魔王の所まで行くのは不可能な事は分かる
「分かりました、王子。早速仲間を探してきます」
「よし、ならついて来い!」
シャロはリゼに言われた通りに後に続いた
「ココア姫は今頃何をしているだろうか・・・」
廊下を歩いている途中、不意に独り言がシャロの耳に入ってきた
「魔王が何をするかわかりませんし、一刻も早く救出しないといけませんね」
「しかし兵の数が足りない。そこで黒魔道士に依頼をしてみたんだ」
「黒魔道士?」
「魔道士を育てる学校に腕の立つ魔道士が居てな、ココア姫救出に協力してもらおうと言う事だ」
「学校・・・」
シャロは千夜の事を思い出した。もう何年も顔を合わせていないし連絡もとっていない
シャロは騎士となったが、守るべき本当の相手は今も遠くにいる
(まだ、あっちで勉強しているのかしら・・・)
人を驚かせたり、奇抜なネーミングセンスがあったりする彼女だが勉強は得意では無かった
今もまだ魔道士になるために勉強の日々を送っているのだろうか。手紙くらい出せば良かったと、シャロは後悔した
「そ、そういえばその魔道士の名前はなんて言うんですか?」
「えーと、まあそれは後で。ついたぞ、シャロ」
「ここは・・・訓練場ですね」
連れてこられた場所は城に併設された訓練場だった。騎士見習いの者や魔道士の卵である魔法使いが日々修練を積んでいる場所である。シャロも騎士見習いの時はここで剣の腕を磨いていた
「失礼するぞ、チノはいるか?」
訓練場の扉を開けリゼは中にいる者に声を掛ける。中ではジャージを着ていた一人の少女が呪文を詠唱しているところだったが、リゼに声をかけられこちらを向く
「リゼ王子。どうしました?」
チノと呼ばれた少女はリゼの方へ駆け寄る。そこでシャロがいる事に気づいた彼女はペコリと頭を下げる
「シャロさんまで、何の用でしょうか」
「ココア姫が攫われた事は知っているな。お前もシャロと一緒に姫を救出してくれ」
チノはリゼの言葉に面食らい、少し困ったような顔を見せた
「いきなり言われましても、それにまだ私は見習いですし」
「この前言ってたじゃないか、『私は早く旅に出たいです』って」
「それは、その・・・」
「というか私だって王子じゃなかったら行きたいんだぞ」
「「えっ」」
シャロとチノは同時にリゼを見た。しまった、という顔をした王子だが気をとり直して続ける
「・・・こほん。とにかく行ってこい、王子命令だ」
「ほぼ職権濫用ですが・・・はあ、分かりました」
やれやれです、といった風にチノは肩を竦めた。その仕草の中に少し嬉しそうな表情があったのをシャロは見た
「改めまして、チノと申します。魔道士の見習いで魔法使いをしています」
「初めましてチノちゃん。シャロです」
こうしてチノが仲間に加わった
翌日、王城前
シャロは騎士の仕事でいつも着ている白スーツに新調した白のマントを羽織っており、紐の長い鞄を肩に提げていた。
チノは黒のとんがり帽子にローブといった典型的な魔女スタイルで手には青い宝石のついた杖を持ち、バックパックを背負っていた。
「さ、出掛けましょうか。チノちゃん」
「はい」
チノはバックパックを背負い直した
シャロは自分の荷物を確認する。今日から長い旅に出るため、忘れ物は禁物なのだ
「砥石と、予備の短剣、地図、家で栽培した薬草とあとは・・・」
「回復系統は私に任せてもらって構いませんよ、回復魔法も心得ていますので」
「ありがとう。でもね、こういう薬草だって役に立つのよ」
薬草の束を握りながら、シャロはチノに微笑んだ
「そうですね、わかりました」
「それにしてもチノちゃん、よほど自分の魔法に自信があるみたいね。少し見せてもらいましょうか」
「いいですよ。とりあえず、平原まで行きましょう」
・・・・・
平原まで二人はやってきた
スライムを目の前に、チノは仁王立ちして呪文を詠唱する。
「精神を集中させます。はぁぁぁぁ…」
両手を前に出しながらチノは精神統一をするように呪文を詠む。彼女の魔力が高まっているのをシャロは感じ取った
杖の先の青い宝石は輝きを増し、宝石からの光が眩しくなるほどになったその時チノは呪文を発動させる
「今です、カフェラテ、カフェモカ、カプチーノ!」
チノがスライムに向けて魔法を放った。するとスライムの頭上に魔法陣が出来上がる
そこから湯気を帯びた茶褐色の液体が出てきてスライムに降りかかる
スライムは熱そうに身をよじらせながらドロドロに溶けて無くなった
「これが私の得意な魔法の一つ、熱々のコーヒーを相手の頭上に降らせる魔法です」
「へ、ヘェ〜…」
想像以上に地味だった、とシャロは思った。
反応が薄いのがなぜか分からず、チノは首を傾げる
「どうしました?シャロさん」
「あっ、いやなんでもないの。それより他にも魔法は使えるのよね?」
「はい。ですがあまりここで無駄撃ちするのもよくないので先を急ぎましょうか」
「そうね」
その後もチノとシャロは襲ってくるモンスターを倒しながら、森まで辿り着いた
森を前にしてシャロはあの時の恐怖を鮮明に思い出し、青ざめる。
「怖い…ウサギ怖い…」
「苦手なんですか?」
チノの問いにシャロは首を縦に振る。そして助けを求めるような目でチノを見た
騎士であるシャロがこんなに怯えるなんて、余程ウサギが苦手なのだろうとチノは思った
「あの勇敢なシャロさんにも苦手なものがあったなんて、以外ですね」
そう言うと、チノはシャロを先導する
「ついてきてください、私の近くにいればウサギは寄って来ませんよ」
その言葉を聞いて、シャロは離れないようにチノの後ろをぴったりとついて行く
確かにチノの周りにウサギは一切近寄って来ず、その上ウサギはチノを見つけた途端逃げてしまう
信じられない光景にシャロは目を輝かせる。対照的にチノは少し寂しそうだった
「すごいわチノちゃん。これどうやって…もしかして魔法?」
「いえ、これはただの私の体質です。どんなに人に懐くウサギでも私には近寄ってすらくれませんよ。幼い頃、ウサギ触れ合いコーナーに参加したのに一度もウサギに触れなかったのも今では思い出です」
「・・・そうだったのね」
彼女のトラウマを掘り起こしてしまったようでシャロはなんだか申し訳ない気分になった
とここで突然の事にシャロは驚いた
「なっ、何なのよあれ!?」
彼女達が歩いている道の先、シャロ達の目の前には全長3メートルほどの巨大ウサギが座っていた。口に葉っぱのついた小枝を咥えている目に傷の入ったウサギはまるで不良がコンビニ前でたむろするように、道を塞いでいた・・・