『三日月夜空』視点。
夏休み真っただ中。
今日も私たちは部活を行う。
まぁ部活といっても、特に家で何かをやるわけでもない暇な学生が、家にいるくらいなら学校に来ようみたいなそんなノリに近いのだが。
宿題なら学校でもできる。別に嫌な奴がいる我が家で勉強を律儀に行う必要はないのだ。
本日のメンバーは、現在の所私と楠幸村の二人だけだ。
理科はまだ来ていない、羽瀬川兄妹は今日はお休みと、先ほど連絡が来た。
用事があるから行けないとあるが、小鳩の方は兄が行かなければ基本来ない、なので小鳩の方はそんな事情だろう。
そして……小鷹の方は、あまり考えたくはない。
友達の少ないあいつの用事となると、家族絡みか……あの女の絡みだろう。
柏崎星奈。最近ますますあの女の気配がざらついて仕方がない。
夏休みには小鷹を家に招待するとか言っていたし、なんか色々遊びに行くとかも言っていた気がする。
小鷹よ。あの女はけして心からお前と友達になりたいとか思っていないのだぞ。だから早く気付け、あの女の所にお前の居場所なんてないんだ。
あの女に関わっていたら絶対にひどい目に合う。そうだ。このままでは小鷹が危ないんだ。
もし、柏崎がなんの事情も理解せずに、暇つぶしなどで小鷹を貶めでもしたら。その時きっと私は……。
私は、きっと柏崎を※※してしまうかもしれないな。
「せんぱい。さきほどからおちつきがありませぬが……」
「あ……あぁ。ちょっと考え事をしていてな」
私を心配して声をかけてきた幸村に対して、私はそう誤魔化した。
こいつのことだ。大丈夫、心配ないと言ってしまえばそれ以上は関わってこない。
理科ならば、私の反応ひとつで状況を察しておちょくってくるのだろうが、そういうのは私としては逆に迷惑だ。
そういった意味では、幸村のように下手に関わってこず、都合良く動いてくれるやつがちょうどいい。
夏休み中ずっと早く来て部室を掃除してくれるし。まぁ……たまには悪いと思っているぞ。私もそこまで鬼じゃない。
だが、こう人の善意という物を、善意で消してはいけないんだと思う。
「この調子では、昼までのんびり宿題ができそうだ」
そう、私が鞄をまさぐり始めたその時だった。
「お~う! お前たち学生は夏休みも学校に来て暇だなあははははは!!」
そう、うるさく私たちに声を向けた幼女。
長い銀髪のシスター服。高山マリアだった。
あの姉を一回り小さくしたような容姿の、あの姉ゆずりのくっそうるさいガキだ。
当然、うるさい子供がいる中で勉強などできはしない。
「何しに来た? こんなところでサボっていたらまたあの姉に怒られるんじゃないのか?」
「朝礼はもう終わって私は自由時間なのだ。仕事もせずにぐーたらしているお前たち学生と違って、私はちゃんと仕事をして自由を得ているのだあはははは!!」
「……相変わらず一言多いクソガキ」
そう私は怒るのもバカバカしくなって呆れる。
こんな熱い日々でこのクソガキ相手に怒っていたら頭が破裂しそうだ。
だがこのガキがやってきたということは、ましてや子守り担当の小鷹がいないとなれば。
この先の時間は、まことに騒がしくなるに違いない。
「なぁ夜空~。お菓子くれお菓子~」
「バイトは明後日だ。だから今日はストックが無い」
「え~。この私はあのババアに頼まれてこもんだいりをしている偉い幼女なんだぞ~。私の発言一つでこの部屋から追い出せるんだぞ~」
「ならばやってみるがいい。その瞬間貴様を血祭りにあげてやる」
「うっ……うぅ~」
と、私が本気で睨むとマリアは泣きそうになる。
変に泣かせるとあのババア(マリアが言っているから私もそう言おう)がうるさいからな。
困ったなぁ。午後も家に帰らず街をさまよわなければならないのに……。
困った時は……。
「……幸村。そういえばお前小鷹からこの幼女の世話を仰せつかっているのではなかったのか?」
「ぬあ。そういえばそうでした。せんぱいからの言いつけをわすれてしまうとは、はらをきってわびるしょぞん」
「腹を切る前に子供の遊びに付き合ってあげてくれないかなぁ」
相も変わらず大げさな幸村を私は制止し。幸村にやってほしいことを伝える。
幸村はクラスでは役割を与えてもらえない。だからこの部活での自分の役割には並々ならぬやりがいを持っている。
ちょっとマイペースだがこんなに素直なガンバリ屋を、"めんどくさい事情"一つで丁重に扱って。
相手に気を使うというのは必要なことだが、その優しさが……時としては棘になる。
気苦労の無い一般人の優しさなんてものは、自分を納得させるための素材でしかない。
そんな優しさなんて、誰が欲しいと願うか……。
「それではまりあ殿。わたくしと一つげーむをしましょう。わたくしにかてばおやつをあげます」
「おっ! それは楽しいのだ! ユーモアの無い夜空と違って幸村は本当に優しいのだ」
「むか……」
おっと、怒るな怒るな。
そんな隣から放たれる幼女の力なき罵声などに反応していてはいつまでたっても大人になれない。
と、幸村はゲームと称して、部室の物品庫からなにやらを取りだし持ってきた。
持ってきたのはピコピコハンマーとヘルメット。そして座布団を二枚。
なるほど、古典的なゲームだな。じゃんけんをして勝った方が相手を袋叩きにでき、負けた方が無様にヘルメットを被って地に伏せるというやつだ。
「それではさいしょはぐーでおねがいします。ぱーとかだしたらぶっころしますからね」
うん? なんだろう今幸村がものすごくのっぺりととんでもないことを口走ったような気が……。
そして第一回戦。最初はグーから始まり、幸村はパーを出して、マリアはチョキを出した。
そうするとマリアが攻撃側で、幸村が防御側になる。
のっぺりとヘルメットを幸村が取った所で、マリアが素早く幸村をハンマーで叩いた。
勢いよくピコッと音が鳴る。見てる限りでは結構痛そうだ。
幸村とマリアでは速さに二倍近くの違いがある。これでは仮に幸村が攻撃側に回ったとしてもマリアに攻撃を与えることすらできないだろう。
子供相手に手加減をしているのか。素で遅いだけなのか……。
「あらら、まけてしまいました。まりあ殿おつよいですね……」
「ぬはは! 幸村が弱すぎるだけなのだ!!」
「……」
そう心ない幼女の罵倒に対しても、幸村は顔色一つ変えずに憮然としている。
すごいな。器が広いのか、単にのろいだけなのか。私だったら機嫌を損ねてゲームを止める所だ。
子供だからってなんでも許されるというわけではない。そこを許さなければ虐待だなんだとお上が動くから、日本がおかしくなってしまったのだ。
そんなことを考えていると、すぐさま二回戦に突入した。
「最初はグー!!」
「じゃんけん……」
今度は幸村がグーで、マリアがチョキ。
先ほどとは逆の立場になった。
マリアはすぐさまヘルメットを取り、頭にかぶった。
そして幸村は、ハンマーを握って硬直。
やっぱり速さが違いすぎて、幸村に勝ち目がない。
と……思っていたのだが。
「……えいっ」
そう言って幸村は思いっきり、ハンマーを横に振った。
そしてそのハンマーは、マリアの頬に直撃した。
「ふぎゃーーー!!」
幸村のまさかの裏技を喰らい、マリアの小さな身体はちょっとだけ吹っ飛んだ。
頭が駄目なら隙のある顔を狙えと、というか……。
「そんなのありかぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」
そう私は叫んでしまった。
確かに私ならその手を打っても違和感がないが、その卑怯な手を打ったのがあののっぺりとしている幸村だったのだ。
まさか幸村が、年下の幼女相手に容赦なく攻撃を加えるとは。やばいな、ものすごい貴重な瞬間を目撃してしまった。
「ひひひ……卑怯だぞ幸村ーーー!!」
とうぜんマリアは反論する。
確かに今のは大人げなかった。そして反論された幸村はというと。
「ひきょう? なにをいっているのですか?」
そう、悪びれもなく口にした。
「だ、だってあれは頭を叩くゲームなのだ」
「あたまをたたいたらかちとはひとことももうしてませんが?」
「だ、だったらなんでヘルメットがあるのだ!? 被って防御するためだろう!?」
「べつによこに持ってきても防御できるでしょう?」
幼女の必死に反論に対し幸村は一歩も譲らず幼女を押し返す。
なんだろう? あれ? 私の知っている幸村とはなんか違うような……。
「とりあえず続けましょう。マリア殿が勝てばお菓子が食べられるのですから」
「む……そうだな! 今度勝てば問題ないのだ!」
そううやむやにして、最終決戦へ。
「最初はグー!!」
「じゃんけん……」
最後の一戦。
幸村はグー。そしてマリアはパーだ。
さっきは幸村の知恵が勝ったが、戦略は一度破られれば二度は通用しない。
ましてや攻撃側はマリアだ。幸村はもう防御するしかない。
おまけに早さは変わっていない。マリアがハンマーを振った時には、幸村はヘルメットに手をつけている。
勝負は見えた、と……思ったのだが。
「えいっ」
そこで幸村は、恐るべき行動に出たのだ。
なんと掴んだヘルメットを、マリアの顔面向かって投げた。
「んぎゃ!」
当然ヘルメットが顔面に直撃したマリアは体勢を崩してハンマーを手放す。
すると、幸村がそのハンマーを手にして。
あろうことか、マリアの頭に向かって思いっきりハンマーを振りかざした。
「え、えぇ……」
観戦していた私は、言葉にできなかった。
あのいつものほほんとしている幸村が、たかが小さいゲーム一つでむきになり、幼女をフルボッコにしたのだった。
この私が。この聖クロニカ一のドSかもしれないこの私がドン引きすらしてしまう光景だった。
そんな大人げない幸村の方に、目を向けてみると。
「……フフフ」
笑っていた。なんというかそれは妖面な笑みを浮かべて。
まさか……幸村お前。
「う……うえぇぇぇぇぇえん!!」
等々マリアは泣きだしてしまった。
当たり前だ。ヘルメットが顔面にあたれば誰だって痛いさ。
その上卑怯な手で勝負に負けた上お菓子までお預けだ。幼女には辛い結果だ。
そんな結果を作り出したのが、基本何考えているか分からない幸村だから驚きだ。
この私がやったというなら絵にもなろうが、自分で言っていてあれだけど。
「……幸村、やりすぎ」
そう幸村を咎める私。
まさかこの私が幼女一人に味方をするようなセリフを吐くとは、そう言わせる幸村がちょっとだけ怖かった。
「みぐるしいところをおみせしました。ちょっとほんきになりましたがゆえ、まりあ殿を泣かせてしまいました」
「と、とりあえず謝っておけ。あと昼ご飯でも与えておけば機嫌取り戻すから」
そう私はアドバイスをして、読んでいた本に目を戻す。
というかほとんど本読めてなかったけど。
私のアドバイスを受けた幸村が、すぐさまマリアを慰めに行く。
「なかないでください。きをたしかに」
「お前のせいだよ」
その幸村の真顔の言葉に、私はついツッコミを入れてしまった。
「もうおひるのじかんですね。こだかせんぱいにあなたのえいようかんりをまかされているゆえ」
そう言って、幸村は鞄から昼ご飯を取りだそうとする。
マリアの栄養管理ね……。小鷹のやつ、幸村に押されて何気なく言ったのだろうが、それを幸村の実費でやらせるってどうなんだろうか。
せめて部活の連中一人一人から徴収するとか。まぁこんなむかつくガキに金出せと言われていい顔しないであろう私が言うのもあれだが。
そういえば夏休み当初、そう言われて幸村がマリアに寿司を御馳走していたが。金銭感覚がぶっ飛んでいるというか、実は金持ち?
色々と考えていると、幸村が本日のメニューを取りだした。
弁当箱……ではない。なにかしらのボトルだ。そこに大量の白い液体が入っている。あぁあの白い液体で変な想像するのやめてね。
「幸村……それはなんだ?」
私は思わず訪ねてしまった。
マリアに栄養をつけさせるため、なおかつ無理のしない食べ物。
その結果がボトルの中の白い液体。正常な物だからね。如何わしい物じゃないはずだからね。
私のその問に、幸村はいつもどおり顔色を変えずにこう言った。
「ほんじつは……"ぷろていん"となっております」
「……プロテ?」
私は聞き逃したのかとも思った。
だが、この幸村に限って冗談なんて言わないだろう。言うことなすこと全部が本気なこの幸村に限って。
ということは間違いないだろう。そのボトルに入った白い液体は……プロテインなのだろう。
「……それ、マリアに飲ませるの?」
「はい」
「……マリア、それ飲むと思うか?」
「わかりません」
「わかりませんって……。そんなもの、まだ成熟しきっていない幼女が飲むわけがないだろう。というか栄養つけるって確かにそうかもしれないが、ちょっと視点がずれてるだろ? というかお前はどうしてそうなんだ? どうしてそう極端なんだ?」
そう長々と幸村に物申す私。
この世のどこに幼女にプロテイン飲ませる奴がいるんだよ。どこのマニアックビデオだよそれ。
だが、幸村の顔は変わる兆しすらない。
そう、幸村は本気なのだ。本気で、そのプロテインこそがマリアの栄養をつけるために必要だと持ってきたのだ。
ということは、止めることは簡単ではない。
「……ひょっとしたらおきにめすかもしれません」
「お気に召せばいいがな」
そして幸村は、マリアの方へと足を運び。
昼御飯だと、プロテインを提示すると。
「……いらない。こんなの食べてもお腹が膨れないのだ。嫌がらせなのだ。もう幸村の事なんて信じられないのだ」
そう目に光が宿っていないマリアが幸村を敵視する。
先ほどのこともあって、当然のことだろう。
「そうですか。わたくしがこだかせんぱいにいわれてひっしにかんがえて、あなたにえいようをつけてもらいたいおもいでもってきたのに……」
「そんなこと知らないのだ」
「さようですか」
そう、幸村が顔色一つ変えずに言うと。
「まりあ殿、ちょっと……」
「ふえ?」
そうマリアを振り向かせ。
その一瞬の隙を付き、幸村はなんとプロテインを無理やりマリアの口に突っ込んだ。
「うっ!」
それを見て、私は口を押さえた。
幸村、本気でやりやがった。その笑顔でもなく苦の表情でもなく、何も思わない無心の表情で。
苦しそうにプロテインを飲む、飲まされるマリア。
なんというか見方によってはこれ、通報されてもおかしくない絵面だった。
白い液体を無理やり飲まされる幼女。文字に書くだけで卑猥な感じしかしない。
「うえぇまずい、まずいし固いのだ!!」
「がまんですまりあ殿、これも立派なりんじんぶのこもんになるためです」
「……」
そのやり取りに対して私は言葉を出すことができなかった。
そう暗示をかけながらプロテインをがぼがぼ飲ませる幸村。がぼがぼプロテインを飲まされる幼女。
なんというか見てられなかった。高校生が小学生をいじめているようにしか見えない。
「……幸村、やめなさい」
「なぜです?」
そう真顔で帰って来たのがその言葉だった。
こいつ、まさか悪気が無いのか? 情が無いのか?
幼女が苦しんでいる事に対して、多少の慈悲も申し訳なさもないのか……?
ひょっとしたら……ひょっとすれば。
楠幸村。並々ならぬ事情を抱えたこいつも……。
確かに、あんな事情があることを想定すれば……。
「こんにちは~。すいませんねぇ仕事の方が忙しくて部活遅れてしまいました~」
こんな状況の中で、のんびりと部室に入ってきたのは理科だった。
私はすぐさま縋りつくように理科に寄っていく。
「理科。あれを止めてやってくれ」
「え? うっわぁ~美少年が幼女を犯してるわ~。超ウケるね」
「早く助けてあげなさい!!」
そう悠長なこと言ってる理科に私は痺れを切らして叫んだ。
数分後、なんとか幸村の暴走を止めた後、マリアを部室から逃がしてあげた。
なんというか、ちょっとだけ幸村の危ない面を見てしまったような気がする。
「まりあ殿。おいしくめしあがってくれてさいわいです」
「お前の目は視力いくつだ……」
結局最後までマイペースな幸村は、幼女をいじめていたことに何も謝罪をしなかった。
数分後。当然のごとくケイトが部室に殴りこんできた。
「ちょっとユッキー! マリアがいじめられたって泣きついてきたんだけど!」
相変わらずバカ親のような女だ。
だが今回の場合私は幸村に味方しようがない。
理科は他人事のように知らんぷりしているし。あとは幸村に任せよう。
「もうしわけありませぬ。たわむれがすぎました。せんぱいからもうしつかったしめいをはたすことにやっきになり」
「だとしてもねぇ。君も立派な男子なら女性に優しくとかできないのかい?」
「めんぼくございません。この場でわたくしがしゃざいをしてもせいいがつたわりませんでしょう。あちらでふたりっきりになってはなしあいましょう」
「え? いやあの別にそこまでせんでも……」
そう戸惑うケイトを、幸村は誠意を見せると言って無理やり廊下へと連れて行った。
なんというか多少演技臭かった気もしたが……。
「ちょ……ユッキーなにを……あぁーーーん!!」
「びくっ!」
廊下から聞こえてくるケイトのなまめかしい声に私はつい反応してしまう。
そして数秒後。二人が部室へと帰ってきた。
「ユッキー……愛してるよ」
「なにがあった!?」
思わず私はツッコミを入れた。
先ほどから十秒も経っていない。
なのにご立腹だったケイトが、幸村と廊下に出た瞬間ご機嫌ムードに変わっている。
一瞬だけ聞こえてきたケイトの女としての叫び。そして幸村が相変わらずの無表情だがどこか勝ち誇ったような雰囲気で。
「幸村君。まさかケイト先生を懐柔したんですか?」
「たしょうおとこぎをみせたら、いちころでした」
「お前はどこの特命係長だ!? 高橋○典なのか!?」
理科の質問に意気揚々と答える幸村に、私はまたもツッコミ。
なんというか、小鷹がいないとそういう役目が全部私に回ってくるな。
こういうのを仕切るのはあいつの役目だろう。あいつめ、今頃柏崎に言いくるめられているに違いない。
くそ、小鷹……早く戻って来い。
「何があったかは詳しくはわかりませんが、幸村君も中々のやり手のようですねぇ」
「……今回であいつの底が知れないことがわかった。理科、あいつを一人にしたらだめだ。何をするかわからない」
「そうですか。なんならいっそのこと幸村君に鞍替えしてみては? どこで女と何しているかわからない男のケツ追いまわすよりはずっと利口だと思いますよ」
そう、嫌味ったらしく理科が私に言った。
数日前の買い物に行った日以降、またこいつの嫌味癖がひどくなったような気がする。
それも、今までと違って小鷹がいようがいまいが容赦なくなっているような気がする。
まぁ、気にする必要はないが。こいつと私は……相容れぬ道にいる。
「……余計な御世話だ」
「まったく。そこまで執着しているのを見ると、疑わざるを得ないんですよ。小鷹先輩と何かあったんですか?」
「……貴様の思いすごしだ」
そう、私が突っぱねると、理科はさらに機嫌を損ねる。
そして、無言で私の方へと向かっていき。
顔を近づけて、凄むように私の近くでこう言った。
「……夜空先輩、"僕ら"をあまり過小評価しない方がいい」
「は?」
「今回のでわかったでしょう? あなたを含めて……この部活には"まともなの"がいない」
そう、あえて侮辱するように理科は言う。
「……貴様がそれを決めるのか? 貴様こそ……見下すな、私たちを」
「だからよ、その発言一つが自分勝手なんだよ夜空ちゃんよ。僕だってまともじゃねぇよ、まともじゃねぇんだよ。人間的な意味でも、クソ食らえな人生一つにしてもなぁ」
「……何が言いたい」
「……変わりたいのは、あんただけじゃねぇんだよ」
そう、強気に理科が私の顔を睨んだ。
私自身もせいいっぱい威嚇しているはずだ。
だが、それに負けることなく、理科も引くことが無い。
「だからこそ、自分の都合よく動こうとするんじゃねぇよ。僕たちは"隣人部の仲間"として……もう"他人同士"ってわけにはいかないんだよ。あんたはいつまで……"他人には関係ない"って言い張るつもりだ?」
「……仲間……か。学校に重宝されている天才様に、そう思われて光栄だ」
「夜空先輩!!」
その私の言葉が引き金になり、理科は感情を抑えきれずに私の名前を叫んだ。
そして、これ以上の私の言葉を遮るように、辛そうに……苦しみながら言葉を続ける。
「……理科は、この部活に入った時から、けして全てを嘲笑ってなんていないんですよ。遊びでなんて……思っていない」
「……」
「……夜空部長。あなたと……小鷹先輩がいてくれたから」
その理科の言葉に、私は耳を傾けずに部室から去ろうとした。
だめだ。そこで、彼女の言葉に耳を貸してはいけない。
今のままでは、またあの時を繰り返すだけだ。繰り返して、待つのは絶望だけだ。
むなしさだけだ。大切な者がけして大切な物として続かない……悲劇だけが生まれる。
だから……例えその想いを踏みにじったとしても。その結果、鬼にも悪魔にでも成り果てたとしても……。
私の答えは……過去にしか存在していない。
「……よーぞらくん。彼女の言葉を持ってしても、君の目線は違う所にあるんだねぇ」
「…………」
「まぁ、いいさ。やりたいように、やってみればいい」
最後にケイトはそう私に告げた。
その言葉に、こいつらの想いに対して……。
この時の私は、偽りを貫き通せただろうか……。
――もしかしたら……私は……。