TSものにするかでも迷ったけどノーマルで。
(レギュレーション:D&D3.5e、3eサプリ。ワールド本のデータは不採用予定)
1_イチャイチャしてない導入前半
×××××暦710年。剣と魔法のジ・アース世界に死霊の魔王オーカスが復活して5年が経ち、今や中央大陸を魔物が脅かすようになった。彼の軍勢の熱気に当てられて、様々な悪のモンスターたちも活発化しドラゴンが都市上空をかすめたり、忌々しき脳食らいが街の暗部で暗躍することも増えた。六柱の女神に祝福されし六人の勇者たちが魔王討伐に励んでいるが、彼らが魔王を倒すだけの実力を身につけるまでまだまだ二、三年はかかるだろう。
「つまり?」
「要するに、今なら腕っ節しか能のない奴でも飯の種に困ることはないわけだ」
「ははあ、ご主人のようなお人のことですね」
「馬鹿を言え、俺は贅沢する余裕がないだけで食う金には決して困らないぞ」
俺の言葉に相槌を打つ彼女は、黒地のフリルつきワンピースの上から滑らかな高級生地の真っ白いエプロン服を纏い、更にその上にブレストプレートを身に着けた、世にも珍しい戦闘メイドのマーミアだ。元は貧乏宿の看板娘だった彼女を宿ごと買い上げて侍女と化し、更にアイテムに物を言わせてそれなりの戦士になるまで引き上げた。
今では掃除洗濯から探索戦闘まで俺の身の回り全てを任せた、凡人ながらも優秀なメイドである。
「では何故、私はご主人の金策に付き合わされているのでしょう」
「そりゃほら……原典への敬意もあってアイテムを売るわけにもいかないし。大金を取り出すと通貨偽造にもなりかねないし。結局は自分で稼ぐしかないんだよ」
「なんですか。やっぱり金持ちは口だけですか。お父さんは言ってました、金持ちは口しか動かさないから腹だけが膨れるのだと。つまりご主人もデブ?」
「よく口が動くだけで太るのなら、お前もデブだな。ほれ次のワイヴァーンが来るぞ、落とすから首をはねろ」
「私はデブじゃありません。アイアイ、サー」
そんな彼女を作り上げた俺は異世界転生者。女神の崇拝、信仰と引き換えに某財宝ofキング地味た無制限アイテムチートをいただいて現世を満喫するリア充である。その他バックグラウンドもあったがとうに忘れた。
しかしながらそれで贅沢が出来るかといえば、そんなこともなく。愛する女を連れて流離いの俺TUEEE、無頼気取りに憧れた過去はとうの昔、今は他人に侮られぬよう功績を積み上げるべく地道な冒険者活動を続けている。
というのも、魔法のアイテムは使用者の強さを引き上げるが、元々が弱いと大した強さにならないのが一つ。そしてこの世には
そんなわけで現在、魔王オーカスが復活した北の大陸から海を挟んだ中央大陸、東方沿岸のほどよくモンスターが活発化した地域にてレベル上げ兼、贅沢するべく金稼ぎに勤しんでいる。
現在お相手中のワイヴァーンは俗に亜竜と呼ばれるドラゴンの近縁種で、人間の倍はある体格を活かしたヒット・アンド・アウェイ、そして毒針の毒でじわじわと敵を弱らせる強靭ながら姑息な戦法を取る。しかし真のドラゴンのようにブレスを吐いたり呪文を使いこなしたりしない肉体一辺倒の脳筋なので、耐毒効果を持つアイテムを装備し、飛翔能力を阻害あるいは進路先を妨害して動きを止めたところに、こちらも飛行して殴り合えば立場は同等。身体能力の差も強化アイテムで埋めてしまえば、差を補って余りある。
ワイヴァーンは彼女――マーミアをかすめるように爪を当てるが、魔法の鎧とアイテムで強化された表皮、高い敏捷さからなる見切りで血の一滴も流さない。一方で彼女は不用意に近づいた亜竜を迎撃せんと
流石にワイヴァーンは身体に見合った生命力を持つだけにたった一撃で絶命することはなく、少女を驚異と認識した。ワイヴァーンはオーク未満に愚かだが、トロル並の知恵はある。たった一合だが目の前の人間は己より硬くて鋭い牙を持つと認め、奴から離れようと飛翔する。が、2メートルも進まずして空中の見えない壁に衝突、墜落する無様な身を晒した。
ワイヴァーンがぶつかった、目に見えない
「ふええ、やっぱり突っ込んでくるのは怖いですよう」
「大丈夫だ。我々はよほど
「私の気持ちは怖いのは変わらないじゃないですかー!」
腕の立つ傭兵でも簡単には倒せないワイヴァーンを倒したというのに、彼女はちっとも胆が座る気配を見せない。優秀な戦闘メイドと言ったが、ありゃ嘘だ。まだまだワイヴァーンたちはこちらの様子を伺って周回しており、彼女の仕事は終わっていない。かといって戦闘中に恐怖で尻込みされても困るので、気休めにと恐怖軽減の効果がある勇壮の呪文をかけた。どうだこわくなくなつたろう。
「おお、なんだかやれる気がしてきましたよ。怖いと思ってるのに平気な気分とは、まるで頭のどこかがおかしくなったようです」
「それ、ワイヴァーンはまだいるぞ。その調子で残りもやってしまえ、ワイヴァーンの離脱だけは俺が食い止めるから安心するといい」
「でも首を落とすのは私なんでしょう?」
その後、ワイヴァーンたちは一矢報いんと後ろで余裕を見せる俺に矛先を変えたものの、マーミアと同等かそれ以上に『硬い』俺に毒針を立てることは叶わず、安易に近づいた奴らを彼女が両断した。
襲いかかってきた計5体は仕留めたものの、二匹ほど残っていたワイヴァーンは諦めて去っていった。あれほど怖がっていたにも関わらず、それを惜しそうに見送る我がメイドは傍目から見てなんともチグハグである。
「ワイヴァーンの肉料理って売り物になるでしょうか」
「以前ドラゴンの煮込みを食べたことがあるが、よく味が染み込んでいるのに歯ごたえがあり、噛む度にうま味が滲み出る良い料理だった。ワイヴァーンも亜竜とはいえ竜、食べたことはないが味に期待出来る」
「では」
「だがこいつは毒持ちだ、お前毒抜き料理は下手だろう。ゴルゴンのブレス袋を破って台無しにしたこと、忘れてないぞ」
ゴルゴンとは、石化のブレスを吐き出す雄牛じみた魔獣である。なんでも肉が美味いという噂を知っていたので、仕留めた際に彼女に調理させたのだが、その最中あろうことかブレス袋を破って肉がとても食えたものではなくなる始末があった。それ以来、彼女の作る取扱いの難しい料理は信頼しないと決めている。
ちなみに前述のドラゴン料理だが、厳密にはゲテモノに分類されるらしい―――ワイヴァーンにせよドラゴンにせよ奴らも知性体なので、食うのは良からぬことという土の神殿の審判だ。堅苦しく判断した場合の話なので、土の勇者すら気にせず食っていたと人伝に聞いている。
「……そ、そこはご主人のお力で素晴らしい料理パゥワーを発揮してですね」
「何が出来るか面白そうだが、ダメだ、俺のためならまだしも料亭で仕事するのに毎日アイテムや力を貸してやる気にはならん。それ相応の見返りを用意しろ」
「それは、こうやってご主人の冒険に付き合ってることでいいじゃありませんか。借金と同じだけの額はとうの昔に稼ぎきったでしょう」
「はて、その稼いだ分を端から贅沢につぎ込んでいるのはどこの誰だか」
「そ、それはー!だってー、ご主人が美味そうなもの食べてると私も食べたくなるからー!女の子は美味しいものとか甘いものとか大好きなんですー!」
実際、彼女の実家から肩代わりした借金は利子なしでも今回のワイヴァーン10頭分の懸賞金くらいの額だ。俺のアイテムを借りていることを考慮して、山分けから少なめに分配したとしても二、三ヶ月もあればで容易く返済出来るはずだが、そうならないのは冒険で稼いだ金で贅沢する俺につられて、彼女も贅沢の味を覚えてしまったせいである。
彼女が自分で言ってるとおり、今や俺の贅沢に付き合わずとも率先して甘味や高級品の食事に手を出している。贅沢を忘れられないが故に、わざと借金返済せずに俺との関係を続けている節すらあるのだ。こちらとしては(複数の意味で)都合のいい前衛を確保出来るし、止める気はさらさらないのだけど。
「わかりました。ではご主人にもワイヴァーン料理を作ります。なので」
「アイテムを貸すからには俺に作るのが当然だ。その条件は論外」
「まだ途中ですよ!くぅぅ、分かりました。ならば致し方なし、最後の手段を取りましょう。私の大事にしていた女のモノをご主人に……」
「デブが女とは笑わせる」
「太ってないし!!」
流石におちょくりすぎたか、本気でどつかれるがノーダメージ。しかし食ってばかりいる彼女も冒険運動で消費しているためか、魔法のアイテムで恒常的に身体が強化されているためか、むしろ意外と肉付きが少なめということを俺は知っている。むしろアイテム頼りで運動してない俺の方がヤバイ。
「くっ、私の切り札が通らないなんて……ご主人はニブチンですか。いや、そういえばもっと小さい女の子相手にハツラツしていましたね。しまった、ご主人のストライクゾーンは幼い少女でしたか。迂闊でした」
「いや、あれは俺の可愛い妹だから。いくら愛らしいからと手を出すわけないだろう血縁に」
「その口ぶりだと妹じゃなければ手を出したようですね」
「……、まさか」
今の間は何だったの?と無言で視線を飛ばすマーミア。少し真面目に考えてしまったのが失敗だった。
「いやはやご主人が妹好きだったとは。ごめんなさいお兄ちゃん、私の魅力が足りないばっかりに赤裸々と暴露させてしまってごめんねお兄ちゃん」
「いい度胸だ、ちょっと覚悟しろ」
「きゃー、スケベー、シスコンにおかされるー」
無駄口が多すぎるメイドを怒ろうととっ捕まえるべく手を伸ばすが、咄嗟に避けられる。というよりワイヴァーン対策に貸した組みつかれることを回避する指輪の効果が現れていた。おのれ我がチートが仇になるとは!
「そこまで言うか、だから俺はシスコンじゃないと……ええい、いい加減にしろ!二重化
「え?ちょっとご主人、杖まで出すとか本気ですか。あの、少し言い過ぎま」
弱みを見つけたとばかりに調子に乗る我がメイド。元はチートで取り出したものでも、俺の手を離れ、しかも装備されているアイテムを『戻す』ことは出来ないが、アイテムの対策は万全ではない。幾らアイテムで底上げや耐性付与していても、彼女の魔法に対する抵抗力は元々最低レベル。つまり対策が取れてない高威力のものならば十分に通用するわけだ。
そこで俺は今回不要と判断し、装備制限のために除外していた[精神作用]効果の弱点を突くべく、支配の呪文が宿った、しかも確実に抵抗を通る確率を高めるべく二重に同魔法を飛ばす機能つきの魔法の杖で彼女を支配した。
「――」
途端に彼女は口を閉じ、自由が奪われ俺の許しなく発言できなくなった。目には支配されたもの特有の沈んだ瞳が浮かんでおり、もはや彼女の意思はどこにも見られない。
支配の呪文がかかって、ようやく煽りが止まったことで俺も落ち着いた。さて、激情に駆られて魔法をかけたはいいが、そもなんの話だったか。ああ思い出した、俺の好きな人の話だ。妹が好きなどとこいつが言うから、確かに好意的はあるが性的とか恋的な感情を抱いていないのにこのメイドに煽られ、意識して恥じらってしまい思わず反撃に出てしまった、この有様だ。
だがここまで、仮にも使用人にコケにされたからには何かもっと反撃をしでかさねば気が済まない。相手を恥じらわせるような行為とか。そうだ、丁度先ほどこいつは俺を誘ってきたな。別にお互い興味はないが、だからこそ嫌がらせにはなるものだ。
「『こっちに来い』、そうこっちに。それから『顔を上げて』」
俺は少し離れていたマーミアを呼び寄せて、その顎……というか首元に手を添える。お互いの鼻息がかかる距離だ。野外の血とか若干の体臭などなんとも言えない臭いが鼻をつくが、気にせずむんずと引っ掴むようにして顎を引き寄せる。
そしてそのまま口を尖らせるようにして息を止めながら、彼女の淡い唇に俺の唇を当てさせた。
そう、俺は彼女の大切なキスを奪おうと目論んだのだ!
固く唇は閉じていたが、彼女の方はそうでもなかったらしくわずかに湿った感触が俺の唇周りに伝わる。
3秒ほどそのままに感触を味わったら、彼女の顎を放して手を離すついでに支配の魔法を解除して―――と、ここまでやったところでふと鼻息を荒くする自分の状態に気づく。興奮している?
唇周りを人差し指で拭って、付着した唾液を見る。少し冷静になって考えると、少しばかり、いや、かなり一線を超えてしまったように思う。思ってしまった。
なんだかんだ初めての経験は素敵な女性と決めていて、金に任せて女性経験を積むこともなかった俺。彼女の初めてのキスを俺が奪ったつもりが、よく考えると俺の初めてのキスも彼女に奪われてしまった。
マーミアは容姿こそ悪くないけど、見た目の良い秘書とか小間使いのつもりで雇った彼女相手に初めてのキスを捧げあうなんて、まるで恋人の関係じゃないか……!
そのことを意識すると、まるで初な少年のように俺は顔を赤面させてしまった。恥ずかしさのあまり顔に手を当てて覆い隠し、そこで恥ずかしさの元凶を生み出した相手の前にいることを思い出して指の隙間から彼女の方を見る。
支配を解かれた彼女も、俺と同じように赤面して唇に指を当てていた。
俺が見ていることに彼女も気づくと、目をぎょっと見開きながら手で口と頬を覆い隠して、ぷるぷると小刻みに身体を震わせて……
彼女は赤面した姿のまま、明後日の方向に走り出していってしまった。
どうしよう。やってしまったと、俺も恥ずかしさと後悔からワイヴァーンの死体転がるその場でしばしうずくまった。
続けます。