「あーーーーー!」
突然の叫び声に耳が痛くなる。
「な、なんだ!?」
「ねぇ!見てよヒロくん!」
そう言うと穂乃果は、俺にパソコンの画面を見せてくる。
「これって、」
「そうだよ!この前のライブの動画!」
みると、まえに穂乃果達が行なったライブの様子が動画サイトに投稿されていた。
しかも、再生回数がなかなかの数になっている。
「良かったじゃないか。」
「そうじゃないよ!
この動画、誰が撮影してくれたの?」
言われてみればその通りだ。
俺たちはもちろん、穂乃果達も撮影はしていなかった。
となると、あとから入ってきたあの女の子達だろうか。
「まぁでも、これでみんなにも見てもらえるし、知名度も上がるんじゃないか?」
「うーん、そうだけど、
一体誰が撮影してくれたんだろう。」
穂乃果は考えたそぶりをしたあと、顔を上げて
「海未ちゃん達にも見せてこよーっと!」
そう言って階段を降り、お邪魔しましたーと言って俺の家から出て行った。
まったく、そそっかしいやつだ。
今日は、真姫が先に帰ったこともあり、一人下駄箱で靴を履き替えていると後ろから穂乃果に声をかけられた。
そのあと、二人で一緒に帰るついでに穂乃果が俺の家に遊びに来たというわけだ。
そういえばあいつ、俺のノーパソ持って行きやがった。
「ヒロー
ちょっといい?」
下から母さんの声が聞こえる。
「なにー?」
階段の上から返事をすると、階段を登って来た母さんと鉢合わせた。
「これ、真姫ちゃん家に持って行ってくれない?」
そう言って俺に袋に入った鍋を渡す。
「なにこれ?」
「里芋の煮物
作りすぎちゃって、
たのんだわよー」
そう言って階段を降りていった。
はぁーと、一つため息をつく。
仕方ないので玄関で靴を履き、ドアを開けた。
ガチャッ
「ちわーっす」
西木野家のドアを開ける。
すると一番最初に目に入ったのは、廊下でドアの隙間からリビングをのぞいている真姫の母さんの姿だった。
「なにしてんすか?」
「しーーー!」
玄関から声をかけると口に人差し指を当ててそう言ってきた。
一体なんだというのだろう。
俺が怪訝そうな顔をしていると、チョイチョイとこっちにくるようにジェスチャーしてくる。
「?」
俺は靴を脱ぎ、おばさんの隣からリビングの中を覗き込む。
「!!!」
言葉を失った。
(えーーーー!)
あまりのことに心の中で絶叫した。
あの真姫が、友達を連れてきてる!
「どういうことですか?」
「さあ、あの女の子が真姫ちゃんを訪ねてきたの。
真姫ちゃんのお友だちが家を訪ねてくるなんて初めてよ。」
「なるほど、何はともあれ良かったですね!」
「本当に!」
俺とおばさんは、廊下で手を握りしめあい、喜びを表現する。
「そこ!さっきから聞こえてるんだけど!」
「「!?」」
真姫がリビングから声をかけてきた。
どうやらバレていたようだ。
「い、いやーいらっしゃい!
ゆっくりしていってよ!
なにかたべる?あ、里芋あるよ、ほら!」
「なに意味わかんないこと言ってんのよ!
恥ずかしいからやめて!」
リビングに入った俺が、何とかしてもてなそうとしていると、真姫にそう言われてしまった。
「あ、あの
あなたは?」
真姫の向かいに座っている女の子が聞いてくる。
「あー俺は高山広。
この家の隣に住んでて、真姫とは幼馴染なんだ。
きみは?」
軽く自己紹介をして今度は俺が質問をする。
「は、はい!
わ、私、小泉花陽と申します。一年生です。」
「花陽ちゃんね!よろしく!」
見た感じ、大人しめで勉強が得意な感じがする。
「で、今日はどうしたの?」
「はい、今日掲示板の前で西木野さんの生徒手帳をひろって..それで、届けにきたんです...」
花陽ちゃんはおどおどしながらも、ここにきた理由を説明してくれる。
「そっか、ありがとな拾ってくれて。
お前もお礼言ったのか?」
「言われなくてもしたわよ。
子供扱いしないでよね。バカ」
むっ
一言多いぞ。
「そんなこと言っていいのか?
ならちょっと、この写真を花陽ちゃんにも見てもらおうかな。」
そう言って携帯を取り出しこの前中庭で撮った真姫の写真を画面にうつして真姫に見せる。
「///あ、あんた!
いつの間に撮ったのよ!
消しなさい!いますぐ!」
そう言ってソファーから立ち上がり俺を追いかける態勢をとる。
「いやだね。悔しかったらとってみろよ。」
ドアを開け、俺も逃げる態勢をとった。
「わかったわ。
翼!捕まえて!」
「え?」
ガバッ
気がつくと、いつの間にか帰ってきていた翼が俺の後ろからガッチリとホールドしていた。
「翼!てめー」
「ごめん、ヒロ兄。
いうこと聞かないと、俺も後から怖いから。」
「んふふ」
「ま、待てよ!けすけすけすから!」
そうこうしているうちに、真姫が近づいてくる。
そして、俺の目の前まで来たところでニッコリと微笑んだ。
「大丈夫?ヒロ兄..」
「あ、あぁ...」
真姫にボコボコにされた俺は、翼に看病されながらソファーに横たわっていた。
携帯の画像もすでに消された後だ。
「まったく..
これに懲りたら、にどと逆らわないことね。」
真姫がそんなことを言い出す。
でも本当にその通りだ。
真姫にはもう逆らわないでおこう..
「プフッ」
「?」
すると突然、小泉さんが笑い出した。
「ちょっと!
なんでわらってるのよ!」
「だ、だって、二人を見てたら、おかしくて。」
そう言ってなおも笑っている。
「もう!わらわない!」
どうやら相当ツボったらしく、お腹を抱えて笑っている花陽ちゃんに真姫が言って聞かせる。
そのあとも、なんやかんやこの二人は会話をしていて気まずくなることはなかった。
俺が心配するまでもなく、真姫は真姫で上手くやってるんだな。
ちょっと安心した。
「じゃあ、そろそろ帰ろうかな。」
「あ、わ..わたしも.」
俺が帰るタイミングで花陽ちゃんもどうやら帰るみたいだ。
「じゃあ、また明日。」
「うん、また明日。西木野さん」
玄関まで見送りに来てくれた真姫にお礼を言って俺たちはドアを開け外に出た。
「花陽ちゃん、今日はありがとな。
届けてくれて。」
「い、いえ。
当然のことをしたまでです。」
二人きりになり、おれは花陽ちゃんに話しかけた。
「それで、どうかな?
あいつ..真姫は学校でみんなと仲良くしてる?」
今は真姫の学校生活を聞くことができる数少ないチャンスだ。
聞かない手はない。
「うーん、西木野さん、学校じゃあいつも本を読んでて..
話したのは、さっきが初めてなんです..
でも」
「?」
「話してみて..すごく優しくて面白いことがわかりました。」
「そっか」
花陽ちゃんは本当にいい子だ。
話しているだけでわかる。
「花陽ちゃん。」
「は、はい!」
「これからも、真姫をよろしくな!」
俺がそう言うと、花陽ちゃんは俺の目を見て
「こ、こちらこそよろしくお願いします!」
そう言ってくれた。
次の日。
俺はいつも通り真姫と二人で登校する。
玄関で靴を脱ぎ、上履きに履き替えて廊下を歩く。
すると、先に上履きを履き替えて俺を待っていた真姫が掲示板の方を熱心に見ているのが見えた。
「何見てんだよ。」
「!?」
俺が話しかけると真姫は体をビクンとさせる。
「べ、べつに何も見てないわよ!」
そう言ってズカズカと先に歩いて行ってしまった。
「なんだあいつ..」
俺は真姫が見ていた方を確認する。
「これって..」
そこには、スクールアイドルメンバー募集の知らせと、入部届けと書いた紙が置いてあった。
プリントには穂乃果達3人によく似たキャラクターが描かれていてとても可愛らしい。
そうか、μ'sは今、メンバー募集中なのか..
「あいつ、これ見てたってことは..」
メンバーには入りたいのだろうか。
もしそうなったらどんなに素晴らしいことか。
まぁ、十中八九否定するだろうがな。
それでも、ほんの少しでもそういう気持ちがあるなら俺は背中を押してやりたい。
キーンコーンカーンコーン
「やべ!」
俺は突然なったチャイムに慌てて、駆け足で教室に向かった。
放課後
俺は、パソコン泥棒に会うために、屋上へと足を運んでいた。
さっき2年の教室を覗いたが、お目当の人物は見当たらなかったので多分屋上にいるのだろう。
あいつらの練習場所は屋上だからな。
ガチャ
階段を上がりきり、屋上のドアを開ける。
「ちーす」
すると、準備体操をしている穂乃果達の姿が目に映った。
「あ、ヒロくん!いらっしゃい。」
「こんにちわ」「お疲れ様です」
俺に気づいた穂乃果達がそれぞれ挨拶を返してくれる。
「どうしたの?」
「ん?いや、頑張ってるかなと思って。」
「もちろんだよ!ライブもみんなに見てもらえたし、次のライブに向けて頑張らなきゃいけないからね!」
相変わらず元気な穂乃果が笑顔でそう言ってくる。
正直少し安心した。
あのファーストライブで落ち込んでいるんじゃないかと思ったけど、見た感じそんな様子は見受けられなかった。
「それは良かった。ところで、俺のパソコンは無事か?」
「あ..」
俺がそう言うと、穂乃果は舌を出し、えへへ〜と頭をかく。
「まぁ、あれはしばらく貸しといてやるよ。」
「本当に!?ありがと〜」
そう言って穂乃果がまたしても抱きついてくる。
「おい!」
「ちょっと穂乃果!なんてことをしているのですか!
離れなさい。」
その様子を見ていた園田が慌てて穂乃果に注意をする。
やっぱりと言うか、園田は見た目通りのしっかり者らしい。
「そういえば今、メンバー募集してるんだって?」
穂乃果を引っぺがした後、俺が質問をする。
「はい、考えたんですけどやっぱりもう少し人数がいた方がいいかなと思って。」
今度は南が答えてくれた。
「それに部活動として認めてもらうには、最低でも五人必要らしいんです。」
「なるほどな」
「ねぇねえヒロくん!私、今度こそ真姫ちゃんに入ってもらいたいの!
ぜっっったい似合うと思うんだ!」
突然穂乃果がそんなことを言い出した。
俺もそうなってくれれば嬉しいけど..
真姫だって、今朝チラシを見てたくらいだから多少なりとも興味はあるはずだ。
あとはあいつが自分の意思で一歩踏み出してくれたらな..
「俺もそう思うけど、こればっかりは真姫が決めることだからな。」
ガチャン
俺が話していると、突然屋上のドアが勢いよく開く。
すると、ドアから3人組が現れた。
驚くことに、その3人の中には真姫の姿があった。
さらに花陽ちゃんの姿もある。
もう一人はオレンジ色の髪の毛をした女の子。
この子にも見覚えがある。
以前、μ'sのライブを花陽ちゃんと共に見に来ていた子だ。
「どうしたんだよ。」
俺はそっと真姫に近づき耳元で囁く。
「小泉さん、ずっとアイドルが好きだったらしくて、μ'sのライブを見たとき、自分もあんな風になりたいと思ってたらしいの。
だから私が背中を押してあげてるわけ。」
「背中を押してるのは凛も同じだにゃー!
かよちんと一番仲がいいのは凛だからねー!」
「それは関係ないでしょ!」
なにやら、後ろの二人で火花を散らしている。
花陽ちゃんを見ると下を向いたまま指をもじもじさせていた。
見かねた真姫がそっと背中を押す。
「ほら、とっとと言っちゃいなさい。」
「かよちんなら大丈夫だよ!凛がついてるからね!」
2人がゲキを飛ばす。
やがて、花陽ちゃんは決心したように顔を上げ瞳を前に向けた。
そして、
「わ、私小泉花陽と言います。一年生です。
えっと..私、声も小さいし背も小さいし、得意なものもなにもありません。
で、でも!」
花陽ちゃんは不器用ながらも一生懸命言葉をつないでいる。
「でも!アイドルへの思いは、誰にも負けないつもりです!
だから...」
「私をμ'sのメンバーにしてください!」
目に涙を溜めながら、自分の思いをまっすぐに言い切った。
花陽ちゃんは確かに声が小さいし不器用だ。でも、
自分の思いをまっすぐに伝えることができる。
そういう芯を持った強い女の子なのだ。
後ろの二人も目に涙を溜めながらその様子を見守っていた。
「こちらこそ!
これからよろしくね!花陽ちゃん!」
穂乃果が笑顔で手を差し出し、花陽ちゃんがその手を取った。
μ'sに新たなメンバーが加わった瞬間だ。
「なに泣いてるのよ。」
「泣いてなんかない。
に、西木野さんも泣いてるじゃん!」
「な、なに言ってんの!そんなわけないでしょ」
二人は笑いながらお互い涙をぬぐっていた。
「それで、二人はどうするの?」
不意に南が二人に問う。
「メンバーはまだまだ募集中ですよ!」
園田がそういうと、それぞれ手を差し出す。
真姫は突然差し出された手に戸惑いながらなぜか俺の方を向いてきた。
そして、どこか迷っているような、何か言って欲しそうなそんな目でおれの顔を見てくる。
きっと、こいつの中で揺れているのだろう。
自分にアイドルができるのか。
しかし、花陽ちゃんが前に進んだことによって自分も前に進まなくてはいけない。
おそらく考えているのはそんなことだ。
しかし、自分は自分だ。
己自身がやりたいと思うのならやればいいし、そうでないのなら無理してやらないほうがいい。
やるなら俺は真姫自身の意思で決めてほしい。
いや、決めなきゃダメだ。
「俺の方を見るなよ。
決めるのは自分だ。」
「!!」
「もしお前がやりたいのならやればいいし、そうでないならやらないほうがいいと思う。」
「...」
「人がどうとか考えるなよ。
決めるのはお前なんだ。
だから、俺はお前自身の答えを聞きたい。」
そう、真姫自身の足で前に踏み出すべきなんだ。
もう真姫も子供じゃない。
いつまでも俺が手を引いてやるわけにもいかない。
「大丈夫。なんて言おうと、それがお前の答えだ。
責める奴なんていないさ。
だからさ、自分自身の、真姫の答えを聞かせてくれ。」
そう言うと真姫は顔を上げニッコリと微笑む。
そして
ゆっくりと差し出された手を握りしめた。
チュンチュン
「ふぁ〜ぁ」
「ほら、早くしなさいよ。」
次の日の朝、俺たちは朝早くから神社の階段を登っていた。
「なんで俺まで...」
「あんた、手伝ってくれるって言ったじゃない。」
結局、真姫と凛ちゃんもμ'sに加入することになった。
俺はこいつが加入すると決めた時に、こいつのことをずっと手伝うと言ってしまったのだ。
しょうがないじゃないか。
嬉しかったんだから。
「こんなに早いと思ってなかったよ。」
今は宣言通り、μ'sの朝練に向かう真姫の荷物運びの最中だ。
「おーい!ふたりともー」
階段の上から穂乃果の声が聞こえた。
まったく、朝からとんだ重労働だ。
でも、なぜだか悪い気はしなかった。
きっと真姫が一歩踏み出せたおかげで俺の気持ちも舞い上がっているのだろう。
「はぁー、疲れる。」
「何か言った?」
少し上を歩いている真姫に俺のつぶやきが聞こえたのか、そう聞いてきた。
「なんもねーよ」
俺は、階段を一段飛ばしで駆け上がり、真姫の背中を追いかけるのだった。