最愛の人へ   作:糖也

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第三話 旋律

 

カーーーン

 

 

 

 

「そっちいったぞーーー!」

 

 

 

家に帰る途中、近くの公園からそんな声が聞こえて来た。

その公園は遊具こそ少ないが、広さは十分で道具さえ持って来れば、野球やサッカーなど、余裕ですることができるくらいの広さを誇っている。

遊んでいるのは、小学生の集団。

その中に、俺は見たことがある顔を見つけ、裏から歩いてちかづいた。

その紅い髪の少年は、ちょうどピッチャーをしていて、バックネットの後ろで見ていた俺に気がつくと

 

 

「あーーー!ヒロ兄!」

 

 

と言って、俺の方に近づいて来た。

 

 

「ひさしぶりだなー、翼!」

 

 

その少年の名前は、西木野 翼《にしきの つばさ》

正真正銘、真姫の弟である。

 

 

「久しぶりだね!一緒に野球やろうよ!」

 

 

翼は、真姫にそっくりなややつり上がった紫色の瞳をキラキラさせながらそう言って、俺にバットを渡してきた。

 

 

「だれ?この人?」

 

 

 

 

いつの間にか集まってきた小学生たちの一人が翼に向かってそう言った。

 

 

「ヒロ兄だよ。

俺の家の隣に住んでて、よく野球を教えてもらってたんだ!」

 

 

そう、昔はよく俺が暇な時は翼に野球を教えてあげていた。まぁ、翼が小学校で野球のクラブに入ってからは忙しくなって、あんまり遊んでやる暇がなくなったんだが、、

 

 

「翼が教えてもらうくらいだから、きっとすごく上手なんだね!」

 

 

なにやら勝手にハードルがあがってしまっている。

確かに、翼の野球センスは、磨けばきっと俺以上になるだろうと、こいつが小3くらいの時に心の中で思ったことはあった。

実際に今では抜かれているのかもしれない。

そんなことを思っていると

 

 

「上手いなんてもんじゃないよ!

ヒロ兄はU-15のジャパンに選ばれたくらいなんだから。」

 

 

翼がそう言ったあと、一瞬周りがシーンとなって、

 

 

「えーーーーーーーー!!?」

 

 

小学生たちが叫んだ。

 

確かにあの時は、全て野球に捧げて生きてきた。

でも今では昔の話、いろいろ理由はあるが、中学で野球はきっぱりやめた。

 

 

そのあと、質問責めにあったがどうにか鎮め、せっかくなのでと、小学生に混じって野球をすることにした。

 

夢中になって野球をしていると、日が落ち始め周りがだんだん紅くなっていく。

何か忘れているような気もするが、まぁいいかと割り切って思い切り遊ぶことにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それじゃーまた明日ーー」

 

 

一緒に遊んでいた小学生たちが、一人また一人と帰って行き、ついに、俺と翼の二人だけになった頃には、辺りはうすぐらくなってしまっていた。

携帯で時間を確認すると17時50分と書かれている。

俺たちは、まだボールは見えるので短い距離でキャッチボールをすることにした。

すると、

 

 

「こらーーーーーーーー!」

 

 

 

どこかで聞いたことがある声が公園の入り口の方から聞こえる。

その方向を見てみると、暗くてもわかるくらい怒りをあらわにした西木野真姫さんが、仁王立ちで俺と翼を睨んでいた。

その瞬間、

 

 

「「あーーーーーーーー!!」」

 

 

二人揃って真姫のゲンコツをくらった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

家に帰るとすでに、両家の親が揃っていて、涙目になって帰って来た俺と翼を見た親たちは、大爆笑。

未だ不機嫌な真姫の機嫌を、俺がずっととり続けたのは言うまでもない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから二時間後

 

 

晩飯の鳥やらステーキやらを食べたあと、俺と真姫は西木野家の地下室に来ていた。

西木野家は超がつくほど大きく、さすがは病院を経営するだけあると思わせるつくりをしている。

俺も、初めて来た時はそれはそれは驚いたものだ。

なぜ、西木野家に来たのかというと、真姫がピアノを弾きたいと言い出したからである。

親たちは、今頃ビール片手にどんちゃん騒ぎしていることだろう。

真姫のご機嫌とりに必死な俺は、こいつについて行く以外道はなかった。

 

 

「ねぇ、ヒロ」

 

ふいに真姫が話しかけてきた。

こいつが俺の名前を呼ぶのは、珍しい。

というか、二人きりの時以外は、滅多に呼ばない。

 

 

「なんだ?」

 

 

「久しぶりにピアノ、聞いてくれない?」

 

 

久しぶりというか、家隣だから毎日聞こえるんだけどね。

地下室だからと言って全て音を遮断しているわけではない。

あれだけ家が近いと嫌でも聞こえてくる。

ただ真姫の奏でる音はとても綺麗でいつまでも聴いていたくなるような、そんな感じがする。

母さんも、真姫のピアノの音がとてもお気に入りなのだ。

 

 

「弾いてみろよ。」

 

 

「ありがとう」

 

 

そう言うと、真姫は鍵盤に指を這わせた。

曲が始まった。

前奏を聴くだけで何の曲か分かってしまう。

これは、真姫のつぎに俺が最も多く聞いているであろう、曲。

真姫が作詞作曲し、真姫が歌うことによって初めて完成する曲。

何回も聞いているはずなのに、何度でもまた聴きたくなるような曲。

曲名は[愛してるばんざーい!]

俺の一番好きな曲。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

弾き終えた真姫の顔は達成感に満ち溢れていた。

 

 

「どうだった?」

 

 

「あぁ」

 

 

こういう時は素直に言ってやるのが良い。

 

 

「綺麗な曲だった。

多分、他の誰かが弾いても俺には響かないと思う。

きっと真姫だから、真姫が鍵盤を叩いて、真姫が唄うから、この曲は、俺が一番好きな曲のままでいるんだと思うよ。」

 

 

ありのままを伝えると、真姫の顔はみるみる紅くなっていき熱でもあるんじゃないかってくらい顔が赤くなる。

 

 

「ばっ、、ばっかじゃないの!!!///」

 

 

またかよ。

 

 

「なぁ真姫」

 

 

そう言って頭を撫でてやる。

 

 

「なに?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「入学おめでとう。」

 

 

そう言って俺は、綺麗に包装された小さな小包を真姫に渡した。

 

 

「これは?」

 

 

「開けてみろよ」

 

 

真姫が袋を綺麗に開けるとそこには、鍵の形をしたネックレスが入っていた。

 

 

「結構したんだからな!それ」

 

 

照れ隠しでそう言っても反応がない。

慌てて真姫の方を見てみると耳を真っ赤にして泣いていた。

 

 

「お、おい!

泣くなよ!え、なに、気に入らなかった?」

 

 

「ちがう、、ちがうの

あんたが、ちゃんと私のこと祝ってくれて、本当に嬉しくて、

今日の夜のこと忘れてた時は、忘れるくらいどうでもいいのかなっておもってた、か、、ら。」

 

 

俺は、再び真姫の頭を撫でてやる。

 

 

「どうでもいいわけないだろ。

なぁ、つけてみてくれよ。きっと似合うから。」

 

 

 

「、、、、ヒロがつけて、」

 

 

はぁとため息を吐き、ネックレスを真姫の首につけてやる。

 

 

「どお、、似合ってる?」

 

 

「あぁ、いいと思うぞ」

 

 

「ねぇヒロ」

 

 

「ん?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ありがとう」

 

 

「、、、、どういたしまして」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ひとしきり泣いて、落ち着いた真姫が再び聞いてくる。

 

 

「あんたが遅れたのって、これを買いに街に行ってたからなの?」

 

 

「いやー、それもあるけど、久しぶりに野球してたら夢中になって、パーティーのことすっかり忘れちゃってさー、やっぱたまには、運動しねーとダメだなww」

 

 

ゴチン!!

 

 

「いって!!!」

 

 

またしても殴られた。

その衝撃で小包に手が当たって床に落ちてしまった。

すると「チャリーン」と、さっき真姫にあげたのと色違いの鍵がついたネックレスがそこにあった。

 

 

「え?なんで?」

 

 

「あんた、、ちゃんと中身見てかったの?」

 

 

「そういえば妙に高いと思ったんだ。」

 

 

「しょうがないわねー」と真姫はそのネックレスを拾い上げ俺の首に巻き始めた。

 

 

「買っといて使わないのはもったいないでしょ?」

 

 

「まあ、確かにそうだけど、これ、男がつけて大丈夫か?」

 

 

そのネックレスはどう見ても女性向けで男がつけるにはいささか勇気がいるものだった。

俺があーだこーだ文句言っているとガチャンと玄関が開いた音がする。

おじさんとおばさんがかえってきたみたいだ。

 

 

「それじゃそろそろ帰るわ」

 

 

「うん」

 

 

そう言って俺が地下室から出ようとすると

 

 

「ヒロ!」

 

 

「ん?」

 

 

 

 

 

 

 

「おやすみ」

 

 

「あぁ、おやすみ」

 

 

 

おじさんおばさんにひとこと言って、俺は西木野家を後にした。外は肌寒く、早く布団に潜りたい衝動にかられ足早に家路につく。

明日からは、また真姫と一緒に登校するのかと思うと、なんだか懐かしい感じがする。

明日は、俺が起こしに行ってやるかなと、できもしないことを口にして、早々に家の中にはいっていくのだった

 

 

 

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