最愛の人へ   作:糖也

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第二話 はじまり

 

 

「ふぁ〜〜ぁ」

 

 

いまだに重いまぶたをこすりながら一つ欠伸をする。

朝はいつもより早い時間に家を出たため、朝のHRまでまだ少し時間があった。

ならばと、やることもないので、ガラス越しの春の日差しを毛布がわりに、机に突っ伏して寝ようとした時、後ろから誰かに声をかけられた。

 

 

「おーい、チビ助〜」

 

 

そう呼ぶのは俺の幼稚園からの親友、丸山 修也《まるやま しゅうや》、通称マルだった。

 

 

「誰がチビじゃボケー!」

 

 

俺は席から素早くたつと、廊下に逃げようとしていたマルの制服の袖を掴み、ヘッドロックをしたあと、その坊主頭に思い切りげんこつを叩き込んでやった。

 

 

「いっってーーーー!」

 

 

なおも、教室の床でのたうち回っているマルに少しやりすぎたかなーと思いながら、自分の席に戻った。

確かに俺の身長はかなり小さい。

この前の身体検査で出た結果は、163センチとあまりの小ささに学校から帰ってもため息が止まらなかった。

そんな俺を周りの友達が面白がってつけたあだ名がチビ助というわけだ。

俺の、言われたら嫌なことランキング上位三位には必ず入って来る言葉だった。

 

 

「それで、なんか用か?」

 

 

ようやく少し痛みが引いたのか、頭をさすりながら近寄って来る親友に聞いた。

 

 

「悪かったよ。そんなにおこんなって。

久しぶりに会えたから嬉しくてついからかったんだよ。」

 

 

こいつは、俺の気にしていることをからかい半分で言ってきたのか。

次は、げんこつじゃすまさねーぞ。

 

 

「あっそ。これから俺は夢の中を旅するんだ。邪魔すんじゃねーぞ。」

 

 

そう言ってまた、机の上で寝る体制をとる。

 

 

「夢の中って、、もうそろそろ先生来る頃だぜ?」

 

 

そう言った瞬間、教室のドアが勢いよく開く。

 

 

「おーい、席につけー。HR始めるぞー」

 

 

担任の村田が学生簿を持って教室に現れた。

まったく、あいつのせいでとんだ無駄な時間をすごしてしまった。

担任が来たことによって、教室で喋っていたものは皆、自分の席に戻って行く。

俺は襲って来る睡魔に勝てず、船を漕ぎながら担任の話を聞いていた。

しばらくして、チャイムがなり、担任が教室を去ったのを合図にまた、教室内がさわがしくなる。

 

 

「おいヒロ!聞いたか?今日は午前中に学校終わるらしいぜ。」

 

 

不意に誰かに話しかけられる。

見るとまたしてもマルだった。

 

 

「わりー、寝てたから聞いてなかった。」

 

 

「やっぱな、寝すぎだよ、おまえ」

 

 

「いいだろ?べつに、寝るのが趣味なんだ。」

 

 

「そんな趣味やめちまえ。

それより昼から遊びに行こーぜ。今日は野球部の練習休みなんだ。」

 

 

こいつが所属しているのは野球部。

普段からきついメニューをしているにもかかわらず、ほとんど休みの日がない野球部が今日は珍しく休みらしい。

その貴重な休みの日に遊ぼうと誘われてしまったので、「いいよ」と口から出かけたところで、朝の母の言葉を思い出す。

そう、今日は、真姫の入学祝いのパーティーがあるので、色々準備しなくてはいけないのをおもいだした。

 

 

「わりー、今日はパス。」

 

 

「えーー!なんかあんのかよ?」

 

 

「あぁ、今日から真姫がこの学校に入学しただろ?それを祝うパーティーをするんだと」

 

 

マルはポンッと手を叩くと、

 

 

「あー!そういえばまきちゃん音乃木坂に来たのか!今思い出したよ。

なら仕方ねぇーな。俺からもおめでとって言っといてくれ。

それじゃっ!」

 

 

そう言って、マルは廊下の方に走っていった。

俺は、これでようやく寝れると思い、再び眠る体制をとる。

すると、またしても誰かに声をかけられた。

 

 

「ちょっとヒロ!これから入学式だから、早く体育館に行きなさい。」

 

 

今日はやけに邪魔が入る。

厄日か。

そんなことを考えながら、声をかけて来た人物を見る。

金髪をポニーテールにし、日本人離れしたスタイルを持ち、化粧をしなくても、自然と他人の目を引き寄せてしまうほど整った顔をした女子が目の前にいた。

俺は無視して再び寝ようと窓側に首を向けた瞬間、ほっぺたが引っ張られて、自然と涙目になる。

 

 

「いててて!わかったから離してくれ、絵里!」

 

 

彼女の名前は絢瀬絵里、俺のクラスメートで、ここ、音乃木坂学園の生徒会長でもある。

 

 

「早く体育館に行きなさい。他のみんなはもう向かってるわよ。」

 

 

見ると教室は俺一人だけになっていた。

 

 

「わかったよ。起こしてくれてありがとな」

 

 

「いいわよ、別に。

これも生徒会長の責任ってやつかしらね。」

 

 

そう言うと絵里は廊下の方へ歩いて行く。

 

 

「ほら、急ぎましょう?みんな待ってる。」

 

 

俺は頷くと小走りで廊下に向かい、絵里と二人で体育館に向かった。

 

 

 

 

 

 

 

体育館にはすでに、全校生徒が座っており、どうやら俺たちは最後らしい。

前から1年、2年、3年と並んでいるので俺たちはあまり目立たずに席に着くことができた。

だいたいなんで入学式に俺たち三年生が出なくちゃいけないんだと腹の中で文句を言っていると、前から声が聞こえて来た。

どうやら入学式がはじまったらしい。

後ろからボケ〜と眺めていると、一年生の数が1クラスしかないことに気づいた。

おれたち3年生が3クラス、2年が2クラス。

今気づいたが、だんだんと入学者の数が少なくなっている。

そのことを、隣の絵里に聞いてみると、

 

 

「あなたそんなこともしらなかったの?

そうよ。音乃木坂は今、入学希望者が著しく低下していってる。

理事会でも、そのことについて、何か話し合っているみたいよ。」

 

 

と言われてしまった。

ならば、真姫の学年は1クラスしかないのか。

なんだか少しかわいそうだな。

 

 

話しているうちに、入学式は無事終了し、晴れて放課となった。

俺はカバンを持って下駄箱まで歩いて行くと

 

「おーい!ヒロくーん!」

 

遠くで女性の声が聞こえた。

振り返ると、真姫の父さんと母さんがこっちに向かって手を振っていた。

俺は軽く会釈すると、早歩きで近くまで寄る。

 

 

「あれ?真姫は?」

 

 

「さぁ?もうすぐ来るんじゃないかな?」

 

 

「なんだ、てっきり一緒にいるのかと思っちゃった。」

 

 

おばさんはそう言うと肩をすくめた。

 

 

「まぁ、そのうち来るだろ。それよりヒロ。

車に乗っけてってやろうか?」

 

おじさんから聞かれたが、俺はこれからやることがあるのを思い出して、

 

 

「いや、ちょっとやることがあるんでいいですよ」

 

 

ならカバンくらい持ってってやると言われたので、お言葉に甘えて、おじさんにカバンを預けた。

 

 

「ありがとうございます」

 

 

「いいのよ。それより美鶴から聞いてるわよね?

今日はパーティーだから、はやめにかえってきてね!」

 

 

美鶴とは、俺の母の名前である。

この様子だと、母さんは俺たちに伝えるのをギリギリまで忘れていたようだ。

我が母ながら呆れてしまう。

 

 

「わかりました。なるべく早く帰りますよ。

それじゃ」

 

 

そう言って学校を後にした。

カバンがなくなったことで腕の負担は消え、体の自由度は格段に上がった。

この調子だと思ったより早く用事を済ますことができそうだと思いながら、俺は駅に向かって走った。

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