新約 僕は友達が少ないIF   作:トッシー00

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第十三話です。

『羽瀬川小鷹』視点。


星の下で少女は笑みを浮かべる

 ――そこにいたのは、とても輝かしい少女だった。

 

 つい、寝てしまったようだ。

 やべぇ、小鳩にすぐ帰るようにいったのに。

 今何時だ。もうあたりは暗くなってきてるし……。

 と、その前に……。

 

「う……うぅ~」

「どうしたの? ずいぶんとうなされていたわよ?」

 

 俺の目の先に映る少女が言った。

 見た目はなんというか、メチャクチャ美人だった。

 透き通るような青い目も、靡くような金髪も。

 そして何よりその胸。でかっ! マスクメロンも真っ青なくらいにでかっ!!

 まるで全部が作り物のようで、そんなすごい美少女に……膝枕されてる俺。

 ……俺、ひょっとしてこの後死ぬんですかね。

 

「……えぇと、どちらさま?」

「人に名を聞けるなら、元気のようね」

 

 と、俺が体をどけるより先に、膝枕のまま無理やり立ちあがり、俺の頭を地面に放り捨てる少女。

 

「いってぇ!」

 

 無様にも地面にぶつかった俺は、痛みを声に出して言う。

 なんというか、容赦のないことするな。せめて俺が起き上がってからにしてくれ。

 いやその、膝枕してもらって文句を言うのもあれだが。

 

「あぁごめんなさいね。なんだか膝が辛くて」

「あ、あんたが勝手に膝枕したんだろうが……」

「はぁ? この女神すらひざまずくこの崇高なる私に膝枕してもらってなんという言い草。よほど育ちが悪いと見える」

「……」

 

 俺が反論すると、その少女は強気な口調でそう言い返してきた。

 確かに美人なのは認めざるを得ないが、その性格は綺麗ではなさそうだなぁ。

 ま、だけど……礼は言っておくか。

 

「……その、ありがとう」

「素直に礼が言えるのは褒めてあげるわ。最低限の教養は学んでいるようね、まぁ所詮は平民なんでしょうけど」

 

 今度はお礼を言ったら平民と罵られたぞ。

 なんというか、一言ったら五十は帰ってくるなこいつの言葉。

 

「んで……名前だっけ? 人に名を名乗る前に自分で名乗ったらどう?」

「あ……それは一理ある。俺の名前は」

「羽瀬川小鷹くんでしょ?」

「……知ってんのかい」

 

 俺が丁寧に名乗ろうとした瞬間に、それを邪魔されてしまった。

 なんというかおちょくられているというかバカにされているというか……。

 でも、俺みたいな悪い意味での有名人は知られていてもおかしくないか。あ、嬉しくなんてないんだからね!

 

「それでえぇと、あんたは?」

「この私に向かって"あんた"? あんたバカ? 平民が誰に向かってあんた呼ばわりしてんのよあんた」

「ぐっ……この女ぁ……」

 

 今度は一言ったら五百は帰ってきたぞ。

 ははっ……やべぇ。さっきまでは美少女に膝枕されて若干男として有頂天になってたさ。こいつに対して恩義しかなかったさ。

 だがよ……。ちょっと今殺意湧いたぞ? このクソ金髪女ガチで殺してぇ……。

 

「あ……あなたの名前はなんですか?」

「あなた様でしょ? 口のきき方がなってないわね~」

「……てめぇ……これ以上言ったらガチで泣かすぞ」

 

 俺はついキレ気味にそう少女を威嚇した。

 あ、今の俺多分ガチで凶悪面レベル80くらい言ってるかもしれない。ファ○ヤーのにらみつけるよりダメージ高くなってるかもしれない。

 だが、少女はそんな俺の多分般若のようになってるであろう凶悪面に対して、一歩も後ずさることなく言葉をつづけた。

 

「……ふ~ん、まぁ少なくとも顔や名誉だけを見て人を選ぶ男ではなさそうね」

「あぁん?」

「ま、この私が他人に謝るというのも珍しいことなのだけれど……試すようで悪かったわね。羽瀬川くん」

 

 そう、少女は謝ってるのか上手く流してるのかわからないが、そう言って俺を納得させようとする。

 ま……いいか。ここでこんな子と喧嘩したってしゃあないしな。俺は大人なんだ。大人だから下手なことで怒ったりしないんだ。

 

「私の名前は"柏崎星奈"。って言えば……何か思い当たることがあるんじゃないかしら?」

「柏崎……かしわ……ざきって」

 

 少女の名前は柏崎星奈というらしい。

 その名前を聞いて、俺は何か引っかかるものを感じた。

 星奈の名字だ。柏崎……確かこの学校の理事長の名字。

 そして、その人物は、俺の……。

 

「もしかして……あんた理事長の……」

「正解」

「……そうだ。俺の父さんとこの学校の理事長が知り合いで」

 

 そう、俺がこの聖クロニカ学園に転校してきた理由。

 それは、この学校の理事長と俺の父親が知己で、昔からの付き合いがある。

 今回も俺の父親が無理を言ったせいで、俺と小鳩がこんな中途半端な時期に転校してきたということだ。

 相手側には大分迷惑をかけただろう。俺は一回、その件で挨拶をしたいと常々思っていたんだ。

 そして今目の前に、その理事長の娘さんがいる。

 名前も聞いたことがあった。だがこんな金髪の可愛い子だとは思わなかったな。

 

「えぇと、俺の事は理事長さんに聞いたのか?」

「まぁ一応。「懇意にしている友人のせがれが学校に転校してきたから、会ったら挨拶の一つはしておけ」ってね」

「そっか。まぁなんつうか、最初から喧嘩腰になって悪かったな」

「まったくよ。襲われるかと思ったわ」

「冗談でもやめてくれ」

 

 そう容赦なく返す星奈に対して、俺は上手く返すこともできず。

 その後、なんとなく星奈と話をすることに。

 

「それで、あなたはどうしてこんなところで寝ていたのよ? 夏が近いとはいえ風邪ひくじゃない」

「あ、あぁ……。ちょっと部活で色々あって」

 

 俺は、星奈に対して部活の話を切り出した。

 父さんの知人の娘さんということだからか、それとも俺を見て逃げ出さなかったからだろうか。

 よくわからないが、こいつには色々話してもいいかなって思った。

 

「確か、何週間か前に部活のチラシ配ってなかったっけ?」

「え? あぁ、あの時は三人目の部員を連れて来いって顧問に言われて……あっ」

 

 その時の話になり、俺は思いだした。

 確かあの時、チラシが風邪で飛ばされた時、俺はこいつと会ってるんだ。

 その時確か、まったく部活に興味ありませんって顔して、なんも言わずにチラシを拾ってくれたっけか。

 

「あの時は……ありがとう」

「ん? あぁ、確かチラシを拾ったっけ? 気にしなくていいわよ、ただの気まぐれだし」

 

 そう憮然とした態度で星奈は言った。

 

「それって……なんって部活だっけ?」

 

 そう星奈に質問され、俺はつい黙ってしまった。

 こんな子に言えるだろうか。友達を作るための部活、隣人部さ! なんてことおっぴろげに。

 だが、そこで言えなきゃ進めないか。

 

「……隣人部」

「あぁ、確かそんな名前だったわね。"友達募集"って書かれたチラシの……」

 

 それを言われて、俺はちょっとだけ顔が赤くなった。

 あのヘンテコなチラシの変な意図を読まれ、その子供じみた活動内容まで口に出され。

 あぁ死にたいです。高校生にもなって友達作りにせいを出してるとかこの凶悪面が言えたもんじゃねぇよ。恥を知れだよ~。

 

「ふ~ん。友達ね……」

「あぁ、恥ずかしい限りだ。柏崎は友達多そうだから関係ないだろうな。遠目で良く見るけど、いつも男にたくさん囲まれてるのってあんただろ?」

「……まぁ……ね」

 

 なんとも力のない返事だった。

 どうした? 別に今ここで笑ってくれてもいいのに。

 こいつの性格ならここで俺を罵倒してきてもいいはずなのに、どうして、ここでそんな反応を見せたんだ。

 

「確かに、私にはまるで関係のない部活ね。友達作りとか……子供じみてるし」

「ぐうの音もでねぇ。でも……それでも、そんなことを必死にやろうとしているやつがいる」

「……」

「クソみたいな奴だけどな。口も悪いし性格も最悪。諸悪の根源みたいな女だ。だけど……あいつの目だけは、嘘をついていないから」

「……」

「だからこんな俺でも、そいつの役に立てるかもしれないって思った。誰かと一緒に、何かを成せるかもしれないと思った」

 

 俺は、つい熱くなってそんなことを星奈に語った。

 確かに俺はあの女が……三日月夜空が嫌いだ。

 だが、嫌いではあるが信じていないわけじゃない。あいつは確かに綺麗事ばかり並べて自分勝手だが、それでも目には熱さが宿っている。

 心は冷めているかもしれない、けど……それでも熱くさせる何かを感じさせるんだ。

 だから、俺はあいつと一緒に居続けているのかもしれないな。

 そんな俺の話を聞いて、星奈は冷めたような瞳でぼそりと呟いた。

 

「……なにが、友達作りよ」

「え?」

「――友情なんて、くだらない」

 

 よくは、聞こえなかった。

 いや……聞こえないふりをしていたのかもしれない。

 何かを呟いた後星奈は、話を少し戻す。

 

「……それで、その部活で何があったの?」

「聞いてくれるか? なんやかんやで俺を含めて五人も部員が集まったのは良いが、友達を作るどころか喧嘩してばかりで、正直見てられなくなっちまったんだよ」

「なるほど。それで抜けだしてきたってわけ?」

「あぁ、情けない話なんだけどな」

 

 俺は自らの行動を恥じながら、包み隠さず星奈に全部打ち明けた。

 それを聞いて、星奈は鼻で笑ってバカにするように口にした。

 

「全然だめじゃない。どうするのよこの先」

「う~ん。それを考えようと思ったんだけど、知らないうちに寝ちまって」

「そいつらもそいつらなら、あなたもあなたね」

「……何も、言い返す言葉がございません」

 

 星奈の冷静なその押しに対して、俺は男なのに一瞬で小さくなってしまった。

 情けないぞ羽瀬川小鷹。日本男児として何をやっているんだ貴様は!

 びしっとしろびしっと! 隣人部を引っ張れるのはお前だけなんだぞ!!

 

「俺としては……本当に信じられる友達を作ろうと思って頑張ってるんだけどな」

「……」

 

 俺の想いを口にした時、星奈はまたも黙ってしまった。

 そして、星奈は咄嗟にこんなことを質問してきた。

 

「ってことは、あなたなりに何か煮え切らないものがあるってことよね?」

「……というと?」

「例えば……ずっと前に友達がいたとか」

 

 そう、射抜くように星奈は俺に言ってきた。

 俺は思わず驚いた。先ほど見た夢が、その友達の夢だったからだ。

 そしてそのことが、俺の原動力になっているのも確かだ。

 それらを全て見抜くように、星奈が言ったその言葉は、俺が今一番聞かれたかったことだったのかもしれない。

 

「……これ、実はあまり他の人には言ってない話なんだが」

「なによ? 私でいいなら聞いてあげるわ」

 

 そう、星奈は俺の話を聞いてくれるという。

 なんというか、こいつ……すごい温かい奴だな。

 ちょっと性格は悪いかもしれないけど、すごい……頼りになる。

 なんでも話せる気がする。父さんの友達である理事長も、こんな感じの人なのだろうか。

 

「――実は」

 

 と、俺があいつとの過去を星奈に話そうとしたその時だった。

 

「小鷹!」

 

 突如、夜空の声が向こうから聞こえた。

 息を荒くしながらこっちのほうへと走ってくる。

 そして、俺と隣にいる星奈を見て、苦々しい顔を浮かべた。

 

「ったく、部活を放り投げてなんのつもりだ?」

「うっ……悪い。今度からは気をつける」

「あぁ……それと……」

 

 そう言って、夜空は星奈の方を睨んだ。

 

「……貴様はっ!」

 

 夜空は、憎ましいものを見るような目で星奈を威嚇する。

 そんな彼女に対し、星奈は冷徹な瞳を浮かべ、そして夜空を無視して俺に対して言う。

 

「……もう暗くなってきたし、そろそろ帰った方がいいわね。妹さん……家で待ってるんじゃない?」

「え? あっ!!」

 

 星奈と話していて、すっかり小鳩を忘れていた!!

 俺はすぐに鞄を持って、校門へと走って向かう。

 

「悪い! 柏崎、その……後日時間ができたら話を聞いてくれ!」

「わかったわ。じゃあね羽瀬川くん」

「お……おい!!」

 

 俺は星奈にそう告げて、急いでその場から去って言った。

 去り際、ふと夜空を見ると、夜空はなんともいえないくらい怖い形相を浮かべていた。

 いつものことだと言えば解決だが、なんだかいつも以上にその瞳は怖かった。

 どうしてだ? なんか星奈のことが気にいらないように見ていたが。

 ……まぁ、あいつの身になって考えればわからんでもない。

 あいつ、リア充は嫌いだからな。

 

-----------------------

 

 翌日。

 朝、いきなり教室に入ったら美人だけど眼つきの悪い女に睨まれた。

 その後も授業休みの度に睨まれた。これでもかというくらい睨まれた。

 夜空さん? 確かに昨日は申し訳ないとは思ったが、そこまで睨むことないでしょうに。

 そして昼休み、等々夜空は俺の所へやってきて。

 

「小鷹……」

「……」

 

 その迫りくるようなオーラの夜空に、俺は苦い顔で返した。

 いったい何をそんなに気に食わないんだ?

 

「どうしたよ? 昨日部活抜けたのは悪かったって」

「そっちに関しては、どうでもいい」

「んじゃ、なに?」

「あの……肉まん女の事だ」

 

 そう、夜空はある人物のあだ名を口にした。

 肉まん女……あぁ、恐らく星奈の事か。

 肉まんはあの胸の事を言っているのだろうか。自分がそこまで胸が大きい方じゃないからって、お前も結構それなりだと思うけどな。

 と、口にしたら俺の命が危ないのでそれは心の中にしまっておこう。

 

「柏崎の事か?」

「あぁそうだ。小鷹、あいつとはどういう仲だ?」

「どういうって……昨日あったばかりだ。俺がベンチで寝落ちしたら、あいつが"膝枕"してくれて」

「ひざまっ……!」

 

 あ、ついいらんこと言っちまったかな。

 まぁこいつにとって俺はタイプでもなんでもないみたいだし、気にしちゃいないだろう。

 

「……あの女は、私たち隣人部にとっては敵のような女だ」

「敵って……その根拠は?」

「私たちは非リア充で、あいつはリア充だ。けして相容れぬ存在だ」

「あのなぁ夜空。その理屈じゃ俺たち隣人部にとってはこの学園全部が敵みたいなもんだぞ?」

 

 夜空の良く分からない根拠に対して、俺はそうツッコミを入れた。

 すると夜空は、更に機嫌を害して俺をにらんだ。

 

「……とにかく、あの女とは関わるな! あいつはこの学校の男どもを使い古しては捨てているようなやつだぞ!」

「わかったわかった。お前があの女の事が嫌いなのはわかったから」

「わかってない! とにかく……縁を切れ!!」

「……あのよ、それが友達作りの隣人部部長としての言葉か? お前そろそろマジでいい加減にしろよコラ」

 

 夜空の理不尽な物言いに対して、俺は本気の口調で夜空に迫る。

 すると、珍しく夜空が押し黙った。あ、多分顔のせいでしょうね。また顔が凶悪面になってたんでしょうね。

 

「言わないようにしようと思ってたけど、お前にとっての俺らってなんだよ? お前以外の連中がリア充と仲良くするたびに部長の権限で縁を切れだの口にするのか? ふざけるのも大概にしろよ」

「うっ……。だが、あの女だけは……」

「どうせ一方的な決め付けだろ。確かに柏崎の性格は悪い方かもしれないが、お前よりは断然いいやつだよ。俺にはそう見えた」

「こ……小鷹っ!!」

 

 どうにも納得のいっていない夜空。

 どんどん言うことも支離滅裂になっている。何をそんなに焦っているんだ?

 俺にはお前の気持ちなんてこれっぽっちも理解できない。いや……理解したいとも思わない。

 三日月夜空。お前の行動はな……。

 

 ――見ていて、イライラするんだよ。

 

 と、そんな時だった。

 

「羽瀬川くん。いる?」

 

 教室の入り口の方で、鈴のような声が聞こえてきた。

 目を向けると、そこには星奈がいた。

 彼女が現れると、クラスの男子が一斉に彼女を崇拝するような眼差しで見る。

 そして女子たちは圧倒される。生で見るとすげぇな。

 その多数の眼差しを受けている彼女は、特に何も思うことなく、俺の方へと向かってきた。

 

「あぁいたいた。取り巻きの男子どもの用事も終わらせたし、時間作ってあげたわよ」

 

 そう言って、唯我独尊のごとく俺の方へと一直線に向かってきた。

 そして、近くにいる夜空を相手にもせずに、俺に話しかけてくる。

 

「ってことで、まだ時間あるし。食堂でご飯でも食べながら昨日の話を聞かせてくれる? お茶の一杯くらいなら奢ってあげてもいいわよ?」

「あ、あぁ。でも……なんか周りの目が」

「そういうのに気にしたら駄目よ。私とあなたは親絡みの付き合いでしょ? それともあなた、私に選ばれたとか想像して思いあがってなんていないわよね?」

「い、いや滅相もない!!」

「ふんっ。ならばよろしい」

 

 そう一方的に、星奈は俺の腕を掴んで無理やり教室の外まで連れ出そうとする。

 そんな彼女に対して、またも夜空が牙を剥いた。

 

「か……柏崎!!」

 

 その襲いかかるような叫びに反応し、星奈がゴミを見るような目で夜空を見る。

 

「あら? 塵が私の名前を呼んでいるわね」

「なんだと……? 小鷹は今私と部活の話をしている。だから邪魔をするな!!」

「……へぇ~。羽瀬川くん、そうなの?」

 

 夜空のその言葉を聞いて、星奈が俺に冷徹な眼差しを向けて問う。

 なんというか、女って……怖いですね。

 まぁ夜空とはそれほど込み合った話もしていないわけだし……。

 

「いや、大した話はしてないよ」

「小鷹っ!!」

「すまねぇな。話なら部活の時にでも聞いてやるよ」

 

 そう、俺は夜空を見捨てるように星奈と一緒に食堂へと向かった。

 

-----------------------

 

 食堂にて。

 とりあえずお茶くらいは奢ってくれるということで、俺はレモンティーを貰うことに。

 ちなみに星奈には取り巻きの男子が何人かいるとのことだが、個人的な話の邪魔にならないためか食堂には来ないよう手配しているとのこと。

 なんというか、マジでお嬢様なんだなこいつ。

 

「しっかし、あなたは女運が無いのね」

「え? どうした唐突に?」

「あんな鬼のような形相で男を縛ろうとしてる女に睨まれてるんだもの。あれ、あんたの彼女?」

「い、いや……ただの部活の仲間だ」

 

 夜空をあれ呼ばわりして俺に問う星奈。

 彼女か……。あいつみたいな美人が彼女なら男として誇れるところだが、それは違うな。

 それに褒められるのは見た目だけだ。中身はゴミ屋敷だからな。

 

「そう。仮にそうだったとしたら、変な誤解を生んでしまうかもしれなかった。ので、一応聞いただけよ、大丈夫よあんたみたいな凶悪ヤンキー面にあんな美人な彼女なんてできるわけないでしょ?」

「う~ん。何が大丈夫なんだろうか……。なんかとてつもない右ストレート食らった気がするんですが柏崎さん?」

「気のせいよ。駄目男は心くらい強く持ちなさい」

「泣いていいかな?」

 

 星奈の悪びれもしないごく普通に行われる罵倒に対して、俺は多大なダメージを負った後。

 話の本題は、昨日の続きに映る。

 そう、俺の十年前の、大切な親友の話だ。

 

「小さい頃、俺には親友がいたんだ。あぁそこで笑わないように」

「え? いや笑わないわよ。むしろ笑えないわよ」

「どこか引っかかるような言い草なのは気のせい?」

「うふっ☆」

 

 俺がそう尋ねると、星奈は意地悪そうに笑った。

 まぁいいや、話を続けよう。俺のHPが0になる前に。

 

「俺がいじめられていたところに急に介入してきて、正義の味方みたいに「弱い者いじめはやめろ」なんて言うものだから、その時の俺もちょっとむきになってな……」

「へぇ、あんたその外見でいじめられてたんだぁ。見た目は凶悪、中身は貧弱貧弱ぅ~」

「……小さい頃の話だ。助けてくれたそいつを殴ってやった」

「うっわぁあんた恩知らずね」

 

 説明するたびに星奈から飛んでくる罵倒じみた言葉は置いておき。

 俺はあいつとの……ソラとの出会いのいきさつを話した。

 確かこの学校では、夜空くらいにしか話していないな。

 というか今でこそ思う、なんであんな奴にこの話したんだろうか。するだけ俺の輝かしい思い出が汚れるだけだってのに。

 きっとあの女は、俺とソラの友情を美談だと笑っていたに違いない。あいつはそういうやつだ。

 

「素敵じゃない、輝かしい友情ってやつね」

 

 と、珍しく星奈から飛び出た褒め言葉。

 たまに出るこいつの優しさ、その価値はプライスレス。

 うん、くだらない話はやめようか。

 

「あぁ、俺にとってそいつは最初にできた大切な親友だ。100人分大切にできる最高の親友だ。親友"だった"……」

「だった?」

 

 そう言って、俺は少し表情を暗くした。

 そうだ。親友だった。今となっては、もう恐らくは……。

 その友情を過去形にしたのは、俺が原因だった。

 

「俺は、その大切な親友に別れの言葉一つ言わずにこの町を去ったんだ」

「……なんでそんなことをしたのよ? 心の中じゃ嫌いだったの?」

「正確には"言えなかったんだ"。この町を去る前日に俺はそいつにこう言ったんだ。「明日大切な話があるからこの公園に来てくれ」って、だけどあいつは来なかった。なぜかは知らない、だから結局別れを言えずに俺は町を去った」

「じゃあ……来なかったそいつも悪いじゃないのよ」

 

 その出来事に対して、星奈は冷静にそう口にした。

 そうだ。互いが悪い。あの場で俺がためらわずに言っていれば、俺たちはわだかまりを残さずに別れることができた。

 ずっと言えずに、明日に明日にと日を伸ばしたのは俺だ。そいつがその時に来なかったからじゃない、俺に、すぐにでも別れを言う勇気があれば……。

 その勇気さえ……あれば。

 

「……俺は、未だにそのことが忘れられないんだ」

 

 俺は、自分の胸の内を星奈に語った。

 そんな俺に対して、星奈は笑うことなく。

 少し厳しめに、俺に言葉を贈る。

 

「……苦しかったでしょうね。その罪意識で、大切な親友を失って。それで、自分が悪かったと責め続けて」

「……あぁ」

「……自分が悪いってことにしておけば……あんたにとっては都合がよかった?」

 

 その言葉の最後に、星奈の毒が滲み出たのを感じた。

 自分のせいにしておけば、楽になれる……。

 俺は、そのことに関して責任を持てずにいた。だからそこは卑怯だが、触れずに次に進めた。

 

「……想像すると怖いんだ。もし昨日まで近くにいた大切な人が明日いなくなったら……なんて考えるだけで怖いよ。それを実際に味わったソラは、いったいどんな気持ちになったんだろうな。もしあの言葉が『最後の言葉』だって知っていれば、あれが最後だってわかっていたら、もっとあの瞬間を大切にできたはずなのにな……」

 

 俺は更に深く、自分の苦しみを星奈に訴えた。

 そうだ。訴えることが気持ちくてしょうがない、そうやって正当化しているだけかもしれない。

 そうやって、俺はそいつを親友だと思っていたという事実を噛みしめているだけだ。きっと星奈は、その意図に気づいている。

 だが、彼女はそれでも俺を見捨てずに、話を聞いてくれる。

 

「……ねぇ、この町ってことは、そいつこの町にいないの? つうか会ってないの?」

「連絡手段もないからな、それに……どんな顔で会えばいいっていうんだ? 確かに会って一言謝りたいって何度も思った。でも一方的に謝ったって解決はしないだろう。多分殴られる。殺されるかもしれないな。ははは……」

 

 俺は冗談を言うように、笑ってそう口にした。

 きっと今、あいつにあったら俺はただでは済まないかもしれない。

 あいつは夢の中で何度も俺を殺そうとした。それはきっと、起これば正夢になることだろう。

 きっと……"あの眼"で、俺の首を絞めつけて……。

 

『……※※。お前なら……わかってくれるだろう?』

 

 ガシャン!

 

 突如、俺は握っていたティーカップを床に落とした。

 そんな俺を見て、星奈が心配そうに声をかける。

 

「ちょっと……どうしたの?」

 

 その星奈の言葉を、この瞬間の俺ははっきりと受け取ることができなかった。

 なんだ? 何が起こった?

 夢の中で俺を殺そうとしてきたソラ、そのことを思い浮かんだ時……別の声が聞こえた気がした。

 そして、その眼とまったく同じの……俺に向けられるもう一つの眼。

 あの、熱さがやどった……"紫色の眼"。

 

「あっ……あぁ……」

 

 激しく頭を押さえた。

 そして必死に、自分の脳裏に一瞬浮かんだ"ある仮説"を、俺自身が必死に否定しようと拒否反応を示す。

 違う。そんなわけがないと……俺は何度も頭の中で繰り返した。

 

「だ……大丈夫?」

「あ……あぁ。大丈夫だ。ごめん、ティーカップ……」

「いいわよ、こっちでなんとかしておくから」

 

 そう言って、星奈は割れたカップのかけらを一つ一つつまんで集めた。

 

「……ずいぶんと、友達思いなのね」

「そ、そんなことはねぇよ」

「友達のために苦しんでいる。私からすれば希少種ね。そのソラって子は……どうかはわからないけど」

「いや、あいつはいいやつだった。俺に大切な言葉をくれた。熱い魂を持った……"男の子"だったよ」

 

 俺が、ソラの事を評価してそれを星奈に言うと。

 突如、星奈の動きが止まった。

 そして、眼を見開いて俺の方を見た。

 

「……男の子?」

「あ、あぁ。ソラは勇敢な男の子だったよ。喧嘩も強いし」

「…………はっ」

 

 俺はそういうと、突如星奈は、呆けるような笑みを浮かべた。

 まるで自然体で笑うように、徐々にその笑い声は伸びるように長くなる。

 

「……星奈」

「は……ははは。ふふっ……ククク。ククククク……くくっ……あはははははははははは……」

 

 そう、壊れたように笑う星奈。

 俺、なんかおかしいこと言ったかな。ギャグなら自信あるんだけどな……。

 

「ふふふ……ごめん。ちょっと個人的にツボに入っちゃって」

「どこが? ギャグ作る際に参考になるから聞かせてくれ?」

「いや……あなたはまだ……"知るべき"ではないから」

 

 星奈がそう、吐き捨てるように言うのと同時に。

 昼休みが終わる前のチャイムが鳴る。

 この時間、俺にとっては大事な、貴重な時間になった。

 誰でも良かった。この俺の思い出を、辛い最後の出来事を、聞いてもらいたかったんだと思う。

 そして、それが星奈で良かったんだと思う。

 色々と理事長の娘として大変な毎日を送っているみたいだが、俺個人としては……その容姿や能力を抜きにして。

 

 ――こいつと、友達になりたいなって……。

 

-----------------------

 

「今日は部活に来ないだと?」

「あぁ、ちょっと考えたい事があってな」

 

 放課後、俺は夜空に部活を休むことを伝えた。

 それを聞くと、夜空はとんでもなく不機嫌になり。

 

「……あの女に、変なこと吹き込まれたわけじゃないよな?」

「そんなわけねぇだろ。柏崎とは普通に話をしただけだ」

「……なんの話だ」

「てめぇには関係ねぇよ」

 

 俺は最後にそう冷たく夜空を突き放して、後ろを見ずに教室を出た。

 ちょっと、やけになりすぎたか。さすがにもうちょっと言い方があったとは思うが。

 でも、たまには俺も……我がまま言わせてもらいたい。ちょっとくらい、俺だって自分勝手でいたい。

 

「あ、羽瀬川くん」

 

 校門前で、俺は柏崎に出会った。

 普段はきちんとバスで来ているとのこと、理事長の娘である以前に、一人の学園の生徒であることを重きに置いているという。

 

「あぁ柏崎。今日はありがとな」

「気にしないでよ。ねぇ……これからもよかったら、一緒に話をしない?」

 

 そう、柏崎からのお誘いを受けた。

 

「べ、別にいいけど」

「ふふん。その隣人部とやらで困ったことがあったら、相談に乗ってあげるわ」

「柏崎……」

「だから、私も協力してあげる……」

 

 その柏崎の言葉に、どれだけの信頼を持てただろうか。

 俺は心強い味方を手に入れた。親父、よくこんな立派な娘を父に持つ方と友達になったものだ。ガチで尊敬するぜ。

 親父はこいつの親父さんと仲良くなれたんだ。だったら……俺とこいつも……仲良くなれる気がする。

 これは希望だ。十年前に大切なものを失った俺への……新たなる希望。

 

「じゃあな、柏崎!!」

「うんっ。またね」

 

 そう、互いに笑顔でさよならをした。

 なんつうか、俺だけ隣人部の成果を出してしまいそうで怖いわ~。

 悪いな夜空。下手したら俺は、"お前を置いて"先に進んじまうかもな。

 

 その時は……恨むなよ。

 

-----------------------

 

「……小鷹」

 

 その校門前の光景を、夜空は苦々しく見ていた。

 悔しかった。自分にとっての大切な存在を、根こそぎ奪おうとする侵略者の脅威を、見ることしかできなかったからだ。

 このままでは、自身の目的を――大切なものを取り戻せなくなる。

 だから、取り返しのつかなくなる前に動かなければならない。三日月夜空は、自身の中でそう誓う。

 

 柏崎星奈に……羽瀬川小鷹は渡さないと……。

 

「羽瀬川小鷹と三日月夜空。……タカと……ソラ」

 

 夜空の映る視線の先で、星奈はぼそっと呟いた。

 そして、冷徹な笑みを浮かべて……その二人の友情にこう口添えをした。

 

 

 ――やっぱり、くだらない友情じゃない。

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