該当箇所には伏せ字を用いました。予めご了承ください。
桜は講堂の渡り廊下で携帯端末を取り出し、「一六才の誕生日おめでとう!」というタイトルのメールを見てにやけていた。
「うわっ。奈津ねえ……」
奈津子のメールには「誕生日プレゼントを注文しておいた」とある。注文時の自動送信メールが一緒に転送されており、タイトルのポイント二〇倍が妙に気になった。商品名は着脱式ダンベル。一方、安芸のプレゼントは夏物の水着だ。文面に「臨海学校で使うと思うから」とある。トップはビキニタイプ、ボトムはボクサーパンツだった。
友人たちのメールにも目を通す。特筆すべきはケースオフィサーことエイブラハム・クーパーから「航空ショーに来ないか」というお誘いがあったことだ。どうやらA6M5、すなわち零式艦上戦闘機五二型の復元に成功したらしい。試験飛行を無事に終え、アメリカ合衆国ウィスコンシン州のオシコシ航空ショーで展示飛行を実施するという。開催時期は七月末から八月上旬にかけて。ちょうど夏休みだ。
「これは行きたい。五二型とか懐かしすぎるわ」
台湾にいた頃の乗機が五二型だった。エンジン不調で海に不時着したり、泳いで帰還したり、輸送任務に就いていた海防艦に拾ってもらったりと思い出が深い。
メールには実物の五二型を背にして妻と娘、息子らしき人物が写っている。桜を子供たちに紹介したい、という思惑が透けて見える。しかも、同じようなメールをトロイやマ■ー■ァッ■ーにも送信しており、トロイは参加を快諾したと本文につけ加えてあった。マ■ー■ァッ■ーは恋人の喪に服しており、参加を断っている。
「トロイってイギリス人やったような」
桜は一度だけトロイの顔写真をSNSで見かけたことがある。くすんだ茶髪でとらえどころのない顔立ち。ひげ面で年齢不詳の
続けて文面を追う。旅費や宿泊費をケースオフィサーが持つことになっていた。彼は金持ちだ。トロイがタダ旅行の機会を見逃すわけがない。
職員棟に続く階段が目に入った。携帯端末をポケットにしまい、靴を履き替え、再び顔をあげると、ラウラと箒が並んで歩いている。
玄関から飛び出して職員棟を目指して軽く走る。ふたりが階段をのぼりきる直前に追いついたものの、彼女たちは無言のままだ。本音に一組でのラウラの様子を聞けば、誰とも会話せず、授業を淡々とこなしているとか。しかもセシリアがラウラに熱い視線を送り、何かにつけて突っかかるようになっていた。
――いったい何やったん。
ラウラはセシリアを怒らせるようなまねをしたようだ。残念ながら、やらかした本人は黙したまま語らない。マリアは理由を知っているようだが、聞いても言を左右にするばかり。楯無にいたっては顔を真っ赤にして
桜はいぶかしむような目をラウラの背中に向けた。
「失礼します」
職員棟の引き戸を開けて中に入る。真耶の席に向かうラウラと箒を横目に、桜は連城の元へ急いだ。
「先生。話って何です?」
連城は桜の声に反応して病的に青白い顔をあげて振り返った。メモと思しき紙切れをつまみあげて、ハスキーな声を出す。
「佐倉さん。悪い知らせと良い知らせがあります。どちらを先に聞きたいですか?」
「いきなりなんですか」
桜は不安そうに目を瞬かせ、少しの間考え込むようなそぶりをしてみせた。
「悪いほうを先に」
「さっき政府から連絡があり、あなたの食費免除……もしかしたらカットされるかもしれないと
「カット……削減ってこと?」
「イエス」
連城が大きくうなずいた。
桜はこの世の終わりのような顔つきで、ぽかんと口をあける。
「佐倉さん。先月のクラス対抗戦でいきなり入院したでしょう」
桜は青い顔のまま首を縦に振り、肩をすくめた。
「故障者リストに載ってもうたな……」
「先日のあれを事故というのはいささか語弊はありますが、学園の行事中にケガをしたことには変わりありません」
連城はモニターを
「幸いなことに先方は見える成果を求めています」
「零式の稼働データだけじゃあかんの? 壊してもうたんやけど」
「倉持はむしろあなたを擁護する側で、今回の話は寝耳に水だったようです。私も詳しいことはわかりませんが、外部からつつかれたようですね」
――会長さんの手が届かない外部ってこと?
「でも、どうして食費が」
「削減額は微々たるものだそうです。しかし、あなたが常人の二倍も三倍も食べるから槍玉にあがってしまったようなことも」
最大の楽しみを奪われる。桜は焦燥感に駆られ、心臓の鼓動がはやまった。生唾を飲みこんでから、心が折れそうになるのをぐっとこらえた。
「食事を盾に取るとは何たる卑怯。成果って……具体的には」
「今度開催されるトーナメントでよい成果を残すと何かと都合がよいそうです。専用機持ちならそれくらい簡単だよね……と先方は切実な口調でした」
桜はあいまいな指示に閉口する。連城が言葉を濁したとはつまり、彼女も明解な基準を持っていないのだ。
「もうひとつの。ええ方の話題って」
「二点あります。ひとつは倉持技研の曽根さんが交換部品と技師を伴って第六アリーナの格納庫に来ているそうです。もうひとつはSNNからGOLEMシステムのマイナーアップデートが正式に通達されました。いくつか不具合が改善され、新機能が追加されたらしく、詳細はSNNの方から説明を受けてください」
「すると……これから、第六アリーナに向かえ、と?」
「そうなりますね」
連城はしれっと答え、真耶に顔を向けた。
「山田先生。佐倉さんへの連絡が終わりましたので、これから第六アリーナに引率します。ボーデヴィッヒさんと篠ノ之さんも一緒に連れて行こうと思うのですが」
助かります、と真耶が告げる。彼女は企業の技師派遣について最終調整する仕事に携わっていた。任された仕事量が多いことを見越して、連城は仕事の一部を肩代わりすると申し出たのだ。
「篠ノ之さん。ボーデヴィッヒさん。私が引率するので、佐倉さんと一緒についてきてください」
連城は弓削の肩をたたいて「後はよろしく」と告げ、席を離れた。
▽
桜は連城の引率で第六アリーナのIS格納庫を訪れていた。
学年別トーナメントが間近に迫るなか、全アリーナ中最大規模を誇るIS格納庫には忙しなく人が行き交っていた。
ピットへ続く扉の近くでシャルロットと千冬、髪の長いパンツスーツ姿の女性が並んで話している。すぐ側に積み上げられた橙色のコンテナの側面には「(株)みつるぎ」という企業名が描かれていた。
桜は彼女らから目をそらし、つなぎを身に着けた女性の姿を見つけて、思わず手を振っていた。
「曽根さん!」
入館証を首に下げた曽根は、桜に気づくやスレート型端末を小脇に抱えて歩み寄る。
「佐倉さん。先週に引き続きまた来ちゃいました」
曽根が軽く笑ってみせた。
「今回は小山たちと……うちの技師と一緒なんですよ」
「うち?」
彼女は倉持技研に派遣されている。派遣先の社員のように振る舞っているものの、実際には四菱の社員だ。四菱と倉持のどちらの技師なのだろう、と桜はきょとんとしてしまった。
曽根は桜に構わず、連城にあいさつする。
「こんにちは。連城先生。早速で申し訳ありませんが、受け入れ確認の立ち会いをお願いします」
スレート型端末を連城に差し出す。打鉄零式の交換部品や兵装がリスト化されており、内容については事前に審査済だ。到着した物資は、整備科を統率する教師や学園の技術者が確かめることになっている。連城の役目は受領手続きの立ち会いだった。
曽根は同伴した数名の技師と連城を引き合わせ、自分は桜の隣に並んだ。箒が所在なげに目を泳がせていたので、桜は彼女とラウラを呼ぶ。
「篠ノ之さん。ボーデヴィッヒさん」
曽根がすかさず手袋をしまい、胸ポケットのひとつから名刺入れを取り出す。
「倉持技研の曽根と申します。以後、お見知りおきください」
「どうもご丁寧に……篠ノ之です」
「ボーデヴィッヒだ」
ラウラの表情の変化を見て、箒がぎょっと目を丸くした。ラウラのにこにことした表情が異様に映った。何度も目をこすってみたが、やはり見間違いではない。いつも無愛想な面構えだったり、不機嫌そうな顔つきとは正反対の華やかな笑顔。そういえば、と箒は思う。ラウラはなぜか教師にだけは受けがよかった。
箒は己の認識が正しいことを確かめるべく、桜を見やった。ラウラの状態を奇異に思うことなく受け入れている。一時的に同室になったから、ラウラの態度に慣れているだけなのだろうか。箒は目の前の光景に違和感を禁じ得なかった。
「佐倉さん。今日は交換部品と一緒に新装備を持ってきたんだけどね……どんなのが来るか、聞いてる?」
握手を終えた曽根が言いにくそうに頬をかき始める。
桜は彼女の怪しい態度に首をかしげた。
「やぶから棒に。どうしたんですか」
曽根は携帯端末を取り出し、桜の眼前にリストを表示した。
桜は画面に指を滑らせ、目を走らせていく。不意に顔が強張り、画面から目を離した。
「IS用一二〇ミリ滑腔砲と交換用の二〇ミリ多銃身機関砲。千代場アーマー……だけようわからんのやけど」
ひとつめの画像は一〇式戦車の一二〇ミリ滑腔砲の砲身を流用し、ISでも装備できるよう取っ手をつけたものだ。ふたつめは交換用の装備だった。三つ目は画像が存在せず、打鉄零式を重戦仕様化するための後付け武装とそっけない文章が付記されているにすぎない。
「各装備の使い方はいつもの場所に手引き書を入れたから読んでね。演習モードで試してくれたらわかると思うけど、あとそれから……」
曽根は急に小声になって耳打ちする。
「試験に出そうなところもまとめておいたから」
「おおきに」
桜は愛想良くにんまりとしてから、すぐ真顔にもどって感謝の言葉をそっけなく言った。
▽
ラウラが整備科の担当教員に呼ばれ、奥のぽっかりと開けた空間に向かって歩み去る。曽根が同伴した技師の元に向かい、桜と箒は互いに顔を見合わせて雑談に興じようとしたところ、見覚えのある立ち姿に気づいた。「(株)みつるぎ」と描かれたコンテナの裏から姿を現した女性の瞳は一度目にしたら忘れられないだろう。
――あっ。
ドレススタイルの白ブラウス、青色のフリルスカート。青白い銀色の長髪を認めて桜は声をあげた。クロエに近づくにつれて
「クロエさん!」
かつて病床の桜を見舞い、謎の伝言を残した人物だった。
クロエ・クロニクルは手を振る桜に気づいて目礼してから握手をした。そして、軽やかな足取りで箒の前に立つ。
「遅れました。SNNのクロニクルです」
「あ、ああ……」
箒はクロエが手に提げた紙袋を見た瞬間、悪い予感がした。クロエがIS学園を訪れる理由はひとつ。紅椿関連しかない。それにしては街に出向くような格好である。
「その手提げ袋は」
箒がおずおずと指さす。クロエが静かに微笑み、袋からビニールの包みを取り出した。
「レベルアップおめでとうございます。SNNキャラクター部門から箒様へのプレゼントです」
「ああ……ありがとう……」
感謝の言葉を口にしたそばから力が抜けていくようだ。クロエが差し出した白いクッションには、薄い橙色の胴体に箒と同じ髪型をしたキャラクターの絵が大きくプリントされている。箒は心がくじけそうになりながらも、クロエに弱みを見せまいと無理やり笑顔を作った。
「え? 紅椿。レベルアップしたん?」
桜はもっぴいクッションを見なかったことにしてから、箒に話しかける。箒は死んだ魚のような目をしており、桜に肩を抱かれてようやく我に返った。
「あ、ああ。やっとチュートリアルから脱したよ……」
長く険しい道のりだった。桜は目尻に涙を浮かべて自分のことのように喜ぶ。
「ようやったなあ。で、レベルアップしたら何か変わったん」
レベルアップすれば操作性が改善されると聞いている。桜は単純な好奇心で聞いたつもりだった。
「いくつか武器が増えて少し速くなった。もっぴいは頭が悪いままだ……」
「悪いこと聞いてもうた……正直すまんかった」
桜が手を離し、ふたりして下を向いた。レベル2になってももっぴいは大して変わらなかった。
箒は気持ちを切り替えようと顔をあげる。
「それで、訪問の理由は?」
「GOLEMシステムのマイナーアップデートについてのご説明に参りました。それから、佐倉さんにもお知らせがあります。申し訳ありませんが、箒様への説明が終わったあと、少しお時間をいただけませんか」
「ええよ」
「ありがとうございます」
クロエは桜に礼を言い、箒に向きなおる。
「では、立ち話で恐縮ですが、簡単にご説明致します」
「……お願いします」
箒は釈然としない顔つきで先を促した。
「今回のGOLEMシステムマイナーアップデートの目玉は、新命令セット追加によってイメージインターフェースの処理能力が向上した点です」
箒は要領を得ない顔をしてみせる。抽象的な説明なので、何が変わったのかよくわからない。
「具体的には、紅椿に搭載されたAI、すなわちもっぴいの頭の回転が速くなります。もちろん、田羽根さん、穂羽鬼くん、幻のセシルちゃんも同じく性能向上するものと推測しております」
すかさず箒が質問する。
「ひとつ多くないか。今、幻のセシルちゃんって聞こえたぞ」
「はい。幻のセシルちゃんは欧州市場向けのAIです。英オルコット社と提携して商標の使用権取得を打診中。並びにツンデレプラグインを開発しています。ただし、現行の開発版ではツンしかありません」
こういうデザインです、とクロエが紙袋から人形を取り出す。
昨日、桜がシャルロットに見せてもらった人形と酷似していた。デザインがセシリア・オルコットにそっくりなのだ。
「このこと……彼女は知っているのか」
「先日、弊社の担当からオルコット社と交渉中だと連絡を受けております。私どものロードマップではバージョン2.5にて正式搭載を予定しております。ただし、交渉の経過しだいではバージョン3以降にずれこむ可能性がございます」
「いい。深く考えるのは
「そう捉えてもらって結構です」
「ついでに性格も改善してくれないか。聞いたかぎりではプラグインで変化をつけられるのだろう? 鬱陶しくてたまらないんだが」
箒はうんざりとした顔つきで唇をとがらせた。
しかし、クロエの表情は変わらない。
「その件につきましてはレベルアップが進めば改善されます。穂羽鬼くんの評判は、N・ファイルスさんから『ワアオ! もう穂羽鬼くん無しじゃいられない!』というありがたいお言葉をいただいております。もっぴいがレベル50くらいになれば、穂羽鬼くんと同等の性能を発揮するでしょう」
「50……遠いぞ……それは」
「大丈夫です。箒様ならすぐレベルアップできると弊社のCEOが仰っていました。なお、月末の学年別トーナメントにつきましてはCEOも衛星中継でご覧になる予定です」
「あの人が私を。本当に?」
「はい。CEOは昨日、日本への入国を果たしました。現在東京本社で業務に従事しております。また、来月の臨海学校には弊社の技術者として派遣致します」
「そうか……姉さんが来るのか……」
箒は素直に喜ぶことができなかった。姉のことだ。外聞を気にすることなく旅行気分ではしゃぎ回るに違いない。千冬と同い年で、しかも世界的なベンチャー企業の主としては
するとクロエは箒の気持ちを機敏に察して、ひと言つけ加えた。
「何か不満がございますか」
「いや、いい。あの人にちゃんとした服装で来るよう厳命してくれたらそれでいい」
「しかとお伝えします」
それから、とクロエが桜を見やる。
「佐倉さん。CEOから
「またあ?」
桜はうんざりした。どうせ暴言を吐くに決まっている。
クロエはポケットから
「発、シノノノタバネ。宛、サクラサクラ。『箒ちゃんのレベルアップに貢献した件は感謝してあげるんだからねっ。特典で後任者を手配したから五体投地で感謝するんだよ! 追伸。理想の弟を寝取った件は忘れてないから。さっさと死ね。ビッチ!』だそうです」
「せやから理想の弟って誰。だいたい私、まだ処女や」
「申し訳ございません。この件についてはCEOに直接お聞きになってください」
すると箒が突然むせ返った。ゲホゲホと言いながら、箒は目尻に涙を浮かべて桜に迫る。
「な、何なん」
桜は箒の真剣な表情に恐れおののいた。
「おかしいな……佐倉。お前、生徒会長やボーデヴィッヒとうわさになっていたぞ」
「はあ? その話の出所はどこなん」
桜は腕を組み、険しい顔つきで箒に聞き返した。
「櫛灘と相川と布仏。あとは四十院とか……更識の取り巻きとか」
「櫛灘さんが関与しとる時点で眉唾や。ええ。私の体はきれいなままやし、一応聞いたるわ」
「それがな。ボーデヴィッヒが暴れたあと、病室でいかがわしいことをしたって。それと生徒会長が佐倉に告白したって話なんだが。佐倉が好きだ! ……みたいなことを公衆の面前で言い放った、と聞いている」
真実が歪められて伝わっているようだ。暴れたラウラを取り押さえようとして結果的に病衣を
「ボーデヴィッヒさんのは、彼女のエクソシスト的資質が発揮されたために起こった悲しい事故や。その証拠にほら。えらい痛かったわ」
桜は手首を箒の前にかざした。ラウラにつかまれたときの爪痕が
「会長さんには、確かに好きって言われたんやけど……どう考えても告白やない」
はっきり言っておこうと思い、桜が続けた。
「あのときは切った張っとったんシャレにならん状況やった。性格が好ましいとか性に合うとかの意味やったから恋愛感情とは結びつかん。篠ノ之さん。櫛灘さんのウワサに踊らされたらあかんわ」
「……そういうものか」
「会長さんはことあるごとに、自分はストレートだって主張しとるから。会長さんの名誉に誓って間違いないわ」
桜は力説した。
「……ふうん」
箒は首をかしげており、どうやら桜が思っているほど伝わってはいないようだ。
「篠ノ之さんこそ、デュノアさんとはどうなん。あんな美人とひとつ屋根の下や。ケッタイな気分になったりせん?」
――さっきのお返しや。デュノアさんは妙に輝いとる。いろんな意味で危険な人や。
シャルロットに微笑みかけられて胸が高鳴ってしまった。桜は心のなかで箒も同じような気持ちになったはずだと決めつけた。
「いや、どうかなる以前にほとんど顔を合わせないはずだ。最近ずっと、訓練で忙しいんだ」
桜が病院にいる間、箒はちゃっかり簪と話をつけてしまった。本気で一夏を獲りにいくつもりなのだ。あまりにも露骨なやり方だが、簪と手を組むことに腰が引けていた四組の連中も悪い。
「訓練。うまくいっとるの?」
「もちろん。私にとってはタッグトーナメントこそ、ここが天王山だ。それに頭が悪くて鬱陶しいが、もっぴいの調子がいいのだ」
「ほんまに? ……ま、まあ。尋常な手段ではオルコットさんたちに勝てんもんね」
箒はそうだと言わんばかりに大きな胸を張った。
「お前もさっさと相手を決めろ。残りものに福がある、とまでは言わないが、ろくなやつが残っていないぞ。……へっぽこ一夏も含めて」
「ほんで織斑って言っちゃう……」
何か文句でも、と箒は真顔で付け足した。
「大物はデュノアかボーデヴィッヒだが……前者はともかく後者はな」
箒はIS格納庫の隅に流し目を送る。桜がつられて見やれば、ドイツから来日したと思しき中年女性と話をするラウラの姿があった。