浪漫!戦車道物語   作:ブロx

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ガルパンはいいぞ。(挨拶)
なんだか長くなってしまいました。しかも中編。
よろしければロマサガのBGMでも聞きながらお読み下さい。









中編

 

 

 

「…今頃あの子達は昔話でも聞いているのかしら。…なんだか恥ずかしいわね」

 

 日本戦車道・島田流家元、島田千代。

自慢の弟子達をかつての我が母校に向かわせた彼女は、古ぼけた写真を手に取り眺めていた。

 

 約20年前の、大洗女子学園戦車道・最後の日に皆で撮った集合写真。その顔は皆が皆暗く冷たく、大粒の涙を流していた。

 

 しかし誰も下は向かず、真っ直ぐにカメラを見つめている。試合に敗北した彼女達にとって、それだけが己の矜持だったから。

 

「とても遅くなってしまったけれど、貴女の戦車道は見つかったのかしら……」 

 

 思い返すのは約20年前。

何もかもが輝いていた、あの黄金時代。そして一人の親友との別れ。

 

島田千代は己の過去に向けて、目を閉じた。

 

 

 

 

 

 

 

「―――ケリをつけにきたのよ、皆。だから、武装を解きなさい」

 

 大洗女子学園・戦車格納庫。四方が戦車砲で守られているここは、正に要塞の模様を呈していた。

 

 それぞれの方角を守るは大洗女子学園戦車隊・四人の副隊長。通称四魔貴族を筆頭とする数多の戦車道履修者達。

 

東を魔戦士公。西を魔龍公。北を魔海候。南を魔炎長。

 

 彼女達四人が指揮するチームが敗北を喫した事は、今だかつて無い。そして正面出入り口である南門を、当時の大洗女子戦車隊隊長・島田千代はこじ開けていた。

 

「は?ケリ?……ケリ?・・・・ケリだと!? ハハハハハ!!!!」

 

魔海候が心底おかしそうに獰猛に嗤い、

 

「あたし達は大洗女子学園戦車隊。

眼前に立ち塞がる壁も敵も、全て薙ぎ払う。

 戦車道とは、生きるとは、そういう事だと教えて下さったのは貴女でしょう?島田隊長」

 

魔龍公が蒼く輝く炎を纏い、

 

「我々が歩み、そしてこれからも突き進むこの高校生活に、青春に、―――戦車が無い。

それを受け入れろというのですか?隊長!」

 

魔戦士公が熱した鋼鉄のように眼前を睨み、

 

「私達はこの学園の一生徒にすぎません。だから大人の命令に唯々諾々と従うのが学生の本分。

そう言いたいのですか?千代さん?」

 

 魔炎長が静かに、愛車であるⅣ号戦車・75mm鉄鋼弾を装填する。彼女ら四人の言葉を聞き、他のチーム員は皆が皆震え上がった。

 

 怖いのではない。不安なのでも、勿論ない。

この大洗女子学園を率いる女傑達への頼もしさと、これからの己の人生に対する、純粋な武者震いだった。 

 

「―――話は最後まで聞きなさいな。

この私が、何もしないで座しているだけだと思っているの?試合が決まったわ」

 

「何と!試合!!?」

 

 魔海候が甲高い口笛を吹き、囃し立てる。

いつでも静かに、素早く。それがこの学園の生徒会長でもある隊長・島田千代。大洗女子学園の生徒会長は、このスキルが必須なのかもしれない。たとえ何十年経とうとも。

 

「一週間後、黒森峰女学園と戦車道の試合を行う。種目は殲滅戦。場所は東富士演習場」

 

「わざわざ戦車道全国大会・決勝の地で?」

 

「そういえば、この間決勝戦で戦った黒森峰は中々手強かったですね。あの新隊長、中々の指揮と勇猛ぶりでした。流石は西住流。

まあ勝ったのは私達ですが」

 

 先の戦車道全国大会。優勝を飾ったのは大洗女子学園。心技体全てにおいて、今の彼女等は無敵に近い。当然の結果だ。

 

「この試合に勝てば、大洗女子学園の戦車道は潰えない。戦車を売る事も、私達や後輩が戦車の無い青春をすごすなんて事も無くなる。

 先方と文科省には納得してもらったわ。快く、ね」

 

―――また無理を通したな。学年主任のお叱りが飛んでくるなぁ…。

 

 この場に居る一同は皆察した。

島田千代がセッティングさせた試合。こいつは何か裏が、筋肉じみた交渉事がある。

 

「…流石我が校の現・生徒会長にして戦車隊隊長。やる事が違いますね、貴女には敵いません。

それで?相手方は一体何両出してくるのですか?」

 

「50両」

 

「・・・・・・」

 

 勝つ為の戦術を急速に頭の中で組み立てていた歴戦の強者達が、昂然と顔を上げる。

 

相手は50。こちらは23。彼我の戦力差は歴然。

 

絶句する隊員達。敵は是が非でも我々を潰したいらしい。我々の道を、我々の青春を。

 

「―――成る程」

 

 燃え盛る炎のような癖毛を手でかき上げながら、女性が一人ごちた。

 

「いつも通りの、プランD。楽しくなってきましたね、皆さん」

 

 四魔貴族・魔炎長。

静かな笑みを湛える彼女は、四魔貴族の中でも筆頭であった。

 

「隊長。勝つ為の作戦は?」

 

「こちらは数が少ない分、スピードが命よ。敵を分断させて、各個撃破する。

23対50ではなく、23対1を50回。なに、簡単な作業よ。

 つまり追いかけ、見つけ出して、撃つ」

 

「そんな幼稚な作戦に、敵が本気でかかると思うのですか?」

 

「そこは戦術と腕でしょう?違う?」

 

 変幻自在の戦術。

島田流の次期家元である千代は、その巧みな戦術でもって指揮を取り、戦車を駆り、勝利を掴んできた。戦いは数じゃない、おつむの使い方だ。

 

「―――よっしゃあ!お前ら訓練の時間だ!!篭城を解け準備を開始しろ!!次の試合、勝ちに往くぞ!!!」

 

「イエス!マム!!!」

 

 試合をやるからには、どのような状況であろうとも必ず勝つ。

それがこの大洗女子学園戦車隊。その意気こそが彼女達の誇り。

 

「陣形はラピッドストリーム。

そして順次、アマゾンストライクに移行。我が大洗女子学園戦車隊、最強の陣で挑むわ。

 さぁ往くわよ、皆」

 

「応!!!!」

 

 

 

 

 

 

「・・・私達の母親は、高二病にでも罹っていたのですか?」

 

 自分達の母親が何とも言いがたい仰々しい二つ名を頂いていた事を知った晴美達は、それぞれ感動と困惑。そして歓喜に包まれていた。

 

「素晴らしい二つ名だ!敵は震え上がり涙し、畏怖した事だろう!!

例えるならッ!

ブルーアイズ!シャイニングドラグォオン!!!」

 

震える瀬津名。

 

「黙って瀬津名。

それにしたって四魔貴族って……。普通に四天王とかでよかったんじゃないかしら」

 

額に手を当てる晴美。

 

「我々の母達が今だに仲が良いのは、こういう事だったのか。

高校からの付き合いで同じ戦車道チームだったとは。なるほど、絆も深まろう」

 

腕を組みながら満足げな顔をする那由多。

 

「ハハハ。

当時は、千代君をはじめ君達の母親には苦労させられたものだったよ。

 でも、実力は折り紙つきだった。四魔貴族という二つ名も、彼女達の戦車道での活躍から自然に付けられたものだった」

 

 苦笑いを浮かべる大洗女子学園・学園長。

かつて学年主任であった男性は、在りし日を思い出し、当時が如何に輝いていたかを語っていた。

 

「しかも彼女達五人は君達のように生徒会に所属していてね。

乙女の嗜みをしている事もあって、生徒達にとても支持されていた。

 当時を知る者はもう少ないが、あの頃がこの学園の黄金時代だったと私は思っているよ」

 

 学園長の話を聞く所によると、魔炎長以外の四魔貴族達は各々小隊を組んで戦いに臨んでいたらしい。

 

瀬津名の母、魔海候が89式や38t等の軽・中戦車を。

晴美の母、魔龍公がM3リーやB1bis等の多砲塔戦車を。

那由多の母、魔戦士公がポルシェティーガーや三突等の重・駆逐戦車を。

魔炎長はⅣ号戦車に乗り、遊撃を。

隊長の島田千代はセンチュリオンに乗り指揮を。

 

 当時の大洗は正に連戦連勝。破竹の勢い。

彼女らの代で大洗女子学園は、戦車道全国大会三連覇を成し遂げるほどであった。 

 

「私達がこの艦に居た頃よりも今よりも、あの頃の方が良い。ですか?」

 

 晴美が学園長を一瞥する。

この艦の生徒会役員として、一所懸命に高校生活を戦い抜いたのは自分達三人とて同じ。

 

 バラ色とまではいかないまでも、光り輝く学園生活を送ってきたという自負が彼女にはあった。 

 

「・・・それを言われると弱ってしまうな、ハハハ」

 

「全く、今の大洗が羨ましいですわ。私達がここに居た頃は、戦車道が無かったんですから」

 

「大洗女子学園・戦車道、20年ぶりの奇跡の復活。

それを聞いた時はこの身が震えました。よくぞやってくれたな後輩、と」

 

「この学園艦には約20年前に使用された戦車がまだ存在している!

までは何とか突き止めたんだけどな。探索!回収!試合!とまではいけなかった!!

 まあ、戦車道の訓練は母さん達から言われて、本土でちょくちょくやってはいたんだけどね!」

 

「本当、母達も人が悪い。教えてくれればよかったものを」

 

 笑顔で姦しい会話が続く。

華の女子大生がする話ともなれば、このように何がしかの話題で笑顔と瑞々しさが弾けるものだろう。

 しかし彼女らの眼前にいる、年を取り老獪さが浮かぶようになってしまった学園長は、全く違う顔を作っていた。

 

「・・・・・そうだね」

 

「おっさん?」

 

 その顔に浮かぶのは後悔の念。

過去に対する申し訳なさと、耐え難い痛みの感情が混ぜ合わされた、苦悶の表情だった。

 

「……それで学園長」

 

 察したのだろう。那由多が口火を切る。

自分の知る限り、学園長がこのような表情をしたことは今だかつて無い。

 

 20年前の試合には、なにかある。ここまで来たなら、それを知らねばならない。

 

「話の続きをお願いします。20年前の我が母校を。そして、その敗北を」

 

「赤子も泣き止む四魔貴族!私達の母さん以外の、魔炎長とは一体誰なんだ!?」

 

「数の上では黒森峰側が断然優位。

けれど、その程度で家元や母達が指揮する戦車隊が負けるとは思えません」

 

一体過去の大洗に、何があったのか。

 

「・・・ああ、すまないね。気になる所で話を切ってしまったかな。

そう、当時の大洗は黒森峰と戦い敗北した。以降約20年、ここ大洗に戦車道が蘇る事は無い。

 そして魔炎長と呼ばれていた彼女だが、」

 

―――あの試合以来、戦車道を辞めてしまった。

 

 口を開いた学園長の顔は、黒滔々たる漆黒の意思が宿っていた。

 

 

 

 

 

 

「へ~、明日試合をするのかい」

 

「そうなんです。なので、今日はちょっと短めにしてくださいね?」

 

「他ならぬ常連の出陣だ。貴女の必勝を祈願しながら、大切な御髪を切らせてもらうよ」

 

「ふふ、お願いします」

 

 いつものお店、いつものやり取り。

初めて自分の癖毛を褒めてくれたこの床屋が、魔炎長と呼ばれている彼女は気に入っていた。散髪が終わり、別れの挨拶をするのもまた。

 

「ただいま帰りました」

 

「おかえりなさいませ、お嬢様」

 

「お父さんとお母さんは?」

 

「―――存じません」

 

 この家に仕える女中が、自分の主の事を存じないと言う。

誰がどう聞いても、それは妙な事だった。

 

「貴女、昔から隠すのが下手ね。

そういえばちょうど戦車道の全国大会が開催されていた頃から、お父さんとお母さんに来客が多かったわね?」

 

「―――私は、存じません」

 

 目を瞑り、顎を引く女中。

これ以上先に、足を踏み入れる事ではない。その暗喩だ。

 

「成る程。じゃあ、私は自室で着替えてくるわ」

 

―――ならば自分で調べてやる。

 

 好奇心、猫を殺す。そして彼女は知るだろう。

この世の中には、知らなくてもいいモノがあるという事を。

 

「―――先生。どうかこれで」

 

「分かった、任せたまえ」

 

 何かを貰う父。何かを隠す母。山吹色の、仕事道具。

 

「戦車道も、近年旨味が無くなってきた。大衆は常に刺激を求めるもの。そうは思わんかね?君」

 

「明日の試合、どう転ぼうとも大洗に道はありません。大衆の為、大洗には消えて頂きます故」

 

「結構。黒森峰と大洗の学園長は、話の分かる人間だ。もうすでに手は回しておいた」

 

「有難うございます」

 

―――約20年前、戦車道とは乙女を育む武道ではなかった。

 

では、一体。

 

「戦車道は、金になるからな。助力は惜しまんよ」

 

 

 

 

 

 

「・・・学園長、・・・何ですって?」

 

「学年主任、何度も言わせないでくれ給え。

明日の試合終了後、即刻我が艦の戦車隊を解体。戦車を全てここに売り払え」

 

「いやしかし、それは彼女らが負けた後の話では」

 

「・・・? 君は今年で幾つになるかね?」

 

「31に、なりますが」

 

「ならば大人しく分かれ。これはお上の決定なのだよ。

明日勝とうが負けようが、この艦に戦車はおろか戦車道は無い。いいね?」

 

「ぁ・・・ハイ」

 

「分かったのなら大人しく作業にかかり給え。我々には金が必要なんだ」

 

全てを察した学年主任の顔に、老いがまた一つ増えた。

 

 

 

 

 

 

 東富士演習場。

戦車道全国高校生大会・決勝戦が毎年行われる、戦車道の聖地である。

 勾配の激しい丘陵。見渡す限りの荒野。そして市街地。戦車戦の全てがここにあるといっても過言ではない。

 

 ここに黒森峰女学園・戦車50両が、彼の学園艦が有する戦車のほぼ全てが投入されていた。綺麗に整列した黒いパンツァージャケットの集団は、さながら死神の列か。鋼の心を持ち、鉄の掟で武装したその進む姿に乱れ無し。

 

試合が始まれば黒く歪んで真っ赤に燃え、ただ荒野を奔るのみ。敵を叩き潰し勝利を手に入れるまで、その足が止まる事は無いのだろう。

 

「両者、礼!」

 

「よろしくお願いします!!」

 

 大洗チーム代表・島田千代と黒森峰チーム代表が互いに礼を交わす。そして頭を上げ終えた時、千代は見た。

 

 黒森峰の大将。戦車道西住流・次期家元。白刃のように綺麗に整った、戦士の顔を。

 

「……貴女、西住流ね?」

 

「・・・・」

 

 長く黒い髪を無造作にストレートで整え、それでいて眼光もまたど真ん中ストレート。

西住流は何があろうとも前へ進む流派。強き事、勝つ事を尊ぶのが伝統。肯定の沈黙をしている眼前の彼女こそが、その体現者である。

 

「戦いは数だよ。とはよく言ったものね西住流。揃いも揃ったり戦車50両。

私達が負けるなんてサラサラ思って無いけれど、貴女達には誇りはおろか恥も無いのかしら?」

 

 だからこそ千代は、その顔が気に入らない。まるで女すらも捨てているようなその面が。

 

毎朝鏡で見ている、どこかの誰かのようなそのツラが。

 

「―――絶対に勝てる勝負の何がいけないの?島田流」

 

「何ですって?」

 

「私達はここに来るまで、何の為に準備してきたの?何の為にここに立っているの?

何の為に血と汗と涙を今まで流してきたというの?」

 

「…貴女」

 

 そう、はじめて会った時から感じていた。心のどこかで。

強い憎しみの裏にある渇きを。激しい闘志の底に潜む悲しみを。

 

 似た者同士のその瞳。自分が自分である為に、捨ててきたモノの数をかぞえてきたその顔面。声にならない声が聞こえてくる。

 

―――勝たなければならない。皆の為にも、母校の戦車道の為にも。

そして、一足早く自由にならない為にも。

 

「勝つ為でしょう。敵を叩き潰し、定められた栄光をこの手に掴む為でしょう。

私達は、ただそれを為しているだけでしょう」

 

 ジークハイル・ヴィクトーリア。

それは西住流と島田流が共有する、ただ一つの正義。

 

「成る程。いっぱしの玄人ってわけね西住流。では、改めて名乗りましょう。

―――私は大洗女子学園戦車隊 隊長 島田千代。

貴女が気に入らないわ」

 

「―――黒森峰女学園機甲戦車大隊 大隊長 西住しほ。

私も貴女が気に入らないわ」

 

 もしかしたら、これから長い付き合いになるかもね。そんな予感を二人は感じていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――魔炎長が言ったとおり、どうやら面白くなってきやがった。

奴ら、前の試合の時より全く顔つきが違うとみた!

 お前ら!!敵は重戦車ティーガーⅠ・Ⅱと、傑作戦車パンターを含めた重量級軍団が占めている!

この八九式中戦車及び、38t軽戦車群での偵察とスピードが鍵となるだろう!!各々、抜かるな!!!」

 

「はい!魔海候!!」

 

 魔海候が擁する高機動戦車部隊。

 

「フォーメーション:メイルシュトローム!

渦潮の如く、敵は全て薙ぎ払え!!!」

 

 じぐざぐに、かつ超スピードで移動して敵を撹乱し、面制圧。

まるで渦潮。まるでアリ地獄。それに呑み込まれたモノは、脱出不可能の袋小路に陥るのみ。

 

「―――敵車両の攻撃力はあたし達大洗を上回ってはいるわ。

だから多砲塔をもつ我々が、間隙なく楔を撃ちこみ、敵に隙を生ませるとしましょう」

 

 魔龍公が擁する多砲塔戦車部隊。

 

「フォーメーション:超高速ナブラ。

虫けらを潰すように、敵は全て薙ぎ払いなさい」

 

「了解。魔龍公」

 

 逆三角、∇の形で連続攻撃を仕掛け敵にイニシアチブを握らせない。

まるで多頭の龍。まるで八岐大蛇。その顎(アギト)に喰われたモノは、自ずから死に体を晒すのみ。

 

「―――さて、我々はいつものように当たり前の事を当たり前に行い、勝つのみだ。装填は任せたまえ」

 

 魔戦士公が擁する重・駆逐戦車部隊。

 

「フォーメーション等はない。敵戦車の弱点に、最も強く打ちこみ薙ぎ払え」

 

「承知しました魔戦士公!我らの敵、黒森峰!血と汗と涙を流せ!!!」

 

 確実、迅速、無駄は無し。

まるで熱く叩きつけられる焼きごてのようなその攻撃力は、敵に反撃を許さない。

 

 彼女達は四魔貴族。

強硬な重戦車も軟弱な軽戦車も一つの区別無く薙ぎ払う、大洗の至高天・黄金達。

 

「……さて、魔海候が接敵し各自迎撃開始。それで私達はどうしますか?千代さん」

 

 四魔貴族・魔炎長が駆るⅣ号戦車。

 

「貴女のⅣ号と私のセンチュリオンは、走攻守が安定した数少ない戦車。戦場を縦横無尽に駆けずり回り、敵を薙ぎ払いましょう」

 

「いつもの遊撃というわけですか。…ワクワクしますね」

 

 無表情で語る魔炎長。

千代は一瞬いぶかしんだが、すぐに思考を切り替える。

 

「ハハ!頼んだわよ、魔炎長」

 

「………千代さん」

 

「?」

 

 いよいよという所で、魔炎長の瞳にはある色が浮かんだ。それは彼女らしくもない、腐ったドブの色だった。

 

「……大洗女子学園戦車隊は、この試合をもって終わる。本当は分かっているのでしょう?」

 

「…?何を言っているの?」

 

千代の脳内に、今日敗北するなどと言う未来予想図は無い。

 

「…たとえこの試合に勝ったとしても、お上が黙って引き下がるはずが無い。何かと理由をつけて、大洗から戦車道を無くすつもりでしょう。それだけ、私達大洗はやりすぎた」

 

「戦車道全国大会、大洗女子学園初の3連覇が?…その程度でやりすぎだと?馬鹿馬鹿しい。

 もし今後その3倍の9連覇とかやった暁には、その高校は一体どうなるっていうのよ」

 

「……戦車道は大衆競技で、お金がかかる。大衆競技でお金がかかるということは、裏と表で金銭のやり取りがおきる。

 私達が勝ちすぎたせいで、裏のやり取りに旨味がなくなっているようです」

 

「何を馬鹿な……」

 

 これは女子高生特有の、誇大妄想の産物だ。耳を貸すだけ無駄というもの。千代はただ眼前の戦場だけを見据え、答える。

 

「そんなの、貴女の空想・御伽噺でしょう。戦車道は乙女を育成する事を目指した武道。そんな事ある訳がないわ」

 

「―――見ました」

 

「………何を?」

 

「見たんです!!」

 

 千代はニンジャの如き速さでⅣ号戦車・車長に振り向き、眼を見やる。ドブは干上がり、そこには全てを燃え散らす赤い炎のような眼をした女性が、ただ前を見据え激昂していた。

 

 彼女は見てしまったのだ。見なくてもいい、見てはいけないこの世の裏側を。

 

「この私の目の前で、薄汚い金のやり取りをッ!

私達の青春を出汁にして!私達の戦車を食い物にして!!肥え太る豚共を!!!」

 

 この世はなべて事も無し。

などと思っていられるほど彼女は若くない。だが見てはいけないものを見て平然としていられる程、老いてもいなかった。

 

「私は!戦車道というモノが何なのか、もう分からない!!

今まで私達がやってきた事は、一体何だったっていうんですか!!!」

 

―――戦車道は金になるからな。

 

 他ならぬ自分の父が、そう言っていた。

 

「…魔炎長、少しは落ち着きなさい。

貴女は大洗女子学園戦車隊の、かけがえの無い副隊長。綺麗な癖毛と笑顔がチャーミングな麗しい女傑。それが真実よ。

何を見聞きしたのかは知らないけれど、今日は戦う日。今の自分を理解できればそれでいいじゃないの」

 

「………今の私を、理解?」

 

「そう、大洗女子学園戦車隊隊員であるという真実。自分をね」

 

 戦車とは?戦車道とは?戦車を駆る今の自分とは?

 

「―――島田流・島田千代さん」

 

 空気が乾く。

何故か口の中は一層乾燥し、Ⅳ号戦車を中心に見えない炎の壁が展開される。

 勿論、現実ではないが。

他人を見た時に、こいつ何か怖いなと何故か感じる程度だが。

 

 それは人間の出す熱気。気配。赤く輝く銅炎のようなイメージ、想像。島田千代はそれを感じていた。触れてしまえば脊髄反射だけを起こし、ただ後方に手を引っ込めるのみ。

 

「―――好子?」

 

「私は、知らなくてもいいものを知ってしまいました。…もうこれ以上、戦車道は続けられません」

 

でも、

 

「もし貴女がこの国を代表する戦車道・島田流家元になったら、きっとこの国の戦車道を変えてください。

 貴女なら出来る。私はその為の尖兵となります。それが我が定めです」

 

―――せめて最後まで、やらないと。

 

「ッ、好子!!!」

 

 そう言い残し、Ⅳ号戦車は奔り往く。それが四魔貴族筆頭・魔炎長、最後の出撃だった。…その顔に浮かぶのは笑顔。おぎゃあと泣いて産まれて来たならば、生きている間は笑顔でいたい。今日も。全力で。

 

・・・不可思議な感覚だった。身体がいやに軽い。

 

 こんな気持ちで戦うなんて初めての事だ。それはこのⅣ号戦車の乗組員達も同じく。

 

「―――パンター戦車撃破。魔炎長、次いでティーガー戦車発見。

おそらくは黒森峰リーダー・西住流が搭乗しているものと思われます」

 

「了解。いつも通り、薙ぎ払いましょう。砲塔に注意して」

 

「―――好子さん。貴女と共に闘えて、光栄でした」

 

人はピンチの時にこそ、ふてぶてしく笑うもの。

 

「スリル満点百億万。

でも願わくば、いつかこの戦車が後の後輩達の礎とならん事を」

 

「この戦車は売らせやしないわ。必ず、ね」

 

「そうこなくちゃ面白くない。この戦車は、人を育てますから」

 

 間合が狭まるⅣ号とⅥ号戦車。

両者の車長はキューポラから顔を出し、市街地にて会敵する。

 

 西住しほが見たのは、強者の笑みを浮かべる女傑。

魔炎長が見たのは、ただひたすら懸命にこちらを見据える女傑。

 

「・・・命捧げて出てきた身ゆえ 死ぬる覚悟で吶喊すれど」

 

 カウンターステアを利かせ、履帯が切れるほどの超軌道。回り込み狙うは、Ⅵ号戦車の後背部。

 

「武運拙く討死にせねば 義理にからめた恤兵真綿」

 

思ったよりも早く履帯が切れる。しかしⅣ号戦車の長砲身が、狙い通り敵の弱点を捉えた。

 

「そろりそろりと頚締めかかる。 どうせ生かして、還さぬ積もり!」

 

歌の終わりが砲撃の合図だった。ゆえに、指示が遅れた。

 

「Auf Wiedersehen」

 

 敵戦車の砲身が僅かに上昇し、降りる。

それだけで88ミリ砲は的確にⅣ号の正面に、75ミリ砲は的確にⅥ号の後背部、その横に。

 瞬間、魔炎長の脳裏には、彼女自身の青春が。

 

『我ら四人!四魔貴族(シマキゾク)!!』

 

『大洗女子学園戦車隊、その深奥』

 

『島田(シマダ)隊長を補佐し、己が戦車道を追究する』

 

『そしてまだ見ぬ後輩に伝え託す。我らの戦車を、我らの浪漫を!!』

 

生まれてくるであろう、私達の娘にも。

 

「―――ヒヤッホォう、最高ね。 

・・・・皆、有難う」

 

 戦車道で必要なものとは、仲間。それは彼女にとって真実だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――10対0。これが、あの試合の最終結果だよ。

魔炎長の駆るⅣ号戦車が大洗最初の脱落だったけど、他の四魔貴族達はおろか千代君までもその後前線に突入。

 まるで死屍累々の激しい市街戦の中、彼女達は一人また一人と倒れ、大洗は敗北した」

 

 そして戦果が最も優秀な戦車は、黒森峰女学園戦車隊リーダーの駆るティーガー戦車。11両もの敵戦車を叩き潰した西住流・現家元。

 

「……成る程」

 

「成る程!」

 

「…成る程」

 

 学園長の話が終わると、四魔貴族の娘達はうんうんと笑顔で頷いた。その眼に、蒼く輝く闘志を燃やして。

 

「私の昔話はここまで。さて、それを聞いて君達はどうするかね?」

 

「決まってる!!」

 

「千代様に直訴しに行って参ります」

 

「戦果を楽しみに待っていて下さい、学園長」

 

 足早に立ち去る三人。

それに負けじと、男はその後ろ姿をつい追いかけてしまいそうになる。

 されど足は思うように早く動かず、学園長はゆっくりと椅子に腰掛けた。

 

「―――島田。良い子達を育てたな。お前達は皆、この学園の宝だよ」

 

 次の戦車道新聞が楽しみだ。

 

学園長の予想通り、一週間後に届いた戦車道新聞にはこう書かれていた。

 

 大学選抜チームと黒森峰女学園。練習試合が成立。

 

 

 

 

 

 

 

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