最愛の人へ   作:糖也

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第四話 悲報

 

 

 

 

 

「「いってきまーす」」

 

 

入学式の次の日、俺たちは二人揃って玄関を出た。

隣の上機嫌な幼馴染とは違い、俺は朝から憂鬱だ。

昨日の夜、明日こそは自分で起きて、快適に朝の準備を済ましてやろうと、気合を入れて寝たのはいいが、次の日になってみると、2日連続で誰かさんのエルボを食らうという、プロレスラーでも滅多にない目覚めを経験してしまっては、そりゃ憂鬱にもなるだろう。

こいつのおかげで、俺の腹筋は、日に日に強くなっていくんじゃないだろうか。

もしかしてこいつは、俺のためにわざとああやって起こしてくれているのかな。

 

 

、、無いな。

そんなことを考えながら、歩いていると、真姫の首にかかっているキラキラしたものが目にとまった。

 

 

「おまえ、それ、服の下に隠しとけよ。

つーか、学校の時は、つけなくていいだろ?」

 

 

「なによ、あんただってつけてるくせに。」

 

 

「おまえが無理やりつけたんだろ!」

 

 

そう、朝、俺の部屋においてきたはずのネックレスをこいつは玄関で無理やり、俺の首に巻いて来たのだ。

おかげで制服の下で、鍵の形をしたネックレスが俺の歩くペースに合わせて、左右に揺れている。

 

 

「これ、常につけとかないとダメなの?」

 

 

「あたりまえでしょ!

お風呂に入る時と、寝る時以外は外さないこと!

いい?」

 

 

「はいはい」

 

 

そう言ってやると、真姫は満足したのか、くるりと前を向いて、学校に向かって再び歩き始める。

俺は、欠伸をしながら、真姫の隣に向かい、二人並んで通学路を歩いて学校を目指した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

歩くこと15分。

見慣れた校舎が見えてきた。

俺たちは校門をくぐり、下駄箱まで到着していたところで、時刻は8時20分。

HRまであと20分と、時間はまだまだ余裕だった。

俺一人なら、毎日遅刻ギリギリの滑り込みセーフくらいの時間に登校するのだが、今年からは、真姫がいるので、遅刻の可能性は極めて低いだろう。

腹の痛みを代償に俺は、絶対に寝過ごさなくてもすむ目覚まし時計を手にしたようなものだ。

 

 

「じゃあまた放課後ね。」

 

 

「は?なんかあんの?」

 

 

「せっかく入学したんだし、いろんなところ見て回りたいじゃない?

案内してよ。」

 

 

なるほど、そういうことか。

可愛い後輩の頼みだ。それくらいはいいだろう。

俺の放課後の予定が強制的に決まったところで、俺と真姫はそれぞれの教室に歩いて向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

教室に入ると、なにやら教室内がザワザワしていた。

 

 

「あ!おいヒロ」

 

 

友達と話していたマルが俺を見つけると、片手を上げながらちかずいてくる。

 

 

「どうかしたのか?なんか教室がざわついてるみたいだけど、、、」

 

 

自分の席につきながら、俺はマルにそう質問する。

 

 

「おまえ、掲示板見てないのかよ!」

 

 

掲示板?そんなもの、この学校に来てからというもの、一度も見に行ったことがない。

俺が見てないと答えると、マルは俺の腕を引っ張って廊下の掲示板の前まで俺を連れてきた。

「これ見ろって!」

 

 

言われるままに、掲示板に貼られている一枚の紙に目を通す。

 

えーとなになに、、、、、、、、、、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

え?

 

 

その瞬間、なぜこんなにも学校が騒がしいのか理由がわかった。

 

掲示板の紙を見るとそこには、「廃校」の2文字がプリントにデカデカと書かれている。

おい、うそだろ!?

俺が絶句していると、

 

 

「今年の一年生が卒業すると同時に廃校になることが決まったんだと。

つまり真姫ちゃん達で音乃木坂は終わりってことだな。」

 

 

マルが教えてくれた。

プリントを見ると、確かにそう書いてある。

しかも廃校と言っても、近くの学校と統合するだけで完全に音乃木坂が無くなるわけではないらしい。

近年の入学希望者低下が主な原因になっているようだ。

 

 

「なら、今の一年にはもう、後輩はできないってことか?」

 

 

「そういうこと」

 

 

そう考えると、少し可哀想になってくる。

多分、真姫の耳にももう届いていることだろう。

あいつは今、なにを考えてんのかな、、

 

 

「なんとかなんねぇかな、

そうだ!おまえらが頑張って甲子園に行けば、入学希望者集められるんじゃないか?」

 

 

「無茶言うな。

人数だってギリギリなのに、甲子園なんて夢のまた夢だよ。」

 

 

野球部は確か全部で12人だったかな?

うん、ちょっと少ないな。

とりあえず俺たちは、HRも始まるということもあり、教室に戻ることにした。

朝、担任から、改めて廃校について、お知らせを聞いて、事実だということを、再確認する。

今はその話は置いといて、とりあえず、込み上げてくる眠気に従って、今日もいつものようにねむりについた。

 

 

 

 

 

 

 

ほとんど寝ていたので時間が過ぎるのが早く感じる。

今は、もう放課後。

俺は、真姫を探すべく、一年生の教室に向かって歩いていた。

教室に着くと、何人かは机に座ってだべってはいるが、残っているのは、7、8人といったところか。

窓側の席を見ると不機嫌そうに、文庫本を読んでいる真姫が目にはいった。

一年生の教室に入るのは、なんだか恥ずかしいので、俺は近くにいた一年生の女子に真姫をよんでもらうことにした。

 

 

「西木野さん。」

 

 

女の子が真姫に声をかけると、

 

 

「なに?」

 

 

と、真姫がぶっきらぼうにそう返した。

まったく、そんなだから友達ができないんだ。

真姫はその女の子と話したあと、俺に気がつきカバンを持って近づいて来た。

俺は、さっきの女の子に礼を言って真姫とともに校舎の中を歩き出す。

 

そのあと、俺たちは校舎のあちこちを見てまわり、いまは、中庭のベンチで、ジュースを飲みながら休憩していた。

 

 

「他に行きたい場所は?」

 

 

もうほとんど回った気もするが、一応聞いてみる。

 

 

「じゃあ、最後に音楽室に連れてって。」

 

 

そういえば行ってなかったなと思い、ジュースを飲んだあと、俺たちは音楽室に向かって歩き始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「へぇ、結構良いピアノじゃない。」

 

 

真姫が鍵盤を触りながらそう言った。

俺には、ピアノの価値はよく分からない。

 

 

「そうなのか?」

 

 

「うちにあるのより、高いかもね。」

 

 

だいいち、家にピアノがある時点で、並の金持ちではない。

きっと、西木野家のピアノも相当のものなのだろう。

 

 

「弾いてみろよ。」

 

 

「うん」

 

 

そう言うと、真姫は俺にはよくわからないクラシックを弾き始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それじゃあ、帰りましょ」

 

 

演奏が終わると満足したように真姫がそう言った。

俺は、教室にあるカバンを取りに行くから下駄箱で待っていてくれと真姫に伝え、駆け足で廊下を走っていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

真姫と別れて、急いで教室に戻る。

あんまり待たせるとあいつ、また不機嫌になるからな。

そんなことを考えながら走っていると、教室に向かう途中の角で、不意に誰かとぶつかってしまった。

 

 

「きゃっ!」

 

「うぉっ!」

 

 

まずい、どうやら女子とぶつかってしまったようだ。

 

 

「すまん、大丈夫か?」

 

 

そう言って、手を差し出す。

その女の子は、俺の手を掴んで立ち上がると、

 

 

「ごめんなさーい!ちょっとぼ〜としちゃってて、、」

 

 

「いやいや、悪いのは完全に俺だから」

 

 

その女の子は、青色の瞳をしていて、初対面ながら、あまりの綺麗さに見惚れてしまっていた。

茶髪をサイドテールにしているその女の子は、何回も俺に謝った後、

 

 

「いそいでるんで、これで失礼しまーす!」

 

 

そう言って、風のように廊下を走っていった。

見るからに元気一杯で活発な子だなと、後ろ姿を見ながら考えていると、下になにか落ちているのに気がついた。

 

 

「これは?」

 

 

それは、音乃木坂の学生手帳で多分あの子が落としたのだろう。

俺は、それを拾ってあの子を追いかけたがすでに、見えるところには見当たらなかった。

どんだけ足速いんだよ。

俺は、申し訳ないなと思いながらも、あの子の情報を得るために、学生手帳を見させてもらった。

 

 

「高坂穂乃果、、か」

 

 

どうやらそれが彼女の名前らしい。

あと得られた情報は、彼女が二年生ということくらいか。

俺は、ここに落としておくのもダメな気がしたので、明日にでも2年の教室に届けに行ってやるか、などと考えていると、ブー、ブー、と携帯がメールの受信を知らせた。

なにやら嫌な予感がする。

受信ボックスをひらくと、

 

 

 

「おそい」

 

 

真姫から、一言だけ届いていた。

俺は、憂鬱になりながら教室につながる廊下を再び歩きはじめる。

 

 

 

 

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