ハゲと修羅 作:コテコテ
悪を一撃で倒すヒーローを夢見て努力を重ねた
そして努力の果てに限界を越え、手にした無敵の力
あらゆる敵をワンパンで倒す圧倒的な力の代償は
ヒトとしての心と頭髪だった
少女は力を求めた
誰にも見下されず何も奪われないよう努力を重ねた
そして才能を開花させ、手に入れた魔法の力
相手に圧倒的な資質の差を見せつける力の代償は
ヒトとしての心と友人だった
絶対に勝つ
絶対に勝つ
絶対に勝つ!
絶対に勝つ!
〝私〟が訴える。〝私〟が叫ぶ。〝私〟が命令する。〝私〟が怒鳴る。歩みを緩めると私の中にいる小さな〝私達〟が声をあげる。止まっている暇はない。進め、進め、進め、進め、前に進め! みんな揃って発破をかけてくるのだ。
「両者前へ!」
「よろしくお願いします」
「おう」
だけど〝私達〟も、私がやる気を見せるとみんな黙り込む。私だって呑気に道草を食うつもりはない。誰よりも強くなるには無駄な手間はかけられない。大切なものを、約束を守るためには誰よりも強くならなきゃいけないから。
「両者構えて!」
審判に促されて拳を構える。バリアジャケットはもう展開済みだ。この試合の課題は目の前の男性に一撃当てるだけ——正確にはDASS公式試合と同じライフポイント制で、私のライフは一万二千、相手のライフはわずか五、しかも回避禁止で攻守も左手だけという変則ルール。本来ならあまりに重すぎるハンデだ。
「二人共、ルールは頭に入ってるかな?」
「はい」
「なんとなく」
だけど油断するなんて、天地がひっくり返ってもあり得ない。たった三年であれだけの力とスピードを手に入れた人間が只者のはずがない。そしてそこに、私が目指す強さのヒントがあったって何もおかしくない。だから私は彼の提案を受け入れたんだ。
「……まあ大丈夫じゃろ。改めて両者! 構えて!」
この戦いに勝てば、あの強さの秘訣を教えてくれると彼は約束した。勝てるかはわからない。だけど負けは許されない。あの強さを手に入れるために、私がもっと強くなるためには——
「始めッ!!」
この人に勝たなきゃいけないんだ!
——————
二時間前 ミッドチルダ とある競技場のVIP席
「でね、ここはミッドチルダでも一、二を争う格闘技専用の競技場なんだ。ボクのパパが出資者の筆頭で、お小遣いを我慢したらチケットを融通してくれるんだ。今日の試合は絶対見たかったから、二カ月我慢していい席を取ってもらったんだよ!」
「ほうほう、それは頑張った。地球の弟子にも君の忍耐力が欲しいのう」
「へへッ!」
巨大なガラス越しの眼下には、照明に照らされたリングが白く浮き上がっていた。もう試合が始まるとあって会場は既に熱気に包まれている。自分の周りを見ると、座り心地のいいソファーから少し腕を伸ばした位置に、映画館とかでよく見る感じのポップコーンやコーラなどの飲み物が置かれている。どんだけ食べても飲んでもタダというから驚きだ。VIPだ。どっからどう見てもVIP席だ。要は何が言いたいのかというと——
「俺はなんでここにいんだ?」
上下ジャージの半透明な男がガラスの向かい側で首をかしげていた。
「なんじゃ不満か? ヒーロー協会から割のいい仕事があったから誘ってやったというのに」
答えてきたのはS級ヒーロー三位、バングだ。シルバーファングとかいう、カッコいい感じのヒーロネームを名乗っているじいさんだが、これが何かと俺にチョッカイをかけてくる。今日だってそうだ。コイツの企みに気づいたときには手遅れだった。
「宇宙人退治のお礼で米を分けてくれるって言うから道場に行ってみれば……ヒーロー協会のオッサンがいて、異世界だの魔法だのスポンサーの護衛だの言われたらワープしたんだぞ。どこのB級映画だよ」
「えっ!? メッチャ面白いじゃん!!」
「面白くねーよ!!」
このガキ調子に乗りやがって!! さっきも初対面の相手に「あっ! ハゲてる!」とか抜かした礼儀知らずだ。後できっちり叱ってやる。この……あれ? 名前なんだっけ?
「先生、落ち着いてください。彼は依頼者です」
「ジェノス!! けどこいつな!」
サイボーグのジェノスはS級ヒーローで俺の〝弟子〟だ。今は説明どころじゃねーから以下略!
「先生への暴言は万死に値しますが、ことを荒立てると報酬を減らされるかもしれません。全て終わった後で俺が始末——」
「止めて! その後が面倒だから絶対止めて!!」
ちくしょう……我慢するしかなさそうだ。じいさんが言った通り報酬はいい。一日我慢したら当分の生活費が手に入るんだ。それに思ったことがすぐに口に出るだけで性格が悪い訳じゃない。うん、適当に聞き流しておこう。
「あっ! 出てきた!!」
ガキが身を乗り出したのにつられてリングを見てみる。黄色かオレンジかわからない色をした髪のヤツと、長い
「サンサーラ、知り合いはどっちだ?」
「リンネ・ベルリネッタ! 手前の髪が白い子!」
あっ、思い出した。サンサーラだ。ブサイクなくせにサラサラした名前しやがってって思ったんだよな。にしてもあの白いヤツが知り合いか。
「同じ孤児院出身でさ、同じようにお金持ちの方に引き取られたよしみで応援してるんだ!」
「そうだったのか……」
「……」
「重っ」
あいつ孤児院出身なのか。性格とか絶対金持ち息子の悪ガキじゃん。孤児院でどんな教育されたんだ?
「おっ! 試合が始まるぞ!」
じいさんが促した直後に歓声があがった。へえー。意外と迫力あるな。結構盛り上がってる。けど俺は格闘技になんて興味はない。少年少女、勝手に青春を燃やしてくれと言いたい。熱い高揚感や魂のぶつかり合いなんてものは、今の俺と無縁でしか——
『試合終了ぉぉぉォォ!! リンネ選手ッ! 怒涛の早さでKO勝ちだぁぁぁぁァァァ!!』
あれ? もう終わったの?
「いつ見ても圧倒的じゃのう。あの歳で、あれだけの力を持つ者はそうおらんじゃろう。だが……」
「とても子供同士の戦いには見えなかった……魔法で身体能力や動体視力を強化しているのか?」
「そうだよ。これがこの競技の醍醐味なんだ。普通の格闘技とは迫力が違うし!」
魔法少女が拳で語るって……魔法の杖はどこいった? そういえばワープした先も銀色のハイテクな建物だったし、なんか俺が思ってる魔法とはかなり違う。けどこっちの方が面白そうだ。インタビュー受けてる白いヤツはつまらなそうな顔だけど——
「そういや今日の俺達の仕事ってどこまでなんだ?」
「サンサーラが建物の外に出るまでです。そこからは彼の家が雇っているボディーガードに引き続きます」
「わしらの任務は競技場内での護衛じゃ。ほれ、移動するぞ。通路のチェックはジェノス君、頼んだ」
「ああ。来た時と同じでいいな」
「任せたぞー」
ああいうのは俺やじいさんより、サイボーグのジェノスが適任だ。多分じいさんが欲しかったのはジェノスだけだったんだろう。あいつを確実に誘うために俺を連れてきたんじゃねーかな。現に俺達は駄弁っているだけでいいんだし。
「なあサンサーラ。さっきの白いヤツって——」
お前のことは知ってるのか——そう聞こうとしてガキがいる後ろに振り向いた。
「……あのヤロー」
目を向けた先にはだれもいない。その代わりに俺の視界に映ったのは、半開きになった壁と同じ色の隠し扉だった。
〜オマケ〜
「ったく。勝手に出て行きやがって。そんなにあの白いヤツに会いたいのかよ。あの………………」
「あれ、名前何だっけ?」