最愛の人へ   作:糖也

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第六話 不機嫌

 

 

「入るぞ〜」

 

 

返事をもらってから、俺は真姫の部屋に足を踏み入れる。

見ると机の上で熱心に勉強をしている部屋着姿の真姫が目に入った。

 

 

「なに?」

 

 

真姫は、こちらを見ることなく背中越しにそう言った。

これは、非常にまずい。

お姫様は相当おかんむりのようだ。

 

 

「い、いやー、今日は悪かったな!

友達と遊ぶ予定が入っててさぁ。」

 

 

なおも返事は返ってこない。

 

 

「そうだ!和菓子買ってきたんだけど、おまえ食べるか?

ほむまんって言うらしいんだけど、美味しそうだからおまえのためにかってきたんだ。」

 

 

またしても返事がない。

 

くっ!!

俺は、心が折れそうなのをなんとか堪え、使いたくはなかったが最終手段をとることにした。

 

 

すかさず真姫のすぐそばにひざまずき、真姫の両手を握る。

そして、甘えたような声で

 

 

「まきちゅわ〜ん。

お願いだから機嫌直してくれよ〜。」

 

 

恥ずかしいのを我慢してそう言った。

 

 

「...////!!!」

 

 

案の定、真姫はこちらを見て、はじめて反応をしめしてくれた。

この作戦をとったのには理由がある。

昔から、こいつは、俺が素直に甘えてくればなぜだかゆうことを聞いてくれる。

結果、真姫にゆうことを聞かせるための最終手段として、俺の技の中に入っているのだった。

 

 

「な、なによ!気持ち悪いから、離してくれない?」

 

 

うっ..!

気持ち悪いはさすがに傷つくな。

 

 

「やっと話を聞いてくれるみたいだな。」

 

 

「だからなによ!」

 

 

そう言って、リスのような膨れっ面でおれの方を睨んで来るが、悪いが全然怖くない。むしろかわいいくらいだ。

 

 

「悪かったよ、つきあえなくて。

ほら、和菓子買ってきたんだ。一緒に食おうぜ。」

 

 

そう言って、俺は左手の袋を真姫に渡す。

真姫は用意してくると言って、階段を降りていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しばらくすると、ティーカップとティーポットをお盆の上に乗せて運んできた真姫が戻ってきた。

 

 

「おまたせ」

 

 

俺たちは、机に向かい合い、買ってきた和菓子を食べる。

う、うまい!

これは、完全にあたりだ。

 

 

「おいしい、、、」

 

 

真姫も思わず、口から感想がこぼれ出ていた。

 

 

「それなら良かった。」

 

 

これで、つきあえなかった分のツケを返すことができたなら何よりだ。

そんなことを思っていると

 

 

「まぁでも、この程度で今日のもとが取れたとか思ってないわよね?」

 

 

こいつ!おれの心を読みやがった。

 

 

「あんたの考えてることなんて、なんでもお見通しよ。」

 

 

なぜか自信満々にそう言った。

おれは、ため息をついてから質問する。

 

 

「じゃあ、どおしたらいいんだよ」

 

 

真姫は、んーと、顎に手を当てて暫く考えた後、やがて考えが決まったのかニヤニヤしながら俺の方を見てきた。

 

 

 

「明日一日、私につきあいなさい!」

 

 

薄々言われるとは思っていた。

しかし、2日連続で街までお出かけとは、せっかくのおれの<休みの日にゴロゴロ大作戦>が台無しである。

だが今回は、こいつに付き合ってやるかと腹をくくり明日の予定を聞く。

 

 

「で?具体的になにすんの?」

 

 

「欲しい服があるからショッピングに行くの。

あんたは荷物持ち。」

 

 

こいつの荷物の量は尋常じゃないからな、おれが明日の予定に憂鬱になっていると、ふと名案が降ってくる。

 

 

「それじゃあさ!悠介も誘ってみようぜ!

おまえもしばらく会ってないだろうし、久しぶりに3人で遊びに行こう!」

 

 

悠介とは、おれのもう一人の親友で高校は違うが休みの日は、今でもちょくちょく遊んでいる。

真姫も悠介には、昔からよく懐いていた。

ちなみに超がつくほどイケメンで、女子にはかなりモテていた。

我ながらいい案だと思いながら真姫の方を見ていると、なぜかまたこちらを睨んでいて、いかにも不機嫌な顔になっていた。

 

 

「なんだ、久しぶりだから緊張してんのか?」

 

 

おれがそう言うと、左頬をつねられた。

 

 

「いててっ!」

 

 

な、なんだよ!?

 

 

真姫は、はぁ〜、とため息を吐いてから

 

 

「まぁ、それでいいわよ。」

 

 

そう言って、また和菓子を食べ始めた。

なんだこいつ?

そんなに悠介と会うのがはずかしいのか?

俺は、まぁいいかと割り切り早速悠介にメールを送る。

そんなことをしていると、時刻はすでに7時を回っていた。

そろそろ飯もできるころだ。

 

 

「じゃあ俺そろそろ帰るわ。」

 

 

そう言って、玄関に向かう。

真姫は玄関まで付いて来ると、

 

 

「今から家に行ってもいい?」

 

 

そう聞いてきた。

まずい、、

今家には穂乃果がいる。

俺はなぜだか、こいつと穂乃果を合わせてはいけないような気がしたので、うまくはぐらかすことにした。

 

 

「い、いや、今部屋散らかってるから来ない方がいいと思うよ、、」

 

 

「また、ちらかしてんの?

しょうがないわね。私が片付けてあげるわよ。」

 

 

このままでは非常にまずい。

しかし、こんな時に限って、ろくなことが思いつかない。

 

 

「ま、待って!その〜、ね!

と、とにかく今日はダメなんだよ!」

 

ダメだ。頭が回らない。

 

 

「なに?見られてまずいものでもあるわけ?」

 

 

「そんなもんねぇよ!」

 

 

「ならいいわよね。」

 

 

そう言って、真姫が玄関を開ける。

やばいやばい!

そうこうしているうちに、おれの家の前まで来てしまっていた。

真姫はかまわず、インターホンにてをかける。

もうだめだーー!

ピンポーン

 

 

 

 

 

ドタドタドタと中から走って来る音が聞こえて、勢いよくドアがひらかれる。

心配していた事が早くもおきてしまった。

でてきたのは、エプロン姿の穂乃果。

 

 

「はいは〜い」

 

 

その瞬間、その場の空気が凍りついた。

数秒の沈黙の後、最初に口を開いたのは真姫だった。

 

 

「なるほどね、、」

 

 

そう言うと真姫はため息をつく。

きっと頭の良いこいつのことだ。

全て理解したのだろう。

 

 

「それじゃあ、また明日ね。

あとで連絡するから。」

 

 

そう言って、もときた道を帰っていった。

俺は「ぁ、ゔっ」とか、情けない声しか出すことができずそのまま立ち尽くすことしかできなかった。

 

 

「あれが真姫ちゃん?」

 

 

穂乃果が聞いてくる。

 

 

「ああ、、

それより、ご飯できたのか?」

 

 

せっかく戻った機嫌が一瞬にして地に落ちてしまった。

しかし、悔やんでも仕方がない。真姫にはあとでメールで謝っておこう。

おれは切り替えて今は腹ごしらえをすることにする。

 

 

「うん!もうできてるよ。」

 

 

どうやらもう完成しているらしく家の中からは、カレーのいい匂いが漂っていた。

 

 

「んじゃ、いくか!」

 

 

そう言って、今日はやけ食いしてやると心に決め、二人で家の中に戻っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あら、遅かったわねー。」

 

 

中に入ると、すでに料理が食卓に並べられていた。

 

 

 

「おかえり」

 

 

いつの間にか父さんも帰ってきていたみたいだ。

父さんは食卓に座って俺たちをまっていた。

 

 

「ただいま。

もうかえってたんだな。」

 

 

「ああ、さっき帰ってきたんだ。

そしたら家に知らない女の子がいるから驚いたよ。

一瞬、おまえが彼女を連れてきたのかと思ったぞ。」

 

 

そう言ってのけた。

 

 

「な、...///!なに言ってんだよ。そんなわけねぇだろ!

穂乃果!おまえも言ってやれ!」

 

 

そう言って穂乃果の方を見ていると、下を向いてなにやらモジモジしていた。

なにしてんだ?こいつ。

 

 

「さっ!そんなことより食べましょ!

今日は穂乃果ちゃんがカレーを作ってくれたのよ!」

 

 

そう言って、俺たちを食卓に座らせてくる。

今日のカレーは穂乃果が作ったのか。

どれどれ。

いただきますを言ったあと、穂乃果のカレーを食べる。

 

 

「うん!うまい!」

 

 

穂乃果のカレーはうちのいつものカレーと一緒で、本当に美味しかった。

隣の父さんも、うまいうまいと勢いよくカレーを頬張る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

結局、穂乃果のカレーは、大絶賛で、俺なんか4杯もおかわりしてしまった。

 

 

 

「ごちそうさま。

うまかったよ!穂乃果、ありがとな。」

 

 

「お粗末様でした!」

 

 

そう言って、笑顔で返して来る。

こういう素直なところは、本当に好感が持てる。

料理もうまいし、こいつ、案外女子力高いのかもな。

いい嫁になりそうだ。

などと考えていると隣の家からピアノの音がかすかに聞こえてきた。

いつもの真姫のピアノの音。

こいつが家でピアノを弾きだす理由は二つある。

一つは、単純にピアノが好きで定期的に弾いていないと落ち着かないと本人から聞いた。

そして、もう一つは、ストレスが溜まっている時。

ストレスが溜まっている時、あいつはピアノで発散する癖がある。

これで、機嫌がいいか悪いかが簡単にわかるのだ。

いま弾いている理由は、おそらく後者。

さっきの件がおそらく原因だろう。

などと考えていると、

 

 

「綺麗なピアノだねー。」

 

 

穂乃果がそういった。

 

 

「ああ、真姫が弾いてるんだよ。」

 

 

「真姫ちゃんが?」

 

穂乃果がほぇ〜、と感心したような声を上げる。

しばらく聴いていると、

 

 

「ねえ!ヒロくん!ちょっと真姫ちゃんに合わせてくれない?」

 

 

穂乃果がそんなことを言い出した。

 

 

「いいけど、急にどおしたんだ?」

 

 

「私、真姫ちゃんのピアノ聞いて感動しちゃった!

ピアノ弾けるってことは、音楽に詳しいってことだよね!

真姫ちゃんに作曲してもらえないかお願いしに行きたいの!」

 

 

彼女は真っ直ぐな瞳でそう言った。

事実、真姫は、作曲ができる。

しかし、あいつは、確実に断るだろう。

俺は、悩んだ末に、

 

 

「わかった、おまえが学校のために動くんなら俺も協力するって言ったしな。

ただし、あいつがokっていう可能性は限りなく低いと思うぞ。」

 

 

「それでも、私は真姫ちゃんに作曲してもらいたい。」

 

 

あぁ、こいつは本気なんだな。

ならば迷うことはない。

 

 

「それじゃ、行くか!」

 

 

「うん!」

 

 

笑顔でそう答える。

真姫がアイドルの曲を作曲か。

ちょっと想像できないな。

けど、穂乃果と関わることによって、あいつのあの、無愛想な性格が治るいいきっかけになるかもしれない。

それなら、あいつの背中を押すのは他の誰でもない、おれの役目だ。

俺と穂乃果は、靴を履き玄関を出て、未だピアノの音が聞こえる隣の家を目指し歩き始めるのだった。

 

 

 

 

 

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