ピーンポーン
「はーい?」
俺がインターホンを押すと、よく聞き慣れた女性の声が聞こえてきた。
「俺です。
すいません夜分おそくに、、、」
「あーヒロくん、ちょっとまっててね」
おばさんは、インターホンに付属しているカメラでおれの姿を確認すると、そう言って、玄関のドアをあけてくれた。
「どうしたの?こんな時間に」
時刻はすでに7時45分、人様の家を訪ねるには、少し遅い時間だった。
おれは、簡単に事情を説明した。
すると、
「さぁ、どうぞ上がって上がって」
そう言って俺たち分のスリッパを用意してくれる。
穂乃果は、「わぁー!ありがとうございます!」と言いながら西木野家のデカすぎる家に興奮して、キョロキョロしながら、家の中に入って行く。
少し、穂乃果が離れたところで、おばさんが話しかけてきた。
「彼女?」
ニヤニヤしながらそう聞いてきた。
「ち、違いますよ、、
穂乃果はただの学校の後輩です。」
「な〜んだ。
それなら安心ね。
真姫ちゃんがいるんだから、浮気はダメよ?」
「...!!////」
どういうことだよ。
おばさんのこのセリフも、昔からよく聞いてきたセリフだ。
こういう時は、さらっと流すのが無難だとおれは知っている。
「はいはい、わかりました。」
あまり長引かせるとめんどくさいからな。
俺たちは、おばさんにお礼を言ったあと、二人で地下室を目指す。
ピアノは地下室にあるので、真姫はいつもそこでピアノを弾いているのだ。
廊下を歩いて地下室に近づくたびにピアノの音は大きくなってくる。
穂乃果は一人で、ドンドン前を進んで行く。
場所わかるのか?こいつ。
俺は、急いで穂乃果を追いかけた。
「ここだ」
しばらく歩いて、地下室のドアの前までたどり着く。
穂乃果は、たったったったっと小走りで俺の前に出ていき、ドアについているガラスから部屋の中を覗き見る。
♬〜〜
すると真姫が唄い始めた。
ピアノを弾きながらよく歌えるもんだな、、
「すごい、、」
穂乃果がボソッとそうこぼした。
確かに真姫のピアノは、素人のおれから見てもすごいということが伝わってくる。
事実、真姫は小学生の頃からピアノのコンクールに出ては、優勝し、数々の賞を獲得していた。
西木野家のリビングには、真姫が獲得した数々の賞状やトロフィーが飾られている。
しばらくすると音が止む。
どうやら演奏し終わったようだ。
パチパチパチパチッ!
気づくと穂乃果が激しく拍手をしていた。
「すごい!すごいよ!」
「ゔぇえ!?」
こちらに気づいた真姫がそんな声を出す。
なんだよその声。
こいつは昔から驚くとこの独特な声を出す。
まぁ癖みたいなものだ。
そんなことを考えている間に、穂乃果はズンズンと真姫に近づいていく。
そして真姫の目の前まで来ると、
「歌上手だね!ピアノも上手だね!
それに、アイドルみたいに可愛い!」
そう言ってのけた。
「...!!///」
真姫の顔はみるみる赤くなっていき、明らかに動揺していた。
「な、なに言ってんのよ!イミワカンナイ!」
ピアノに座ったまま真姫がそういった。
「それに、なんであんたがここにいんのよ!」
確かにごもっともだ。
「まぁ落ち着けって、俺が連れてきたんだ。」
そういうと、真姫はこちらを睨んで、ふんっとよそを向く。
「こいつがおまえのピアノに感動して、近くで聞いてみたかったんだと」
そういうと、真姫はまた顔を赤らめた。
すると、穂乃果が突然真姫の手を握って、
「そうなの!真姫ちゃんの声とピアノを聞いて私感動したんだ!
ねぇ真姫ちゃん!」
そう言って一呼吸置いたあと
「私と一緒に、アイドルやりませんか?」
穂乃果は笑顔でそう言い放った。
「は?」
真姫は、驚いたような顔をして穂乃果を見ている。
「おいおい、作曲お願いするんじゃなかったのか?」
「えへへ〜、
だって真姫ちゃんこんなに可愛いんだもん。
作曲だけじゃもったいないよ」
そんなもの、真姫が了承するわけがない。
今思ったが、穂乃果は、思ったことを素直に言い過ぎるところがある。
偽ったり、取り繕ったりせずに。
そこがこいつのいいところだが、この場合、いろんなところをすっ飛ばし過ぎている気がしてならない。
完全に悪手だ。
真姫は、急に立ち上がり、
「お断りします!」
顔を真っ赤にしてそう言い、地下室から出て行ってしまった。
俺たちは、ポツンと地下室に取り残された。
「ほらな、だから言っただろ?」
むむ〜、とほっぺたを膨らます穂乃果に言い放つ。
「あいつはそーゆーアイドルとか嫌いだからな。
おちゃらけてるみたいで好きになれないんだと、」
穂乃果はじーっとおれの目を見たあと
「ヒロくんは、真姫ちゃんのことなんでもわかっちゃうんだね。」
ジト目でおれに聞いて来る。
「そりゃ、幼馴染だからな。」
俺たちは、おばさんにお礼を言ったあと、西木野家をあとにした。
そのあと、おれの家に戻り、穂乃果が父さんと母さんに、お礼を言ったあと一人で帰すのも危ないので、送ってあげなさいという母さん命令に従い、今、穂乃果の家までの帰り道を二人並んで歩いている。
「残念だったな」
「うん」
少し落ち込んだ声で穂乃果が答える。
「でも」
と、突然上を向いて
「私はあきらめてないよ!
今日はダメだったけど、またお願いしてみる。
だって、作曲してもらうなら、絶対に真姫ちゃんがいいんだもん。
ううん、真姫ちゃんじゃなきゃダメなんだよ!」
夜空に向かってそう言った。
まったく、こいつは、どこまでもまっすぐというか、単純というか、
そういうやつだから応援したくなるのかもな、
「わかったよ」
「?」
気づいたら、口が勝手に動いていた。
穂乃果が不思議そうな顔をする。
「真姫の方は、おれがなんとかしてやる。
だからお前達は、他のことに集中するんだ。」
「ほんとに!?」
笑顔で聞き返してきた。
「ああ、任せとけ。」
穂乃果は再び、抱きついて来る。
「お、おい」
ついつい、任せろなんて言ってしまったが、あいつを説得するのは、一筋縄ではいかないだろう。
やばい、やっぱやめとこうかな、、、
ようやく俺から離れた穂乃果がまた、口を開く。
「ねえヒロくん!
アドレス、教えてもらってもいい?」
まぁ連絡を取り合うためには、必要だよな。
お互いのアドレスを交換して、再び歩き出す。
穂乃果は、えへへ〜と言いながら、俺の後ろについてあるいている。
そうこうしていたら、穂乃果の家まで着いていた。
「今日はありがとね!」
帰る前に穂乃果がそう言ってくる。
「ああ気にするな。
こっちこそわるかったな、飯作らせて。」
「いいんだよ〜、穂乃果が好きで作ったんだから。」
少しの沈黙。
しばらくすると穂乃果が口を開く。
「ねぇヒロくん。
また、家に行ってもいいかな?」
そんなのこっちからお願いしたいくらいだ。
またあのカレーを食えるんだからな。
「ああ、いつでも来いよ。
またカレー食わせてくれ。」
そう言うと穂乃果は満面の笑みで
「うん!!!」
頷いた。
穂乃果と別れて家に帰ってきた俺は、風呂に入り、今はベットに横になっている。
疲れた。
今日はいろいろありすぎて体がもう言うことを聞きそうにない。
昔の体力は完全に消え去っていた。
眠い目をこすりながら、携帯を開く。
まだ眠るわけにはいかない。
やるべきことが残っているから。
俺は、電話帳から名前を選び、コールボタンを押す。
プルルルルル、、、、
数回のコールの後、その人物は電話に出た。
「もしもし」
恐る恐る決まり文句を口にする。
「なに?」
最高潮に機嫌の悪い幼馴染の声がスマホから聞こえてきた。
やばい、ブチギレてやがる。
しかし、ここで怯むわけにはいかない。
「まず、悪かったな。
急に押しかけて」
「別にいいわよ。それくらい」
普通に言葉が返ってくる。
あれ?そこまで怒ってないんじゃないか?
「怒ってないのか?」
一応聞いてみることにした。
「何で怒んなきゃいけないのよ。
この私があの程度で怒るわけないでしょ。」
どうやらそんなに怒ってはいないようだ。
そういえばあの時、照れていただけのようにも見えたからな。
「なら良かった。
なぁ真姫、おまえあいつの話を聞いてどうおもった?」
素直にきいてみる。
「どうもこうもないでしょ!
いきなりあんなこと言われたら、誰だって意味わかんなくなるわよ。」
確かに、、
「でも、悪いやつではないだろ?」
「、、、、まぁ、それはそうだけど、、」
否定はしない。
そんなに悪い印象ではないな。
「なぁ真姫。
スクールアイドルって知ってるか?」
「知ってるけど、、」
「今、俺たちの学校が廃校になりそうなのは知ってるよな?
あいつはな、それを阻止するために、自分がアイドルになって学校の知名度を上げて、廃校を阻止しようとしてるんだ。」
真姫は黙っておれの話を聞いている。
「すごいよな。
みんなのために、そこまで必死になれるなんて。
おれには真似できない。
実際、衣装や歌詞はもう作り始めているらしい。
そんなあいつの話を聞いて、俺も協力しようと思ったんだ。
できることは少ないけど、黙って見てるだけじゃ嫌だから。」
なおも黙って話を聞いてくれてる。
「おまえはおれと違って才能がある。
勘違いすんじゃねぇぞ?
いうことを聞けって言ってるわけじゃないんだ。
ただ、」
俺の望みを真姫に伝える。
「今までの自分を変えるために、俺と一緒に、一歩踏み出してみないか?
いい加減殻の外に出るべきだ。
怖いなら俺がそばにいてやる。
勇気がいるなら俺が隣で歩いてやる。
俺ができることは、それくらいだから、」
これが俺の望み。
真姫には自分の殻を破って、もっと広い世界を見てもらいたい。
そしたらきっと、今よりももっと楽しくなるはずだから。
「無理強いはしない。
決めるのはお前だ。
けど、もし前向きに考えてくれるなら、、」
「あいつらの曲、作曲してくれないか?」
ここからは、真姫が考えること。
誰も意見することはできない。
ただ、、
これを機に、真姫が一歩踏み出せたら、俺はうれしい。
「、、、とく。」
「え?」
よく聞き取れなかった。
「だから!考えとくっていったの!」
胸が熱くなった。
真姫も日々成長しているんだ。
「ははっ!
ありがとう!真姫!」
「か、勘違いしないでよね!///
私は考えとくっていったの!」
「どっちでもいいよそんなの!
とにかく、前向きに考えてくれてありがとう!」
「っ、、!////」
早くも約束を守ることができそうだ。
真姫も一歩踏み出そうとしているし、今日は少しだけテンションが高くなった。
まぁ、もうすぐ1日が終わるわけだが。
「まぁ、その話は置いといて、明日遊びに行くんだろ?
悠介にも連絡しなきゃいけないから時間とか教えてくれよ。」
真姫には、ゆっくり考えてもらうとしよう。
話を変えて、明日のことを話す。
「そうねぇー、じゃあ9時に迎えにきてよ。
悠くんには9時半に駅前集合って言っといて。」
「了解、じゃあおやすみ、真姫。」
「うん、おやすみ、ヒロ。」
電話を切る。
俺は早速悠介に連絡を入れた。
悠介からはすぐに、了解のメールがかえってくる。
これでやることはなくなった。
あとは、歯を磨いて寝るだけ。
明日は、久しぶりに3人で出かける。
あいつの荷物持ちは本当に腕がもたない。
そのために悠介を呼んだのだがよく考えたら、真姫が悠介に荷物持ちをさせるところは想像できない。
なるべく買う量を少なくさせるしかないな、これは。
そんなことを考えながら、一階に降りて歯を磨き、再びベットに横になった。
明日も早いし早く寝ることにしよう。
俺はアラームをセットして、目を閉じた。