IS-サクラサクラ-   作:王子の犬

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湯煙温泉の惨劇(二) 怪力乱神

 

 

 

 予想以上に疲れていたのか、座席につくなり眠ってしまった。

 騒々しい声につられて意識を覚醒させたとき、桜は半ば反射的に腕時計を確かめ、竜頭の溝を指で弄んでカレンダーの日付を見やった。

 覚悟していたはずが、やはり桜を憂鬱にさせる。昨日のメガフロート内での出来事を思い出すたびに、すべての感情を手放してしまいたくなった。

 隣席の一条朱音から菓子の包みを受けとる。

 

「おおきに」

 

 封を破いて焦げ茶色の先端を口に含む。得も言われぬ甘味に頬が緩む。

 ——食欲だけは手放せんなあ。

 ほかの生徒らが桜のふやけた表情を見つけて、同じように包みを差し出す。

 

「おおきに」

 

 同時にいくつも来たので、今度は封を切らずに網ポケットへと差し込む。頬張った分のチョコレートが蕩けて喉を滑り落ちていく。お腹にヒンヤリとした甘みが広がった。

 

「ナタリア、ナタリア、とっても冷えとるけど」

「融けにくか保冷剤ば使った。これ」

 

 リクライニングシートが倒れ込み、スラヴ系の美しい貌が現れる。シートに挟まれた朱音が苦悶の声をあげた。

 保冷剤にはスタイリッシュなフォントで〈株式会社みつるぎ〉というロゴが描かれている。ナタリアによるとIS開発で培われた技術を保冷剤に応用したとのことだが、桜は硬く冷えた塊を弄んでは頬に充て、立ち上がって前の席に座っていたマリア・サイトウの背中に添えた。

 

「っひゃあ……何ですか!?」

 

 マリアが素っ頓狂な声を上げてのけぞる。時を置かずしてナタリアのリクライニングシートも元に戻った。解放された朱音がきょとんとしている。

 

「すまん。すまん。白いうなじに見とれて……つい悪戯してみたくなったわ」

 

 桜が手を合わせておどけた素振りをしてみせた。

 

「メガモリさんまで……」

 

 マリアが諦めたように目を伏せる。その隙に、桜の前列窓側の席に座っていたナタリアがわざとらしくそっぽを向く。

 マリアが襟を正す。光に透けそうなほど白い手が鎖骨を覆い隠してしまった。青色のミサンガの位置を直し、桜たちを見やってから前を向いて座り直した。

 

「ねえ、さっきから、その時計」

 

 朱音に云われて、桜は手を止めた。

 しきりに腕時計をいじっていたのだ。普段身につけているものとは違い、ベルトの感覚が少しだけ違う。前より重かった。何度もベルトをはずそうと思い止まった。

 桜が目を落とすと、朱音が「わっかるー」とうなずいた。

 

「新しいと慣れないよね」

 

 朱音がまっすぐ瞳をのぞきこんでくる。桜のなかに憂鬱の色が浮かぶのを見つけて、彼女はペンダントの話をした。そしてはにかみながら鎖を持ち上げる。滑らかに磨かれたガラス細工を桜の掌においた。

 

「……冷たっ」

 

 車内は冷房がしっかり効いていたのだが、少女たちの肌から発せられた熱がこもっているのも事実だ。ひとたび車外に出れば蒸し暑さが待っている。掌のガラス細工を介して朱音とつながっている気がして、桜は狼狽した。一号車に乗車しているであろう本音の顔を思い浮かべて、彼女のぬくもりを思い出そうとした。

 

 休憩で道の駅に着いたとき、携帯端末が何度も震えた。桜は鈍重なしぐさで端末を取り出し、着信画面に目をこらした。

 ——誰から?

 『Laura Bodewig』とある。件名がドイツ語で書かれていて、試し撮りと訳せばよいのだろうか。

 ラウラと写真撮影が結びつかなかった。眉根を寄せて不審がったが、無視するわけにはいかない。習慣通りに指を滑らせて、次の画面を待った。

 思案に暮れながら、生真面目な顔でメールを打ち込む彼女の姿を思い浮かべてみた。だが、そぐわない。どちらかといえば全く躊躇せずに文章を作る手合いではないか。

 朱音を一瞥した。ナタリアに話しかけマリア・サイトウの話題で盛り上がっている。

 端末に注意を戻す。

 桜は既視感にとらわれた。まるで戦闘詳報を思わせる整然とした文章の羅列だった。本音やクラスメイトとのメールとは明らかに異なった雰囲気である。

 すべてドイツ語で記述されていたので何となく類推しながら読み進める。

 

「へぇ——……」

 

 最後に学内ネットワークへのURLを見つけた。勢いで押したあと、写真が出現した。

 桜の手から携帯端末が滑り落ちた。

 ——南無阿弥陀仏(ナンマイダブ)南無阿弥陀仏(ナンマイダブ)……。

 見覚えのある階層名。臨海学校特設ページのはずだった。

 

「なっ……。錯覚。錯覚に決まっとる」

 

 震えながら携帯端末に手を伸ばす。拾ったと思ったら額をシートにぶつけた。

 横を向いたばかりに朱音と目があってしまった。動揺を悟られまいと早口でごまかしたのがいけなかった。

 

「朱音。ちゃう。ちゃう。うっかり落っことしただけや」

「佐倉さん。汗びっしょりだよ。暑いの? 冷房、もっと強くするよう頼もうか」

 

 朱音がハンカチを取り出す。

 

「私、めったに風邪を引かんの。身体鍛えとるし」

「でも震えてるよ。外から見てもはっきりわかるくらい」

 

 友人は妙に気が回る。

 ハンカチが触れるたびに、自分が落ち着きを取り戻していくのがわかった。

 

「もう、大丈夫。落ち着いたわ」

「ならいいけど……」

 

 と、桜は端末のスイッチに力をこめた。

 

「実はボーデヴィッヒさんからメールが来たんやけど……それが……ちょっと」

「ん?」

 

 朱音が首をかしげた。桜は意を決して携帯端末を持ち上げた。

 画面には痩せ型の青年が映っている。被写体は大日本帝国陸軍の軍服を身にまとい、カメラから背を向けて遠くを眺めていた。

 

「これが?」

 

 朱音が手を添えて、端末の向きを変える。微かに映る横顔は、その時代を生きた特有の雰囲気が刻まれていた。少し間をおいてから、朱音がしわがれた声を絞り出した。

 

「これ、ボーデヴィッヒさんが撮ったの……? 本人も映って……るけども」

「無理に答えんでええ。隣の人。だいたい時代がおかしいわ。どう見ても自衛隊の制服やない。陸軍さんの軍装や」

 

 九八式軍衣だった。何度も目にしてきたので間違えるはずがない。

 

「ううう映ってる」

 

 朱音が青ざめながらも好奇心からか写真を拡大する。

 窓ガラスにラウラも映っていた。

 

「どこ?」

「ほら、ここ」

「昔の軍服みたいなの。足に巻いているのって」

 

 金色の瞳を指さしたので、桜は覆い被さるようにのぞきこんだ。

 

脚絆(きゃはん)やないの。地下足袋にゲートルやったら、私も実家で着とったことあるよ。農家やし」

 

 奈津子が目を細めてダサいと即断したことまで思い出す。

 

「うん。軍人さんやね。む、むかーしの。ねえ……朱音、顔が青白いんやけど」

「さ、佐倉さんだって。声、うわ、うわずって」

 

 画面に指を滑らせるたびに、写真に写ったラウラの瞳を拡大する。無駄に高精細だ。戦闘帽にゲートル巻き、いわゆる防空ファッションに身をやつした男たち。栄養失調気味で痩せた子供。婦人標準服。現代人の顔つきとは何かが違った。

 ――もうアレやない? アレぐらいしか思いつかんっ!

 

「全部映ってる。ねえ! 篠ノ之さんにお願いして祈祷してもらおうよ!。ボーデヴィッヒさん、絶対お祓いしてもらったほうがいいよ……」

 

 箒が聞いたらへそを曲げる発言だった。

 巫子は神子であり拝み屋ではない、というのが彼女の言い分である。朱音も承知しているはずなのだが、恐怖が勝って頭が働いていなかった。

 

「し、心霊写真」

「やばいよ。臨海学校、よくないことが絶対起きるよ。すぐ篠ノ之さんに言わなきゃ。邪気を払うおまじないありますかって。いいえ、そんなんじゃだめかも。護摩壇(ごまだん)()かなきゃっ」

「せ、せや。篠ノ之さんは本物。彼女なら安心や」

 

 桜は思いあまって、財布から篠ノ之神社ブランドの御札を取り出す。御札は再剥離シールになっていて携帯端末に貼ることができた。

 以前、箒からもらったものだ。同じ製品をオンラインショップから購入することができた。公式ホームページのリンクになぜか「タバネ17才」のページがあり、どうやらデザインを手がけたような記述が散見された。

 朱音の手からゆっくりと携帯端末を引き抜いた。こわばった指をほぐしてから、画面を手のひらで覆う。座席の背もたれにもたれかかって、桜は大きく息を吐いた。

 ――映っとるってことは、もしかして見えとるん? ボーデヴィッヒさん、最近は普通にしとるけど、まさか……見えちゃあかんもんと同居しとったってこと?

 

南無阿弥陀仏(ナンマイダブ)南無阿弥陀仏(ナンマイダブ)

 

 桜は手を合わせて念仏を唱え始める。

 

「……ナンマイダブとかやめてよお。うわあっ、悪寒が」

 

 そして神様仏様エクソシスト様、と思いついた言葉を並べる。無宗教なのか家の宗旨には興味がないといったところか。

 桜は念仏を唱えるうちに徐々に落ち着きを取り戻していった。

 だが、ぼんやりとしながらつぶやいた。

 

「ドイツ人ならエクソシストのほうがええんっちゃうか?」

 

 たとえば神道のような日本古来の宗教ならば箒の神通力が届く。しかし海外では事情が異なる。その国に合った神職者に頼むべきなのだろうか。

 またしても不安の念にさいなまれる。

 そのとき、二通目のメールが届いた。桜と朱音は恐る恐る顔を見合わせて、互いに目配せしあった。

 

「……また来た!?」

「え!?」

 

 桜は少し間を置いてから、口の端を引きつらせた。

 

「いやいやボーデヴィッヒさんのことや。一通にまとめるんやない? 深呼吸や。深呼吸。ええっと差出人は」

「なになに」

 

 朱音が示した場所には、メールアドレスのみが書かれている。ドメイン名の末尾には「ghi.co.us」と記されていた。

 ——ジーエッチアイ?

「こんなん身に覚えがないわ。迷惑メール。そうに決まっとる」

「そうだよね。そうに決まってる」

 

 うなずきあいながらゴミ箱アイコンに触れた。

 

 

 

 

 

 

 正午。

 今夜一泊する旅館の大広間で昼食を取っていた。飯茶碗が空になると、小櫃(おひつ)を抱えた仲居が五目ご飯をよそった。

 

「おおきにー」

 

 桜は仲居に礼を言った。脇に寄せていた空の小櫃を差しだして、下げるよう仲居に頼んだ。

 箸をつけたとたん、あっという間に胃の中へ消えていった。

 仲居がひっきりなしに動いて飯椀に米を盛っていく。

 

「おおきにー」

 

 これまたペロリと平らげ、今朝下田港で水揚げしたというタカベの塩焼きを食した。

 仲居の働きとは別に、生徒たちは座敷中の小櫃を三組に集めようとした。七月の暑さや移動の疲れ、ダイエットに気を遣う者などがいて、女生徒の食が細い傾向にあると読んだのだ。

 

「うまい。うまい。うまいわぁ」

 

 親しくない者でさえ桜を無視できない。小櫃をわんこそばの要領で胃中に納めているとなればなおさらだ。

 細いからだのどこに入るのか。

 彼女の胃袋は四次元につながっているに違いない……と勝手な憶測が飛ぶ。

 桜は食事に集中していて周りの声など聞こえていないようだ。

 五感のすべてを「食」に費やしている。生徒たちはよく心得ていた。佐倉桜という少女は何よりも食欲を優先するのだ。

 少女たちの気質はクラスによってそれぞれ違う。

 桜がクラスの中心になっている一年三組では、他のクラスよりも食事に貪欲なのだ。普段からして積極的にからだを動かす。食べられるときに食べなければ、必要以上に体重が減っていってしまう。

 一方で、一組のように慎ましく食事を摂るクラスもあった。クラスで浮き気味の布仏本音やラウラ・ボーデヴィッヒなど例外もいるのだけれど。

 桜たちがあまりにも美味しそうに食べるので、つられる者が続出する。そして今すぐ記録するべきだという使命感に燃える少女がいた。

 ラウラ・ボーデヴィッヒである。

 立ち上がってデジタルカメラの紐を首にかけた。カメラを構えてスナップ写真を撮影する。

 担任の千冬から生徒はひとりずつ等しく写し、枚数に偏りがあってはいけない、という言伝を忠実に実行した。

 フラッシュを焚くので、キューン、と独特な音が混ざった。被写体だと自覚したとき、楽しく談笑していたはずの三組の生徒たちは急に黙りこんでしまった。

 

「どうした。顔が固いぞ。さっきみたいに明るく、明るく」

 

 写真班として職業意識に燃えるラウラとしては、カメラを意識されては困る。

 どうせなら自然な姿を残してやりたい。桜の箸が止まっているのを見て、ラウラは一旦退くことにした。

 

「これみよがしにカメラを構えてたのがいけなかったか……」

 

 本音の隣席に戻ってカメラを置く。携帯端末を操り、ウェブサイト経由で学園内ネットワークにアップロードした。GPS情報にドイツ(母国)語のコメントを添える。ラウラは短縮URLを記載したメールを桜たちに送った。

 桜はまたひとつ小櫃を平らげ、あら汁をすすった。

 

「ごちそうさまでした」

 

 食事を終える合図だ。近くに座っていたナタリア・ピウスツキも真似をした。

 桜はふと携帯端末が気になって通知履歴を確かめた。

 

差出人:ラウラ・ボーデヴィッヒ 《ラウラの顔を模したアイコン》

件名 :Vor einiger Zeit hat der Foto :-))

本文 :さっきの写真だ。臨海学校特設サイトにアップロードした。

 

「ん……んぅ?」

 

 液晶画面の表示がどこかおかしい。

 桜たちの周囲が白金(プラチナ)のように(きら)めいている。(ふすま)(もや)にかすんで、少女たちの後ろにはいないはずの存在がたたずんでいる。

 恐る恐る振りかえると、薄靄(うすもや)など最初からなかったのだとわかった。

 三組の写真班を仰せつかっているナタリアにもメールが届いていたらしく、スラヴ系の美貌(かお)が微かに引きつっていた。

 

「……ピウスツキさん」

 

 共通の友人である一条朱音には見せられない。バスのなかで見てしまったのだ。

 桜はポーランドの代表候補生を手招きした。

 ナタリアがすばやく席を移る。阿吽の呼吸で画面を見せあった。

 

「……四十院。うちらば撮って。そんでアップ先ば教えてほしか」

 

 ナタリアの要請を受けた四十院神楽は、自分の携帯端末で同じ風景を撮影する。指示通り、写真のアップロード先をメールに記した。

 ナタリアから転送されたメールを見て、桜は首を傾げてしまった。

 写真には肩を寄せあっておびえるナタリアと桜の姿がある。

 いないはずの存在は写っておらず、薄靄もかかっていない。今、目にしている光景をそのまま残している。

 事態を理解した桜は青ざめた。

 

(霊界の住人が写っとる。こいつはあかん。あかんわ)

(な、なな、こぎゃん場合どげんすればよかんか習っちょらん。どげんしたもんか)

 

 互いに色めき立ながらも声を押し殺す。

 ——お、お、お、おかっぱ頭の男子高校生が写っとる。なーんて誰も信じんわっ。とにかくっお祓いや! 祈祷でもええ! お祓いをしてもらわなければ!

 桜はずいぶん昔、檀家に頼んで霊験あらたかな僧侶を紹介してもらおうと画策したことがある。

 檀家の息子から友人経由で奈津子に漏れ、長女の安岐に諭されたことがあった。混乱した桜は、先日見たある映画を思いだした。そのフィルムは現在、スミソニアン博物館に展示されている。

 

(ナタリア、いいエクソシストを知っとらん?)

(……)

 

 ナタリアは小さく溜め息をついたあとで、ある人物を指さした。四十院もナタリアと同じ人物を指し示した。

 

「なるほど。四十院さんもそう思っとるんやな」

 

 当の本人は突然指を差されたことに困惑を隠せないようだ。目を何度も瞬きして左右をうかがっている。

 

「このような話題は専門家に相談するのが一番だと思いますよ。彼女は神社の跡取り娘でだったそうです。霊力もあるんだとか、ご実家の神社のホームページに書いてありました」

 

 桜はゆっくりとうなずいた。篠ノ之箒は本当の神子だった。神々しさが顔に出るもので、ときおり箒の姿に後光がさしているような気がしていた。

 食事後、ビーチへ向かう前に少しだけ休憩時間があった。

 桜は同じ班のクラスメイトに「あとで追いつくわ」と断りを入れて箒のもとへ向かった。

 

「私に用があるのだろう? さっきから妙な視線を感じるんだが」

「さすが篠ノ之さん。察しがようて助かるわぁ。実は折り入ってご相談が……」

 

 桜は箒の肩を揉みながら、正面にあるお土産コーナーを見渡した。

 傍に黒いマッサージチェアが置いてある。利用者は女性だろうか。片脚だけスリッパが脱げ落ち、細い足首がのぞいている。首には手ぬぐいを巻いており、布面に紫色で「も」と染め抜いた字が描かれている。アイマスクをつけているので顔はわからない。気持ちよさそうに身を任せているのは確かだった。

 桜はラウラがアップロードしたという写真を見せ、彼女の反応を待った。

 

「言わんとしていることは理解した。……何度も言っているが、念のため言っておく。私は拝み屋ではない。護摩や祈祷して欲しければ別の者に頼め」

「そこをなんとか……お願いします」

「……まあ、貴様と私との仲だ。微力を尽くそう」

 

 箒に後について旅館の外へ出た。

 箒は自販機に歩みより、桜たちの前で硬貨を投入する。

 人数分の水のペットボトルを買い、あっけに取られている桜たちに配った。

 

「これをやろう。御神水だ」

 

 桜が渡されたペットボトルを凝視する。

 ——御神水? ただの水や。

 

「さっき自販機で買うの、この目で見たんやけど」

「その通り。私のおごりだが? ピウスツキの国では聖水とも言うぞ」

 

 箒がぶっきらぼうに言った。突っ立っている生徒たちの前を通り、「御利益があるぞ」と声をかけていく。桜たちはうなずくものの、うつむいた顔をあげずに黙っていた。

 

「信じてないな」

「……その、どう信じたら」

「ふぅん。その気持ちはわからんでもないが……お前たちは」

 

 箒は手もとに残った一本をあける。暗い顔つきの少女たちを見まわした。

 

「お前たちは()()()じゃないから気にしないほうがいい。いや、気にしないことだ。さもなくば悪い念を呼び寄せる」

 

 一言つぶやいてから、無造作に水をアスファルトへ()いた。そして電話をかけ、ほどなくして一眼レフを手にしたラウラが現れた。

 

「ボーデヴィッヒ。よろしく」

 

 カメラを構えてシャッターを切る。

 桜の肩に隠れ、「え、遠慮しますっ」レンズから逃れようと恐縮する。彼女の一眼レフは霊を映す。桜はレンズに映り込む自分の姿をのぞきこむ。

 ラバウルを彷彿とさせる着メロが鳴って、桜は端末に目を落とす。沈んでいた表情に驚きが浮かんだ。

 

「写っとらん! すごい!」

「幸い、人なつっこい霊だったからな」

「自販機でもええの!?」

「ああ。略式でどうにかなった。そういうことだ」

 

 ナタリアらも画面をのぞきこんで口々に歓声をあげる。桜は手を振って箒と別れた。

 

 

 


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