「そういえば、服ありがとな。」
河川敷からの帰り道で、おぶっている真姫に改めてお礼を言う。
「あ、あんた!///
なんで勝手に見てるのよ!」
「見たのはおれじゃないよ。
母さんが、おれの荷物と思って袋の中を見たんだ。」
「///か、買ってあげたんだから、ちゃんと着なさいよね。」
「ああ、了解」
俺は、態勢を立て直すために、ジャンプして真姫を持ち直した。
「ちょっ、ちょっと!
変なとこ触んないでよね!」
「おんぶしてるんだ。少しは我慢しろ!
それとも、降りて自分で歩きますか?」
そう言うと、真姫は力一杯俺にしがみついてきた。
「うげっ!
お、おい、首、しまってる、、」
「んーーー!」
河川敷から家まで以外と距離がある。
最後までもつだろうか。
ようやく家に着いた。
これで、首の痛みから解放される。
「ほら、着いたぞ。
早く降りろよ。」
「わかってるわよ。」
背中が解放されて、体が軽くなった。
時刻は20時15分。
しかし、俺にはまだ試練が残っている。
これから、真姫父からの熱いお説教が待っているのだ。
憂鬱になりながら真姫と一緒に玄関に入ろうとすると、
「おーい!
ヒロくーん!真姫ちゃーん!」
近所迷惑な声が聞こえてきた。
あいつは、今何時だと思ってんだよ。
その声の主は俺たちの前まで来ると、膝に手をつき肩で息をしている。
「こんな時間にどうしたんだよ。穂乃果」
なんで最近の女の子は、夜に一人でウロウロするのか不思議でならない。
なに?流行ってんの?
幸い、俺と穂乃果の家の距離は徒歩二、三分といったところで、走れば1分もかからずに来ることができるだろうけど。
顔をあげた穂乃果は、嬉しそうに俺たちに話し始める。
「あのね!なんと!
歌の歌詞がついに完成したんだ!
それで、真姫ちゃんに届けようとしたら、ちょうど外にいるヒロくん達が見えてここまで走ってきたの!」
相変わらず思い立ったら行動らしい。
それも良いけど時間を考えろ時間を。
「ま、待って!
私はまだやるなんて一言も言ってないわよ!」
真姫が抗議する。
「え?でもヒロくんが真姫ちゃんに言っとくから大丈夫って、」
横を見ると、真姫が俺の方を睨んでくる。
待て待て、俺は任せろとは言ったけどまだ、大丈夫なんて一言も言ってないぞ。
昨日の今日で説得できるわけがない。
「ま、まぁ、お願いはしたけど今はまだ考え中らしいんだ。」
「え?そうなの?
じゃあちょっと来るのがはやすぎたみたいだねー。」
穂乃果は、あちゃーと言って、目をつぶり、頭を叩く。
「それじゃあ真姫ちゃん!
この歌詞だけでも見てみてよ!」
そう言って真姫に、なかば無理やり、折りたたんだ小さな紙を握らせた。
「え?ちょ、ちょっと!」
「それじゃあまた学校でねー!」
そう言って、風のように去っていった。
「「、、、」」
相変わらず、忙しいやつだ。
隣を見ると、真姫がまた、こちらを睨んでいた。
「なに勝手に引き受けてんのよ。」
「い、いやー、色々あったんだよ。
俺も真姫に作曲して欲しかったしな。」
正直に話す。
にしてもこんなに早く、穂乃果が動き出すとは思わなかった。
考える暇もなく、歌詞を渡された真姫が作曲してくれる可能性は低いだろう。
俺は、半分諦めモードで真姫に聞いてみる。
「で、どうすんの?
引き受けるのか?」
「、、、」
真姫が黙った。
どうやら考えているようだ。
「あんたは、、」
「?」
考え終わったのか、真姫がまた話し始める。
「あんたはまた、私の作った曲、聞きたい?」
真姫からの質問。
そんなの決まりきってる。
あたりまえだ!
真姫の音楽の才能云々を抜きにして、俺は単純に真姫の作った曲をまた聞きたい。
「ああ」
短くそう答える。
「そう」
真姫はそう言うと、微笑んだ。
「ちょっと時間を頂戴。
2週間、ううん、10日もあればできると思うから。」
耳を疑った。
「作曲してくれるのか?」
「か、勘違いしないでよ///
私はただ、久しぶりに作曲してみるのも悪くないかなーと思っただけ。
今日は気分が良いしね。
別にあんたのためとかじゃないんだから。」
なにやらツンデレなことを言っているが、真姫は確かに作曲すると言ってくれた。
「真姫!!」
「ちょっ、ちょっと!」
俺は真姫に抱きつき、そのまま赤ん坊みたいに回転させる。
体重の軽い真姫だからできる技だ。
め、目が回る、、
しばらくして、真姫を下ろすと二人ともフラフラしながら膝をついた。
「き、気持ち悪い、、」
「あんた、、回しすぎよ、」
気分が戻ったところで再び、真姫が話し出す。
「作曲するのはいいけど、あんたも手伝ってよね。」
自分がお願いした手前、断るわけにはいかない。
「もちろんだ。俺にできることがあったらなんでも言え!」
ガチャッ
そんなことを話していると、不意に真姫の家のドアが開く。
「「!!?」」
振り返ると、おじさんが玄関から出てきたところだった。
やばい、嬉しくてすっかり忘れてた。
「ぱぱ、、」
おじさんは、娘の真姫にはとても甘いが、叱るときはきちんと叱る人だ。
俺のことも、本当の息子みたいに叱ってくれる。
昔、翼と一緒によく怒られたものだ。
俺が怒られる分には良い。
ただ、真姫だけはなんとか守らないと。
「聞いてぱぱ、ヒロは私を探「すみませんでした!」
真姫を遮り、頭を下げておじさんに謝る。
「俺がこんな時間まで連れ回してたんです。
遊んでいたらいつの間にかこんな時間になってて、、
本当にすみません!」
「ヒロ、、」
真姫が名前を呼ぶ。
カツ、カツ、カツ
「ぱぱ!違うの、私が「真姫!」
「!!?」
「お前は黙ってろ。」
真姫が庇おうとしていたので、止める。
おじさんはサンダルを鳴らしながら俺に近づいてきた。
そして
ゴチン!!
「くっ!」
俺の頭にゲンコツを落とす。
「ぱぱ!」
ヤバい、頭が割れそうだ。
真姫の比にならないくらい痛い。
俺が頭の痛みに必死に耐えていると、おじさんが口を開く。
「早く入りなさい。
ヒロ、お前もだ。
飯たべてないんだろ?お前の分もあるから、食べていきなさい。」
「「!!?」」
そう言って家の中に入っていった。
「ってーーーーー!」
俺は、我慢していた頭の痛みにに耐えきれず、うずくまって頭を抑える。
良かった。この程度で済んで。
おじさんが怒ったらこんなもんじゃ済まない。
柔道技くらいは覚悟しないといけないだろう。
「ヒロ、、」
真姫は不安そうな顔で俺を見てくる。
「なんて顔してんだよ。
俺なら大丈夫。
お咎めなしだったんだ。早く中に入ろうぜ。」
俺が明るくいっても、真姫はずっと申し訳なさそうな顔をしている。
俺は真姫の頭を撫でた後、家の中に連れて入った。
「お邪魔しましたー。」
飯をご馳走になった俺は、そう言って西木野家を後にしようとしていた。
「ヒロ!」
真姫に呼び止められる。
「どうした?」
「曲、」
「?」
「曲、すぐに完成させるから!
ヒロが納得のいくいい曲作ってみせるから、、、
だから、待ってて!」
そう言ってくれた。
そのことは素直に嬉しい。
でも、、
「ああ、待ってる。
でも、俺だけじゃない。
お前自身が納得のいく曲を作るんだ。
そしたらきっと、俺も納得がいく曲ができる。」
そう、俺だけじゃダメだ。
真姫が作る曲なんだ。
自分自身が納得のいく曲を作らないと。
「手伝うことがあったら遠慮せずに言ってこいよ?
俺にできることは少ないかもしれないけど、、」
真姫の表情は、さっきよりは明るくなっただろう。
明日には、きっと元どおりになってるはずだ。
「じゃあ、また明日な。
おやすみ。」
「うん、おやすみ。」
そう言って、今度こそ西木野家を後にした。
それから10日後の朝
チュンチュン
小鳥のさえずりが聞こえる。
どうやら朝みたいだ。
今日は残念ながら学校の日。
しかし、どおしても体を起こすことができない。
あー、寒い。今日は学校休もう、、
ガチャッ
ドン!
「うぐあっ!」
ち、ちくしょう、またか。
見ると、誰かが俺の上にダイブしてきたみたいだ。
「ヒロ!起きてよ!」
朝からこんなにテンションが高い真姫は珍しい。
「あのな、もうちょっと普通に起こしてくれないか?」
「そんなことより、できたのよ!」
やめろよその言い方。
びっくりするだろ。
俺には覚えがないからな。
「何が?」
「曲よ!曲!ついにできたの!」
なんだ曲か、、
曲?
「曲、できたのか!」
俺はガバッと立ち上がり、真姫の目を見て聞く。
すると真姫は、一枚のCDを俺に渡してきた。
見ると、CDの表に曲名が書かれている。
「START:DASH!!?」
スタートダッシュ、うん、いい名前だ。
「聞いてみてもいいか?」
「うん」
俺は、真姫のアイポッドの中に入っているということで、アイポッドとイヤホンをかしてもらう。
再生ボタンを押し、曲が流れ始めた。
曲が終わる。
「どうだった?」
不安そうな顔で真姫が聞いてくる。
俺はガバッと真姫の肩を掴み、思ったことを口にした。
「すごいよ真姫!
感動した!こんなの、お前が初めて作曲した時以来だ!」
そう言って、真姫の体をグラグラ揺らす。
「そんなに!?」
「ああ!これなら誰も文句はないはずだ!
ありがとう真姫!」
「///べ、べつに、あんたのためじゃないって言ったでしょ!」
俺は、早くこのCDを穂乃果たちに見せたくて、いつも以上に素早く準備を済まし、真姫と一緒に通学路についた。
「はいCD。」
真姫が穂乃果に手渡す。
真姫は、俺に届けて欲しかったみたいだが、これは真姫自身が渡すべきだと思い、今は一緒に、校舎の屋上にいる穂乃果たちにCDを届けにきた。
どうやらここで練習しているらしい。
「わあー!ありがとう!真姫ちゃん!」
穂乃果が真姫の手をブンブン振り回す。
俺は、穂乃果と真姫が話している間に他の二人に話しかけることにした。
「君が作詞したんだって?」
青髪の子に聞く。
「あ、は、はい!」
緊張しているみたいだ。
「曲、聞かせてもらったけど、とてもいい歌詞だった。
その年であれだけのものを書くなんてすごいよ。」
「あ、ありがとうございます。」
次に灰色の髪の子に声をかける。
「それで君が衣装を作ってるんでしょ?」
「は、はい!」
俺が、灰色の髪の子と話していると、さっきの子が質問してきた。
「あのー、あなたは?」
あ、自己紹介するのを忘れていたな。
「ごめんごめん。俺は高山広。三年生、
穂乃果の友達だ。ヒロでいいよ。」
そう言うと、今度は二人が自己紹介してくれる。
「私は園田海未、二年です。」
「私は南ことり、同じく二年生です。」
「園田に南か、うん、よろしく!」
キーンコーンカーンコーン
自己紹介を済ませたところで、ちょうど予鈴がなった。
「じゃあ頑張って。応援してるから。」
そう言って、出口に向かっていく。
「ヒロくん!」
すると穂乃果に呼び止められた。
「どうしたんだ?」
「ありがとね、真姫ちゃん説得してくれて。
やっぱりヒロくんを信じてよかったよ!」
「////!」
穂乃果にそう言われて、思わず顔が赤くなった。
「役に立てたなら何よりだ。
でも、ここからはお前らの番だろ。
あの曲に負けないようなライブを見せてくれよ。」
まだ予定はないがいつかはライブをするのだろう。
ここまでやったんだ。俺が一番に見に行ってやる。
「うん!」
用事も済んだし、真姫を呼んで階段を降りようとしたところで、あることを思い出す。
「なあ、穂乃果。」
「なになに?」
「明日って予定あるか?」
明日の木曜は、学校の創立記念日でお休みだ。
明日、俺はどおしてもやらないといけないことがある。
「ううん、明日は練習休みにしようって言ってたんだ。」
よかった、どうやら穂乃果は休みらしい。
「なら、明日、ちょっと買い物に付き合ってくれないか?」
「え?」
穂乃果が目を丸くして驚いている。
「ダメか?」
「ぜんっぜんいいよ!何時から行くの?
場所は?」
穂乃果が嬉しそうに聞いてくる。
慌てすぎだ。
「まてまて、それは帰ってメールするから。
じゃあ、明日よろしくな。」
「うん!」
俺は、なぜかドアの前でムスッとしていた真姫を連れて、階段を降りて行く。
「ねえ、なんの話ししてたの?」
真姫が聞いてくる。
「べつに、なんでもねえよ。」
そう言うと真姫は、フンッとよそをむき、俺を置いて階段を降りていった。
急にどうしたんだ?あいつ。
教室に入り、自分の席に着く。
朝のHRまで五分か。
俺はカバンから、アイポッドを取り出し、今朝入れたばかりの、「START:DASH!!」を選ぶ。
相変わらずいい曲だ。
これを、真姫がアイドルの格好をして歌って踊っている姿を想像する。
そしたらなかなか似合っていて、ちょっと見て見たいと思ってしまった。
穂乃果たちは、実際にこの曲を歌って踊るのだ。
なにはともあれ、曲はできた。
あとは、あいつら次第ってことは、本人たちが一番わかっているだろう。
願わくば、あいつらのファーストライブが成功しますように。
そんなことを思いながら、今日も机の上で眠りについた。