新約 僕は友達が少ないIF   作:トッシー00

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第三話です。

※『三日月夜空』視点。


僕は友達が少ない

『なにかあったら、いつでも相談にはのるからねぇ~ん』

 

 …………。

 何が相談には乗る……だ。あんなへらへらした顔で言われても、信用などできるものか。

 去年の秋から今に至るまで、私は何度あのおちゃらけ教師に絡まれてきただろうか。

 会うたび会うたび友達はできたかだとか、もう少しポジティブに生きようやだとか、余計な御世話だ。

 しかも、私の悩みを解決させようと息まいているにしては、あの教師……。

 

「なはは。夜空の宿題は簡単だなぁ。こんなもんお猿さんでもできるぞ~!!」

 

 と、生意気な発言をしている今私のそばにいる小娘。

 小柄な少女が来ている服装はこれまたシスター服。そしてそこからちらりと見える輝かしい銀髪。

 そう、この小娘はあのめんどくさい高山ケイトの妹――"高山マリア"だ。

 容姿はあの姉を一つスケールダウンしたような感じ。そして印象は違う物の姉が姉なのか……ものすごく……うざったい。

 

「感謝するのだ夜空。お前がめんどくさいと嘆いていたから私がちゃちゃっと解いてやったのだ! 今日はポテチだけじゃなくチョコレートもつけるんんんんん~!!」

「調子に乗るなこのクソガキ……」

 

 隣で偉そうにしているマリアのほっぺを、私は思いっきりつねり引っ張って伸ばす。

 まるで柔らかいお餅のように伸びたそのほっぺを、私は伸びきったところでぱんっと離す。するとマリアは痛そうに床に転がりまわっている。

 

「んぎゃーーー!! 恩人に向かってなんたる無礼なのだ!! お前には神への感謝の心もないのか!?」

「誰が神だ。それに感謝を物で求めるやつに対して素直に感謝などできるものか……」

 

 子供らしくわめき抗議するマリアを、私は冷たくあしらう。

 どうしてこんなガキの面倒を見てやっているのか、理由はあのお茶らけ教師の……。

 

『悪いねぇよーぞらくん。この"談話室4"自由に使っていいからさ、そこにいる私のクソ可愛い妹とたまに遊んであげてよ。まぁ日ごろ相談に乗ってやっている私への恩返しとでも思って、レッツボランティアよろしく~!!』

 

 ……なにが日ごろの恩返しだ。貴様に恩なんてないわ!!

 だが……こう静かで広い一室を、うざったいガキ一人いるのがネックだが自由に使っていいというのは子守り一つにしてはメリットが大きい。

 マリアはお菓子をあげれば面倒な宿題もやってくれるしな。あの教師への日ごろの感謝など知ったことではないが、仕方なく貴様の妹と戯れてやろうじゃないか。

 

「まぁいい、約束のお菓子だ」

「おぉ~!! 夜空優しいのだ大好きなのだ!」

 

 私からポテチを貰い上機嫌になるマリア。

 まったくお菓子一つで優しい上に大好きか、お子様は気楽でいいな。

 最も、私は貴様の事など大嫌いだがな。子供は嫌いではないが生意気なクソガキは好きじゃないんだ。

 

「……にしても、この一室がこうなにも使われていないというのはもったいないものだな」

「使われていないとは失礼な。ここは私に与えられている立派な居室なのだ。だからけして無意味じゃないぞ」

「正確にはお前のクソ姉貴にだがな。お前はアレにいいように言いくるめられているだけだよ」

 

 この学校のシスターの仕事には、学校施設の管理が与えられている。

 この談話室4の管理人は高山ケイト。だがケイトは掃除することを条件に自分の妹にここの居室の管理を丸投げしている。

 それってやっていいことなのか? まぁあの教師は私のような一生徒にも自分の仕事を振るようなことまでやるからな。

 このマリアも言いくるめられているというならば、この私もあの教師の手のひらで踊っている者の一人なのかもな、非常に癪な話だが。

 

「さて、昼休みも終わったし。授業に行くか」

 

 学校の時計盤が昼休みの終わりの鐘を鳴らしている。

 ぼっちだがこれでも真面目な生徒で通っているのでな、せめて見栄えくらいは良くしておかねば無駄に敵を作る。

 私には味方がいない。だがその分敵もいないのだ。

 孤独な狼が野生の土地で生き残るには、無駄な争いは避け、日々慎重に餌を見つけ食らい続ける。

 自らが食われぬように、それはけして奥病などではない。術なのだ。

 だから私は弱くない。なぜなら一人でも行きぬく術を知っているからだ。その術を……身に付けたからだ。

 しかし、それでも心の奥にぽっかり空いた穴は……ふさがることはないのだがな。

 

「そうかそうか、またお菓子よこすのだ~」

「ふん。卑しいガキだ……」

 

 そう言葉を吐き捨て、マリアに別れを告げた。

 

-----------------------

 

 放課後……。

 

「さてと、どこで時間を潰そうかな……」

 

 そう、私がこの先どうするかを考えていた時。

 

「おぉ探したぞよーぞらくん」

「……」

「お~い無視か~? もう相談のってやんないぞぉ~。少しは日ごろ頑張っている社会人を敬えよこの~」

 

 後ろの方でやたら耳にざわつくおちゃらけたしゃべりで語りかけてくる人物。

 先日の今日でこれか。まったくどうしてこうこの人はしつこいんだか……。

 

「はぁ。何の用でしょうか? マザー・ケイト?」

「おいおい出会い頭わざとらしく礼儀正しくされても困るよん。お姉さんの事は友達と思ってタメ口でいいのよん?」

「一応私の方が年上なのだが……。今日は何の用だ? これ以上私を探るなと忠告したはずだ」

 

 そう私は強気に視線をケイトに向ける。

 もう何度関わらないでほしいと言ったことだろうか。だが相手は面白そうに私に近づいては話しかけてくる。

 こんな私と話をして何が楽しいのか。やっぱりこんな私を心の奥では笑っているのではないのか?

 

「そのさ。ちょっと言いづらいことなんだけどねぇ」

「じゃあ言うな」

 

 そう冷たくあしらい、私はその場を去ろうとする。

 

「あぁ待って待って!! わかった率直に言おう。全くよーぞらくんはノリが悪いねぇ。そんなんだと、男にモテないぞ☆」

「あ゛ぁ゛?(※心からの怒りを込めて)」

「……なんちゃって冗談冗談。ちょっと頼みたい事があってね」

 

 そう言って、ケイトは一枚の封筒を私に握らせる。

 

「……これは?」

「特別教室棟の三階の突き当たりに"理科室"がある。そこにいる奴にその資料を渡してほしい」

 

 と、ケイトは普通に言っているが。

 これは明らかに、仕事の押しつけだ。

 いつもこうだ。頼みたい事があるだのなんだの軽く言っては小さな仕事を無理やり振ってくるのだ。

 

「自分で渡してくればいいだろう。こんなもの」

 

 当然私は反論する。

 ただでさえ見知らぬ人物に出会いたくなどないというのに、こんな伝達仕事なんて御免だ。

 だがケイトは、手のひらを合わせては、いつものように大げさにお願いをして見せる。

 

「たのむよ。一生のお願いだ!」

「その一生をもう幾度使用したと思っているんだ?」

「細かいこと気にするなよぉ。気持ちが堅いと肌荒れに響くんだよん?」

「……殴るぞ(怒)」

「ごめんごめん」

 

 結局いつものように、流れに身を任せるかのように私がその伝達を引き受ける形に。

 あぁどうしていつもこうなるんだよぉ。本当に嫌だというのに……間の流れという物は容赦がないんだから。

 

「いやその理科室の住人と先日喧嘩しちゃってさぁ。正直数日は顔を合わせたく無いっていうか、私事なんだけどねぇ」

「ほう、貴様でも他人を嫌悪することがあるのだな。てっきり学園全ての生徒と友達になるような平和バカだと思っていたが……」

「あはは。お恥ずかしいことだ」

 

 そうてへっとわざとらしく恥ずかしがってみせるケイト。可愛くないから、そんなことやってもうざったいだけだから。

 しかし、そんな奴相手にどうして私を送り込もうとするのだか。

 ……というか理科室の住人ってなんだ? みんなが共用して使う教育の場に住人なんて存在するのか?

 科学研究会の会長とか、そういった人物なのか?

 

「……仕方ない。その頼み受けてやるからしばらく私に話しかけるなよ」

「頼んだよん~」

 

 そう頼みを快諾する私を、陽気に送り出すケイト。

 後半私の言った約束を守る気はあるのだろうか。いや、きっと近いうちに何もなかったかのように話しかけてくるだろう。もう諦めよう。

 私は受け取った書類を持って、今いる棟から特別教室棟へと行く。

 棟に入ると、多目的室やコンピューター室のような、授業で使う教室がびっしりと並んでいる。

 その突き当たり、奥の方に理科室は……あった。

 

「……思ったが。"科学室"……じゃないのか?」

 

 理科室を目の前にして、私はそう疑問に思った。

 私達が理科の授業で使用する教室は科学室のはずだ。だが今目の前には理科室がある。

 科学室と理科室。名称は違うが似たような教室がそこに存在している。

 というか二つ作る必要があったのだろうか。ん~、考えてもわからない。

 

「まぁいい、入ってみるか」

 

 入ってみれば何かわかるだろう。私はいざ理科室に入る。

 この封筒を、最低限の会話だけしてその住人とやらに渡して帰ればいい。

 これは仕事だ。赤の他人との接触は最低限でよい。多少勇気が必要だが……。

 

「おじゃま……します」

 

 理科室に入りそう言葉をかける。

 その教室に入ると、広い教室内には理科で使うような実験道具が並んでいた。

 ビーカーにフラスコ。人体模型など一通りの物が揃っている。

 見たところ科学室となんら変わらない。名称が違うだけで中身は同じ。

 ……というわけでもなく、科学室と決定的に違う個所を私は発見してしまった。

 奥の方にある立派な鉄扉。それもセキュリティを採用している頑丈な扉。

 反対方向を見渡せば、理科の実験で使うような道具とは明らかにかけ離れた……巨大な装置が数多く立ち並んでいる。

 

「なんだ? こ、これはまるで……」

 

 そう、これはまるで……何かの研究所のような教室だった。

 

 プシュー!

 

「!?」

 

 突如奥の方で扉の開く音がした。

 先ほどのセキュリティで守られている鉄扉だ。その扉が開き、中から人が出てくる。

 理科室の住人。いったいどんなやつが出てくるのか。よくフィクションで見る白衣に眼鏡をかけた……。

 

「……どちらさまですか?」

 

 そう私に言葉を投げかけてきたのは、白衣に眼鏡をかけた……"少女"だった。

 長い髪の毛を後ろに一本でまとめている。それが馬の尻尾のように左右に揺れている。

 外見こそ科学者のそれだが、それにしてはまだ幼い。外見だけ見れば清楚というか、おしとやかな雰囲気を感じ取ってしまう。

 歳は私と同じくらいだろうか。白衣の下には私と同じ聖クロニカの制服を着ている。

 ということはこの少女もこの学校の学生か。学生で科学者……わけがわからない。

 

「あ、その……」

 

 おっといかんいかん、早くこの封筒を渡さないと……。

 

「こ、この封筒をあなたに渡すように頼まれたん……ですけど」

「…………」

 

 そう言って封筒を差し出すと、白衣の少女はゆったりとこちらに近づいてきた。

 目の下にはクマができている。ろくに寝ていないのか……?

 

「……」

 

 そう近づいて来て、少女は言葉の一つも発することなく、パクンと私から封筒を奪い取った。

 どうにも感謝のない受け取り方だ。少し腹が立つ。

 

「……学校のイベント類のお知らせ?」

 

 どうやら封筒の中に入っていたのは、この学校の生徒らが作ったチラシの数々だった。

 少女はそれらに目を通すと、まるでくだらないものを見たかのように……、丸めてそれらをゴミ箱に捨てた。

 

「なっ……!」

 

 この行動には私自身も少し動揺の色を見せる。

 確かに私もこういったリア充のイベントには興味ない。

 しかし、こうすがすがしいほどにそのチラシを捨てられると、どうも変な気持ちを抱いてしまう。

 そう、まるで……生徒らの小さな努力にはなんの興味もありません。と言った具合に……。

 

「……用件はそれだけですか?」

「あ、あぁ……」

「そうですか。帰っていいですよ。"僕"は忙しいんです」

 

 そう言って、まるで邪魔虫を追っ払うかのようにその少女は私を邪険にあしらう。

 これは私にとっても好都合。だが……気にいらない。

 

「……そう、物を届けてもらって何もなしか。貴様も人が悪いな」

「……貴様"も"?」

 

 思わず悪態つく私。

 しまった。会話は最低限のはずだ。変に油を注いでしまったようだ。

 私の言葉に少女は反応する。そしてずんずんとまたこちらの方に向かってくる。

 

「むっ……」

「……なるほど」

 

 そう少女は納得したように、私の表情を見て嫌らしい笑みを浮かべた。

 

「なにが……なるほどなのだ?」

「なにがって、お前もろくな生き方してないんだな……って」

 

 今度は少女が私に嫌味を言う番だった。

 しかも嫌味ったらしいその笑みがその言葉に威力を上乗せする。

 この程度の挑発、乗っては負けだとわかってはいるが。

 

 私は……この女が気に食わない。

 

「……なんだと?」

「図星ですか? 目が笑ってないですよ。怒りがむき出し……やっぱりろくでなしじゃないですか」

 

 鋭く睨みつける私に怯むことなく、そう挑発してくる少女。

 ろくでなしだと、初対面でこの私に……面白い。

 

「気にいらんな。その物言い……」

「なにがです? お互いさまじゃないですか。意地になる所も、こうやって見知らぬ他人が嫌で仕方ない所も……」

「……貴様と一緒にするな」

 

 そうだ。こんな白衣を着て目の下にクマ作って、研究三昧で引きこもってますみたいなやつとはけして同じじゃない。

 本当になんなんだこの女は。まるで同類を見つけたとでも言いたげに笑いやがって。

 

「ふふふ。僕にはあなたが何を考えているかはわかりかねますが。まぁろくなことを考えていないのはその表情を見ればわかりますよ」

「なに? 言わせておけば好き勝手……」

「だって……ねぇ……」

 

 まるで、全てを見透かすかのような視線を少女は私に向ける。

 そして、少女は……私の触れられたくない領域に一歩足を踏み込む。

 

「何かを必死で……求めているような顔をしてるんだよ。お前は……」

「……なに?」

「本当は自分を見てもらいたいのに、自分を救ってもらいたいのに。自分の中の"何か"がその切望を邪魔している。信じたくても信じきれない、ずっと怖がって……怯えている」

「くっ……」

 

 そうやって見えない何かを言い当てるかのように少女は次々と言葉を口にする。

 それはあざ笑うかのように、哀れむかのように。ズカズカと……人の思いだしたくない所に。

 

「論理なんていりませんよ。結論だけで十分……でしょ? 言わずとも良いことだからそうやって苦い顔してるんですよね? わかりますよ……先輩」

「……なにが……わかるというのだ?」

「あなたも変われなかったのでしょう? 僕と同じだ」

 

 ……やめろ。

 

「どうやっても変革を遂げることができない、今そこにある鳥かごで満足している」

 

 ……やめろ。

 もう……これ以上。

 

「そうやって何かから逃げ続けて、やらかしてやらかして……」

「……やめろ」

「そしてやらかし続けた結果、全てを……」

「いい加減に、その口を閉じろ……」

 

「そうやって全てを……"諦めた"んd」

 

 ガシャン!!

 

 そう言い寄られ続けた私の中の感情が、咄嗟に爆発した。

 私はそう嘲笑う少女を思いっきり押し倒し、これでもない程の表情で睨みつける。

 そして少女の顔前で、私は奥底から叫び散らした。

 

「貴様に……貴様に私の何がわかるというのだ!?」

「……」

「変われなかったからなんだというのだ!? 逃げ出して、抗い続けて……でも、それでも……!!」

「…………」

「――忘れられないんだ。"あの時"の……ことを……」

 

 そう、感情に全てを任せ、つい少女の前で弱さを見せてしまった。

 思わず耐えられなかった。少女の言葉の数々に。

 だからこそぶちまけた。私の過去の断片を。

 しかし、少女はまるで興味がないといったように、乱れた自分の髪を払いのける。

 

「……くだらねぇ」

「なに……?」

「僕からすればくだらない。本当にくだらない。そんなくだらないことにこだわっているから……"変われない"んだよ」

 

 そう、少女はどうにも現わせない目の色で私の怒りを見つめる。

 その目つきは何を現すのか。その眼の奥にあるのはなんなのか……。

 全てに興味を示さないお前の心の奥底には、私に似た何かが潜んでいるというのか……。

 

「……変われない……だと」

「はい、変われないんですよ。あなたも……僕も……」

「一緒にするな。お前……ごときと」

「……なんだと?」

 

 その私の一言に、傍観していた少女の表情に、微々たる怒りが滲み出る。

 そんなお前に言ってやる。私の野望と、宣言を……。

 

「変われなかったのは今この時までだ。今の私には……この現状から脱却できる術がある」

「……ほう?」

「失ったのなら取り戻せばいい。壊れたのなら直せばいい。私は取り戻すんだよ……そして……」

「……」

 

「このくだらない青春滑稽劇(コメディ )に……反逆する!!」

 

 私は高らかに、少女に向かって宣言して見せた。

 その宣言を聞いた少女は、理科室の天井を見据え対抗するように高く笑う。

 

「あはっ……あははははははははははは!!」

 

 少女は笑い、勢いよく体を横にずらし、マウントの状態を解く。

 そして私に馬鹿にするような笑みを浮かべ、こう言い返してきた。

 

「かっこいいですね先輩! でもね、そんな小学生同然の考えでかっこつけられたって……笑い話なんだよ馬鹿が!!」

 

 そう吐き捨てると。少女は近くに置いてあったロボットのプラモデルを手に取る。

 そしてそれを地面に投げ捨て、何度も何度も踏みつぶす。

 その残骸を私に見せつけ、なおも私を否定するように。

 

「あはは。こんな風に、形ある物が壊れれば元あった形には戻せない。お前が何を失ったかは知らないけど……ふふ。無理なんだよ!! お前みたいな腐って堕ちた奴が! 表舞台で主役張るなんてな!!」

 

 ただ、少女も意地になって私を罵倒し続ける。

 こいつ、人の事を言えた義理ではないが……相当歪んでいる。

 ねじ曲がっている。もう変われないみたいに、変わることを奪われたかのように……。

 

「……三日月夜空……二年だ」

「はぁ?」

「私の名だ。先に名乗られるのが癪だったからな、先に名乗ってやったぞ」

「ククク。またずいぶん韻の踏んだ綺麗な名前ですね。ただ夜空というだけ人物自体は相当暗いですけど……」

 

 褒めているのかけなしているのかよくわからない評価を下すと、少女の方もごほんと咳をして、私を正面に見据える。

 

「……"志熊理科"、一年です」

「……そうか」

 

 志熊理科……か。

 こいつもまた、私と同じ存在なのかもしれない……な。

 だが……。私はけして哀れんだりしない、心を許したりはしない。

 

「そうか、覚えておこう。最も……お前とは今後一切わかり合うことはないだろうがな」

「お互い様ですよ。僕もあなたみたいな口だけの根暗女とはわかり合いたくありません。おまけに容姿もスタイルも……くっそ!!」

 

 お互いに最後まで、互いを罵り合う言葉を吐き合わせ、二つに裂けるようその場で別れた。

 理科室の……志熊理科。ずいぶんとまぁ、この学校にもひねくれた奴がいたものだな。

 最も、私も人の事は言えたものではない……が。

 

「……好き放題言いやがって、思いだしたくなかったのに。思いだしちゃったじゃないか……あの……過去を」

 

 そう私は去り際、目に一粒の涙を浮かべていた。

 

-----------------------

 

「くそ、腹が煮えくりかえるようだ」

 

 放課後の教室、外は夕暮れ。

 私は素直に下校せず、自分のいる教室に一人外を見ていた。

 こうして色んな事があったが、私の中で変革は起きていない。

 何も変わっていない。何も……。

 このままでいいのか、ただ様子を見続けて……。現状に甘えるだけで。

 未だに羽瀬川小鷹ともまともに話を出来ていない。そもそも……話しかける手段が思いつかない。

 だからこそ私はずっと待ち続けていた。あいつから私に話しかけてくることを。

 あいつが私に"気づき"、優しく声をかけてくれたのなら、こんなにも私は……瞑想しなくていいのに。

 

「――なぁ、"トモちゃん"はどう思う?」

 

 どう気が狂ったのか、私は突如何もいないところに話しかける。

 これが私の趣味の一つである。通称"エア友達"。

 世間一般ではイマジナリーフレンドとでも言うのだろうが、私からすればそんな言葉ですませてほしくはない。

 なぜならトモちゃんは本当に傍にいるから。私の横に、裏切ることなくほほ笑み続けているから。

 とてもすごくて、とても頭が良くて。

 そして……絶対に裏切らない……から。

 私にだって、こんな独り言はばかばかしいと自覚している。

 だけど……抑えられないんだ。

 こんな空想の存在に身を委ねても何も変わらないことは知っている。仮に本当にトモちゃんが存在するとしても、トモちゃんはリア充で、私なんかと友達になんてなってくれないだろう。

 

 ――けど、それでも。

 

 そこにないものをあるように演じると、本当にそこにあるような感覚に陥る。

 全てに諦めた私にはこんなものにしか打ち込めない、けど……それを一生懸命やることに意味があるのだとしたら。

 恐らく私は、とても満足しているのだろう。

 ただ自分を諫めるだけに、慰めるだけ、癒すだけのたった一人のトモちゃんを、私は必死に作り出すことに快感を感じているんだ。

 これの何が悪い。だれが否定できる。否定して見ろ。この私が行きついた先の歪みの象徴を……。

 

「……馬鹿げてる」

 

 そう呟いた後、全てを振り払うかのようにエア友達を再会する私。

 

「それで、あの時トモちゃんが言ってt――」

 

 ガラガラガラッ!!

 

 その瞬間……。

 教室の扉が、勢いよく開いたそこにいたのは……。

 濁った金髪の、目の鋭い少年。

 転校してきて一ヶ月、誰とも友達のできない孤独な少年。

 その目つきは鷹のように、全てを射止める金色の少年。

 

「「……あ」」

 

 そう、私と少年の目が合う。

 そう、私と少年が同時に呟く。

 

 ――ようやく来たな、羽瀬川小鷹。

 ようやく目が合ったな、ようやく……この時が来たんだな。

 

 待っていた。本当に待っていた。

 ずっとこの時を……待っていたよ。

 

-----------------------

 

「――そうだろ?」

 

 お前と私の"出会い"で……止まった時間は動き出すのだ。

 

 

 

 NEXT――『IFルート』。




これにてプロローグ終了となります。
次回からIFルートの物語は本格的に動き出しますよ。
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