「痛い!痛いよツカサ君!?」
神田明神で夕方の練習をしている高坂にアイアンクローを食らわす。何故そんな事をしているかと言うと、絢瀬会長を説得するつもりでライブの提案をしたら『もう既に新入生歓迎会でライブをするつもりみたいよ?何?貴方知らなかったの?実際は仲間外れにされてるの?』と散々絢瀬会長に弄られた。この前論破した事を根に持っていた態度だったな。つまり、高坂のせいで恥をかいたから制裁を下しているのだ。
「ゴメンってば!言うの忘れてたんだよっ!」
「まぁ、確かに練習や作曲の騒動とかがあったもんな」
「そ、そうだよね?許してくれるよね?」
俺の言葉に許される希望を感じたかの様に話す高坂。だが現実は甘くないのだ高坂よ。
「そうだな。確か階段ダッシュが3往復残ってたな?それの結果次第で決めてやる。そうだな…少しでも良いから自己ベストを更新出来たら今回の事は見逃してやる。どうだ?」
「の、臨むところだよ!この高坂穂乃果に不可能は無いよ!」
意気揚々と階段ダッシュの準備をする高坂。ここで高坂の体力を見ておこう。
「いっくよ~!」
勢い良く階段を駆け上がる高坂。しかしそれも長くは続かなかった。
「ハァ…疲れたよぅ…」
「……………これは酷いな」
「ツカサもそう思いますか?」
俺と園田は息も絶え絶えな高坂を見て溜め息を吐いた。南は高坂の背中を擦っている。
「剣道の時にそれなりに体力をつけてやったと思ったんだが…」
「大会の後の穂乃果は運動を殆んどしてませんでしたから…」
「運動神経自体は本当に天才的なのに勿体無いな。やっぱり基礎体力からだな。踊りながら歌うのは体力を使うからな…」
半年と少しで剣道の大会で優勝出来る程のセンスと飲み込みの早さは圧倒的としか言いようがない。作曲が完成するまでは体力作りのみに集中するか…?
「ライブでは何曲歌うつもりなんだ?」
「え?1曲だよ?そんなに長い間は講堂も借りられないみたいだし」
息を整えた高坂が答える。1曲か…ならまだ体力的には大丈夫だな。それならダンスの練習をした方が良いか。
「じゃあ今から軽く踊れるか?」
「今ここで、ですか?…誰かに見られるのはちょっと…」
園田は何を言い出すのだろうか。どうやら練習中に参拝客に見られているのに気付いて無いのか。
「人前で踊れなくてどうするんだよ。衣装とかも着て踊るんだぞ?」
「スカートは最低でも膝下までの物を作る様に言ったので大丈夫ですっ!」
その言葉を聞いて南と高坂がピクリと反応する。あれは膝下までの長さは作ってない奴の反応だ。しかし園田は二人の反応に気付いて居ない。またもや園田は作詞の時と同じく不幸な被害者になるのか。南無三。
「な、何故また哀れみの目で私を見るのですか?」
「そこに居る副会長にでもお祓いして貰うか?…って副会長居ないし…サボりか?」
さっきまで境内の掃除をしていた筈の副会長が居ない。辺りを見回していると、唐突に女性の悲鳴が聞こえた。
「今の声はなんだろう?」
「お、お化けでも出たのかなぁ?」
「こ、ことり!?怖い事を言わないで下さい!」
副会長が居ない状態での女性の悲鳴…答えはひとつだな。
「副会長が誰かの胸を揉んでいるに500ペリカ」
「副会長さんそんな事するの!?」
「3日に一回のくらいのペースだな」
「結構多いね…」
高坂は若干引いていた。その気持ちは分かる。俺は生徒会では唯一の男子であり、唐突に女性の生徒会役員の胸を揉んでいる時の場の居辛さときたら半端じゃない。被害者は殆んどが絢瀬会長だしな。
「まぁ、それは置いていてだ。良いから踊ってみろ。第三者からの意見は大事だぞ」
「そうだね。穂乃果ちゃん、海未ちゃん、やろうよ!」
「私は準備OKだよっ!」
「し、仕方無いですね…それでは行きますよ!」
☆☆☆☆
感想を言ってしまえば、まだまだの一言に尽きる。ミスは多いしズレもある。でも何故か不快では無かった。そんな動きだったな。
「どうだった!?」
「ズレまくりだったな」
褒めると調子に乗りそうなので本音は言わないが。
「やはりそう簡単にはいきませんか…」
「そうだろうな、何よりも基礎が足りてないからな。お前ら柔軟とかしっかりとやってるか?案外ああいうのは大事だぞ」
ツバサの受け売りだけどな。やはり俺もダンスは専門外だから良い講師を探したいところだが宛がない。
「日もかなり傾いて来たからそろそろ止めた方が良いな」
「そうだね。じゃあまた明日にしよう」
そうして俺達は神田明神を後にした。
☆☆☆☆
「ダンスのコーチ、探しとるんやろ?」
神田明神の階段を下りた所で副会長に呼び止められた。
「これはこれは…色情魔の東條副会長。誰かコーチが出来そうな人でも居るんですか?」
「色情魔だなんて酷い言われようやなぁ。ウチはただ女の子の胸をワシワシしとっただけやで?ま、男の子の君には出来へんけどな。ウチに胸板を触る趣味は無いから」
「誰も頼んでませんよ。で、コーチの宛はあるんですか?」
副会長は無言で頷くと階段を上って行った。ついて来いと言うのだろうか。
「……またこの階段を上るのか」
若干憂鬱になった。
☆☆☆☆
「君はエリチの味方になってくれる?」
階段を上りきると副会長がいきなりそんな事を言い出した。
「少なくとも敵になったつもりはありません。μ'sに手を貸すのを止めろと?」
「手を貸すのを止めろなんて言わへんよ。ただツカサ君はエリチが困ってたら、独りになってたら助けてくれる?」
「………」
副会長が言わんとする事は大体読めてきた。
「どうなん?」
「勿論会長が困っているなら助けます。去年も多少なりとも助けて貰った身ですし。ですけど、独りで居る事に関しては会長自身がどうにかしないといけない事でしょう。周りはいつでも会長に手を差し伸べますよ。俺だって、あの3人だって。副会長もそうでしょう?」
俺の答えを聞いて笑う副会長。この返答は副会長にとっては予想通りの返答だった様だ。
「…そうやね。それでコーチの話なんやけど、エリチに頼んでみたらどうやろ?」
「あー…バレエ経験者でしたね。しかもかなり上位の」
「なんや知ってたん?エリチあんまりあの話せんのに…やっぱりツカサ君がお気に入りなんやね」
お気に入りとは思えない程に弄られたんですがそれは。
「確かに会長の腕なら良いコーチにはなりますけど今の状態でコーチになるのは不可能でしょう」
「そこはツカサ君がエリチに服従を誓えばどうにかなると思うで?」
「俺が服従を誓っても喜ばないでしょう」
「いやいや案外行けるでツカサ君!」
何故にそんなに自信満々で言えるのか。
「せやかて工藤。それが嫌なら西木野さんにしたみたいに壁ドンするしかないで」
「何故に西の高校生探偵風に…それよりもアレ見てたんですか恥ずかしい」
黒歴史確定じゃないですかやだー。
「その辺の女の子ならイチコロやであれは。案外エリチはああいう乙女チックな事に憧れるから勝てる確率は高いで?」
「あれは大切な物を失う気がするのでやりたくないですけどね。それに俺なんかがやったって効果は無いでしょう。西木野の時は判断力が落ちてると思ったからやった事ですしおすし」
「……最終手段に使えばええよ」
何故か半ギレな副会長。それでも使わせようとするのはどうしてだ。あれか、恥の上塗りをさせたいのか。
「とりあえず、コーチはエリチに頼む事!異論は認めへんよ!副会長命令や!」
「職権乱用だー!ブラック企業には断固屈しな…」
抗議の声をあげたその瞬間にカードが俺の頬を掠めた。
「次は眉間に刺さるで?」
「……スピリチュアルですねー…」
「そうやねー!」
怖い!小さい頃にツバサの額に“肉”ってイタズラ書きした時にキレたツバサ並みに怖い!
「分かりました慎んでその命令を受けさせていただきます」
即座に土下座した。その後、家に帰った俺はツバサに心配されるレベルで怯えてたらしい。
スピリチュアル(物理)