新約 僕は友達が少ないIF   作:トッシー00

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第四話です。

※「羽瀬川小鷹」視点。


第一章 隣人部創部編
羽瀬川小鷹~運命の少女との出会い~


「ねぇ、あの人……」

「あぁ知ってる。転校してきたばかりの……」

「すげぇ髪の色だな。俺も金髪だけは染めないようにしよ」

「眼つきも超怖いし。絡まれたりしたらどうしよぅ……」

 

 ……時より、こういった話をヒソヒソと耳にする。

 この学園に転校した初日から今に至るまで、俺はそういった存在のように扱われている。

 

 ――染めそこなった濁った金髪に、得物を狙うような鷹のような鋭い目つき。

 

 けして俺自身が、そういった外見に見合った性格の、歪んだ男ではない。

 俺自体は争い事などを好まず、ただ誰かと仲良く遊んだり、話したり、そういう平和な毎日を過ごせればいいと思っている。

 だけど他人から見れば、人の印象なんて外見から入るもの。

 それに加え俺自身、しようとすること全てにタイミングが合わず、失敗してばかりなのが更に俺を浮いた存在にしている。

 当然俺は、不良と勘違いされるばかりの毎日は嫌だ。だから日々努力している。

 だけど、どうしても……いつまでたっても……それが成果に実ることはない。

 

 ――俺、羽瀬川小鷹は……友達が少ない。

 

-----------------------

 

「体操服忘れた……」

 

 五月が終わりに差し掛かったある時期。

 俺は今日体育で使った体操服を忘れたことに気づき、下校中の道からめんどくささを心の淵で思いつつ、学校へと戻る。

 運がよく、学校はまだ閉鎖されていない。俺は急いで学校内に入り、駆け足で自分の教室へと赴く。

 学校内はすでに下校時間のためか、廊下にはほとんど生徒がいない。

 俺は夕日が照らすオレンジ色の廊下をただ歩く。

 

「早く帰らないと、妹がお腹をすいたとうるさいからな……」

 

 先に家に帰っているであろう中学生の妹のそんな顔を思い浮かべ、俺は自分のクラス――2年5組へとたどり着く。

 あとは体操服を回収して家に帰るだけ……だ。

 

「――あはは、そんなことないってー!!」

 

 と、俺が教室に入ろうとした時、中から声が聞こえた。

 耳にすんなりと入ってくる。透き通った女子の声。

 明るく話しかけるその声色は、綺麗に空気中を伝わっている。

 なんだ。誰かがまだ教室に残っていたのか。まずいな……入りにくいな。

 しかも誰かと話をしている中俺が入れば、せっかくの楽しい雰囲気を壊してしまうこと間違いないだろう。

 どうする、少し様子を見てからこっそり回収するか……。

 

「だってさー! ……」

 

 そう、楽しそうに話している女の子の声が突如途切れた。

 いったいどうしたんだと、俺はこっそり教室の戸を少し開け、中の様子を見る。

 

「……一人しかいない」

 

 教室内を見ると、そこには少女が一人しかいない。

 ならば先ほどの会話は電話のものか……と思ったが、少女は電話を手にしていない。

 いったいどういうことだ。誰と話をしていたのだろうか。

 俺はしばらく様子を見る。すると、その少女は楽しそうな表情を少しずつ崩し、突然不機嫌になる。

 

「……馬鹿げてる」

 

 よく聞こえなかったが、そう言った少女の表情は……とても悲しい表情をしていた。

 先ほどまで綺麗でいい声で話していた人物が、一瞬にして消えたとさえ思った。

 少女はしばらく外を眺める。するとまた、"見えない何か"に向かって会話を始めた。

 

「あははごめんごめん! あの先生本当にめんどくさいよな~」

 

 まるで、別人になったかのようだった。

 先ほど呟いた一言に感じられる重さが嘘のように、またもその声は良い音色で……ここちよく耳に入ってくる。

 そしてその少女が浮かべる笑みは、正直言ってとても可愛かった。

 きっとあの笑顔をずっと振りまいていたら、誰もがあいつに話しかけてくるんだろうな。

 いい表情。俺のような強張った、凶悪な笑みとは打って変って……。

 

「……悔しい……な」

 

 俺は思わず呟いてしまった。

 そして先ほど抱いた疑問に戻る。なぜあの少女は、誰もいない所で一人で会話をしているのだろうか。

 遠目ではっきりとは見えないが、やはり電話をしているわけでもない。

 なら考えられることは一つ。あの少女は……"見えない誰かと話している"。

 

「……なにやってん……だ?」

 

 俺はもう少しだけ教室の扉を開いた。

 これ以上はあちらにバレる。バレたら怖がられて大声で逃げられるかもしれない。

 それで先生を呼ばれて「また君か」なんて言われるのは恥ずかしくてごめんだ。

 俺はその少女の姿をはっきりと目に捉えた。

 

 夕風になびく紫がかった黒髪。

 背は高くもなく低くもなく、かなりの細身。

 やたら整った顔立ち。きっと外見だけ見れば誰もが見惚れ惹かれるんだろうな。ってくらいの美少女。名前は……思いだせないが。

 なぜ思いだせないか、あまりあの少女が、学校で何かをやっているところを見たことがないから。

 容姿は抜群にいいのに、どうしてかこう印象が薄い。目立つのに目立たない。そんなイメージだった。

 確かいつも、教室の前の席で不貞寝していたり、不機嫌な表情で外を見ていたり、黙って本を読んでいたりしていたような。

 要は文学少女で、お祭り事が嫌いな感じか。あれだけ笑ったら可愛いのに、とてつもなくもったいないな。

 ――見えない誰かと会話する、目立たない文学美少女……か。

 

「……変な奴」

 

 悪いとは思ったが、俺はそう苦言を漏らした。

 こんな転校数ヶ月で学校で孤立してる変な髪の男に言われれば、いくら彼女でも怒るだろうか。

 これはますます近づかない方がいい。下手したら怖がって気絶してしまうかもしれない。

 もう少し遠目から様子を見て、あいつが教室から離れて少し経ったら、体操服を回収するとしよう。

 俺はそう考え、その場から離れようと扉を閉めようとした……その時。

 

 ガタンっ!!

 

 ……やっべ!!

 

「!?」

 

 その場を離れようとした瞬間、足が扉に引っ掛かり少し大きめの物音を立ててしまった。

 これじゃあのぞき見してたことがバレバレだ。あっちも変な秘密見られて動揺してる。

 少女は音の鳴った扉の方を見る。眼が合う前に扉を閉め、扉越しで背を向け焦る。

 

「……それで~」

 

 だがその少女、少し経ってまたもや変な独り言をし始めた。

 俺を油断させるつもりなのか? なにか変なことを考えてはいないだろうか。

 この場は勢いよく逃げた方がいいのか、でも……そういうのもあまり好きじゃない。

 逃げる際に下手して俺の姿を少しでも見られたら(特徴的な髪の色ですぐわかる)、また変な噂が広まる。

 あの不良転校生、女の子ストーキングして何かしようとしてたよとか、もうこれ以上そういうのはやめてほしい。割とマジで……。

 誤魔化すにしても俺は口が上手ではない。口が上手ならもうとっくの昔に学校になじんでるはず。

 なら、逃げに徹しず真っ向から挑むしか……ない?

 

 ガラガラガラッ!!

 

「!?」

 

 俺は勢いよく扉を開けた。え? なんで? 普通に入ればいいのになんでそんな強気に扉開けてんの?

 これじゃまずます相手を怖がらせるだけじゃねぇか! でも緊張してるのか、思考と行動が一致していない。

 俺はどういう顔をしていいのか分からず、変に愛想笑いを浮かべてる。

 あぁ知ってる。今の俺の笑顔、めっちゃ怖いはずだ。それも焦っている分いつも以上に……。

 当然少女は少し怯えながらこちらを見ている。怯えているというか引き気味というか……。

 

「あ……あ~」

 

 俺は頭をポリポリ書きながら、あははと笑顔を浮かべて自分の席へと向かう。

 これ、第三者から見れば明らかに美少女を襲おうとしてる暴漢だからね。やばいって絶対明日こいつ変な噂流すって。

 明日登校第一、「ねぇ聞いた? あの転校生2年5組の○○さんを※※※しようとしたんだって~。こっわ~」って会話が……。

 

「あ~。体操服忘れちゃってさ~」

 

 俺はわざとらしくこの教室に入った理由を口にする。

 本当にわざとらしい。本当の事だけど偽りだらけだ。変だ。ますます今の俺……変だ!!

 

「あはは、なんか邪魔したみたいで……ごめんね☆」

 

 ごめんね☆ の部分。間違いなく今期最大級の凶悪面が俺から滲み出ていただろう。

 ほら、少女の顔が一瞬で青ざめた。恐怖の色がはっきり見える。ぞくってした。間違いなくこいつ今ぞくってした!!

 絶対今こいつ頭の中で「私襲われる。どうしよう怖いよ」って思っている事だろう。だが安心しろ。そんなことないから。その不安一瞬で終わるからもう少し我慢して!!

 変に考えても仕方ない。思いこんでも仕方ない。この場は……。

 

「あはは、さよなら~」

 

 そう喉から一生懸命絞り出すように言い、その場を駆け足で離れた。

 

-----------------------

 

「なんか……申し訳ないことしたなぁ」

 

 体操服を回収した帰り道、学校の外にて。

 俺はもう少し上手くできなかったものかと、先ほどのやり取りを思い返してみた。

 ただ何も余計なことを言わず、無表情で体操服を持って教室を立ち去ればよかったのではないだろうか。

 色々やり方はあったはずだ。それがどうしてこう……他人を怖がらせる気もないのにそういうことになってしまうのだろうか。

 

「……あぁ、俺この学校で友達できるかな」

 

 台詞だけ聞けば小学生のそれだ。それがこんな凶悪面の高校二年生が発して良い台詞じゃない。そこから物語が生まれるわけがない。

 そんなくだらないことを思っていると、ベンチのある道へ差し掛かる。

 三~四つ立ち並ぶベンチの真ん中らへんに、誰かが座っていた。

 というか空を見上げだらけていた。シスターが……。

 手に炭酸ジュースを握っている。シスターが……。

 

「……」

 

 疲れて寝ているのだろうか。

 俺はそう思いながら、邪魔をしないようにその場を通り過ぎると。

 

「ふ~ん。寝ているであろう美少女の太ももと胸に欲情して襲おうとする奴……ではなさそうだねぇ」

 

 なにやらとてつもなく心外な一言が、ベンチの方から聞こえてくる。

 俺は少し驚きながらベンチの方を振り返る。

 すると、先ほどだらんとベンチに座っていたシスターが、こちらに笑顔を向けていた。

 シスター服から見える銀髪が輝いて見える。そして幼さを残しながらも……整った美人顔。

 さっき教室にいたあいつに匹敵するほどの美人だ。こう一日に二回も……運がいいのか悪いのか。

 

「あ~。きみぃ」

「……俺?」

「そうそう、君だよ。き・み」

 

 どうやらそのシスターは俺をこちらに呼んでいるようだ。

 なんで? どうして? 良く聞こえなかったけどさっきの一言と関係あるの?

 

「……なん……ですか?」

「そんな身構えんなよ。君が噂の転校生の……えー」

「羽瀬川小鷹です」

「そうそう。ごめんね~」

 

 名前を思い出せないようなので、俺はそのシスターに自己紹介をする。

 するとシスターは悪びれたわけでもなく、軽くおちゃらけた笑みを浮かべて軽く謝る。

 なんだこのシスター。すげぇ変人オーラがする。こうドラ○ンボールに出てくるZ戦士よろしく、戦闘力が半端ない。

 戦闘力たったの5の俺ではあっさり殺されそうだ。と、そういう話題は置いておきだな。

 

「それで、俺に何の用ですか?」

「君さ。なんかこう噂じゃあカツアゲしてるとか女子を舐めまわすように見てるとか聞くけども……」

「そんなことやった覚えがありません!」

 

 そうシスターに追及され、俺はきっぱりと強気に答える。

 そうやって俺を見る先生はもう何度目か。お願いだからやめてほしい。

 転校してから四回ほど呼び出しをくらい、何度かシスターから相談に来いと勧められたが。

 俺はそんなつもりはないし、見た目だけで中身を見ずにそう同情されるのなら……これ以上の屈辱はない。

 

「……そっかい。君がそう言うなら……やってないんだろう」

「信じてくれるんですか?」

「モロチン……じゃなかったもちろん。先ほどの言葉に込められた感情は焦りなんかじゃない、誠意がこもっている。だから私は君を信じることにした」

 

 そういって、シスターはコーラを飲みほした。

 そしてこちらに笑みを向けてくる。ただその瞳は……真剣さが見て取れる。

 顔は笑っているが、こちらの深層を深々と覗き込む様な……そんな目が俺に突き刺さる。

 

「あれだね、確かその髪の毛は地毛だったね」

「え? なんで知ってるんです?」

「ハーフなんだろ?」

「いやそうですけど、大体の人はこんな染めそこなった髪の毛、地毛だなんて思わないですよ」

「……やっぱりそうだよね。"普通"は……そのはずだよねぇ」

 

 俺がそう言うと、シスターは深く何かを考えるように、もうすぐ暗くなる夕陽に顔を向ける。

 よくわからないが、この髪の毛を地毛だと言ってくれた人がいて嬉しい。俺にはこの変なシスターがだんだん天使に見えてきた。

 

「……なに笑ってるの?」

「いや、うれしくて……つい」

 

 思わず俺は素でにやついていたようだ。

 だがそんな俺の顔を見ても、このシスターは怖がったりしない。

 やっぱり教育者という立場なのか、俺に対しての接し方が生徒とは違う。

 まだ若い女の先生とかは俺を怖がったり、年配の男の先生とかは俺を嫌な目で見たりするけど。

 このシスターは、それらの先生とも違う。

 

「……その、ありがとうございます。俺、シスターさんに会って初めてよかったと思っています!」

「そりゃあ何よりだ。君とは仲良くできそうだ」

 

 そう言って、シスターは俺に握手を求めてくる。

 俺は迷いなくその手を取り、初めてこの学校で親しく話せる相手を見つけられ、心から喜んだ。

 

「シスターの名前、教えてもらってもいいですか?」

「あぁすまんね。私は"高山ケイト"。この格好通り学園に勤務しているシスターだよん」

「高山……先生」

「先生はむず痒いからやめてくれ、ケイトちゃんと軽く呼んでもくれてもいい。それにこれでも私まだ十五でね、君より年下なんだよ」

 

 と、高山ケイトはあははと尻を掻きながらそう言った。

 十五歳で教師って、すごいな……世界は広いんだな。

 ひょっとしたら俺と歳が近いのもあって、俺の心境を理解してくれたのかな。

 

「その、また今度ゆっくり話聞いてもらってもいいですか?」

 

 俺はまた、この先生とお話をしてみたいと思った。

 今はもう暗くなって学校が閉まる時間帯だ。あまり迷惑をかけてはいけない。

 

「あぁいいよん。ただ……」

 

 そう承諾する先生は、最後に何かを言いたげにしている……。

 

「最後に一つ……いいかな?」

「え? なんですか?」

 

「……もし、今の現状を全て変えられる機会があったら……君はどうする?」

 

 ……え?

 

「この孤独な毎日から脱却できるとしたら君はその道を選べる? もし、今の自分が困っている誰かを助けることができるとしたら……その誰かを助けるために努力できる?」

「あの……なにを?」

 

 突如この先生は、よくわからないことを口にした。

 だがその言葉に隠れているのは、今の俺に当てはまる要素。

 そして俺への転機だ。だけど……。

 

「……あぁごめんごめん。こっちの話さ」

「は、はい……」

「色々かっこつけてしまったが、そうさな。要は今の孤独な青春を、楽しい青春滑稽劇(コメディ )に出来るなら君は頑張れるかという質問だ」

 

 そう先生は、俺を試すような眼差しで問う。

 こんな不良扱いされる孤独な毎日を、楽しい日常にできるとしたら……。

 なんだその質問。というかどうしてそんな質問を俺に……。

 孤独な毎日からの脱却、そして……困っている誰かを……俺が助ける。

 

 俺は先日図書室で読んだファンタジー物の小説を思い出した。

 一人の少年が少女と出会い、悪い奴を倒そうとする典型的な小説。

 謎の少女の秘密を知ってしまい、流れるままにその少女を助けることになった話。

 未だにそんな要素が頭の中に残っているものだから、俺は考えてしまう。

 

 言い方はどうであれ、この世界がそんなものとは程遠い現実であることはどうであれ。

 俺がもし、この日常から脱却し……そんな困っている誰かを救えるような。

 俺にしか救えないような、誰かを救えるのだとしたら……。

 

 ――そんな、主人公みたいな存在に……なれるのなら。

 

「そんなの、決まってますよ」

「ほう?」

「俺はその青春滑稽劇(コメディ )に挑戦します。こんな孤独な毎日より……そっちのほうがおもしろそうですから」

「ククク……。こりゃあ面白そうだ……」

 

 そう俺が言い張ると、先生は全てが上手く転がったような、そんな嬉々とした表情を俺に浮かべた。

 

「なら……明日の授業内容が丁度いいな……」

「え? なんだって?」

「気にするな。明日私が君"たち"に機会をやろう。頑張れば君は……この日常から脱却できるかもしれないさ」

 

 そう言い残して、先生は学校へと戻って言った。

 なんかすごい親しみやすいけど、その分やっぱり変人オーラ全開だったな。

 よくわからないけど……もし、この日常から脱却できるのなら……か。

 

「俺自身は頑張ってるつもりなんだけどな」

 

 そうだ。努力しているのだが……機会がなかったんだ。

 転機が、チャンスが。今の自分を変えるキーカードが。

 だから俺の努力は空回りし続けた。

 だから……俺は友達が少ない。

 

 ――そうだろ?

 

-----------------------

 

 翌日。

 

「みなさんおはよーぐると~」

 

 次の日の四時間目。この時間は高山ケイト先生の授業が入っていた。

 確か昨日「明日の授業」がどったらこったら言っていたが、この時間の事だったのだろうか。

 始まるや否や古臭いネタを使い生徒から笑いを取る。この先生、他の生徒からも人望が厚いようだ。

 そういえば、昨日のあいつ……。

 

「……」

 

 間違いない、前の方にいるあの長い黒髪。

 昨日見えない誰かと話していた時の笑顔のひとかけらもない、ぶすっと無愛想で、今にも寝ようとしている。

 これでこのクラスで一番頭がいいという話なのだから、優等生なのかそうじゃないのか……。

 

「この先社会人になるにあたり、人の繋がりというのを大事にしていかなきゃいかんのだな」

 

 そう高山先生は授業をスムーズに進めていく。

 

「信教、宗教。それらも神を奉り信じる者達が寄り添って出来る一つのグループ。このように信じるものは神じゃなくてもよい、そういうのは夢でも良い、目標でも良い」

「なるほど。宗教等をコミュニケーションに見立てて授業してるのか」

「何か一つの目標に向かってみんなで何かを頑張る。すばらしいことだと思うよね、え~と"三日月夜空"さん、君はどう思いますか?」

 

 先生は教室の前の方に座っている生徒の名を指し、そう質問をする。

 その生徒とは、昨日誰かと話していたあいつだ。

 三日月夜空っていうのか。なんというか……すごいいい名前だ。

 その珍しい名字に似合う単純かつ神秘的な、俺はその名前を……思わず三回は呟いてしまった。

 

「……え? なんだって?」

 

 そう三日月は、不貞腐れながら重くのしかかる声で答えた。

 お前な、寝ていたのかどうか知らないがそれはないだろ。てかこいつあんなにいい先生の前でもこの調子なのかよ。

 あの時の笑顔はどこいったんだよ。それがお前の本質だとでもいうのか?

 

「ごめんごめん。寝ている最中お邪魔しちゃって。授業中に寝ちゃだめだぞ三日月さ~ん」

「イラッ……」

 

 そう先生が茶化すように言うと、その三日月以外は「ははは」と笑い教室内が暖かい空気になる。

 ただそんな中でも、三日月だけは異様に機嫌を損ねたようだ。

 

「それで。今から君たちには"グループディスカッション"をしてもらうわけだな~」

 

 そんな暖かい空気の中、その言葉が聞こえた瞬間……俺の心が凍りついた。

 それはなぜか? 理由は今になってわかる。

 

「はいじゃあみんな~。"組を作ってくださ~い"」

 

 そう、先生は手をパンパン叩いてそう支持した。

 それを、俺は嫌な汗を滴り落としながらただぽかんと見つめていた。

 それはなぜか、そう……組む相手が見当たらないから。

 俺は恐怖の不良少年。近づこうにも近づかれようにも……俺と一緒になる要素が見当たらない。

 無理やり先生の指示で仲間に入れてもらっても、発言しようとすれば場が凍る。みんなの表情が濁る。

 そんなやりきれない場を生き抜くことになるのだ。これ以上の地獄があるものかよ!!

 

「え~と、全員組作れたかにゃ? ってあれ」

 

 そう、先生は俺と三日月を見る。

 どうやら組に入れないのは俺だけでない、三日月もだ。

 外見でアウトオブ眼中の俺に比べて三日月お前は何だ。こんなに容姿が整っているのになんで動こうとしないんだ。

 お前はあの笑顔で仲間に入れてと動けばみんなが受け入れてくれる。なのになんで……なんでだ。

 

「あらら羽瀬川くんと三日月くんだけまだ組に入れてないか……ならばね~」

 

 そう先生は軽く悩んで、俺と三日月を指さし。

 

「――君たち二人で、組を作りなさい」

 

 そう……俺たちに宣告した。

 

-----------------------

 

 これが、俺と三日月夜空の全ての始まりだった。

 ここから、俺の孤独な青春は、激動の青春滑稽劇(コメディ )へと姿を変える。

 

 ――数々の仲間たちと共に歩み希望を目指した。

 

 ――その仲間たちと共に、数多くの絶望と対峙した。

 

 三日月夜空。お前はいったい何者なんだ?

 お前が、先生の言った救うべき誰か……なのか?

 何も接点のないはずの、今初めて会話しようとするお前は……この先俺をどこへ連れていくつもりなんだ。

 

 そして俺は……どこへ辿りつくというのか……。

 

 そして、その道の先にあったのは――俺の……。




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