IS 〜バイクと名人とSchoolLife〜   作:無限の槍製

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「僕はね、夏祭り編を書きたかったんだ」

「書きたかったって……諦めたのかよ?」

「実のところ、前の話で8月15日まで飛ばしてしまってね。夏祭り編は8月のお盆。つまり15日までなんだ」

「…………じゃあ8月13日に書き直せば?」

「…………それもそうだね」

というわけで、前の話のラストを8月13日にしました。だから今回は8月15日のお話なんだ。時間を間違えたわけじゃないからね!


第45話 真夏の夜の夢

8月15日(火)AM11時22分

 

(やはり、何も変わっていないな……)

 

8月のお盆週。私は自分の生家、篠ノ之神社にいた。というのも、今IS学園はセキュリティー面の見直しの為に立ち入り禁止となっている。色々と問題があったのだ当然だろう。

そして寮で生活していた生徒も強制的に追い出された。勿論私もだ。

 

だがタイミング的にはちょうど良かった。この時期は篠ノ之神社で夏祭りが行われる。そこで私は神楽舞を披露することになっていた。どのみち帰って来る予定だったのだ。それが少し早まっただけのこと。

 

しかし心配事もある。あのアマゾンシグマが襲撃してきた日。一夏はキリヤんに連れられて帰ってきた。しかも意識不明の状態で。幸いにも今現在は意識が回復して、元気に動き回れるとメールが届いたが、正直不安だ。

キリヤんは『バナナで足滑らせて頭打った』と説明してくれたが……どう考えても嘘だ。なら何故お前も怪我をしているんだと、言ってやりたかった。

 

「あら、ここにいたのね箒ちゃん」

 

「雪子叔母さん。すいません勝手に出歩いて」

 

「いいのよ。元々住んでいたところだもの。誰だって同じことをするわ」

 

うふふと微笑む雪子叔母さん。やはりこの人の笑顔は特別だ。心が洗われる。

 

「それにしても、夏祭りの手伝いなんてしてて本当に良かったの?」

 

「はい、午前中は特に用事はありませんから」

 

「そう?確かに箒ちゃんには神楽舞をお願いするけど、午前中ぐらいはゆっくりしててもいいのよ?」

 

確かに夏祭りの準備はほとんど終わっている。あとは些細な確認のみ。私がやることなど特にないだろう。だが、大人しく待っているのも性に合わない。

 

「すみません。もう少し歩いてきてもいいですか?」

 

「ええ、大丈夫よ。神楽舞は18時からだから、それまでにお風呂に入っておいてね」

 

叔母さんと別れ、剣道場へと向かう。板張りの剣道場は昔のままだった。今では結構な人数がいるらしい。昔は私と千冬さん、それと一夏だけだったのに。

少しだけ昔を思い出す。

 

『今日は俺が勝つ!』

 

『やってみろ』

 

『うおおおっ!!』

『明日は俺が勝つ!』

 

『ふふっ、その明日はいつになるのだろうな』

 

叩いても揺すっても思い出すのはこんな思い出ばかりだった。あとは千冬さんが二刀流で大暴れしたとか、そんな思い出ばかりだ。

 

「千冬さんがつけた傷……まだあるんだ………しかし、こんな思い出ばかりとは」

 

頑張って思い出そうとする。しかし思い出すのはあの日の夜。一夏に好きだと告白した夜のことだった。思い出しただけで顔が熱くなる。

 

「……いかん、風呂に入ろう」

 

少しは落ち着くと思ったが…………結局落ち着いたのは1時間後だった。

 

 

8月15日(火)PM06時35分

 

「よっ!」「お疲れちゃ〜ん」「やっほ〜しののん!」「遊びに来たわよー」

 

「…………聞いていないのだが」

 

「言ってないからな!」

 

一夏がいた。キリヤんがいた。本音がいた。鈴がいた。

いやいや、待て待て待ちなさい。私は神楽舞を終えてから軽く汗を拭くついでに巫女服に着替え、お守り販売の手伝いに来たところに何故みんなが!?

 

「それにしても凄いな。様になってて驚いた。名人の誘いに乗って正解だったな」

 

「それに、…………綺麗だった」

 

「っ!?」

 

一瞬で真っ赤になるのが自分でも分かる。本来ならキリヤんたちが冷やかしたら怒るところだが、今の私にとってそこは重要ではない。

 

「あらあら………箒ちゃん、あとは私がやるから、お友達と楽しんで来なさい」

 

「ええっ!?で、でもまだ仕事が」

 

「いいからいいから。まずシャワーを浴びてきてね。その間に浴衣出しておくから」

 

私の反論もなんのその。強引に奥へと連れて行く叔母さん。そして去り際に一夏に向かって何か言ったが………とにかく今の私にはそれを気にする余裕はなかった。

 

 

8月15日(火)PM07時00分

 

「すまない、待っただろうか」

 

「「おお〜っ!」」

 

「名人もなんか言ってやんな」

 

「この箒はお持ち帰りできますか?」

 

「ば、馬鹿者!!」

 

鳥居に着くと、すでに人で溢れかえっていた。見つけた途端にこの言われよう。喜ぶべきなのだろうか?

 

「さて、色々見て回ろうぜ。それにしても夏祭りに来るのも2年ぶりか。去年は受験勉強してたし」

 

「自分も何かとバタバタしてたな」

 

「おお〜!綿菓子に焼きそば、焼きとうもろこし!一通りあるなんて天国だよぉ〜」

 

「こらこら、急がなくても食べ物は逃げないわよ」

 

「で、最初はどこに行く?………箒?」

 

人混みで聞こえていないと思ったのだろうか。一夏が顔を寄せてくる。刹那、あの夜を思い出して、慌てて距離を取る。

 

「か、顔が近い!そんなに寄らなくても聞こえている」

 

「そうか?………あ、そうだ。箒って金魚すくい苦手だったよな?」

 

「いきなり話が変わるな………それは昔の話だ。いつまでも過去の私だと思うなよ」

 

「じゃあ勝負するか?負けたら食べ物奢りな」

 

「その勝負、ノッた!」

 

腕を組んでうなずく。恐らくこの時の私の顔はとてつもない自信満々な顔だったのだろう。後々に後悔することも知らずに。

 

 

「………納得いかん」

 

「何がだよ?勝ったじゃないか」

 

「それなのに私が焼きそばを奢ってもらったことムグッ!?」

 

私が言い終わる前に鈴がたこ焼きを口に突っ込んでくる。とてつもなく熱いわけでもなく、冷めているわけでもなく丁度いいおいしさだ。

 

勝負は一夏が勝った。だから私は全員分を買おうとしたのだが、キリヤんが『自分たち3人は勝負に参加してないから別にいいよ』と言った。それに対して一夏は『俺だけ奢ってもらうのはなんか嫌だな。俺がみんなの分買うよ』と言った。

結果、私は焼きそば、本音はフランクフルト、鈴はたこ焼き、一夏とキリヤんは綿あめを買った。

 

「はーいしののん、あ〜ん」

 

「モグモグ………あ、あーん………もっきゅ、もっきゅ…………何故私は皆から色々と食べさせられているのだ!?」

 

「おいおい、口元汚れてるぜ?名人拭いてやんな」

 

「あーあーこんなに汚して。ジッとしてろよ箒?」

 

一夏に口元を拭かれる。まるでこれでは私が小さい子供みたいではないか!?しかし私が反論しようとすると、キリヤんたちは次の屋台へと歩いていった。

 

「お、次はアレするか?」

 

キリヤんが指差したのは射的屋だった。不味いな。私はアレが苦手だ。弓ならば問題ないのだが、どうも勝手が違うようだ。

 

「へい、らっしゃーい」

 

「おっちゃん、5人分お願い」

 

「お、女の子を3人も連れてるとは、羨ましいねぇ。よしっ、おまけ無しだ!」

 

「いやいや、そこは女の子の分だけでもまけるのがデキル大人だと思うよ?」

 

「ははっ、そんなこと言ってもまけないよ。こっちも商売だからね」

 

それぞれ鉄砲とコルクの弾を5発受け取る。そしてすぐに構える一夏とキリヤん。キリヤんは自称遠距離型と言っていただけあって難なく1つ目の景品を当てた。

そして一夏は……あいつ片手でやってるのか?それにしても凄い集中力だな。私も見習わなければ。

鈴は本音に射的を教えている。学校でも射撃はてんで駄目な本音。それは近くで見ていたからよく分かる。きっと彼女には向いていない。

 

「ぐっ………」

 

そして私も向いていない。

 

「相変わらず下手だな」

 

「うるさい!私は近距離型だ!」

 

「はいはい………ちょっと待ってろよ」

 

一夏は私に残りのコルク弾とすでに弾込めしてある鉄砲を渡してくる。

 

「大体構え方が変なんだよ。こうやって腕を真っ直ぐにしながら……」

 

直接体を触っての指導をされ、今私の仏頂面の下では大変なことになっている。近い。とにかく近い。息が顔にかかる。離れ……てほしくはない。むしろもう少し………

 

「どうだ、わかったか?」

 

「な、なんとなく……とにかく撃ってみればわかる」

 

「…………ちゃんと狙えよ?」

 

「わ、わかっている!!」

 

引き金を引く。実のところ、景品などよく見ていなかったし、狙ってなどもいなかった。

しかし弾は、キチンと景品に命中した。クッションとしても使えそうなサイズのネコのぬいぐるみ………いやネコにしては目がデカイし紫のスカート履いてるし……なんなのだろうか。

 

「やったな!」

 

「……ふふっ、そうだな」

 

妙なぬいぐるみの事など、一夏の笑顔を見れば気にならなくなった。

 

 

8月15日(火)PM07時55分

 

「せっかくなんだし、キリヤんたちも一緒に見ればよかったのにな」

 

今私と一夏は神社裏の林を歩いていた。背の高い針葉樹が集まっているこの林。ある一箇所だけ天窓を開けたように開いている。そこが花火を見る際の秘密の穴場だ。

しかもそれを知っているのは私と一夏だけ。小さい頃、一緒に花火を見ようとこの林に入り込み、迷子になった末に辿り着いた場所。

 

「お、やっぱ変わってないな」

 

虫の音だけが鳴り響く。人気もなく、わずかに吹く風が心地いい。そんな場所で彼氏と2人きり。そうなると平常心を保つのが難しかった。

 

チラリと一夏を見る。当の本人はワクワクした顔で空を見つめていた。

 

「……あ、そういえばさ」

 

「どうしたいきなり」

 

「俺、箒に誕生日プレゼント渡せてなかったんだよな」

 

私にとってはあの告白がプレゼントなんだが……。だが確かに形としてはもらっていない気がする。別に寄越せと言っているんじゃない。相手が用意してくれたならキチンと受け取る。それが礼儀だ。

 

「だからさ…………今度渡すな!」

 

「い、今じゃないのか!」

 

「いや、キリヤんたちも誘ったから今日はみんなで遊ぼうって決めてて。箒と2人きりになるとは思ってなくてさ………なんか、ゴメンな。用意出来てなくて」

 

「いや別に構わないが………キリヤんたちが一緒にいては渡せない代物なのか?」

 

「そうじゃないんだけどさ…………出来れば2人きりの時に渡したくてさ。まあ俺のわがままだ!」

 

ヤケクソ気味に笑い飛ばす一夏。

 

その時だった。夜空を花火が明るく照らしたのは。

 

「おおっ!始まったな花火!!」

 

「ああ………綺麗なものだな」

 

「本当だな」

 

この花火大会は100連発で有名だ。つまり1時間ぐらいはずっと夜空を彩っていく。

 

「なあ一夏」

 

「ん?どうした箒」

 

「私にとって………お前がそばにいてくれること。それが何よりも嬉しいプレゼントなんだ。だから……今だけでいい」

 

空を見つめながら、一夏の左腕にそっと自分の腕を絡めた。大胆だろうか?いやこのくらいは許してほしい。こうしていないと一夏は何処かへ行ってしまいそうだからな。

 

「…………大丈夫、箒の側は離れない」

 

一度だけ横を向いた一夏の表情はどこか寂しそうで、今にも泣き出しそうな顔だった。でも夜空の花火へと視線を戻した時には、いつもの頼れる、私の好きな一夏になっていた。

 

「今度は、朝から晩まで、2人で遊びに行こうな!」

 

「そうだな。その時はエスコートしてくれ」

 

「任せろ!」

 

こうして、16歳の夏の思い出は、大事な彼と共に過ごし、過ぎていった。




夏祭り編完!アニメでも原作でもこの話は大好きです。俺も花火大会行きてーなー。彼女いないけど。

あと本当なら蘭が出てくるはずなんですけど、キリヤんたちが一緒に出てきたので今回は出番なしになりました。蘭ファンの皆様、どうもすみません!

次回はちょっと趣向を変えて『IF』の話でも書いて見ようかなと。どうなるかはわからん!

ではSee you Next game!

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