最愛の人へ   作:糖也

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第十六話 背負う者

 

「なあ頼むよヒロ!」

 

 

「な、なんだよいきなり」

 

 

真姫がμ'sに加わってしばらくたったある日の朝、マルが突然おれの机をバンと叩きそんなことを言い出した。

何か俺に頼みごとがあるらしい。

 

 

「内容を言え内容を」

 

 

内容がわからないまま承諾するわけにはいかないからな。

でも、こいつの頼みならできる限り聞いてやりたい。

 

 

「ヒロ!野球部に入ってくれ!」

 

 

「.....は?」

 

 

何言ってんだこいつ。

 

 

「意味がわからん。

なんで俺が、三年のこんな時期に野球部には入らなきゃならないんだ。」

 

 

「正式に入ってくれってわけじゃないさ。

助っ人としてだよ。」

 

 

「?」

 

 

「だから、今、野球部には部員が10人しかいない。

しかも、一人はマネージャーで女の子だし、それにあと一人、腕を骨折してる奴がいるんだ。」

 

 

なるほど、なら現状では8人しか野球をすることができないということだ。

一人足りないな。

 

「まえはもっと部員がいなかったか?」

 

 

「みんな辞めたよ。

どいつもこいつも、すぐ根をあげる腰抜けばかりだ。」

 

 

 

どうやらきつい練習についていけないで辞めた部員が何人かいるらしい。

マルの顔はいたって真剣だ。

 

 

「頼むよヒロ!俺たち、今回の夏の予選で公式戦は最後なんだ。

だから絶対に出場したい。

今までの頑張りを無駄にしたくないんだ!」

 

マルは頭を俺の机に擦り付けながら俺に頼んでくる。

キャプテンとしてこいつも思うところがあるのだろう。

 

 

「くっ...!」

 

 

できればこいつの願いなら叶えてやりたい。

でもダメなんだ。野球は。野球部だけは。

遊びならまだ良い。

でも、俺が本気で野球をすることは今もこれからも絶対に許されない。

俺は歯を食いしばり、なんとか言葉にする。

 

 

「ごめん...マル」

 

 

「!?」

 

 

「俺、野球はできないよ。

知ってるだろ?俺が肩壊してるの。」

 

 

「で、でも、短い距離なら投げられるじゃないか!」

 

 

「それでもさ、こんな俺がチームに入ったところで迷惑をかけるだけだ。

それに、練習もしてない俺がいきなり試合に出たら、今まで必死に練習してきたお前達に申し訳が立たないよ。」

 

 

こんなのはただの言い訳だ。

マルには悪いが俺は野球をするつもりはない。

 

 

「大丈夫だよ。

みんなにお前のことを話したら大喜びしてたしそれに、大会に出れるならそれに越したことはないし...ておいっ、

どこ行くんだよ!」

 

 

俺は席を立ち、教室のドアに向かって歩き出す。

 

 

「とにかく、俺は野球をする気はないから。

他のやつを探してくれ。じゃあな。」

 

そう言ってドアを閉め教室を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ワンツーワンツー」

 

 

放課後、俺はμ'sが練習しているであろう屋上に足を運んだ。

予想通りもう練習を始めているみたいだ。ドア越しにも声が聞こえる。

ドアを少し開け気づかれないように中の様子を伺う。

 

 

「やってるやってる」

 

 

そこには、園田の手拍子に合わせてダンスをする穂乃果達の姿があった。

一番後ろで踊っている真姫を見る。

ダンスに少しあどけなさがあるが、始めたばかりにしてはそれなりの動きをしていた。

結局のところ、あいつは自分自身で答えを出し、μ'sのメンバーになったんだ。

誰にも頼らず、自分自身の足で一歩を踏み出した。

それは本当に喜ばしいことだ。

けど、ほんのちょっと寂しいという気持ちもあるかな。

 

 

「ジュースでも買っていってやるか」

 

 

そう呟き俺はきた道を引き返した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ほい、差し入れ」

 

 

「わー!

ありがとー!」

 

 

穂乃果がお礼を言う。

俺はどういたしましてと言いながら、スポーツドリンクの入ったビニール袋を穂乃果に渡した。

他のみんなも俺にお礼を言った後、それぞれの飲み物を袋から取り出しゴクゴクと勢いよく飲んでいる。

 

 

「それで、どうだ?調子は」

 

 

「うん!

人数も増えたし、気合も十分!

あとはちゃんと部活動として認めてもらえたら言うことないんだけどね!」

 

 

「はい?まだ認められてないのかよ。」

 

 

人数は5人以上いるわけだし条件は揃っているはずだ。

 

 

「うん、なんか他にアイドル研究部ってのがあるらしくて、私たちとかぶるからダメなんだって。

明日、そのアイドル研究部の部長を説得しに行こうと思ってるけど。」

 

 

そう言うことか。

まぁ、その部長さんとやらが素直ないい子であることを祈るよ。

 

 

ツンツン

 

 

「?」

 

 

急に誰かが肩をツンツンしてきた。

振り返ると練習着姿の真姫がドリンク片手に立っている。

 

 

「どうした?」

 

 

「べつに、あんた今日用事ないんでしょ?

じゃあ練習終わるまで待ってなさいよ。」

 

 

なんで命令口調なんだよ。

ま、その方が真姫って感じがするけどね。

 

 

「なんで?」

 

 

「荷物持ち」

 

 

おい!

俺は手伝うとは言ったが、召使いになるとは言ってないぞ。

どうやらそこらへんを少し説教してやらんといけないらしいな。

 

 

「あれあれ〜?

真姫ちゃん達、もしかして付き合ってるの?」

 

 

「///!?」

 

 

俺がそんなことを考えていると真姫の肩に手を置きながら凛ちゃんが突然そんなことを言い出した。

 

 

 

「な、なんでそうなるのよ!

そんなわけないでしょ!」

 

 

「そう必死になるところがまた怪しいにゃ〜」

 

 

凛ちゃんを真姫が追いかける。

なんだこいつら、すごく仲がいいじゃないか。

この間はそんな風には見えなかったのにな。

 

そのあと俺は、練習を再開したμ'sを最後まで見届け、帰路につくのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「プハー

生き返るなー」

 

 

買ったばかりのコーラを飲みながら腰に手を当て声を出す。

練習が終わったあと、俺たちは家の近くの公園で休憩していた。

カバンを二つも持っていたため、腕への負担がハンパじゃないのだ。

 

 

「大袈裟」

 

真姫がベンチに座ったまま呟く。

俺は真姫の隣に腰かけた。

 

 

「それで、どうなんだよ、スクールアイドル。

楽しいか?」

 

 

俺が質問をすると真姫は握っていたコーヒーに目を落としゆっくりと口を開く。

 

 

「うん、楽しい。

だって、今までになかったから。こんなに何かに熱中したこと。」

 

 

そうだな、今のお前は楽しそうによく笑う。

本当に楽しいのだろう。

何かに熱中する喜びを、こいつも感じることができたのだ。

 

 

「そっか」

 

 

真姫がこんな風になるなんて想像もしてなかった。

いい方向に成長していってくれてる。

穂乃果に感謝だな。

あいつの人を惹きつける力は、真姫でさえも変えてしまったようだ。

 

「お前が楽しいならそれに越したことはないさ。

それに、お前が歌うのを見るのは俺も嬉しいしな!」

 

 

「///」

 

 

そういって頭を撫でてやる。

 

 

「さて、そろそろ帰るか。」「おーいヒロー!」

 

 

「?」

 

 

遠くから突然声が聞こえた。

その声の方向を見ると、公園の入り口から走って俺の方に向かってくるマルの姿があった。

 

 

「やっと見つけた...」

 

 

マルは膝に手をつきゼェゼェ言いながら呟く。

 

 

「どうしたんだよ。そんなに急いで」

 

 

俺がそう言った瞬間、マルが言おうとする言葉が頭に浮かんだ。

が、止めようとしたがすでに遅かった。

 

 

「頼むよヒロ、野球部にはいって「マル!!!」

 

 

「「!?」」

 

 

自分でも驚くくらい大きな声で叫んでいた。

真姫とマルは目を丸くしたまま固まっている。

はぁはぁ

自然と息が溢れる。

突然大きな声を出したせいだろう。

全身から汗が吹き出ていた。

 

 

「その話は今しないでくれ」

 

「あ、あぁ...ごめん...」

 

 

俺がそう言うとマルが素直に謝ってくる。

マルに悪気はないことはわかっている。

少しの罪悪感が残った。

でも、真姫のまえでその話はしないでほしい。

 

 

「....」

 

 

沈黙がしばらく続いた。

空気が最高に悪い。

 

 

「ごめん、急に怒鳴って。

俺先帰るから。」

 

 

そう言ってカバンを持ち公園を後にする。

今は無性に一人になりたかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《side 真姫

 

 

 

 

 

どうしたのだろう。

ヒロはマルに急に怒鳴った後、一人で帰ってしまった。

 

 

「あいつ、なんであんなに怒ってたの?」

 

 

私は率直にマルに聞くことにした。

きっとこの二人の間に何かあったのだろう。

 

 

 

「いや、俺にもわからないんだ。」

 

 

「え?」

 

 

どうやらマルも原因がわからないらしい。

あんなに怒ったヒロは珍しい。

さっきの声は相当に大きかった。

隣にいた私の体が思わずビクッと反応したくらい。

 

 

「じゃあさっき、なんて言おうとしたの?」

 

 

私は質問を変える。

何か分かることがあるかもしれないと思ったからだ。

 

 

「あぁ、今日の朝からヒロに野球部に入ってくれるように頼んでて、さっきもそれを言おうとしたんだ。」

 

 

「!!」

 

 

なるほど、原因がわかったわ。

 

 

「なぁ、真姫ちゃん。

それが原因なのか?あいつ、昔に何があったんだ?」

 

 

いまだ原因がわからないマルは私にヒロの過去を聞いてくる。

そりゃ、怒らせた原因がわからない以上、昔何があったか気になるのは当然のこと。

しかし、これを私が勝手に言っていいものなのかわからない。

 

 

 

私は悩んだ末にマルに話すことにした。

 

 

「マルはあいつが肩を壊してるのは知ってる?」

 

 

「え?うん、しってるけど。」

 

 

「それね、私が原因なの。」

 

 

「!?」

 

 

思った通り、マルは目を丸くして驚いている。

 

 

「昔、おじさんと一緒にあいつの練習を見に行ったの。

その時にね、ヒロの投げた球が私に当たっちゃって...」

 

 

「...」

 

 

マルは目を細め、黙って私の話を聞いている。

 

 

「救急車が来るほどの大怪我をしたわ。

それからよ、あいつがおかしくなっちゃったのは...」

 

 

「...」

 

 

「あいつは入院中の私に何度も何度も謝ってた。

毎日毎日病院を訪れて。

最後には、野球をやめるとか言い出したからそれは私も本気で怒ったわ。

悪いのは、ぼーっとしていた私なのになんであんたが野球を辞めなきゃいけないのって。」

 

 

ヒロは優しすぎるから。

そのせいで自分が傷つき心を痛める。

 

 

「だから私言ったの。

野球は絶対に続けてって。

私も早く治るから、またあんたの野球してるところを見せてって。」

 

 

あの時のヒロの表情は忘れない。

引きつったような、無理やり作った笑顔で毎日私の病室にやってくる。

そんな姿を見るのが私はたまらなく辛かった。

 

 

「それで、野球は続けてくれたんだけど、一ヶ月くらいしてヒロは肩を壊した。」

 

 

「え?」

 

 

「原因はボールの投げ過ぎ。

後からおじさんに聞いた話だと、ちょうど私が入院した日から毎日夜遅くまで道具を持って、一人で出かけてたんだって。

きっと、私のことが重荷になってたんだと思う。

私が苦しんでるのに、自分が楽をするわけにはいかないって...

それを機に、あいつは踏ん切りがついたのか、二度と本気で野球はしなくなったわ。」

 

 

結局私はヒロの邪魔にしかなってなかった。

私の不注意であいつの全てを奪ってしまった。

あの時のあいつの顔を思い浮かべるだけで今でも涙が出てくる。

 

 

「ヒロは否定するけど、原因は間違いなく私なの。

本当にヒロには、償いきれないことをしてしまった。

でも、勝手かもしれないけど私ももう一度、あいつの野球してる姿が見たい。

もう一度あいつの楽しそうな笑顔が見てみたい。

そう思うから。」

 

 

そのためなら私はなんだってする。

今まで私はヒロにいろいろものをもらった。

いろんなことを教えてもらった。

ヒロには、いつももらってばかりで私は何もしてあげれない。

でも、今回は私があいつを救ってあげるんだ。

 

 

「だから、ヒロのことは私に任せて!」

 

 

もう二度と、ヒロの辛そうな顔は見たくない。

あいつの全てを奪ってしまったなら、これから返していけばいいだけ。

そう、ここからは私がヒロを支えるんだ。

 

 

「ごめん。俺、そんなこと全然知らなくて、あいつに色々言っちまった。」

 

 

マルがしんみりとした口調で話し始める。

 

 

「ヒロにごめんって伝えといてくれ。それじゃ」

 

 

そう言ってマルは公園の出口から外に出て去っていった。

 

 

「よし!」

 

 

私は自分のほっぺたをぱしんと叩いて、家の方向へ歩くのだった。

 

 

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