第十四話 ここから
【お前、野球って知ってるか?】
【なにそれ?】
白くかすんだ世界で、大きい影と小さい影が二つ浮かんでいる
この光景
よく覚えてるよ、
俺が初めて野球を教えてもらった頃の記憶
とおさんにボールの投げ方からバットの持ち方まですべて教わってきた
俺の原点だ
【お前なかなかうまいな、どうだ?俺たちのチームに入らないか?】
これは、橋の下で一人壁当てをしていた時、悠介に初めてあって、リトルリーグに勧誘された時の記憶だ
クラブに入った俺は、再び試合に出られることが何より楽しかった
【お前はすごいな、俺たちの誇りだよ。】
【俺たちの分も頑張れよ!】
【ありがとう】
中二の秋、初めて全日本に召集された
夢のようだった
これまでの全てを野球に捧げてきたから
周りの人たちの声援を受け、ここまでくることができたんだ
【いくぞ!】
【オッケー】
中3の夏、俺は、地元の仲間と野球で遊んでいたんだ
今思えば、この時から全てが狂い始めた
ふざけ半分で野球をしていた俺は、これから起こる最悪に気づくことができない
この頃の俺は、全てに関して調子に乗っていたんだ、、
【あぶない!!!】
その言葉が今も脳裏に焼き付いている、、
ガバッ
「はぁ、はぁ、」
気がつくと、風景が俺の部屋に戻っていた。
俺は、安心したところで、自分の今の状態を確認する。
全身汗だくになり、頭と右肩が痛くてたまらない。
「、、またかよ」
最近は、過去の夢を頻繁にみるようになった。
なにが原因かはわからない。
しかも、夢を見るたびに俺の右肩に激痛が走る。
「つっ!」
夢を見ることが多くなったが、右肩の痛みには慣れることができない。
これはきっと、過去の俺への罰
消えることのない俺の罪
俺は二度寝する気にもならず、肩をさすりながらベットから立ち上がった。
ガチャ
「!」
「珍しいわね。
あんたが一人で起きてるなんて」
制服姿の真姫がドアの前に立っていた。
「まぁな、そういう日もあるさ」
俺は、平静を装いそう返す。
「そう。
なら、起こす手間が省けたわね。
ほら、早く行きましょ。」
そう言って真姫は下に降りていった。
「、、、」
俺は大分良くなった肩の痛みに耐えつつ、制服に着替えて下に降りた。
「「いってきまーす。」」
朝ごはんを食べ終えた俺は、今日もいつも通りの時間に真姫と家を出発する。
その頃には、肩の痛みはほとんどなくなっていた。
「あんた、今日なんかおかしくない?」
「そうか?俺はいつも通りだぞ。」
朝はやく起きていた俺を不審に思ったのだろう。
「いつもそんなにネクタイがねじけてるの?」
「あ、」
急いで着替えた俺は、ネクタイを丁寧に結ぶ暇もなく、ゆるゆるできてしまったみたいだ。
「まったく、しょうがないわね。
ほら、こっち向いて」
そういって真姫は俺のネクタイを直してくれる。
「///い、いいよ、これくらい」
「ダメよ。だらしがないでしょ!」
真姫は最後にクイっとネクタイを締め上げてくれる。
「ほら、できた。」
「///」
真姫から告白された日以来、俺はどうやら真姫を女の子として意識し始めたみたいで、こいつにふれられるたびに顔が赤くなるのを感じる。
まったく、いい迷惑だ。
誰かと話していると、時間の経過が早くなるとはよく言ったもので、気がつくと音乃木坂学園の校門まで来ていたみたいだ。
「よろしくお願いしまーす!」
なにやら見たことのある3人組が玄関の前で挨拶をしていた。
「おはよう」
「あ!ヒロくん、おはよう!」
そう言って穂乃果は元気よく挨拶を返してくれる。
「真姫ちゃんもおはよう!」
「お、おはよぅ」
穂乃果が挨拶をすると、真姫も挨拶を返すがだんだん声が小さくなっていく。
まだどこか打ち解けていないようだ。
「そうだ!真姫ちゃんも是非見に来てよ!」
そう言って穂乃果は、真姫に一枚のチラシを渡す。
「いよいよ今日だな。」
「うん!今日のライブだけは絶対に成功させるんだ!
だからヒロくんもみにきてね!」
そう言って、俺にもチラシをくれる。
「おう、まかせろ」
チラシにはライブをやるという旨と、グループ名が書かれている。
「μ's?」
どうやらグループ名はμ'sというらしい。
うん、いい名前だ。
俺たちは穂乃果達と別れて、今は学校の廊下を歩いている。
「で、どうすんだ?見に行くのか?」
「いいわよ私は、興味ないし、」
「えー!
行こうぜ!せっかくなんだし。」
そう言って真姫の前に立ち、とうせんぼする。
「ちょっと邪魔よ!」
「行くって言うまでのかない」
真姫が無理やり進もうとするが俺が全てブロックすると、
「あーもう!
わかったからそこどきなさいよ!」
簡単に折れてくれた。
「よし!
じゃあまた放課後な!授業終わったら迎えに行くから待っといてくれ!」
そう言って俺は階段を駆け上がって行くのだった。
「じゃあ今日はここまで、解散」
担任の村田の号令で一斉にみんなが席を立つ。
俺も急いで真姫のところへいこうとすると、
「おい、高山」
村田に呼び止められた。
「なんでしょう?」
「学級委員として頼みがある。
この書類の整理を手伝ってくれないか?」
見ると机の上に書類が山積みにされていた。
「あの、俺これから用事が、、」
「手伝ってくれるよな?」
有無を言わさないつもりらしい。
「はい、」
俺は書類を整理すべく職員室へ向かうのだった。
「はい、ご苦労さん」
「失礼しましたー。」
書類の整理を終えた俺は、急いで真姫のところに向かう。
もう、随分と遅れてしまった。
誰もいなくなった廊下を駆け抜け、一年生の教室を覗き込む。
そこには、真姫だけがポツンと一人椅子に座っていた。
「おそい!」
「悪い、今度詫びるからすぐに行こう。」
「ちょっと!」
真姫の手を引っ張って教室から連れ出した。
真姫の手を引っ張りながら講堂までの道を駆け抜ける。
けど、何かおかしい。
いや、違和感と言った方が正しいか。
ここにくるまで、誰にも会ってないのだ。
時刻を見るとすでにライブ開演1分前になっている。
きっとみんな講堂の中に入ってるんだ。
そう言い聞かせる。
しかし、ドアの前に立っても中から何も聞こえてこない。
「いくぞ」
俺は不安を抱えながら講堂のドアを押し開けた。
「うそだろ..」
講堂に入ってきた俺たちを迎えたのは、閑散とした静けさだった。
客が座るはずの椅子には誰一人として座っていない。
ステージ上では穂乃果、園田、南が目を伏せ俯いていた。
「まぁ、だいたい予想はしてたけどね。」
「!?」
真姫が口を開く。
「どういうことだ?」
「だって、まだ始めたばかりのアイドルのライブを見るよりは、他の部活を見に行く方がよっぽど自分のためになるでしょ。
それにまだ正式に部活として認められてないみたいよ、先輩達。」
「なるほどな」
だけど、それにしても納得がいかない。
俺はこいつらの頑張りを知ってる。
だからこそ、その頑張りが報われず、こういう結果になってしまったことに腹が立って仕方がない。
結局、周りにとって過程など関係ないのだ。
知名度のなさ。
それはあまりにも大きい。
「ヒロくん..真姫ちゃん」
こちらに気づいた穂乃果が話しかけてくる。
「やっぱりダメだった...あはは
ごめんね、せっかく作曲してくれたのに...」
「くっ...!」
やめてくれ..
俺はお前のそんな姿は見たくない。
お前はもっと元気でまっすぐで、自信に満ち溢れてた。
「客ならいるだろ、ここに!」
「!?」
気がつくと俺は穂乃果達に向かって叫んでいた。
「少ないかもしれないけど、俺はお前らの集大成を見てみたい。
だからここに来たんだ。」
そう言いながら階段を降りてステージの最前列の椅子にどかっと座る。
「約束したからな、必ず見に行くって。
ちょっと遅れたけど、それは勘弁してくれ。」
穂乃果達の頑張りがこんなところで踏みにじられていい訳がない。
なら、その衣装はなんのために作ったんだ。
お前らの可愛い姿をみんなに見てもらうためだろ。
その曲はなんのために作ったんだ。
お前らの歌声を、想いをみんなに届けるためだろ。
「今日はこれだけだけど、いつかここを満員にしよう。
だから、やめるなんて言わないでくれよな!
μ'sのファン第一号としてはかなしすぎるから。」
俺はにししっと穂乃果達に笑いかける。
気がつくと真姫も俺の隣に座っていた。
「...ありがとう!ヒロくん、真姫ちゃん!
私達これからもスクールアイドル続ける!
今はこんなだけど、必ずここを満員にして見せるから、だから」
穂乃果達がうんと頷くと、
「「「私達のこと、これからも応援してください!」」」
3人揃って言い放った。
「あぁ、任せろ!」
ガチャッ
「!?」
不意に講堂のドアを誰かが開ける音がした。
「あ、あれ?
ライブ、ここじゃなかったのかな?」
「きっといまからはじまるところだにゃ〜」
見ると二人の女の子がμ'sのライブ見に入って来たところだった。
「ははっ」
自分のことのように嬉しくなる。
俺以外にもちゃんとファンがいたんだ。
穂乃果達も表情がどんどん明るくなっていく。
「みなさん、今日は私達μ'sのファーストライブを見に来てくださって本当にありがとうございます!
まだまだ未熟な私達ですが、今日、この場所から私達は羽ばたきます。
失敗するかもしれない、みんなに認めてもらえないかもしれない。
でも」
自分たちの思いを、決意を穂乃果達は言葉にする。
「私達は、届けたい!
今私達がここにいる、この思いを!」
いつかは俺たち以外のみんなにも、こいつらの、μ'sの姿を見てもらいたい。
それが今の俺の願い。
「みなさん!これからも私達のこと、ずーっと見ていてください!」
穂乃果がそう言うと、曲が流れ始める。
こうしてμ'sのファーストライブは幕を閉じるのだった。
「いやーすごかったな!穂乃果達。」
「そうね..」
ライブが終わって俺たちは今、家までの道を歩いていた。
今日のライブ
決して成功とは言えないだろう。
でも、俺の中では十分満足のいくものだった。
あとは、穂乃果達がどれだけ上に上がっていくか、
これからが本当に楽しみだ。
「お前もμ'sに入ったらいいのに」
隣の真姫に話しかける。
「な!何意味わかんないこと言ってんのよ!
私がアイドルなんてやるわけないでしょ!」
「そうか?すげー似合うと思うけど」
「///!」
そう言ってやると、真姫はふんっと言って俺をおいてぐんぐん歩き始めた。
「あ、おい」
俺は慌てて真姫の背中を追うのだった。