新約 僕は友達が少ないIF   作:トッシー00

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第十五話です。

『羽瀬川小鷹』視点。


狩られたら狩り返す、倍返しだ!

 七月上旬、週初めの放課後。

 今日も俺は、部活に行くことはしなかった。

 いわゆるサボりというやつだ。この外見でサボりだと、本当に不良になった気分だ。

 俺個人は真面目くんで通しているつもりはないが、ひょっとしたら無自覚な不良なのかもしれない。

 誰かに自分を分かってもらいたいと、もがいて失敗を繰り返す。そういう意味では、俺はやっぱり良い生徒ではないかもしれない。

 

 現在、図書室にいる。

 この図書室はそれなりに本の仕入れがいい、リクエストを出すとほとんど答えてくれるほど。

 近くの本屋に行くより種類が多く、人を選ばない。

 静寂に包まれた図書室、そこでも周りの視線がどうにも痛く突き刺さる。

 さっきから、俺の方を見てはひそひそ何かを言っている。

 俺が何かアクションを見せるたびに、怯えるのが伝わる。

 そろそろ慣れてきたわけだが、やっぱり傷つく物は傷つく。

 ならばいったい何をどうすれば、こいつらは俺を評価し直すのか。

 平和な学校でいいように育った奴らは、全部が外見で決めつけ、自身が上でなければ気が済まないのか。

 といった風に、結構ネガティブな考えを時々するようになった。

 これもあの女の影響だろうか。あの女はこんなことよりひどいことを毎日毎日考えているんだろうな。

 それでよくまぁ友達作りと言えたもんだ。あの女にその理念を背負う価値なんてない気がする。

 だからこそ俺は考えている。その部活をサボり、本当に今のままでいいのかを……。

 

「誰かこう……気軽に相談できるやつがいればなぁ」

 

 そう、思わず俺は呟いた。

 こうやって自分勝手に悩んだ所で、解決できる場面は限られている。

 最近相談相手としては星奈という心強い相手が見つかったが、あいつはほとんど男子どもとどこかへ遊びに行っている。

 いざ心境を打ち明ければ、容赦ない物言いが結構俺の気を晴らしてくれるが、あいつは人気者。俺のような日陰者毎日相談できるわけもなし。

 だからこそ同じ部活内の人間ならいいが、あの自分勝手集団に何を相談すればいいのか。

 

「……自分勝手は、俺も同じか」

 

 俺はそう自虐し、席を立つ。

 するとまたも周りがざわめく。もう慣れたよ、そうやって俺を見続けて楽しめばいいさ。

 そして出口の方へ行こうと目を向けると、そこには見慣れた奴が一人いた。

 白衣を着た、眼鏡をかけた女の子が、なにやらあっちこっち首を振って見渡しては、図書室に入ることをためらっている。

 そう、志熊理科だ。俺は気になり、あいつの近くへと歩いて行く。

 

「おい、どうした?」

「あひぃ! じ……人類を脅かす凶悪犯!?」

「失礼なやつだなおい……」

 

 俺が優しく声をかけると、理科は驚きながらそう返してきた。

 そのちょっと本音で言ったような感じが、俺の心の傷を抉るんだわ。今日俺家帰って多分泣くわ。

 そして、俺であることを確認すると、理科は丁寧な口調で俺に接してくる。

 

「って羽瀬川先輩でしたか。これは失礼」

「あぁ、大分失礼なこと言いやがったよ」

「いやいやそこは気になさらずに。大丈夫ですって本心で言ったわけじゃありませんのでぇ」

 

 そうはぐらかす理科。

 まぁ、そういうことにしておこう。

 そんなことより、どうして理科が図書室にいるのだろうか。

 

「んで、お前部活は? どうして図書室にいるんだよ」

「それはこちらの台詞でもあるんですがねぇ。先輩こそ最近部室にいらしてませんが?」

「……わかった。俺も野暮な質問は控えよう。だから眼をつむってくれ」

「わかりました。概ね夜空先輩と喧嘩でもしたといったところでしょうが、あの人の性格上仕方ありませんよね?」

 

 そう、二コリと笑って理科は言う。

 俺の心情を理解してくれていると、思ってもいいのだろうか。

 だが、その笑顔……一見するととても可愛らしい無垢な笑顔。だが、どこか奥には恐怖を感じる。

 まるで、奥底では俺の事を責めているような……。

 

「にしても先輩、ずいぶんとまぁ……後ろの方々の視線が痛々しいですねぇ」

「え? ま……まぁいつもの当てつけだよ。きっとあいつらには、俺がお前を襲おうとしているんだと思い込んでるんだろうさ」

「なるほど、噂は耳にしていましたがかなり怖がられているようで。その顔と威圧感で聖クロニカ学園全ての者を圧倒する。その実力はこの学園の生徒三百人に匹敵する。それによって付いた異名は……一人旅団と」

「呼ばれたことねぇし、そんな異名つけられたこともねぇし」

 

 そうおちょくる理科に俺はツッコミをいれる。

 まぁ髪の毛銀髪に染めて白い制服着たらそれらしく見えるんだろうけどな。

 

「募る話があるのなら、場所を変えましょうか」

「え? でもお前忙しいんじゃ……」

「あの人や隣人部の事で悩んでいるのでしょう? こう部長を抜きにして今後の方針を考えるというのも、ありじゃないですか?」

 

 そう言って、理科は場所の移動を提案する。

 俺はそんな彼女の言葉に甘えることにした。そう、今俺は相談できる相手を欲していた。

 その対象が彼女になったことは意外だった。どうにもこいつは、暇つぶしに部活に入った感じがあったから。

 でも、ひょっとしたらこいつも……変わることを願っているのかもしれない。

 俺はこの時、理科に対する評価を少しだけ改めた。

 移動した場所は理科室だった。志熊理科が学園から与えられたVIPルーム。

 さすがに機密があるらしく、奥の部屋には入らないという条件付きで特別に入れてもらえた。

 俺は入ってすぐ、理科が用意したパイプ椅子に座る。

 

「……あの時は、ちょっと調子に乗ってすいませんでしたね」

 

 開口一番、理科が俺に謝罪をしてきた。

 いったいなんのことだろうか。俺はすぐに尋ねた。

 

「なんのことだ?」

「みんなでゲームをやった時ですよ。あの時、正直にみんなで楽しめるゲームを用意すればよかったのですが、ちょっと勝負魂に火が付いてしまいましてね」

 

 そう、それは先日みんなでトモポンをやった時の事だ。

 理科が提案したそのゲームで、みんなで楽しむはずがいつのまにか潰しあいになっていた。

 今こうして部活に出ないことの理由もそれが一つなのだが、理科は結構気にしていたのか。

 だったら、悪いことをしてしまったな。

 

「……こっちこそ、ごめん。なんか空気壊すようにゲーム放り投げてさ。大人げねぇよな、そんなんじゃゲームとかできないよな」

 

 俺も、謝らずにはいられなくなり、理科に謝る。

 あの時は俺も大人げなかった。帰った後も情けないと何度か自分を責めた。

 俺たちは不安定だ。隣人部は不安定な存在だ。自分勝手の集まり、だからこそ私利私欲に目がくらみ、それを止められない自分たちがいる。

 だから失敗することを想定しなければならない。その失敗に向き合うことを考えるべきだった。俺は、それを放棄したんだ。

 そんな俺の表情を見て、理科は柔和な表情を浮かべ、俺に言う。

 

「……だったら、今回はお互いさまということで、手を打ちましょうか」

「あぁ、そうしてくれ」

 

 理科と俺はそう納得して、話を続ける。

 

「羽瀬川先輩は……変わりたいですか?」

 

 そう、突如質問をしてくる理科。

 どこか儚しげな声色で、問われる俺は少し戸惑った。

 彼女も隣人部の一員なのだと、仲間なのだと思わせるようなその問に、俺は真っ直ぐ答える。

 

「あぁ、変わりたいさ。それも……できるならみんなでな」

「みんなで……ですか」

「あぁ、"可能であれば"……だけどな。全員同時というのは難しいことだろう、それは覚悟している。もしお前や幸村がある日友達を作って隣人部から離れたとしても、何かが起きてあの女が友達を作って俺たちを突き放すことがあったとしても」

「……」

「俺が……あの女やお前らを置いて行くことになったとしても……。俺は迷わないことにしている」

 

 俺は、自分の変化に対する心境を理科に打ち明けた。

 それは裏切りではない。隣人部とは友達を作る部活。友達を作って変わることを目的とする部活だ。

 だからこそいつまでも友達の少ない部員の状態というわけにはいかない。誰かが友達を作り変革することができたなら、それは仲間として見送るのが当然だ。

 俺はその覚悟ができている。それを裏切りと思わない、喜ばしいことだと思える覚悟ができている。

 だが、あの女はそれができていない。友達を作った奴はリア充になり、裏切り者になる。

 じゃなければ、俺に星奈と縁を切れなんて言わないはずだ。あいつは自分の事ばかりを考え、仲間である俺たちを縛りつけて今の自分の居場所に固定して満足している。

 だからこそ、いつかは思い知らさなければならない。俺たちは……"俺はお前の物じゃない"ってことをな。

 さすがに底まで深い心境は暴露しなかったが、理科は俺の言葉に納得してくれた。

 

「そうですか。ならば……変われるようにもっと頑張るべきです」

「理科……」

「それが……隣人部の部員としての在り方だ」

 

 そう、理科は強く断言した。

 その言葉に、俺は強さを感じた。

 

「そこで話は変わるんですがねぇ、小鷹先輩パソコンはお持ちですか?」

「え? パソコンはお餅じゃないぞ」

「……殴っていいですかねぇ?」

「すいません、持ってないです」

 

 俺は半分冗談で返したのだが、理科が怖い笑顔を浮かべたので謝りながらパソコンを持っていないことを伝える。

 一応小鳩が親父からもらったノートパソコンを所持しているが、俺はそんなものを与えられていない。

 基本的に親父は小鳩に甘いため、色んな物が小鳩にあたるのだ。

 

「んで? どうしてそんなことを聞く」

「いやいや、あの日ゲームの話題でモン狩りの話が出たじゃないですか。だから一緒にやりませんかって思ったんですよ」

 

 モン狩り、正式名称はモンスター狩人という。

 据置機から携帯機まで多くのシリーズを発売している。今若者の間でポ○モンの次くらいに流行っているといってもいいくらいの大作である。

 みんなで協力をしてモンスターを倒し、幅広いカスタマイズで自身を強化し、己のテクを磨く。そういうのが受けに受けている。

 そしてそれは、一度集まればもう友達と言わんばかりのコミュニケーションツール。友達作りには最適なソフトだ。

 

「そのオンライン版である"モンスター狩人前線バージョンG"。オンラインならあなたの凶悪面も見えませんし、コミュニケーションを極めるにはぴったしでしょう」

「う~ん、凶悪面の部分はちょっと引っかかるが……確かに色んな人と仲良くなれるな」

「時より自己中のDQNもいますが、下手なことさえしなければ会いませんよ。ソフトがインストールされているノートパソコンをお貸ししますので、理科と一緒にレッツハンティングしましょうよ」

 

 そう、俺にゲームを誘ってくる理科。

 なんというか、この瞬間だけ俺は幸せだと感じることができる。

 こんな可愛い子にゲームに誘われるシチュエーション、すっげぇ奇跡としか言いようがない。

 

「あぁ、こんな俺でよければ!」

「そのノリですよ羽瀬川先輩。ついでに理科の事もレッツハンティングします?」

「それは遠慮しまーす」

「Oh……。そのノリはいただけないぜぇ~」

 

 そんなやり取りを終えて、俺はパソコンを持ってすぐさま家へと帰宅した。

 

-----------------------

 

 夕食を終えた後、午後八時ごろ。

 俺は借りてきたパソコンを起動する。

 中身は特に変わりなく、理科の私物ではないのか機密書類なども入っていない貸し出し用のパソコンだった。

 デスクトップにはモン狩りのアイコンがあり、すでにインストール済みの状態。

 とりあえず有線ケーブルを引っ張ってきて、ネットに繋げゲームを起動する。

 

「さて、登録も完了したし……ん?」

 

 と、ゲームを始めようとした時、ス○イプのアイコンが点滅した。

 理科と気軽に連絡が取れるようにスマホから登録しておいたやつだ。なにやら理科からチャットが飛んで来たらしい。

 確認して見ると、「すいません先輩、仕事が入ってしまい今日はできそうにありません。後日一緒にやる時のために強くなっていてくださいね。あぁついでに先輩のあそこも強くしておいてくださいね。キャ☆」とのことらしい。

 とりあえず後半は放っておくにして……そうか、楽しみにしていたのに残念だな。

 ということに、今日は見知らぬ誰かを見つけて一緒にやるしかないな。

 ゲームでは俺の凶悪面は見えていない。ということは言葉だけでコミュニケーションが取れる。ならばきっと誰か彼かは見つかる。

 俺は初心者が最初に訪れるサーバーに入る。

 このゲームは設定次第で、繋げる地域を最小限まで絞ることができるとのことで、俺はとりあえず済んでいる関東一帯設定することに。

 慣れたら色んなところのプレイヤーとやることにしよう。

 サーバーに接続すると、そこには大広場があって、大勢のプレイヤーがいた。

 百万人以上のユーザーが登録しているというが、にしてもすげぇな……。

 常日頃この人たちは暇さえあれば、ゲームで友達を大勢作ってるってのか。俺たちの部活の活動がほぼ毎日どこかで行われてるってことか……冗談じゃねぇ。

 

「誰かいないかな……」

 

 と、呟いた所で一つ思ったんだが。

 登録し始めのド初心者の俺が助け船を出した所で、手伝ってくれるやつはいるのか?

 一応新規登録キャンペーンである程度強い装備はつけているが、このゲームの天井は遠く遠く上の上だ。

 なら同じ初心者を見つけるにしても、そいつらは友達と一緒にやっているに決まっている。

 理科は仕事で忙しいっていうし……。

 そう悩んでいると、俺も目の前を初心者らしき人が通り過ぎて行った。

 黒い軽鎧をランクは8。俺の8倍はあるがそれでも初心者だ。

 駄目もとで、声をかけてみるか。

 

『あの、すいません~』

 

 俺がその人にかけよりチャットを打ち込むと、相手は反応を示した。

 

『私ですか?』

『はい、あの……今日始めたばかりで、できれば手伝ってほしいんですけど』

 

 あまりこういうのは嫌われることが多いというが、洗礼を浴びる勢いで俺は助け船を出した。

 話し方を見るに女性プレイヤーだろうか。アバターは黒色の長い髪をした肌の白い女性タイプ。

 ネーム欄には『NIGHT』と表示されている。ちなみに俺は『ホーク』にしてある。

 

『ん~。丁度友達と解散したところで何をしようか悩んでいたところなんで、構いませんよ』

『そうですか! ありがとうございます!!』

『よろしくお願いします! でも最初のデビューが私なんかでいいんですか? ちょっと先輩面しちゃってもいいですかぁ?』

 

 そうノリよく俺を押してくるNIGHTさん。

 あぁ、この凶悪面が相手に見えていないってどれだけ幸せなことなんだろう。

 俺がイケメンでなくても極々普通の顔でいたら、今ごろこういう出会いが多かっただろうにな。

 

『もちろんです! その……数少ない仲間が今日来れないっていうんで、一緒にやる友達とかもいないんで、困っていたんですよ』

『そうなんですか。色々大変なんですね、友達……いっぱいできるといいですね』

 

 そんな風に俺を励ましてくるNIGHTさん。

 なんでこんなに優しいんだろうな。現実でもいないかなこんな人。

 ついでだ。少しだけリアルの事を相談してみようかな。

 

『実は、色々リアルでも友達を作ろうと努力してるんですけど。うまくいかないんですよ』

『わかります。私も最初は苦労しました。過去に色々あって……でも今では多くのクラスメートや後輩にしたわれる毎日になりました。努力は必ず報われる。そう思います』

『そう言ってくれると助かります。最近部活で揉めちゃって、今日部活の後輩に息抜きをして来いってこれを進められて、情けない話です』

『ふふ、いい後輩じゃないですか。私も部活の部長をやっているんですけど、最近後輩の一人が私の事を気に食わないって、でも……いつかはわかってもらえると信じています』

 

 意外と、見知らぬ人に相談してみるのも悪くないかなとこの時思った。

 この人は俺と違ってリア充側の人間。だけど、昔はそうじゃなかったかもしれない。

 リア充は敵だと、あの女は言うけども。リア充が生まれた時からリア充だったわけじゃなくて、どこかで努力をしたんだと思う。

 俺たちは、努力が報われずにおいてかれて妬んでいるだけの悲しい集団だ。だから、変わらなければならない。

 俺は……あの女とは違う。その敵とだって……わかり合うことができる。

 そのための……隣人部だ。

 

『その、NIGHTさんはどういう部活の部長をやっているんですか? できればその信念とか、聞かせてもらいたいです』

『え? ちょっと恥ずかしくて言いにくいな』

『なんだっていいんです。みんなで何かを成し遂げるそのことに意味がある。俺は今の部活を引っ張っていかなきゃって思ってまして、だから少しでも……アドバイスを』

 

 そう、少ししつこくアドバイスを求める俺。

 ちょっとしつこすぎたか。ネットゲームでこういうことねだるのはまずいか。ましてやリアルの情報、嫌われるかな。

 と思ったが、NIGHTさんは割と丁重に答えてくれた。

 

『みんなと仲良くなるための部活です。あなたのいった、何かを成し遂げるための……に近いですかね』

『ほう、スポーツ系ですか?』

『どちらかというと文化系かな? "とにかく臨機応変に隣人とも善き関係を築くべくからだと心を健全に鍛えたびだちのその日まで、共に想い募らせ励まし合い皆の信望を集める人間になろう"なんて宗教じみてるってバカにされてるんですけどね、大勢の人達と共に何かを成し遂げるって、いつのまにか学園中を巻き込んだ大きな部活になっちゃって』

 

 ――あれ?

 あれ……その理念どっかで聞いたことあるような。

 いや、気のせいだな。うん、気のせい。絶対気のせい。

 俺はそんな記憶力ある人間じゃないし。うん、何かの間違いだ。あぁ何かの間違い。

 

『すごいですね。具体的に何をやる部活なんですか?』

『まぁなんといいますか。仲のいい子も悪い子も一致団結しましょうっていうか……わかりやすく言えば……"友達作り"かな?』

『う……うん。そうですか。ちなみに……部活の名前とか教えてもらってもよろしいですか?』

『はい、"隣人部"って言います!!』

 

 お前かいぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!

 なんってこった!! よりにもよって狩人デビューをあのクソ女と一緒にやることになっちまった!!

 しかもこの女好き勝手言わせておけば、何がクラスメートや後輩に慕われてるだ。学園中のみんなと仲良くなりたい? 綺麗ごともいいところじゃねぇか!!

 こいつも姿形が見えないからって聖人演じやがって。何やってんだよ部長! なにネットの世界に逃げてんだよ俺も人のこと言えないけどな!!

 

『は、ははは……。す……素敵な部活じゃないですか……』

 

 ちくしょー。騙されたよ。

 よりにもよってあんなやつに相談しちまったよ。しかもあいつ絶対鼻で笑いながら適当に応対してやがったよ。

 なんか遊ばれた気分だ。くっそ腹立つ!! 男だったらマジで殴りとばしてるんだって!!

 

『そろそろ、狩りに行きましょうかホークさん☆』

『そうですねいきましょう』

 

 俺は投げやりにチャットを打ち込み、フィールドへと出ることにした。

 たのむから"☆"とかつけないでくれるかな。あの無愛想なキャラにあってないんだから。

 確かに……笑ったら可愛いけどさ……。ちょっと胸高鳴っちゃったけどさ……。

 フィールドに出向くと、色んなモンスターがいた。

 弱いモンスターからちょっと強そうなモンスターまで。

 クエストをクリアするには、中堅モンスターを1体以上討伐することが条件となる。

 俺もこいつも初心者。これくらいが丁度いい。

 

『がんばってくださいホークさん~』

『ありがとございますー』

 

 応援してくれるあの女に、俺は投げやりに答えた。

 個人的にこの隣にいる人懐っこいやつの正体があの女だとわかってしまったので、愛着など湧くことなく俺はモンスターを狩りまくる。

 小型モンスターを狩っては素材をはぎ取り、アイテムを集めていく。

 モン狩りはこういう小さな作業が後々生かされるゲームだ。

 草原、荒野。挙句の果てには河原まで、色んなところに出向いた。

 その河原にて、俺は見覚えのあるモンスターを見かけることになる。

 

『あれ? あの魚みたいなモンスターは……』

『あぁ、"ワラスボーン"ですね。初心者の装備としては人気のモンスターですよ』

 

 そう説明を受ける俺。

 ワラスボーン。河原にいた小型モンスター、その姿は有明海などに生息するハゼ科の魚、ワラスボそのまま。

 その見た目のグロさが有名で。あのエヴァ○ゲリオン量産型のモチーフになったとの話もある。

 俺や小鳩は前に九州で住んでいたこともあり、実際に生で見たこともある。

 その時は小鳩が怖いと泣きついてきたことがあったな、懐かしい思い出だ。

 俺としては、そのワラスボに対して怖いという印象を抱くことはなかった。むしろ、こいつに共感していたりもする。

 その、見た目が怖いというだけで避けられるという要素。まさに……俺と瓜二つだ。

 

『ちなみに近くにはその上位種であるワラスボスがいます。せっかくですからワラスボスを討伐しましょうか』

『う……。ほ、他のがいいな』

 

 そう俺はワラスボーンおよびワラスボスを討伐することを嫌がる。

 

『でも、草原まで戻るのはめんどくさくありません? ワラスボスは別に強くないですよ』

『まぁそうなんですけど(とりあえず敬語使っておこう)、その……』

 

 と、口ごもっている矢先。

 突如奥からワラスボスがやってきた。

 そしてこちらを睨んでいる(目が無いけど眼のアイコンが表示されている)。

 しまった、先にあっちから勝負をしかけられたか。

 

『ホークさん、こうなったら最後。あのワラスボス……殺るしかないですよ』

『ちょっと待ってください! ワラスボとは戦いたくないんですよ!!』

『何を悠長なことを、あんな見た目が怖いグロテスクなやつこそ叩きのめしがいがあるんじゃないですか』

 

 そう、NIGHTは張り切ってそう言った。

 あの女……内心は俺の事もそう思ってんじゃないだろうな……。

 お前は俺にとって、俺の外見を選ばずに接してくれた身だ。それは感謝している。

 だが……やっぱり内心では俺を悪者扱いしているのか……。だったら俺は……。

 そんなことを思っていると、NIGHTはワラスボスに攻撃をし始めた。

 ここでただ見ているだけというのも、なんか地雷プレイヤーみたいでそれもいやだ。

 ちくしょうワラスボ……恨むなら俺を恨まず、その女を恨めよ!!

 俺も攻撃に加わる。ワンパターンなモーションではあるが当たればダメージをごっそり持っていかれる。

 俺は何度か回避しきれずにやられそうになる。NIGHTがサポートをしてくれるが、それでも持ちそうにない。

 もう殺される。でもワラスボに殺されるなら本望か……そう思っていた時。

 突如、後ろから大剣でワラスボをぶった切るプレイヤーが現れた。

 

『なっ!?』

 

 そしてワラスボが崩れるようにやられた。

 一応クエスト成功のアイコンが表示されている。

 

『ほら、早くそれはぎ取りなさいよ』

 

 そう、助けてくれた人が言う。

 白い鎧を着た。輝かしい大剣を所持する女アバター。

 ネーム欄には『SHINING☆STAR』と表示されている。

 ランクは12。俺の12倍ある中々のプレイヤーだ。

 俺は言われた通りに、素材をはぎ取った。

 

『あ、ありがとうございます!』

『あなた達初心者? 中々に危なかったわよ』

 

 そう俺たちに声をかけてくるSHINING☆STARさん。

 そのしゃべり方だと、隣と同じで女プレイヤーか。

 なんかどっかで聞いたようなしゃべり方だが、ただの偶然だろうか。

 

『まだ慣れてなくて、隣のNIGHTさんに助けてもらっていたのですが』

『ふ~ん。それにしてはなんか頼りなさそうね。サポートの仕方がなってないんじゃないの?』

『……』

 

 なんかずいぶんと強気なプレイヤーだな。顔が見えないことをいいことに言いたい放題だ。

 これが理科が言っていたDQNプレイヤーなのだろうか。ネットでは日常茶飯事。敬語すらろくに使えない系か。

 でも、助けてもらったことには変わりないし。なにしろ俺は初心者だ。

 

『まぁまぁ、俺が始めたばかりで助けてもらっているんで』

『あらそう、私も暇してるし、あなたたちを手伝ってあげるわよ。感謝しなさい』

 

 と、俺たちのパーティに入ってくるSHINING☆STARさん。

 口は悪いが、頼りにはなりそうだ。

 と、先ほどからあの女、やたら黙りこんでいるな。

 まぁあいつの身になって考えてみると、「上級者気取りのDQNが私の役割を奪い取った」といったことを考えているのだろうか。

 だがこれはゲームだ。実力がものを言う、いくらあいつでも下手なことはできないだろう。

 そうして次は荒野に行き、獣型のモンスターをたくさん狩ることに。

 

『ちょっと、アイテムを取りに行ってきます。すぐもどるんで~』

『あ、わかりました~』

『アイテムくらいちゃんと持ち込んでおきなさいよ』

『……』

 

 そう煽られながら、NIGHTは行ってしまった。

 そして数分後に戻ってきて、いざクエストへ。

 そのフィールドでは、SHINING☆STARさんがやたら張り切っていた。

 12にもなれば様々なテクニックを駆使し、圧倒的な力で敵をせん滅できるのか。

 頼りになるのはなるんだが、それでは俺のテクニックの向上につながらない。

 影に隠れて鉱石を掘ったりする俺。一方、あの女の方は。

 なにやら弓矢を構えて距離を測っているようだ。いったい、なにをするつもりだ。

 そして、何かを納得したように、その弓矢をチャージし始めた。

 その対象は……SHINING☆STARさんだった。

 

『えいっ』

『ふぎゃ!』

 

 その矢が、SHINING☆STARさんに直撃する。

 すると、SHINING☆STARさんは眠ってしまった。

 

『ちょっと! いきなりなにするのよ!?』

 

 チャット欄で文句を言いまくるSHINING☆STARさん。

 その彼女に対して、NIGHTは大きな爆弾やら罠やら大量に置きまくり。

 そして、石ころを投げつけ、SHINING☆STARさんを葬り去った。

 いくら俺らより上級者とはいえ、アイテムを駆使した威力が上乗せされればSHINING☆STARさんだって死ねる。

 そのまま広場に戻され、パーティから外されるSHINING☆STARさん。

 

『……さてと、礼儀のなっていないプレイヤーなんて放っておいて、先に行きましょうかホークさん☆』

 

 そう、笑顔のアクションを俺に向けるあの女。

 俺は、その笑顔に対して……何も言える言葉が無かった。

 要は、自分にとって気にいらないプレイヤーが傍にいたから、そいつを排除して自分に主導権を戻した。ということか。

 なんというか……リアルでもネットでもえげつないな。あの女。

 その後、俺は煮え切らない面持ちのまま、あの女と狩りをしまくった。

 ランクも4まで上がり、あいつは10を突破した。

 一緒にゲームをしているのがあの女だというのはわかっているが、後半は正直……楽しかった。

 その時ばかりは、どうして顔を会わせることができないんだろうって思うこともあった。

 しゃべりかたも偽り、態度や素性も偽っているNIGHTだが、きっと……ゲームを楽しんでいるんだと思う。

 あいつは俺であることを知らずにやっているんだろうが、きっと日常の寂しさを……こうやって埋めていたんだろうな。

 

『さて、あと一撃!!』

 

 次第に口調も俺の知っているあの女のものになっていったが、俺は特に違和感を覚えることなく進めた。

 もうすぐ初心者クエストの最後がクリアされる。時間もすっかり0時を過ぎている。

 このあたりで止めておくか。それと……明日一応お礼を言っておこうか。

 そんなことを、考えていると。

 

 ザシュッ!!

 

 突如、モンスターにトドメを刺そうとしていたNIGHTを、後ろから誰かが切り捨てた。

 その人物は、さきほどNIGHTにやられた、SHINING☆STARさんだった。

 

『さっきは……よくもやったわね……』

『き……貴様!!』

 

 報復だ。きっとSHINING☆STARさんは、この広いフィールド内をずっと探していたんだ。

 そして逆襲されたNIGHTは、やられて広場へと戻った。

 その後目の前にいた大型モンスターは、SHINING☆STARさんの手で切り捨てられ。

 

『それ、あんたにあげるわ』

『え? いいんですか?』

『あたしには必要ないし……なんか胸糞悪いし。また今度会うことがあったら一緒に狩りしましょう』

 

 そう言って、SHINING☆STARさんは去っていった。

 なんというか……とても残念な閉幕だった。

 やられたらやり返す。倍返しだ! ネットでもあるんだね。

 そんな怖さを思い知らされたよ。

 

-----------------------

 

 翌日。

 ものすごい眠気の中俺が教室に入ると、あの女もめちゃくちゃ眠そうに机に突っ伏していた。

 

「おはよう、夜空」

「……あぁ、おはよ」

 

 俺よりはるかに眠そうだ。

 一応、聞いてみるか。

 

「なんかすごい眠そうだな」

「あぁ、昨日ネトゲで初心者を助けてやっていた時にな、胸糞悪い奴が現れて、一度は殺してやったんだが、その後やり返されて。あの後も何度かフィールドで出会うたびに殺し合って、気がついたら朝の六時だった」

 

 そうゆるく口にする夜空。

 いややりすぎだろ。朝の六時って……。

 この女、本当にやられっぱなしじゃ気が済まないタイプなんだな。

 まぁそういう強い所は嫌いじゃないが、執念深いって言い方をすればなんだかな。

 

「そうか、俺もちょっとネトゲやってて疲れてんだわ。お互い様だな」

「む? ひょっとしてモン狩りか?」

「お、よくわかったな」

「……そうか。も……もしよければ今度、一緒に……狩り……行かないか?」

 

 そう、口ごもりながら俺に言う夜空。

 一緒にやるのは構わないが……ふっ……。

 

「あぁ構わないぜ」

「小鷹……」

「みんなで何かを成し遂げるそのことに意味がある……からな」

「……え?」

 

 俺がそう意地悪そうに言うと、夜空の目が丸くなった。

 そして俺を見つめ、身体を小刻みに震わせる。

 

「努力は必ず報われる。そう思うんだろ?」

「なっ! お前まさか昨日の!」

「……今日から、また部活に参加するから」

 

 そう言って、顔を赤らめる夜空を背に、俺は自分の席に向かった。

 

 ちなみに、その日の昼休み。

 購買のパンを買いに行った時の話。

 

「あ、柏崎……」

「ん? 羽瀬川くん」

 

 珍しく、柏崎がそこにいた。

 普段から食堂でご飯を食べているのだが……。

 そして、なにやらとても眠そうにしていた。

 

「どうした? なんか寝むそうだぞ」

「まぁね、昨日ネトゲしてたら"NIGHT"とかいう変な奴にストーカーされてね。朝の六時まで殺し合ってたわ」

 

 それを聞いて、俺はやるせない気持ちになった。

 そうか……SHINING☆STARさんはお前だったのか……。

 俺はこの時、夜空と星奈を会わせてはいけないなと、なんとなく思った。

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