ファーストライブから数日後、俺は音楽室に向かっていた。理由は西木野に作曲のお礼をする為だ。西木野本人は作曲した事を否定しているが。
音楽室に近付いて行くにつれてピアノの音色が大きくなる。音楽室の入口から中を覗くと、西木野がピアノを弾いていた。
「相変わらず良い音色を出すな。やっぱり相当努力したんだろうに…」
あまりにも良い音色だったので暫く音楽室の入口で西木野のピアノを堪能させてもらった。だが、二曲目に入ろうとした所で西木野に見つかった。残念。
「何見てるんですか!」
「良い音色だったから、つい聞き惚れてな」
「い、意味分かんない!」
そっぽを向く西木野。いや意味は分かるだろうに。照れ隠しか?
「照れるなよ。寧ろ誇れ」
「照れて無いです!……それで?用件は?あ、スクールアイドルなら絶対にやらないから!」
「人はそれをフラグと言うのだが。まぁ用件と言うか、あれだ。作曲のお礼がしたくてな」
「だから!私が作曲した訳じゃ無いって…」
あくまでも否定しようとする西木野。何故にそんなにも否定するのか。埒が空かないからとりあえず強引に話を進めよう。
「そんなに否定するなら別にそれで良いか…」
「やっと諦めた?案外先輩も強引だから…」
どうやら俺が諦めたと勘違いしたみたいだが、そうはいかんのだ。やると言ったらやるのだよ。
「作曲してようが、してなかろうが関係無いな。ちょっと遊ぼうぜ。勉強ばかりじゃ気が滅入るだろ?デートしようぜ」
「う゛ぇえ!?で、デートって!?いきなりそんな…」
滅茶苦茶動揺する西木野。デートで動揺するとか初々しいな。
「俺はお前に俺とデートする事を…強いているんだ!(集中線)」
「ちょっと…顔が近い…!」
「お前は俺とデートする事を強いられているんだ!(集中線)」
中々反応が面白いからからかい甲斐がある。
「わ、分かったから!分かりましたから!」
「んじゃあ行こうか」
ゴリ押しで西木野を連れ出す事に成功した。もう既に西木野が疲れ気味だが大丈夫だろうか。
☆☆☆☆
「やって来ました秋葉原。何でも揃うハイスペックな街だが西木野さん、何かしたい事とか無いか?」
「強引に連れてきた割りにはノープラン?別に構わないけど…でも、特にしたい事なんて…」
髪を弄りながらも西木野は答えた。やっぱり誰かと遊ぶのには慣れてないみたいだな。俺も人の事は言えないが。
「普段遊ばないだろうからな…無難にゲーセンでも行くか?」
「ゲーセン?ゲームセンターの事?…そうね。行きましょう」
何だかんだでゲーセンに決まった訳だが…
「くっ…何で取れないのよ!」
「アームのパワーが弱いからな。ここは挟むよりもアームで押せば…取れたぞ。取ったと言うか押し出したんだが」
取れたウサギのぬいぐるみを西木野に渡す。しかし意外と西木野は熱中するタイプだったとは…
「あ、ありがと…」
「おう。それにしても、案外人が多いな…」
「そうなの?あそこは凄い人だかりが出来てるけど…」
西木野が指を指した方向を見てみると、パネルを踏んでスコアを競うダンスゲームに人だかりが出来ていた。
「誰かが踊ってるんだろう。見てみるか?」
「そうね…行ってみましょう」
人だかりの隙間から誰が踊っているか見てみる。すると見覚えがある後ろ姿だった為、思わず声が漏れた。
「げっ」
あの後ろ姿は…
「流石はA-RISEのセンターの綺羅ツバサ!凄い!最高難易度で未だにノーミス!」
そう。踊っていたのはツバサだった。ゲーセンの店員が興奮気味に実況している。恐らくはプライベートな入店だっただろうに、店員にバレたなアイツ。
「ねぇ先輩。貴方の名字も綺羅でしたよね?下の名前も似てるし…もしかして家族?」
「ああ、姉だよ」
「……場所変える?」
西木野が気遣って場所の変更を提案してくれる。
「すまん。お言葉に甘えて場所を変えさせて貰うわ…ありがとな」
「べ、別に…感謝される様な事じゃ無いわよ!」
西木野の気遣いに感謝を述べると同時にギャラリーから歓声があがる。どうやら終わったみたいだな。ツバサにバレる前におさらばしよう…
「あら?ツカサじゃない?珍しいわね。貴方がゲームセンターに居るなんて…しかも“女の子と一緒に”」
ダメだった。
☆☆☆☆
場所は変わって秋葉原の裏道にある小さな喫茶店。人も少なく落ち着いた雰囲気の静かな喫茶店だ。ここならツバサが居ても騒ぎにはならないだろう。
「それで?今日はデートかしら?」
ツバサがコーヒーを飲みながら訪ねる。
「それが分かってるなら声を掛ける。況してや二人きりの時間を邪魔するのはどうかと思うが?」
「あら、随分と手厳しいわね」
ツバサは平然と返してくる。寧ろ楽しんですらいるだろう。勝てる気がしない。
「えっと…西木野さん。で良いわよね?」
「…はい」
西木野に話を掛けるツバサ。西木野は若干不機嫌そうに答えた。
「もう…そんなに不機嫌そうにされたら傷付くわ。一応は有名人だし」
「私は貴女の事は知らないので」
おお。ツバサを正面から斬ったな。だが、ツバサには逆効果かもしれない。だってツバサ笑ってるし。
「なら貴女も私のファンにしてあげようかしら?貴女みたいな気の強い人は好きよ?」
「私スクールアイドルには興味無いので結構です」
「嘘ね」
西木野の言葉を直ぐに否定するツバサ。有無を言わせない力がそこにはあった。
「嘘なんかじゃ…」
言葉を返そうとするが、西木野は言い淀んだ。思う所があるんだろうな。
「……意地悪はこれくらいにしておこうかしら。ごめんなさいね?弟と仲が良い女の子は珍しいから少し意地悪しちゃったの。他意は無いわ」
嘘つけ。と言いたくなったがその言葉を飲み込む。今、余計な事を言えば西木野が困るだけだろう。
「…別に気にしてません。失礼な言い方をしたのはこっちですし、私の方こそ謝ります」
逆に西木野が謝った。それは予想外だったのかツバサは目を丸くしている。しかし直ぐにふわりとした笑顔を見せた。
「やっぱり貴女の事を気に入ったわ。将来の義妹候補は有望ね!」
「う゛ぇえ!?義妹って…う゛ぇえ!?」
「落ち着け西木野。ツバサがからかってるだけだ」
西木野が滅茶苦茶動揺してる。さっきデートに誘った時よりテンパってる。
「ふふっ。冗談よ。ツカサ、西木野さんって面白いわね」
「そこは同意する」
「同意しないでよ!私がバカみたいじゃない!」
必死になって抗議する西木野。必死すぎて逆効果に感じるが敢えて放って置こう。
「あ、そう言えばツカサ。ライブの動画見たわよ。……あれは確かに興味を抱くのは分かるわ」
真剣な声色で話すツバサ。西木野は放置ですね分かります。しかしツバサもやっぱり興味を持ったか。
「率直に言ってどうなんだ?」
「何もかもが足りない…正にその通りよね。でも本当に人を惹き付ける何かが有るわ。それも私達A-RISEには無い何かが…」
ツバサはスマホでμ'sのライブの動画を再生する。西木野も食い入る様に見つめていた。
「映像でこれだけの物…実物で見たい物ね。特に高坂穂乃果さん。彼女には是非会いたいわ」
「いずれ会えるだろう。まぁ今すぐは無理だろうけどな」
「そうね。今日は時間があったけど暫くは忙しいのよね…」
ライブの動画が終わると、スマホ仕舞ってツバサは立ち上がった。
「さて、そろそろ失礼するわね。西木野さん?」
「何ですか?」
「自分の気持ちに素直になれば貴女はもっと素敵になるわよ」
そう言い残してツバサは店を出て行った。伝票を残して。ツバサの分まで俺が払うのか…
「自分の気持ちに素直に…か。出来るなら私だってとっくに…」
「別に焦る必要性は無いだろ。じっくりと考えれば良い」
☆☆☆☆
時間もそれなりに遅かったので西木野を家まで送った。西木野の家を見て固まった俺は悪くないと思う。デカい。その一言に尽きた。
「どうしたの?ボーッとして…お茶くらいなら出しますよ?」
「お、おう…お邪魔します…」
西木野の家に入ると西木野の姉らしき人物に出迎えられた。
「あらあら!真姫が男の子を連れてくるなんて!だから今日の病院の予定を明日に変えたのね?今日はお友達も来てるし、真姫も学校で上手くやれてるみたいで安心したわ!」
「友達?ママ、誰か来てるの?」
「えっ、この人母親なのか?姉じゃないの?嘘やろ?ワイは認めへんで!」
嘘やろ…思わず似非関西弁になった。どう見ても高校生の娘が居る年齢には見えないんだが。南の母親の理事長もそうだが、どうしてこうも若く見えるのか。不思議だ。
「姉だなんて…嬉しい事言ってくれるのね!うーんと美味しい紅茶を淹れてあげるわ!」
「あ、ありがとうございます…」
テンションも高いな…っと西木野が部屋に入っていく。その後を追っていく様に俺も部屋へ入る。
「何で貴女がここに?」
そう言えば友達が来てるって言ってたな。しかしまさか小泉だったとは。中々面白い物が見れるかも知れない。
「あっ、せ、生徒手帳を拾ったから…って綺羅ツカサさん!?」
「そうだけど、何故にフルネーム?」
「あのA-RISEのセンターの綺羅ツバサさんの弟さん!μ'sのチラシを配っている時に、まさかと思っていましたが、この前のライブの時に講堂に居たのを見て確信しました!μ'sをプロデュースしているのは綺羅ツカサさん!貴方だったんですねっ!あの綺羅ツバサさんの弟である貴方がスクールアイドルをプロデュース!一体どんなドラマがあったんですか!?」
大人しい印象が一瞬で吹き飛ぶ程の熱ッ!コイツはスクールアイドルを心から愛している奴の反応だッ!でもすげぇグイグイ来るな。
「少し落ち着け。先ずは西木野に生徒手帳を渡してやれ小泉。あと別にドラマは無いしプロデュースしている訳じゃない」
俺の言葉にハッとした表情をする小泉。そして直ぐに顔を真っ赤にして俺から離れた。
「ご、ごめんなさい…アイドルの事になると、その…夢中になっちゃって…えっと、西木野さん…これ…」
「え、あぁ…ありがとう…」
西木野は小泉から生徒手帳を受け取ると、椅子に座る様に促した。
「えっと、西木野さん…スクールアイドルやりたいの?」
「なっ!?イタッ…うわっ!?」
座るや否や小泉が西木野に問い掛ける。それを聞いて西木野は動揺して立ち上がり、膝を机にぶつけた。そしてバランスを崩し、椅子ごと後ろに倒れた。逆に器用だな。
「大丈夫か西木野?」
「ご、ごめんね西木野さん!大丈夫!?」
「もう!貴女が変な事を言うから!」
直ぐに立ち上がる西木野。どうやら大丈夫そうだ。
「そ、それにしても何で急にそんな事を言い出すのよ!」
「生徒手帳…μ'sのポスターの前に落ちてたから…もしかしたらって思って…」
「え、まじで?やりたいのか?」
「………小泉さんはやらないの?そんなにアイドルが好きならやれば良いじゃない…あれだけ夢中でライブを見てたくらいだし…そしたら少しは応援してあげるから…」
あ、誤魔化したなコイツ。まぁ構わんが。つーかライブに居た事を自白したな。
「西木野さん、ライブに居たの?」
ほら、言われた。
「私は偶々通り掛かっただけだから…って話をすり替えないで!」
「おま言う」
「五月蝿いわね!今は小泉さんと話してるの!」
キレられた。一応は先輩なのに…
「その…私は…でも西木野さんは?私、西木野さんの歌が凄い好きで、音楽室にこっそり聴きに行くくらいに…」
「私の歌が?」
西木野は若干照れながらも聞き返す。
「うん。凄い好きだよ。憧れてる」
西木野は嬉しそうにするが、直ぐにため息を吐いて表情に陰を落とした。
「私は大学は医学部って決めてるの。だから私の音楽はもう終わってるの」
成る程な。勉強とピアノは両立出来ないからってやつか。でも西木野なら両立出来る気がするんだがな。まぁこればっかりは本人の問題か。
「だから…貴女がやるなら私も応援するって言ってるのよ?自信を持ちなさいよ」
「うん…ありがとう!」
小泉は笑顔で答えた。西木野よりも先に小泉がμ'sに入るかもな。
そう考えていると、携帯が震えた。高坂からのメールだ。内容は…
《今から家に来て!》
これだけかよ。せめてどうして呼んだかくらいは書けよ。
「用事が出来たから帰るが…小泉はどうする?」
「あっ…私もそろそろ…」
紅茶を飲み干して帰る支度をする。どうやら小泉も帰る様だ。日もかなり傾いてきてるしな。
「それじゃあな。またデートしようぜ」
「えっ!?西木野さんと綺羅さんって…えぇっ!?」
「ッ!からかわないでって言ってるでしょ!?」
ナイスリアクションだ2人共。
どこで切れば良いか分からないで御座る。