新約 僕は友達が少ないIF   作:トッシー00

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第五話です。

※『羽瀬川小鷹』視点。


その名は隣人部

 授業の課題で他人の組に入れなかった俺は、ケイト先生に支持されて同じく他の組に入れなかった三日月夜空と組むことになった。

 簡単に言ってしまえば、あまり者同士くっつけて無理やり組にしたといったところだ。

 当然他の人たちみたいに中がいい者同士で組んだわけじゃないから、俺とこいつでは話を弾ませるのは難しいだろう。しかも……。

 

「その、よ……よろしく……な」

「……」

 

 そう、俺は堅苦しく挨拶をする。

 この時もまた、俺の顔は意識なく強張って凶悪面になっていたことだろう。三日月の反応を見ればそれがわかる。

 

「……貴様は、私の事が気にいらないのか?」

 

 ほら、さっそくこうやって誤解されてしまったじゃないか。

 気にいらないなんてとんでもない。こう成り行きだがお前と組んだ以上俺は最後までお前とこの授業を乗り切りたいと思っているさ。

 さきほどのよろしくは戸惑いでも嫌悪でもない、俺は俺なりにほほ笑んだだけだ。なのになぁ。

 

「すまん。昔から笑うのが苦手なんだ」

「……そうか」

 

 そう俺が謝ると、三日月はそれなりに納得してくれた。

 

「にしても、三日月はどうして組を作る際に一切動こうとしなかったんだ?」

「……なぜそんなことを聞く?」

 

 俺の質問に対して、三日月は質問で返してきた。

 あ~。最初にしては変な質問だったか。そもそもこいつとは話したことも関わったこともない。

 だけど、こいつはこのクラスでも一番頭がよく、容姿も他の女子と比べるのはいけないことだがダントツで美人だ。異性に対して疎い俺でもそう思うんだ。相当の美人だと思う。

 だからこそ俺は疑問に思う。どうしてこいつが……このクラスで浮いた存在なのかを……。

 

「三日月って……結構モテるだろ?」

「……貴様は私をバカにしているのか?」

 

 なんでそうなる? 俺はただ素朴な質問をしただけだ。なのにどうして喧嘩を売ったみたいになってんだ?

 ……なんか、ちょっとだけわかってきた気がする。こいつがこのクラスで他人と馴染めていない理由が。

 

「ごめん……」

「ふん。そうだな、さっきの質問に答えるならば。この教室のやつらはおろか、この学校で信じられる者、仲良くしたいと思う者は一人もいないからだ。無論……貴様も例外ではない」

 

 そう、三日月は言ってやったかのように、冷徹に断言した。

 なんだこいつ? 昨日は楽しそうに独り言、そして今日は何もしてないのにずっと無愛想に捻くれた発言。

 性格が悪い以前に波状してんじゃないのか? どうしてこんなにも、迷いなくそんなことが言えてしまうんだこいつは。

 

「そうかよ。なれ合いはごめんってか。こっちは一生懸命お前と馴染もうと思ってたんだがな」

「……」

「気が変わったわ。これ以上無駄話していても意味がない。さっさとこのレポート書いてちゃちゃっと終わらせようぜ」

 

 俺は意地を張ってか、そう三日月に吐き捨てた。

 ちょっと大人げなかったかな。思えばこいつとは今話したばっかりだ。

 まだ相手の素性もはっきりとわかってないのに、名に強がってんだよ俺は……。

 俺だって表上は、こいつと同類なんだ。

 

「……ごめん」

「今度はどうした? 謝るのが好きな男だな」

 

 気がつくとまた俺は謝ってしまった。

 ひょっとしたら少しは傷ついたかと思った。だが帰ってきた言葉を聞く限りは、なんとも思っていなかったようだ。

 ……だからどうした。俺は今の謝罪を無駄なんかとは思っていない。

 冷静になれ。今こいつは俺のパートナーだ。授業とはいえ、こいつと俺はチームなんだ。

 そんな場で互いに意地を張っていても仕方がない。それでは……なにも変わりはしない。

 そういったことを考えていると、なにやら三日月がこちらを見た。そして、顔を反らしてさらに不機嫌に。

 

「……こんな授業中でこいつと一緒になっても意味がない、だがケイト……感謝はする」

「え? なんだって?」

「なんでもない。こちらの話だ」

 

 何かぶつぶつ言っていたようだが、俺にはよく聞き取れなかった。

 だがなんだろうか。最後の最後で、一瞬だが笑みを浮かべたような気がした。

 よくわからないが、俺をパートナーと認めてくれた……ということだろうか。

 しかしそれから数分、俺たちはまったく話題が弾まず時間は刻々と過ぎていった。

 俺は色々と質問をしたが、三日月は考えているのかいないのか、返ってくる答えではレポートはまったく出来上がらない。そしていつのまにか授業は終了。

 

「はい授業終了。レポートは明日の授業まででいいので、出来上がっていないのならば放課後や家に帰ってからメールやらスカイプでもいいから話しあって完成させておいてねん。じゃあチャオ~」

 

 そう先生は軽いテンションで授業を占め、古いネタで教室を去って行った。

 放課後か家に帰ってから、俺はこいつの連絡先を知らないから話しあうのなら放課後か。

 てか、メールはわかるとしてスカイプってなんだ? 人類はメールの先に何を生み出したんだ?

 

「くだらん……」

「っておい、お前まさかこのレポートぶん投げるつもりか?」

 

 授業が終わり、三日月は席をから立ちあがりすぐさま教室を離れようとする。

 この態度からまさかと思い、俺はそう質問する。

 

「人との付き合い方をなぜにわざわざ他人と話しあわないとならない? 考えても見ろ、そんなもの小学生にでもやらせておけばいいのだ」

「そうは言うがな。そんな簡単なことにてこずっているのが俺らだろうが」

「貴様と一緒にするな。貴様は誰かとなれ合いたいと努力しているのだろうが、私は一人で充分なのだ。そうやって誰かと一緒じゃないと満足できない貴様とは違う」

 

 と、三日月は髪をかきあげて俺を見下すように言う。

 この女ぁ、さっきから聞いていればどうしてこんなにも最低な発言を連発出来るんだよ……。

 どんだけ人間が嫌いなんだよ。どんだけ他人を見下せば気が済むんだよ。

 くそ……冷静になれ。こいつが気にいらないなんて思ったらレポートなんて書けやしないんだから。

 

「そう言うなよ。お前も優等生なら、この程度のレポート提出できないでどうするんだ?」

「むっ……」

「それに俺と一緒にするなとは言うが、俺にだって譲れないものはある。お前にだって、譲れないものくらい……あるだろ?」

 

 俺はこいつの言葉に負けまいと、強気な眼差しでそう質問する。

 互いに信念という物があるのなら、俺とお前に違いなんてない。違うなんてことを、認めてはいけない。

 そうだ。負けちゃいけねぇ。こいつにだけは……今は負けられない。

 

「ふん……言ってくれるじゃないか」

 

 そう、気にいらないように言い捨てて、夜空は教室から立ち去った。

 手ごたえは全く無さそう……か。いや、最後こいつは……微弱ながら笑みを浮かべていた。

 少しだけど笑っていた。そんな気が……する。

 

-----------------------

 

 放課後。

 

「……羽瀬川」

 

 全ての授業が終わり、下校時刻となったころ。

 意外なことに、俺が声をかけるより前に、三日月の方から俺に声をかけてきた。

 

「その、授業の時はすまなかったな。あの時は眠くて仕方がなくてな」

「あ、あぁ……」

 

 そう、軽くではあるが三日月は俺に謝ってきた。

 こいつ……急にどうした? まるで人が変わったみたいに。言いすぎか……。

 本当に眠くて機嫌が悪かっただけなのか。それならいいんだけど。

 

「それでレポートの件だったな、この時間では教室も人が残るし、ラウンジも人が多い。それでは話し合いに集中できない」

「そ、そうだな……」

「だから私がよく利用している居室がある。そこなら誰もいないし、ゆっくり話せるだろう」

 

 そう三日月は、なにからなにまでぶつぶつと、自分で決め始めた。

 ……やたらしゃべるな。授業中とはまるで違う。

 まるで何かを誤魔化すように口数が多い。気にしすぎか? まぁやる気になってくれたのなら俺的には越したことはないんだが。

 

 その後、三日月がよく利用しているという居室へと案内させられる。

 それは聖堂の中にあって、とても不思議な空気に満ちていた。

 ここで昔儀式とか色々あったのだろうか、今でもそれらをやっているような、そんな感じがした。

 そして色々な部屋が並ぶ中で、そこにあった『談話室4』。

 談話室……というくらいだから、こう個人的な相談をしたりする場所のはずだ。

 相談を受け持つのはシスター。ってことはここはシスターが管理する居室なのだろうか。

 

 がちゃりと扉を開け、中に入ると誰もいなかった。

 広さ八畳ほどの小綺麗な部屋で、テーブルやソファー等一通りの物が揃っている。

 俺とこの女二人で使うには、正直もったいないくらいだ。

 こんな場所、どうしてこいつが好き勝手使用してるんだ? あきらかにおかしいだろ。

 

「ここなら私とお前しかいない。授業のレポートをやるにはうってつけだろう」

「……なぁ、この学校って成績に乗じて特権とか与えられるのか?」

 

 俺がそう質問すると、三日月はどうしてそんなことをきくのか、といった顔で俺を見た。

 

「いや、三日月って優等生じゃねぇか」

「……」

 

 俺がそう言うと、三日月は不機嫌そうに表情をゆがめた。

 しまった。少し皮肉に聞こえたかな。

 

「あぁいや馬鹿にしてるとかそんなんじゃなくて、褒め言葉な。だからこう静かに勉強できるようにこう居室を使っていい権利を与えられてるのかなって……」

「ふん、そんなわけないだろう。むしろそんな特権のようなものが与えられるのなら、誰もいない一人ぼっちの教室に一人の教師をマンツーマンでつけてもらいたいくらいだ」

 

 そう三日月はしかめっ面で、割と本気にそんな要望を口に述べた。

 お前それって俗にいう特別教室ってやつだよな? 学校になじめない子のために仕方なく用意したような。

 あまりそういう待遇をバカにするわけじゃないけど、そういう立場ってのは……とてつもなく苦しくて、寂しいもんだと思うな。

 お前だって、少しはその仏頂面をやめて、思いっきりみんなの前で笑って見せれば、世界は変わって見えるだろうに……。

 ……それでもお前は、そんな明るい世界を否定するのかな。

 

「まぁいいや。それよりもレポートだ。ちゃっちゃと片つけようぜ、"優等生"」

「む……。せいぜいヘンテコな意見を述べて足を引っ張らぬことだ。"転校生"」

 

 俺に張り合うように、三日月は嫌味ったらしく転校生呼ばわり。

 ま、こいつとはこういった付き合い方が合ってるのかもしれないな。ならとことん相手に合わせるまでだ。

 無駄に痴話喧嘩をしていてもらちが明かない。なのでさっそくレポートの話し合いをすることに。

 

「人とうまく付き合うには、積極的に話しかけたり、同じ趣味を見つけたりそういう努力をする必要がある。単純だが俺はやっぱりそう思うな」

「違うな、間違っているぞ転校生。そんなものは虚言、虚構にすぎん。そういう意見は真剣に考えられないタイプの人間が一番最初に発することだ。所詮シミュレーションと本番は相容れないものだ」

「む……。手厳しい。というか言いすぎだろ」

 

 俺はただ思ったことを口にしただけなのに、序盤でいきなりこの物言いだ。正直俺は腹が立ったよ。

 ならば俺だって問わせてもらおう。そんな考えをするお前の答えをな。

 

「じゃあお前はどう思うんだよ?」

「演技力が必要、つまりあれだ。どんなことがあっても最高の人間を演じ続けることだろうな」

 

 そう言って、三日月は決まったとごとく胸を張る。

 なんというか、うん。なんといわずとも……お前は最低なやつだな。

 何が最低って、そんな考えを心の底に抱くことではない。

 その考えをなんの躊躇なしに、嫌とも思わず口に出せることだ。

 俺自身は善良な人間というわけではないが、こいつの最低ぶりは匂いで分かる。

 こいつはくせぇ、ゲロ以下の匂いがなんとやら……だ。

 

「優等生よぉ。俺は正直幻滅だよ」

「なんとでも思うがいい。だが人は自分が評価する最高の人間に労働と対価を求めるものだ。無能と思う人間に己の欲求を押しつけるやつなどいるまい」

「…………」

「……まぁそれは人付き合いの方法の一つということで、他にも色々考えたが教えるのがめんどくさい」

 

 俺が軽蔑の目を向けると、最後は流石に自重したのか、三日月は一歩引き気味にそう付け加えた。

 このレポート、本当にまともな物になるのかなぁ~。

 

「だが、友達という関係が築けたのなら、それは失いたくない。せっかく出来た繋がりなのだからな……」

 

 その後に三日月が少しさびしげな表情を浮かべて言った言葉。

 それに関してだけは、俺もこいつの気持ちに同意見だった。

 友情は失いたくない……か。作ろうと努力しないだけで、築き上げた関係性を合理的に捨て去るやつではないらしい。

 だったら、少しは話しあう価値はある……かな。

 

「……そうか」

 

 俺はそんなことを想いながら、その全ての感情をその一言に込めた。

 この言葉に込められた感情はけして演技でも何でもない。これはお前の気持ちへの肯定だよ。

 それに、先ほどまでの心ない発言を、何かがお前に言わせているのだとしたら。それは、全てを否定してはいけないから。

 そうだ。お前に何があったかはしらない。聞くつもりもない。

 だが何かを背負っているのはお前だけじゃない。俺にだって譲れないもの……。

 ――後悔に支配された"過去"がある。

 

「……なんでお前が落ち込んでいるんだ?」

「あ、いやなんでもない」

 

 そんなことを思い出していたのが顔に出ていたのか、夜空が神妙な顔でこう聞いてきた。

 俺はそれを振り払うように、言葉を続ける。

 

「そんなことより結構時間が立つが……レポートにはまだ一文字も書いてねえな」

 

 気がつけばこの部屋に来て軽く三十分は経っていた。

 このままだと本当に『人とのつながりには、一流俳優並みの演技力が必要であります!』になってしまう。

 そんなことを周りの人たちの前で発表してしまえば、本気で最低のヤンキー野郎と認識されてしまうだろうな。

 

「大丈夫だろう。とりあえずケイト先生を上手く丸めこめるような素敵な文章を完成させねばな」

 

 そう三日月は余裕を見せ、レポートを書こうとしたその時。

 

「誰を丸めこむって?」

「誰ってあのアホケイトだ……ってケイトぉぉぉ!?」

 

 いったいいつのまに部屋に入ってきたのか、ケイト先生は忍びよる忍者のごとく居室内にいた。

 どうやら先ほどの会話からアホケイトにいたるまで、ある程度の会話は聞かれていたようだ。

 最後の最後でアホ呼ばわりされたのか、ケイト先生はヒクヒクと怒るマークを頭に浮かべていた。

 

「一生懸命働いている大人をアホ呼ばわりとはいい御身分じゃないか三日月くんよぉ?」

「ふん、なにが一生懸命働いているだ。めんどくさいことは生徒に仕事ぶん投げるくせによく言う」

 

 ケイト先生の姿を認識すると、ケイト先生と三日月がなにやら言い争いを始めてしまった。

 というかやっぱりというべきか、この二人認識あったんだな。

 

「まだ一字も書いてないじゃないか。全然進んでいないけど大丈夫なのかいぃぃ?」

 

 ケイト先生はレポート用紙を揺らしながら俺達にそれを突きつける。返す言葉もないぜ……。

 

「そうは言うが。私とこの転校生の意見が噛み合わないのだ」

 

 三日月はそう文句をケイトに漏らす。

 噛み合わないのは本当の事だ。これは俺も同意見だよ。

 

「なら互いにじぶんの経験談とか色々なことを話し合えばいいだろう? どうせ今まで二人で黙り込んでいたんでしょうが?」

「いやいやそれが逆でしてね、結構話はしていたんですよ。むしろ話に夢中で書いていなかったと言った方が正しい」

「ほう、そこまで仲良くなったか二人とも……ってレポート書かなきゃ意味ないだろうが!!」

 

 俺の答えにケイト先生が突っ込む、しかもなかなかのキレのいいツッコミ……。

 この時気がついたのだが、なんやかんやで俺は三日月と話を弾ませていたようだ。

 といっても最低なことが多めだったが、三日月自身は他人と話すらしたくないほど人を拒絶してるほどでもなさそうだ。

 その後ケイト先生はそこに居座った。どうやら自分の仕事は終わったみたいだ。

 ここからは俺と夜空、ケイト先生の三人で話し合うことに。

 

「はいじゃあ腐ったプリン、お前から意見いいなさい」

「腐ったプリンはやめてくださいよ、せめてミカンでしょ?」

 

 ケイト先生が俺に失礼な言い方をしてきた。

 俺がそう訂正すると、ケイトはちっちと指を振って馬鹿にするように俺を見る。

 

「おいおい小鷹くんよぉ。日本一有名な我ら教師の代名詞、金八ちゃんをバカにしてはいけないよぉ。君たちは腐ったプリンだ! なんだよ」

「あんたが一番馬鹿にしてるだろ。金八さんに尊敬すら抱いていないだろ」

 

 そう有名な教師を尊敬してるんだか馬鹿にしてるのだかよくわからないことを言った後、なにやら三日月が馬鹿にしたように俺を見てこう言った。

 

「あはは、腐ったプリンか。お似合いだな転校生。いやもう腐れプリン野郎でいいだろうなぁ~」

「お前他人のコンプレックスの溝に手を出してるといずれ痛い目に合うぞ……」

 

 夜空は笑いながら俺のあだ名絶賛していた。失礼なやつだ……。

 というかこいつ、やっぱり笑うとかわいいやつだな。

 その笑顔、せめて他人をバカにする使い方をしないでほしかったな。

 まぁいいやと俺はとりあえず意見を出していく。

 

「あだ名か……。あだ名をつけるというのは?」

 

 俺は先ほど腐ったプリンという不名誉なあだ名をつけられ傷ついたばかりだが、そう意見を出してみた。

 もちろんあだ名をつけることで他人が嫌な気分になるかもしれないというのはあるかもしれない。現に俺がね。つい今の話ね。

 だが中の良い友達同士であだ名で呼びあっているのをよく見かける。

 

「あだ名……か……」

 

 俺のその意見に、三日月がなにやら反応を示した。

 それも、先ほどまで興味もなさげにただ流していたような反応じゃない。

 明らかに先ほどと比べて手ごたえがあった。ような気がした。

 

「三日月はなんかあだ名なかったのか?」

「あだ名……」

 

 俺がそう質問をすると、三日月が俺のほうを見る。

 その表情は先ほどまでのそれとはわけが違う。なにか、触れてはいけない部分に触れてしまったかのような。

 三日月夜空の核心に触れてしまったかのようで、その表情は……悲しみに満ちていた。

 俺には理解できないが。まるでそれは……何かを思い出すように、それを……求めているかのような。

 

「あだ……名……。ある。"あったよ"、昔に」

「へぇ、どんなあだ名だったんだ?」

 

 俺がそうあだ名を聞くと、またも三日月は……沈んだような表情を浮かべ。

 

「……いやだ。羽瀬川小鷹"には"……教えない」

 

 羽瀬川小鷹には教えない。

 どういうことだ。やっぱり触れちゃいけない部分に触れちゃったのかな。

 ま、嫌なことを無理やり聞くのはいけないことだよな。

 

「そっか、なんかごめん」

「あ、謝ることはないぞ! その……私もすまない」

 

 そう謝る俺に、三日月まで謝り返してきた。

 初めてこう、素直なこいつを見たような気がした。

 

「……あだ名で思ったが、互いに皮肉り合ったような名前で呼ぶのもやはりいけないことだろうな」

 

 今度は三日月がこれまた真剣な意見を口にしてきた。

 ケイト先生が来たからなのか、それともここに来て初めて本気になってくれたからなのか。

 

「そうだな。したら優等生はやめるよ、じゃあ、その……俺はお前の事をなんって呼べばいいんだ?」

 

 俺はそう三日月に尋ねる。

 すると、三日月はなにやら悩んだように黙りこんでしまった。

 

「私の事を……」

「あぁ、名字でいいなら名字で呼ぶけど」

 

 そう言う俺に対して、夜空はずっと奥を見るような眼差しを俺に向ける。

 そして、まるで意を決したかのように、三日月はこう言った。

 

「……"夜空"だ。呼び捨てで……夜空だ」

「呼び捨てか。ま、いいんじゃねぇの? じゃあ俺も"小鷹"って呼んでくれよ」

 

 いきなり呼び捨てというのもむず痒いものだが、俺は……自然と嫌な気分はしなかった。

 むしろなんか、夜空に名前で呼ばれるのが、すがすがしいと思ってしまう。そんな気分だった。

 なんでだろう。やっぱりこう、こいつに思う何かがあるのかな。よくわからねぇけど。

 

「美しい友情というのを、私は嫌いじゃないよん」

「ケイト先生……」

「どうせならこう、まず手始めに二人で友達になってしまえば?」

 

 軽々しくケイト先生はそう意見してくる。

 俺としては別にかまわないが、夜空はというと……。

 

「友達……私と小鷹が……」

「べ、別に俺は大歓迎だぜ? 友達、まだこの学校で作ってないからな」

 

 俺は照れながら、そう手を差し伸べる。

 だが夜空は、よくはわからないが……ものすごく戸惑っていた。

 なんだ? なにを悩んでいるんだ? 少し強引過ぎたか。

 それともやっぱり、俺と友達になんてなりたくない……のかな。

 

「……そんな簡単な口約束では意味がない。きちんとした過程が必要だ」

「か、過程?」

「じゃないと……また"あの時"を繰り返すから」

「え? なんだって?」

「……なんでもない。私個人の問題だ。"羽瀬川小鷹"には関係ない」

 

 そう突っぱねるように夜空は、最初の無愛想な表情に戻ってしまった。

 さっきからどうも引っかかるな。"羽瀬川小鷹には"って。どうしてそこだけフルネームなんだ?

 何かと俺を重ねてる? あんまり好きじゃないんだよな、そういうの。

 

「そうかよ、んで過程っていうのは?」

「真の友情を築くための日常とかだ」

「お前結構ロマンチストだな」

「馬鹿にしてるのか?」

 

 流石に今の俺の言葉は心にもないことだっただろうか。

 でもそう思うのは、夜空も女の子ってことなんだろうな。

 それに、そう考えてくれるというのはありがたいことだ。それは、俺と友達になってもいいってこと……なんだよな?

 

「真の友情を育むための青春計画。いいじゃんおもしろいじゃないかぁ~」

「ケイト、見世物じゃないからな」

「いいじゃないか、教師としてはそういうのが大好きなんだからさ。そうだな、だったら二人で"部活"でも入ったら、そんで最終的に大会の決勝で会おうぜ、とか最高の喜劇が描けると思うよん」

 

 ケイト先生が提案したのは、部活に入ることだった。

 

 確かに野球ならピッチャーとキャッチャーのバッテリーだとか、個人競技なら高体連とかで上手くトーナメントで当たれば互いの日ごろの成果を発揮出来たりするし。

 それで互いの努力を讃えあってとか、よくあるパターンだよな。夢だよ。そこまでいけば夢。そんな青春一度くらいしてみたいなぁ。

 と、俺がそんな妄想を描いている所、夜空はというと。

 

「部活は却下だ」

「「なぜに?」」

 

 その夜空の即答に、俺とケイト先生が声をそろえて尋ねた。

 

「恥ずかしいからだ」

「おい、恥ずかしいって……」

 

 俺の質問に夜空はきっぱりとそう答えた。

 しかしよくよく考えれば、この時期に俺達のようなやつらが急に入ってきたら部活の人達も困るだろうな……。

 友達作りの青春するために来ましたという理由で入って、優勝とか目指してる人たちが逆に嫌な思いをするかもしれないだろうし……。

 この意見はだめだな……そう思った時だった。ケイト先生が俺達にこう言った。

 

「したら君たちで部活作っちゃえばいいじゃん? 私これでもオセロには自身あるんだよぉ。オセロ研究会なんて作った際には君たちにも伝授してあげるよ、オセロの必勝法」

 

 そう軽い感じにケイトは言う。

 しかも初っ端出たのがオセロって、スポーツどこ行ったんだよ!!

 オセロって四つ角取れば有利なんだろ? って、そんなことは小学生でも知ってるよ。

 う~ん、オセロの必勝法か。ちょっと知りたいかもって思っちゃったじゃないかどうしてくれる。

 

「部活を……作る……」

 

 俺の頭の中がオセロでいっぱいになっていたころ、夜空は部活の事について割と本気で考えこんでいた。

 なんだ? なにか思いついたのか?

 まさか本当にオセロ研究会立ちあげるつもりか。

 

「――もし、部活を作ったとして……誰も入りたがらなそうな部活を作り。そこに小鷹を引きずりこんだとして……私とこいつの"二人だけ"の世界を作ることができたとしたら……」

「あの、夜空さん?」

 

 なにやら小声でぶつぶつと模索している夜空。

 俺には入っていけそうにない。そして数分後、急に思いついたように夜空はぽんと手を叩いた。

 そして、全てを解決させたかのように。

 

「……レポートは完成だ」

「え? なんと?」

「今話した内容で数ページの文章をまとめてくる。それに加え、明日までに部活の内容を考え創部届を完成させてくる」

「は!? お前本気で部活作んの!?」

 

 なんとこの女、レポートを完成させたと断言しただけに飽き足らず、部活を作ることを勝手に決めてしまった。

 どうしてこうも流れるままに、それも軽い気持ちで進んで行った内容を実現できるんだ?

 俺にはわけがわからないよ。でも、こいつは本気だ。

 

「ケイト先生、その際はぜひとも顧問になってくれ。部室はここを使用する」

「ふふん? 断ると言いたいところだが……。なにやら面白いことが始まりそうだから、内容次第では乗っかってあげよう。君のその内なる"計画"に……ね」

 

 気がつけば俺はおいてけぼりだった。

 今時の女子二人は勝手に話をしだしては勝手に終わらせ、今日の話し合いはこれでお開き。

 なんだろう? 最後の方俺いる意味あったのか? 誰か教えてくれ。

 ちなみにその日の夜、俺はオセロの必勝法が何か気になって眠れなかったんだぜ。

 

-----------------------

 

 そして次の日。

 

「小鷹、部活の内容が決まったぞ」

「ふえ? なにオセロ研究会? それともリバーシ研究会?」

「とりあえずオセロから離れろ。白黒なら私がはっきりつけてやる」

 

 そう眠気にやられている俺のボケに、夜空が上手く言葉を合わせて対応してきた。

 オセロだけに白黒か、上手いこと言いやがるなぁマジで。

 

「創部手続きもすでに終わっている」

「またずいぶん早いな。お前そういうの決まったらすぐ実行するタイプだろ?」

 

 夜空の行動力の高さに驚かされながらも、俺は淡々とその話を聞くことに。

 

「『部活を作る』と心の中で決まったなら、その時すでに行動は終わっているのだ」

「あぁ、しばらくお前を兄貴と呼ばせてくれや」

「人間関係が形成されている既存の部活ではなく、一から人間関係を構築する部活。そしてその条件を最も短期かつ効率的に、友情を育むことに特化した部活。ケイトのアホもその出来栄えに思わず笑いこけていたぞ」

 

 そう長々と説明をし、いよいよその部活の全容が明らかとなる。

 

「んで? お前はどんな部活を作ったんだ?」

 

 俺がそう恐る恐る質問すると、夜空は自信たっぷりに、その部活の名称を口にした。

 

「名付けて――『隣人部』だ」

 

-----------------------

 

 それが、俺たち『隣人部』の全ての始まりだった。

 そして、ここから俺たちの物語が始まる。

 

 先の見えない長きに渡る青春という名の滑稽劇への……。

 

 少女の反逆と、少年の挑戦が――。

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