百足女郎奮闘記   作:nenenene

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エピローグ

 

「動かないでね。動くと、その綺麗な銀髪が血で汚れちゃうから」

 

 封印されている半妖――犬夜叉に向け、結羅はそう声を掛ける。勿論、犬夜叉は封印されている。呼びかけになど反応する筈はない。

 

そのはずなのだが……

 

「誰だ? お前?」

 

 反応があった。

 

 犬夜叉が目を覚ましたのだ。

 

「え?」

 

 反応があるとは思ってい中たのか、結羅は目をパチクリさせる。

 

「あたしは結羅、逆髪の結羅。その綺麗な銀髪をいただきに来たのよ」

 

 そう言って少女は、艶やかにほほ笑む。

 

 バシュ! コロコロコロ。

 

 結羅の一閃。鬼族の宝刀である紅霞は、容易く犬夜叉の首を両断。犬夜叉は永遠の眠りにつくこととなった。

 

「くすくすくす。それじゃあ、早速……」

 

 結羅は地面に転がる犬夜叉の頭部を回収しようと、腕を伸ばす。

 

「!!」

 

 瞬間、悪寒が走る!

 本能の命ずるまま、結羅は地面に転がる。

 

 直後。轟音とともに、何かが結羅の脇を通過。少女の左腕が引き千切られる。

 

「な!?」

 

 結羅の顔が、驚愕に歪む。少女の左腕を引き千切ったものの正体。それは百足女郎だった。百足女郎は、右手で結羅の左手を掴み、左手で犬夜叉の頭部を握り、その口には犬夜叉の胴体を咥えていた。

 

 バリボリバリ!

 

 骨を砕く異様な音と共に、犬夜叉の身体は百足女郎の口の中へと消えていく。胴体を食べ終わると、今度は犬夜叉の頭部。巨大な口で一飲み。最後に結羅の左腕。ムシャムシャと咀嚼していく。

 

「ムカデ女! あんた! 死んだんじゃ!?」

 

 少女には意味が分からなかった。鬼火櫛の直撃を受けて無事!? そんなのあり得ない!? 結羅の頭の中は混乱で一杯だった。

 

 だが、現実は無情。手持ちの肉をすべて食べ終えた百足女郎は、結羅へと向き直る。そんな百足女郎の瞳には、憤怒の炎が燃え盛っていた。

 

「ひっ!」

 

 思わず、結羅は一歩後退する。

 

「小娘。心臓を貫かれても死なないとは、魂移しを使っているな?」

 

 百足女郎の宣告。その声は確信に満ちていた。

 

 ギクリ。

 

 図星だった。結羅が心臓を貫かれても死んでいない理由。それは魂移しによるものだ。少女は、自分の魂を櫛の中へと移し替えることで、どれだけ肉体が傷付いても死なない身体を手に入れていたのだ。だが、その仕掛けは余りにもあっさりと看破された。結羅の背中を冷たい汗が流れる。

 

「恐らく本体は……」

 

 百足女郎の独白。彼女は視線を巡らす。周囲に張り巡らされた無数の髪。その中の何本かが光っていて、それらが結羅の指に巻き付けられているのが百足女郎には見えていた。つまり、光る髪が他の髪を操る本線だ。

 

 であれば、光る線を辿って行けば、そこに本体がある!

 

「こっちだな!」

 

 百足女郎は西へと向きを変え、疾走を開始。途中邪魔になる木々をなぎ倒し、岩々を粉砕しながら、平原を走る肉食獣並みの猛速を出す。

 

「ちっ!」

 

 結羅の舌打ち。百足女郎の向かった先。そこには結羅の巣があり、そこに少女の本体が隠されていたからだ。残った右腕の髪を手繰り寄せた結羅は、器用に髪を操って、百足女郎を追跡する。

 

 だが、

 

「そんな! 追いつけない!?」

 

 百足女郎は速い。余りにも速かった。全く追いつけない。結羅が自分の巣を視認したとき、それは無茶苦茶に破壊されていた。百足女郎が巣の内部に進入したのは明らかだ。

 

「急がないと!!」

 

 結羅は焦る。本体が破壊されれば、それでおしまい。死んでしまう!!

 

「死にたくない!!」

 

 死への恐怖。そんな結羅自身は、命乞いする人間達を何万人と殺して遊んでいたのだが。いざ、自分の生命が危機にさらされると、恐怖しかなかった。

いつしか、結羅の瞳からは涙が溢れ、その頬を濡らす。

 

 だが、現実は無情。そのときはきた。

 

「あっ」

 

 感覚で分かる。結羅の魂を収めた本体。その本体を隠す髑髏が、たった今壊されたのだ!

 

「やめて! たすけて……」

 

 少女は、命乞いを口にする。しかし、そんなものは無駄。百足女郎には聞こえないし、聞こえたところで妖怪である彼女がそんなものを聞く筈もなかった。

 

 次の瞬間、結羅の身体に電流が走る。身体が硬直。全く身動きが取れなくなる。

 

「あああぁ…………」

 

 声にならない悲鳴。口の中から空気が漏れて行く。結羅は悟った。本体が破壊されたのだ。全身の細胞が光の粒子となって空気中に溶け込んでいく。

薄れゆく意識の中。少女は必死に助けを求める。

 

『いや! いや! こんなのイヤ! 死にたく……』

 

 やがて。光の粒子。その最後のひとかけらが消え。少女は消滅した。

 

 

 

 

 

 

 

 逆髪の結羅。犬夜叉という半妖、その綺麗な銀髪を集めに来た少女。彼女は誰にも見守れることも無く、哀れに消えてなくなった。

 

 バタバタバタ。

 

 少女の服。木に引っかかった布が跡に残され、風にはためく。死んでいった主人の死を悼むように。

 

 

 

 

 

 

 

 

++++++++++

 

 

 

 

 

 

 

 その後の百足女郎。

 

 彼女は、殺生丸を丸呑みにしたり、紫織を一刀両断にしたり、奈落を食ったりしてパワーアップを繰り返す。

 最終的に、地球上のすべての生物をその胃の中に収めた百足女郎は宇宙に進出。

 

 フリーザ様をワンパンで倒したり、ヒーロー協会を壊滅させたりしながら宇宙を放浪。

 

 強くなりすぎて不死身になった百足女郎は、永遠のときを生きることとなる。

 

 


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