【三年前 高山広 中学三年】
「はぁはぁ
もうやべーって、降りてくれよ」
「後少しじゃない。頑張って」
膝が悲鳴をあげていた。
ペダルも異常に重く感じる。
「なんで..朝から、こんなに疲れなきゃいけないんだ..」
俺は今、自転車の荷台に真姫を乗せて学校への道を走っているところだ。
俺たちの学校はなぜか山の頂上にできているため、登校するときはいつもこの心臓破りの坂を登らないといけない。
しばらく漕いでいると、やっとの事で校門についた。
「はぁはぁ」
俺はハンドルを握りしめたまま下を向いて息をし続ける。
「よかったじゃない。これでまた体力がついたわよ。」
真姫がそんなことを言いだす。
誰のせいでこんなに疲れたと思ってるんだ。
そんなことはおかまいなしに真姫は玄関に向かって歩き出していた。
「はぁー」
俺はため息を一つ吐き、自転車を停めるべく駐輪場へ急いだ。
「ねぇねぇ高山くん、これからどこかいかない?」
「あ、ずるい!
高山くん私と行きましょう!」
放課後、練習があるため早く帰ろうとしたところにクラスの女子たちが集まってきた。
全日本から帰ってきたからというもの、こういうことが増えた。
告白もけっこうされてる。
嬉しいのはうれしいんだが、今は野球があるため、全て断ってきた。
「ごめんね、俺これから練習があるから、また今度」
そういってカバンを持ち廊下に出る。
「相変わらずモテモテだな、ヒロ」
「何言ってんだ。お前の方がモテるだろ。」
すると、悠介が後ろから話しかけてきた。
こいつとは学校もシニアのクラブも同じで一緒にいる時間がとても長い。
「さすが有名人って感じだよ。
なのになんで誰とも付き合わないんだ?」
廊下を歩きながら悠介が聞いてくる。
「仲がいいわけでもないのにいきなり告白されてOKできるわけないだろ。
ほら、そんなくだらないこと言ってないでさっさと行くぞ。」
「あ、おい!」
俺は少し早足で玄関に向かっていった。
「おそい!」
玄関に着くと、腰に手を当て怒っている真姫が俺を待っていた。
「悪かったよ。
さ、急ぐぞ。」
「高山先輩!」
「?」
俺が靴を履き替えようとしたところで誰かに声をかけられる。
振り返ると見たことない女の子が俺に話しかけていた。
「これ!受け取ってください!」
そういって俺に手紙を渡す。
その後後ろにいた他の女の子たちとキャーキャー言いながらどこかにいってしまった。
ドンッ
「いて!」
一部始終を見ていた真姫が固まっている俺の足を蹴ってきた。
「何すんだよ!」
「しらない!」
そう言って玄関から一人でズカズカ出て行った。
「なんだあいつ..なんであんなに怒ってんだ?」
「わからないのか?」
「?」
悠介に聞いたらそんなことを言われた。
わかるわけないだろ。
あ、遅刻したからかもしれない。
「わからないならいいけどな」
そう言って悠介は先に玄関を出て行ってしまった。
「ま、まてよ!」
俺は慌てて悠介と真姫を追いかける。
「ただいまー」
練習を終え、家に帰宅する。
時刻は午後7時。
俺が玄関を通ると晩御飯のいい匂いが漂ってきた。
廊下を歩きいつも通りリビングのドアを開ける。
「「「おかえり」」」
中にはリビングでテレビを見ている父さんとキッチンで晩御飯の支度をしている母さんと真姫の姿があった。
ていうか、またきてたのかよ。
「あんた、汚いわよ。
早くお風呂入っちゃいなさい。」
母さんが練習着姿の俺を見てそう言ってきた。
確かに泥だらけで、汗もかいてる。
俺は言われた通り、脱衣所に向かい服を脱いで浴室の中に入るのだった。
「はぁ〜ぁ」
体を洗い、浴槽に浸かると疲れが一気に吹き飛んだ感じがする。
温度もちょうどいい感じでまさに最高の状態。
なんだか少し眠くなった。
「ヒロー
タオルここに置いとくわよ」
俺が軽く船を漕いでいると外から真姫の声が聞こえる。
危ない、危うく寝るところだった。
「おーサンキュー」
俺がそういうとドアが閉まる音が聞こえた。
思えばあいつももう中1。
ちょっと前まで小学生だったのに時間が過ぎるのは早いものだ。
それと比例して、本人はだんだんと凶暴になっていく。
「そろそろ出るか」
浴槽に浸かって十分ほど経ってから俺は立ち上がった。
「いただきます」
俺はお風呂から上がった後、俺が上がるのを待っていた父さん達と晩飯を食べ始める。
練習したこともあって、今ならご飯何杯でも食べられそうだ。
「そういえばお前、明日試合だろ?
見にいくからな。」
父さんが食べながら話しかけてくる。
「あ、私も行っていいですか?」
すると今度は真姫が喋り出す。
「じゃあ真姫ちゃんも一緒に行こうか」
「べつに見にこなくていいって」
ぶっちゃけ恥ずかしいのだ。
家族に見にこられると。
真姫がいるならなおさらな。
「いいでしょべつに。
それより、せっかく見にいくんだからかっこいいところ見せてよね。」
くることは決定ですか。
俺はため息を吐いて再び箸を動かし始めた。
次の日
今は九回表。
この回しのげば試合終了で俺たちの勝ちだ。
今日は一試合で終わる予定で昼には帰れるはず。
本当に見にきた父さんと真姫は観客用の椅子に座って試合を見ていた。
これが終わったら父さんに飯にでも連れて行ってもらおう。
などと試合をしながら考えていると俺のところにボールが飛んできた。
「ショート!」
俺はいつも通りボールをさばきファーストに送る。
うまくいった。
これで試合終了だ。
「お疲れさん、今日もすごかったな。」
「お前こそ」
試合が終わり、今はクールダウンのキャッチボール中。
俺はキャッチボールをしながら隣の悠介と話していた。
最近は本当に調子がいい。
守備もバッティングも誰にも負ける気がしないくらいだ。
この調子でいけば本当にプロの選手になれる。
まぁ、あとは身長さえあればいうことないんだが。
シュルッ
「あ、やべ!」
などと調子にのったことを考えていると俺の投げた球が汗で滑り、相手のはるか後方へ飛んでいく。
「何やってんだよ。」
相手が俺に文句を言ってくる。
いや、それどころじゃない。
俺たちのライン上には観客席があったはずだ!
「あぶない!!!」
ゴッ
俺は誰にも当たらないでくれと心の中で叫んだが、調子にのっていた罰か、ボールは鈍い音を上げ地面に転がった。
ドサッ
誰かが倒れる。
俺は慌てて駆け寄ったが、その当たった人を見た瞬間、体が凍りつき、足が動かなくなった。
「嘘だろ...真姫...」
当たったのは真姫だ。
「おい!真姫ちゃん!大丈夫か!?」
父さんが必死に真姫に呼びかける。
真姫は反応しない。
頭からは血を流し、目を閉じたまま動かなかった。
「ま、真姫!しっかりしろよ!
なぁ、返事してくれ!」
俺が肩を持って体を揺らす。
「どけ!!!」
ドンッ
「!?」
気がつくと父さんに吹き飛ばされていた。
父さんは必死に真姫の血を止め、周りに指示を出し真姫のために動いている。
なのに俺は、その場に座り込んだまま動くことができなかった。
あまりのショックに息をすることすらも忘れる。
「はぁはぁ」
呼吸が荒くなるのが自分でもわかった。
「あ、あぁ...あああぁ...」
俺が..俺が調子にのったせいで、真姫が..
取り返しのつかないことをしてしまった。
俺のせいで、真姫を傷つけた。
近くに転がっていたボールを拾う。
それには、真姫の血が点々と染み付いていた。
「お...俺は...」
ボールを持つ手に力が入らない。
手が、小刻みに震え始めた。
俺は何もできないまま、大騒ぎになっている真姫の周りを見つめることしかできなかった。
結局、最後には救急車まで来て事態はものすごく大きくなっていた。
真姫が救急車の中に運び込まれるのが見える。
その時、俺が犯してしまったことの大きさを改めて痛感する。
父さんは、真姫に付き添い、一緒に救急車に乗り込んでそのまま病院に向かった。
「仕方ないよ、わざとじゃないんだし」
座り込んでいた俺に友達が話しかけてくる。
「仕方ない?そんなわけないだろ!
あれは防げたことだ!俺が調子にのってたから起きた事故だ!
それで、あいつに怪我させちまった!
取り返しのつかないことを俺はしてしまったんだ!」
「!!」
友達も俺のことを気遣ってくれて言ったのだろうが今の俺にはそんなことは関係ない。
自分が犯した罪の重さに今にも押しつぶされそうなんだ。
俺は荷物を片付け、自分一人部室へと向かう。
「おい!どこいくんだよ!」
それを後ろから悠介が止めてくる。
「どこって、帰るんだよ。
あんなことして、自分だけのうのうと野球ができるわけないしな。
監督にはお前から言っといてくれ。」
そう言ってグラウンドを後にする。
今は家に帰るのもだるい。
ははっ
まだ腕が震えてやがる。
足も思ったように動いてくれない。
「...ごめん...真姫...!」
俺は流れ出る涙を拭いながら前を向いて必死に歩いた。