μ'sに矢澤先輩が加入してから少し経った頃、希さんがアイドル研究部の部室にやって来た。どうやら学校説明会に使う部活動紹介のビデオを撮影したいらしい。そういえばビデオ撮影は希さんの担当だったな。俺はそれを編集しないといけないが。
「ツカサ君も部員なんやからちゃんと出てな?」
「μ'sの紹介だけにしてくださいよ。無関係と言うつもりは無いですけど、スクールアイドルグループに男の姿があるのは良くはありませんから」
希さんにビデオに出るように言われるが断った。スクールアイドルのビデオなのに男が居るのは問題だろう。イメージが悪くなる可能性がある。
「私だって出たんだから先輩も出なさいよ!私だけ恥をかくなんて嫌よ?」
「そうは言ってもな…」
「マネージャーやプロデューサーみたいな感じで紹介すれば大丈夫なんやないかな?最悪雑用係みたいな風にすれば悪くは思われへんと思うよ?」
西木野はどうやら俺を道連れにしたいみたいだ。希さんもどうにか俺をビデオに出したいらしい。
「凛も賛成!ツカサ先輩も居た方が女の子からの人気も増えそうだにゃ!」
「私も賛成だよ!μ'sの初期メンバーの内の1人であるツカサ君が出ないのはダメだよ!何より私が誘ったんだし!」
星空と高坂まで希さんの意見に賛成し始めた。このままでは完全に退路を断たれてしまう。そうなる前にどうにかして脱出しようと試みる。だがそれは叶わなかった。
「逃がしませんよ。真姫の意見に賛成です。私達が恥をかくのに、ツカサだけが高みの見物なんて許しません」
「別に高みの見物って訳では…」
「だーめ♪穂乃果ちゃんの言う通り、ツカサ君も立派なμ'sの一員なんだから」
後ろも園田と南に封鎖されてしまった。くっ…こうなったら大天使ハナヨエル様に…
「ど、どう言う受け答えをするか…見てみたいです!」
やっぱり駄目だったよ。最後の砦の小泉にも見放されました。
「じゃあビデオ撮るからツカサ君、前に来てな?」
「…手短にお願いします」
「わかっとるよ~!じゃあ自己紹介からお願い!」
カメラの起動音が鳴り、撮影が始まった。先ずは自己紹介からか…
「私の名前は綺羅ツカサ、16歳独身…学業は真面目でそつなくこなす。今一つ情熱の無い男…悪い奴じゃあ無いんだが…」
「ストップストップ!名前と年齢以外は色々と違うんやけど!?もう序盤から同僚みたいな目線になっとるよ!?」
「やめとけ!やめとけ!俺は自己紹介すら出来ないコミュ障なんだ」
カメラの前で真面目にするとか無理なんですけど。緊張でヤバイんですけど。
「流石にこれは酷いわ…ツカサ君、ウチが取材の相手でもダメなん?」
「カメラは無理だと思います。ボイスレコーダーなら何とか…」
「アカンよ。ウチが持ってるボイスレコーダーは既にエリチの喘ぎ声でメモリー使い切っとるもん」
「何やってるんですかアンタ達は」
「……気になる?」
ニヤニヤと此方を見てくる希さん。別に人の趣味や恋愛に口を出すつもりは無いが、流石にそんなボイスレコーダーを持ち歩くのは止めて頂きたい。
「ボイスレコーダーの音声…聴いてみたい?」
「結構です。絵里さんに嫌われるのは嫌ですよ」
「エリチは寧ろ喜びそうやけど」
「絵里さんはそんな性癖じゃないでしょう」
「因みにまだカメラは回ってるから今の会話も撮影されとるで」
「消しましょう」
何を撮影してるんだこの人は。折角絵里さんが意地を張るのを止めたのに、別の意味で塞ぎ込む様になるぞ。
「何故カメラを隠すんですか。消させて下さい」
「ツカサ君がちゃんと取材に答えてくれたら消すって事で」
姑息な手を…!仕方無い、絵里さんの名誉の為に頑張るしかないのか…
「分かりました。やりましょう」
「よし!じゃあ名前から!」
「音ノ木坂の2年、綺羅ツカサです」
「趣味は?」
「取り立てて特には…」
「特技は?」
「勉強はそれなりに。後はシステマと剣道、槍術を少し…」
「ロリコンなん?」
「違います。キレますよ?」
「冗談や……μ'sに関わる事にした理由は?」
「………」
少し考える。μ'sに関わる事にした理由…高坂に誘われたから?いや、結局は断る事はできたハズだ。なら断らなかった理由は?高坂に興味が沸いたから?何故高坂に興味が沸いた?……あぁ。結局俺は…
「……ツカサ君?どないしたん?」
「あ、すみません…μ'sに関わる様になったきっかけでしたね?」
「う、うん。答えてくれるん?」
若干申し訳なさそうに聞いてくる希さん。深く考えすぎて、希さんに気を遣わせてしまったな。
「多分俺は“憧れ”たんだと思います」
「へっ?ツカサ君がスクールアイドルに?」
「いや、多分一生懸命な高坂に…今はμ'sのメンバー全員に対して…ですかね?」
「μ's全員?」
希さんが首を傾げた。確かに俺だって、今さっき自分の真意に気付いたんだ。いきなりこんな事を言われたら首を傾げるだろう。
「はい。俺って熱中出来る事とか、1つの目標に向かって真っ直ぐに!とかしたこと無いんですよ。システマや剣道も結局は熱中した物では無いので」
「つまり何かに熱中してる人に憧れるって事?」
「いや、μ'sやA-RISEは特筆して。って感じですかね?並大抵の熱中じゃあ納得はしませんよ」
「メチャメチャ意識高い系みたいに聞こえる答えやね」
言われてみたらそうかも知れない。ツバサや、あんじゅさん、英玲奈さんと長い間一緒に居たせいか、基準が高くなっているのか?
「まぁ、A-RISEに迫る何かがμ'sには有ると思ったって事で…」
「そうやね。ツカサ君にしか分からない事も有るやろうし」
そう言って希さんはビデオカメラを仕舞った。やっと終わったと安堵したが、高坂が俺の取材の答えに食い付いた。
「ツカサ君、A-RISEに詳しいの!?初耳だよ!?」
「は?」
今更か?それにしても高坂は本当に気付いて無かったのか。
「あ、あの…先輩達に何も言ってないんですか?」
「どうしたの?花陽ちゃん?言ってないって、何を?」
小泉が俺に疑問を投げ掛ける。そしてその疑問を聞いていた高坂は高坂で、疑問符を浮かべていた。
「いや、流石に気付くと思ってたんだよ。それが何時まで経っても気付かないから逆に言うのを止めたんだが…」
「…もしかして、穂乃果先輩だけじゃなく、海未先輩とことり先輩まで気付いてない訳?有り得ないわよ…穂乃果先輩はA-RISEの映像を見て、スクールアイドルを始めようと思ったんでしょ?最初は知らなくても、憧れたユニットのメンバーの事とか調べるでしょ普通」
西木野の指摘に対して顔を見合わせる幼馴染3人組。
「う、海未ちゃん。穂乃果ちゃんだけじゃなく、ことり達まで呆れられてるよ!?」
「もう何が何だか分かりません!穂乃果が原因ですよね!?」
「私だってワケがわからないよ!」
騒ぎ出す3人。そんな様子を見て、西木野が俺に耳打ちをしてくる。
「どうするの?穂乃果先輩の食い付きからして、貴方のお姉さんが綺羅ツバサだって知ったら質問責めにさせるわよ?」
「だよな…中々気付いてないって事もあったんだが、何より面倒になりそうだから言わなかったって部分もあるんだよ」
まだ騒いでいる3人を見て項垂れた。絶対に面倒じゃん。
「かよちん。A-RISEってそんなに凄いの?」
「凄いなんて物じゃないよ凛ちゃん!A-RISEは現在のスクールアイドルの頂点!絶対王者なんだよ!その実力はプロのアイドルと何ら遜色は無いし、最早スクールアイドルの枠に収まらないスクールアイドルなんだよ!」
星空に質問された小泉はA-RISEについて熱弁している。確かに実力はヤバイと言えるが、スクールアイドルの枠に収まらないスクールアイドルって…スクールアイドルって何だっけ?
「あー!私、分かったよ!」
「ほ、本当ですか穂乃果!」
「早く教えて穂乃果ちゃん!」
どうやら気が付いたな。
「ふっふっふ…ヒントはツカサ君の名前だったんだよ!綺羅ツバサと綺羅ツカサ…名前がそっくりでしょ?」
「た、確かに!言われてみればそうですね!名字まで一緒とは!」
「つ、つまりツカサ君は…?」
言われてみればって…今回の事が無かったら一生気が付かなかった可能性すらあったのか。
「つまり!ツカサ君は!“自分と名前が似ているツバサさんのファン”なんだよ!」
「「な、成程!それは納得!」」
「わざとやってるだろお前ら」
「「「えっ?」」」
わざとじゃない…だと?いや、やっぱりからかわれてるんだよな?そうだよな?
「私の完璧な名推理に不満が!?」
「はい。今日は解散しまーす。希さん、ちゃんとビデオを消してくださいね?それじゃ、失礼しまーす」
ダメだコイツら何とか出来ない。諦めて部室を出ようとしたその時、矢澤先輩が部室に入ってきた。
「取材が来てるって本当!?」
「来てますよ。でも今日はもう解散しますので、後日お願いします」
「ちょっと!何でよ…って、アンタ…目に光が無いけど大丈夫?」
「大丈夫です。同級生の発想力に絶望しただけです」
矢澤先輩に心配された。やっぱり良い人だよな。でも帰る。
「解散はええけど、穂乃果ちゃんの家に取材に行ってもええ?」
「わ、私の家ですか?」
「うん。μ'sのリーダーである穂乃果ちゃんのご家族にもお話を聞きたいんや」
俺はこの時、希さんの提案を聞き逃していたが、この後にリーダー決定騒動が起こるとは思っていなかった。