それにしても英玲奈さん、君、アニメと漫画で喋り方違わない?
学校が終わり、家に帰り着いた瞬間に違和感…いや、嫌悪感を感じた。
家に異物が入っている感覚だった。
家の玄関に見慣れない靴が幾つかあり、やはり誰かが家に来ている状態だった。
「ただいま…誰か来てるのか?」
「あ、ツカサ…お帰りなさい。その、申し訳無いんだけどA-RISEに密着取材が来てて…」
家に入るとツバサが申し訳なさそうに密着取材について俺に説明した。
自分は乗り気では無かったが、学校の指示で有ること。今日の夜までは取材班が家に居る事などを聞かされた。
正直うんざりだ。
「勝手にやってろよ。俺は部屋に居るから取材の人間は近付けるな。良いな?」
「…少しだけ取材に応じてくれない?」
「無理だ。俺がそういうの嫌いなのは知ってるだろ」
ツバサの頼みを断って部屋に入ろうとしたその時、カメラとマイクを持った2人が俺の前に来た。
「君がツバサさんの弟のツカサ君だね?お話を聞かせてくれないかな?」
「お断りします。取材するのはツバサだけにしてください」
「そう言わずに…君、カメラ映り良さそうだし」
「無理です。失礼します」
最低限の言葉だけを発して断った。まだ何か言っていたみたいだが、無視した。
☆☆☆☆
「すみません、ツカサは人見知りなんです」
一応取材班の人達に謝っておく。ツカサが不機嫌なのは仕方無いと思うから、形だけの謝罪だけどね?
大体、いきなり朝に『密着取材が来てるから宜しくね』って理事長から言われた時は私もイラッと来たわ。生徒会長はいきなり過ぎるって抗議してくれたけど…
「ツバサさん、どうかした?」
「あ、いえ…」
「それにしても弟さん、どうにかして説得出来ないかな?」
「どうしてそこまで拘るんですか?ツカサも言ってましたけど、A-RISEの取材なんですし、本人も乗り気では無いんですから…」
どうにもこのプロデューサー、ツカサに拘りすぎている気がする。何かあるのかしら?
「彼、結構人気なんだよ?“綺羅ツバサの弟”でありながら、メディアへの露出はしないミステリアスな男ってね」
「私の弟だからと言って、メディアに出るのが義務って訳じゃ無いですよね?」
多分その言い訳は嘘。一体何を隠してるの?
「ツバサさん、疑ってるって目だね?もしかして彼の“噂”知らないの?」
「噂?」
何だろう?ツカサはあんまり目立った行動はしないタイプだから、変な噂が広まるなんて思えないけど。
「それはね…ん?もうこんな時間か。今日は切り上げようか。じゃあまた明日も宜しくね?」
「えっ?明日って…取材は今日だけじゃないんですか!?」
「大丈夫。理事長の許可は取ってあるから」
明日は久々のオフなのに…学校の収益に繋がるからと言っても、これはあまりにも…
「あれ?不満?ならさ…明日の撮影で埋める分だった尺をさ、弟さんへの撮影で埋めるって言うのはどうだい?」
「ッ!…まさか最初からそのつもりで!?」
「いやいや、人聞きが悪いな…」
絶対にわざとやってるわね…ツカサが一番嫌いなタイプの人間。
この男にツカサを取材させるくらいなら、私のオフを潰すくらい…私が覚悟を決めた瞬間に、後ろから声が聞こえた。
「取材なら応じてやるからさっさと終わらせて失せろ」
☆☆☆☆
「じゃあ、弟さんの許可も得た所で…先ずはやっぱり自己紹介からかな?」
「プロデューサー自ら取材とは…御苦労な事で。綺羅ツカサ。音ノ木坂の2年…」
プロデューサー自らの取材…何か裏が有るな。夕飯の支度の為に嫌々降りてきたら、あんな話を聞いてしまった。流石に放ってはおけないだろ。
「A-RISEはスクールアイドルのトップだけど、そのセンターの弟としてはどう思ってる?」
「身内贔屓に聞こえるかも知れないが、ツバサは才能も有るし、努力も怠っていない。英玲奈さんとあんじゅさんの2人の協力も有ってこそではあるが、トップに居るのは当然だと思ってる」
「凄い信頼だね?」
プロデューサーの嫌な笑みは消えない。一体何を狙っているのか。
「ちょっと小耳に挟んだんだけどさ?ツカサ君はμ'sってユニットと“親しい関係”って聞いたけど本当?」
「…リーダーの高坂に頼まれて、雑用やら何やらはしてるが?」
少し含みのある言い方だな。何かしら仕掛けてくるか?
「僕が言いたいのは…“綺羅ツバサの弟”って立場を利用してμ'sのメンバーを騙して“淫行”してるかどうかって話だよ」
「………何だそれ?」
「……意味が分からないわ」
言われた言葉が理解できない。それはツバサも同じ様で、呆気にとられていた。
「だから、ツバサさんの名前を出して、μ'sのメンバーとヤッちゃってるのかって話だよ」
プロデューサーの言葉を漸く理解できたのか、ツバサが怒鳴った。しかしそれはマズイ。
「ふざけないで!そんな事、あるわけないでしょ!?」
「落ち着け、ここで怒鳴ると誤解を生む」
今にも掴み掛かりそうなツバサを制す。成程、多分ネットか何かで噂になっているのだろう。このまま行けば、開催が噂されている“ラブライブ!”の時もμ'sに対する噂が立つかも知れないな。例えば“A-RISE対μ'sは身内による八百長である”とかな。
A-RISEとμ'sに迷惑がかかる可能性がある以上、この辺りで手を退くのが妥当か?
「ん?黙っちゃうって事は噂は本当だったって事かな?」
「淫行はしてない。これははっきりしてる。だが、世間一般はそうは思わないかもな」
「そうだね。そう言う物だろう。で、どうするの?」
本当にムカつく顔をするプロデューサーだな。コイツ、アイドルの密着取材じゃなくて絶対にワイドショー担当とかだろ。
「とりあえず、μ'sとの関係は絶たせて貰う」
「ツカサ!?何を言ってるの!?」
ツバサは驚いている。まぁ宣戦布告した手前、途中で降りるのは主義に反するが今回は仕方無い。後で説得しよう。
「仕方無いだろ?俺も甘く考え過ぎていた。このまま行けば、2つのグループに迷惑が掛かる。それは俺が一番嫌いな事だ」
「そんな事されたら、私達…いえ、μ'sも笑顔で踊れなくなるわよ!それじゃあ意味が無いわ!」
「別に全く関わらない訳じゃない…生徒会である以上、事務的な作業ではどうしても関わるからな。それに、廃校阻止が目的のμ'sにとって、悪評は少しでも避けるべきだ」
「それは…」
廃校阻止。絵里さんも言っていたが、学校の名前を背負う以上は失敗は許されない。
それが俺のせいで失敗したとか洒落にならない。
「成程。淫行は事実無根でも、君は責任を取る…って事かな?」
「そうだな」
「それは残念だね」
「何がだ?」
残念?μ'sに対するスキャンダルが無くなるからか?
「やっていない事に対して責任を取るのは臆病者がする事だからだ」
不意に後ろから声が聞こえる。後ろから現れたのは…
「お祖父様…何故ここに?」
そう。俺達の祖父“綺羅ツバキ”だった。
しかし、爺さんの姿を見て確信した。この取材は爺さんの仕込みだ。
「爺さん、嫌な事をしてくれるな?」
「お前の真意を知りたくてな。しかしここまで臆病者だったとは」
「臆病者で結構だ。否定した所で噂が消えないなら、噂の元を絶つしかないだろう。それが合理的だ」
別にμ'sの目的が廃校阻止じゃなければ問題は無い。だが、廃校阻止はデリケートな問題だ。実際今日の学校紹介のビデオにも本当は出たくはなかったしな。
「合理主義とは詰まらん人間になったな?それに、自己犠牲が合理的だとは思えん」
「ならどうする?廃校を別の手段で止めるか?どうやって?」
「お前の憧れたμ'sは噂程度でダメになるのか?信じてはやれんのか?」
「感情に任せろと?」
爺さんに言われたのはまさかの感情論だった。
「“諦めちゃ駄目なんだ。その日が絶対来る”ではないのか?」
「おい爺さん。まさかμ'sのファンとか抜かすなよ?サラッと歌詞を前に出すなよ?」
「………」
「おい、目を逸らすな。この空気で馬脚を現すなよ」
まさかあれか?俺がμ'sの近くに居れば何かしら自分にも利益が有るとか思ってるのか?
「いや、でも実際、そんな噂が広まる可能性もあるから、どうするのかと思ってな?そしたらμ'sから離れるって言うじゃん?根性論だろうが感情論だろうが諦めないと思ったんだけど、あまりにも臆病者だったからつい出てきちゃった」
「確かに今は無くても噂が広まる可能性はあるわね。でも大抵は何とかなるわよ?私達A-RISEなんて運転手にすら噂が立ったけど、すぐに消えたもの」
確かに少し前にツバサ達にもそんな噂が立った気がするが、知らない間に自然消滅してた気がする…
「難しく考え過ぎなのよ。スクールアイドルはプロとは違うのよ?確かに私の弟ってだけで周りとイメージも扱いも違うかも知れないけど…μ'sのメンバーは普通の女の子でしょ?」
「普通…ね。まぁぱっと見たら普通か」
「えっ、普通じゃないの?じいちゃん気になる!」
「◯ね」
「ダイレクトな罵倒!」
「前々から思ってたけど、お祖父様ってパワフルと言うか、若いわよね」
ツバサの言葉に納得する。確かに爺さんは考え方とかが若者寄りと言うか、奇抜な発想をする。
「因みにじいちゃんは海未ちゃん推し。A-RISEなら英玲奈ちゃん推し」
「聞いてねぇよ老害」
「私推しじゃないの?お祖父様?」
「いや、ツバサは最早別次元だから!だから恐い笑顔をしないで!漏らしちゃうから!」
「ライ◯リーの奴買ってくる」
「なんで普通に介護用品買ってこようとしてるの!?ツカサってワシに辛辣!」
さっきまで俺を追い詰めていた奴が良く言えた物だ。しかし噂が立つ可能性があるのも事実…信じる信じないは兎も角、一度はμ'sのメンバーとも話してみないとな。考える時間をくれた点に関しては爺さんに感謝だな。
「幸いまだ噂が立っている訳では無いが、注意は必要だし、前以てメンバーと相談してみるのも良い。今回は半ばドッキリみたいな物ではあったが…」
「有り得ない話じゃないって訳だな。分かってる、それには感謝してるよ爺さん」
俺が礼を言うと、爺さんは満足そうに頷いた。
「あっ、お礼は海未ちゃんのサインか生写真で…「さっさと帰れ」」
とりあえず、偽の取材班と一緒に追い出した。
「でもお祖父様と理事長がグルだったなんて…学校に行くのが恐いわ。学校でも普通に取材してたのよ?……そう言えば、あのカメラやけに英玲奈を撮ってた気が…」
「ちょっとビデオ消してくる」
ビデオ消してばっかりな1日だと思いました(小並感)
じいちゃんはオリキャラ。
UA30000突破記念の話しはまた後日。