新入生歓迎会の後に講堂でファーストライブをする事になったμ'sではあるが、当日ともなると逆にやることが無いのか、園田、高坂、南の3人はチラシを用意していた。新入生歓迎会終了後のギリギリまでチラシを配ろうと思っているのだろう。しかし俺はそれを手伝う事は出来なかった。何故なら…
「出入り禁止を解いたんだからしっかりと働きなさいよ」
「ファーストライブ当日に出入り禁止を解除って嫌がらせですか絢瀬会長…すみません何でもないですその目止めて下さい」
「分かれば良いのよ。別にライブを見に行くのを止める訳じゃないわ。どうせ貴方が言った様に失敗するんでしょうし、そこから立ち直れなくなるだけよ」
絢瀬会長は吐き捨てる様に言った。どうしても認めるつもりは無いのだろうか?
「……にしても、講堂ってこんなに広かったか?去年は新入生として席に座る側だったが…」
講堂をぐるりと見渡す。現在生徒会が主体となって新入生歓迎会の最終的な準備をしているが、講堂がこんなにも広いとは思わなかった。
「でも、講堂の壇上…君らにとってはステージやな?そこに立つともっと広く感じるんよ」
東條副会長が後ろから声を掛けてくる。無音で後ろに立たないで下さい。
「これだけ広い所が満員になってるのをステージ上から見るのは壮観だろうな」
「ツカサ君は失敗すると思っとるんやろ?なら今回はそれは見れへんのとちゃうん?」
副会長の言葉に俺は笑って返す。
「はい。“今回は”無理ですね。でもまぁ…“9人”ならどうですかね?副会長?」
俺の挑発とも取れる言葉に副会長は目を丸くした後、妖しい笑みを浮かべた。面白い玩具を見付けた性悪な姉の様に…
「なんや気付いとったんやな。やっぱり君は面白いなぁ。エリチが気に入るのも分かるわ」
「それは光栄な事ですよ。今俺が最も興味を持ってるのはμ'sのメンバーじゃなくて貴女ですから」
「そんな事言ったらエリチが焼きもち焼くで?」
このまま話しても平行線だろう。話を切り上げて仕事に戻ろう。
「ツカサ、希。大体の作業は終わったわよ。一旦生徒会室に戻りましょう」
「了解やで」
「そうですね。後はプログラムの最終確認くらいですかね?」
「ええ。行きましょう」
絢瀬会長についていき、生徒会室へ向かった。
☆☆☆☆
生徒会室に到着すると会長が“目安箱”を確認し始めた。生徒の要望を聞く為に作った目安箱ではあるが、半分はお悩み相談となっている。
「今回はマトモな意見が入っていれば良いけれど…」
「期待はせんで置こうな」
「最早大喜利と化してますよねこれ」
ホワイトボードに《今日の大喜利!》って書いても違和感が無いレベルで大喜利と化してる。
「最初の1枚は…『白いアルパカが男の子で茶色いアルパカが女の子なんて納得出来ません』ですって…」
「初っぱなから生徒会に対する要望じゃ無いんですがそれは」
「もう要望ですら無いよツカサ君…」
3人で考える。ベストな答えを…
「最近はオカマ…いや、オネェと言われる人の方が美人が多いやん?だからそう言う感じなんや無い?」
「納得はするけど…」
「世も末な気がしますね…」
そう言いつつも目安箱の隣にある返答箱に書いて入れる。弁当箱に似てると思った人は悪くない。
「次は…『絢瀬会長…子供はどうやったら出来るんですか?くわ死…』」
「根絶やしやな」
「………すみません、多分俺のクラスの男子だと思います…始末しますから顔を真っ赤にしてプルプル震えないで下さい」
副会長が『根絶やし』と書いて返答箱に入れる。これは仕方無い。
「………次は…」
「紙を取るのすら怯えだしたぞ会長…」
「頑張れエリチ!」
プルプルと震える手で会長が紙を取る。
「…えっと…『友情は金で買えますか?』」
「「歪んでるっ!?」」
副会長と俺のツッコミがハモる。
「一体音ノ木坂に何が起きてるんだ!?」
「生徒会でどうにか出来るレベルや無いで!?直ぐに生徒指導の先生に連絡せんと!」
「お婆様の愛した音ノ木坂はもう無いのね…」
「会長まで何か悟りだした…収拾つかないぞ」
悟った目で次の紙を取る会長。どうやら次で最後の1枚の様だ。
「最後は…『廃校を阻止する為に共学にした。それでも生徒数は増えなかった。それって根本的な解決になってませんよ?』知ってるわよ!」
「ミ◯トさんは帰れ!ってか会長ツッコミはえぇ!」
「要望すら無くなっとるで!しかももう時間やでエリチ!」
「完全に時間の無駄じゃない!」
大喜…目安箱で時間を無駄にした俺達は急いでプログラムを確認し、講堂へ向かった。
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「以上で新入生歓迎会を終了とさせていただきます」
絢瀬会長が壇上を降りる。あんな混沌とした事があったにも関わらずの完璧さには脱帽する。そんな会長に労いの言葉を掛ける。
「お疲れ様です」
「貴方はライブの為に講堂に残るのかしら?」
「一応は…出来る事なんてもう無いですけどね。次に繋げる事しか」
「…次が有るとは思えないけど」
そう言って会長は生徒会室へ向かった。
「ま、エリチも気にはしとるんやろうけど…素直や無いから」
「そうですね。どうにかしてμ'sに引き込めない物か…」
「……その時はウチも入れてな?」
「当然」
その答えを聞いて副会長は満足そうにして生徒会室へ向かった。
さて、ここからが本番だぞ…μ's。
☆☆☆☆
開演五分前だが、俺以外講堂には人は居ない。やはりファーストライブは失敗だと分かった。だが、俺がファーストライブの失敗を受け入れるのとアイツ等3人がファーストライブの失敗を受け入れるかどうかは別問題だ。会長にああ言った手前、どうなるかは本人の気の持ちようだ。今はツバサお墨付きの俺の直感を信じるしか無い。ツバサを倒したいと思ってるのに、ツバサのお墨付きが有ると安心する俺はまさかシスコンなのだろうか?
そんな事を考えていると開演の放送が流れた。人は結局居ない。今、ステージの幕が上がった。
そして人が居ない講堂を見て3人の表情が固まった。きっとさっきまでスカートを恥ずかしがる園田を説得したのだろう。きっとさっきまで3人で話したのだろう。絶対に成功させると。そしてきっと今高坂達の脳内では今日までの出来事がフラッシュバックされているのだろう。この日の為の努力が。
そして静寂が講堂を支配した。
☆☆☆☆
一分程経っただろうか。静寂を破ったのは高坂だった。
「そりゃそうだ!人生そんなに甘くない!」
目に涙を溜めながらも気丈に振る舞う高坂。今にも泣き崩れてしまいそうだった。園田も南も泣きそうな顔で高坂を見る。これは…本当の意味での失敗になってしまったかもしれない。
「……今回は…」
“諦める”そう言おうとした瞬間だった。勢い良く講堂の扉が開いた。
「あれ?ライブは?…あれぇ?」
キョロキョロと辺りを見渡す生徒。確かチラシを持って行った…
「花陽ちゃん…」
高坂が呟く。そう。確か小泉花陽だったな。小泉の姿を見た高坂の表情が決意に満ちて行く。
「やろう!」
「穂乃果…」
「穂乃果ちゃん…」
高坂の言葉を聞いて園田と南が頷く。小泉には感謝だな。どうやらこのライブは…成功だ。
曲が流れてライブが始まった。
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ライブが終わり、3人が満ち足りた表情をする。ライブの途中で更に何人か入ってきたが、その内2人が物陰から覗いてる感じで見ていた。矢澤先輩と…恐らくは西木野だろう。
本当に疎らな拍手ではあるが、3人にとっては何物にも変えられない大切な物になっただろう。そう考えていると後ろから足音が聞こえた。
「生徒会長…」
現れたのは絢瀬会長だった。
「まだ続けるつもり?これ以上やっても意味は無いと思うけど?」
「やります!」
力強く答える高坂。
「何故?」
冷たく聞き返す会長。
「やりたいからです!今はこの気持ちを大事にしたい…もっともっと歌いたい!踊りたいって!」
「うん!」
「ええ!」
高坂の言葉に園田と南が頷く。迷いは無い様だ。
「いつか…いつか此処を満員にします!」
高坂の決意の言葉を聞いて会長は俺を見た。
「これも貴方の計算通りなのかしら?」
「いえ…今回は本気で諦める所でしたよ…」
本当に危なかった。小泉が来てくれた事も大きいが、やはりあの3人の芯の強さに救われた形だ。
「………失礼するわ」
そう言って会長は講堂から出て行った。それで気が抜けたのか、ステージの上の3人がその場に座り込む。
「はぁ~疲れたよぉ…」
「流石に私も疲れました…」
「でも、楽しかったね!穂乃果ちゃん!海未ちゃん!」
力なく笑う3人に労いの言葉を掛ける。
「ファーストライブお疲れさん。中々悪くは無かったぞ。兎に角今日はゆっくりと休め!」
3人は嬉しそうに笑った。とりあえず、μ'sのファーストライブは成功だ。
ネタなんかやるから本編が進まないんだよ。
しかし目安箱ネタは常設しようか考えてる。