ダンジョンズ&ドラゴンズもの練習   作:tbc

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呪剣士と姉様の関係は「実はSランクだけどCランクに甘んじる」系主人公と優等生ヒロインの関係、
主人公は「本当は姉より強いけど重い背景を持つ故に実力を発揮できない」的なサブヒロインポジション、……的なキャラクターをイメージして書いてます。
いわゆるラノベテンプレの一つをなぞる形。


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 姉様の戦いを見届けた私は、学校見学もほどほどにお家へ帰りました。しかし、なんということでしょう。私が手を貸したのに姉様は負けてしまいました。

 一対一の戦いに消耗品を持ち込むなんて無粋とも言えますが、同じく姉様も私製魔法薬(ポーション)を使おうとしましたから一方的に糾弾も出来ません。あれは確か私の作った“樹皮の肌(バークスキン)”を得る魔法薬でしたから、服用出来ていれば敵の攻撃を防御力が上回り、押し勝てたでしょうが……。やはり魔法の(マジック)アイテムの差は大きいですね。最近の学生の間では成金スタイルが流行なのでしょうか?

 

 ともあれ姉様本人らの実力でやれるだけのことはしたでしょうが、相手はそれよりも上の実力を……もとい、アイテムを携えていたのが敗因ですね。今日は帰ってくる姉様を慰めましょう。

 

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 三日前に敗れてからというものの、姉様は(私は何があったか知らないと思っているので)元気に取り繕っていますが、すっかり牙が抜けてしまっております。そんなに二度の敗北が応えたのでしょうか、対人戦の向き不向きはあるものですからそう落ち込むこともないと思いますがね。仕方ありませんから、今度の休みに少々お出かけに付き合ってもらいましょう。

 聖騎士(パラディン)の姉様に発破をかけるなら、やはりその心に秘める善意を煽るのがベター。普段魔法の(マジック)アイテムの素材調達や完成品の売買を頼んでいるバイヤーにかけあい、悪退治の御用を頂いて参りました。

 最近、このあたりに“新大陸”(いわゆるアメリカ大陸)から逃げ込んできた人造獣人(モロー)(天然の獣人(ライカンスロープ)と違って、比較的近年に遺伝子操作で作られた半人半獣の種族)の一団を追って、上陸したマフィアが派手に動いているようです。銃撃戦が起こるほど警察や現地の893と衝突を起こしているそうですが、流石は数々のヴィランが蠢く“新大陸”のマフィアだけあって戦闘員の質は高い様子、警察はマフィアを抑えきれずに取り逃がしたようです。構成員は盗賊(ローグ)系のバグベア(熊に似た鼻を持つ大柄なゴブリンの近縁種で、残虐な性格)で、素の姉様には少し荷が重い相手ですが、丁寧に支援をかけてやれば戦える相手だと見込んでいます。

 事前に幾つかの調査を済ませ、私たちの手が届く場所にマフィアが潜んでいることを確認後、腑抜けたままの姉様に声をかけ、聖騎士の義心をそそのかす形で発奮させます。私も支援についていくと言えば、か弱い妹を後衛に守りながら戦うことへ更に意欲を燃やし始めたようです。後衛だからと守られる必要はないのですが……いつもの調子を取り戻しつつあるのは、良いことです。

 

 翌日、“念視(スクライイング)”他、多数の占術(ディヴィネーション)によりマフィア集団が廃ビルに集まっていることを再確認し、姉様と共に出撃します。廃ビルから視線がビンビン飛んでくる中を堂々と歩いていき、入り口で姉様が高らかに悪党への宣戦布告を述べました。

 飛んで火に入る夏の虫と言わんばかりに正面に立つ姉様へ、空を裂き飛んでくる多数の弩の太矢(クロスボウ・ボルト)。宣戦布告の直後にどこからともなく不意を打って飛来するソレらは当たれば急所を穿つ致命の一撃となりえますが、“信仰の盾(シールド・オヴ・フェイス)”呪文の反発力で矢を逸し、自前の(ブレスト・プレート)で身を守り、隙間を貫いた矢も最後の砦“樹皮の肌”呪文による硬化した皮膚は抜けられず、姉様には傷一つつけることすら叶いません。

 初撃を凌ぎ、矢の飛んできた方向から階段の上にいるバグベアの姿を発見し、勇ましい声を上げて階段を躍り上がり乱戦に突入しました。そんな姉様に私は後ろから朗唱(リサイテイション)をかけ、攻防共に援護を行ったり。決して私自ら手を出す気はありませんし、倒すだけならば姉様一人で十分です。硬い皮膚に高い生命力を持ち、人間より2倍は頑強なバグベアたちを姉様の刃は豆腐のように切り倒し、しかしながら血を流す者は一人としておりません。長剣に付与された“慈悲(マーシフル)”の特殊能力より、剣が与えるダメージは心身に響く疲労、あるいは消耗に変換され、殺すことなく失神に追い込むのです。

 盗賊系は急所を突く(スニーク・アタック)ことによる対生物限定の攻撃力、隠密や斥候その他技能分野には長けるのですが、その身軽な身体能力を活かすためにどうしても防御力は低くなります。不意を打った攻撃は全く当たらず、階段という最後の地の利まで失ったバグベアたちは最後の手立てとして弩を捨て集団で組み伏せにかかりますが、近寄った者は順に地に沈められました。

 2階に潜むマフィアを倒したところでまだ上に残っていた多数のマフィアたちが窓から飛び降り、外に逃げました。それを見て姉様は急いで追いかけようとしますが、足止めのつもりか3階から降りてきた別のバグベアたちが攻撃を仕掛けてまいりました。最早姿を隠す必要もないと言わんばかりに、銃弾の雨が降り注ぎます。弩よりも高い攻撃力と精度の前に、幾つかの銃弾が数重の防御を貫いて姉様に当たりました。姉様の唇から僅かに呻きが漏れますが、未だ銃撃が続く中、治癒呪文をかけるために姉様へ近づくわけにはいきません。それに銃撃をかいくぐった姉様がバグベアたちに接敵しました。剣の届く距離なら、バグベアたちが銃や弩の狙いをつけるより姉様が切る方が早いのです。散開しようにも廃ビル内の狭所では距離を離すことも出来ず、ナイフを取り出すも時既に遅し、バグベアたちは切られ昏倒しました。

 しかし最後のバグベアは切られる前に棒のようなものがついた楕円体のものを取り出し、足元に転がしました。あれは……手榴弾(グレネード)

 丈夫なバグベアたちは手榴弾一発で倒れるほど柔な身体ではありませんが、バグベアたちに散々撃たれて傷を負っていた姉様は違います。幾ら鎧や皮で身を包んでいても、手榴弾の爆発の衝撃はそれらを貫いてダメージを与えました。爆発物への対策は一切取っていなかったため、瀕死に陥っていやしないかと心配になって姉様の元へ駆けつけますが、幸いにして怪我でフラフラになりつつも意識は残っておりました。致命傷治癒(キュア・クリティカル・ウーンズ)魔法棒(ワンド)を振って、傷を回復します。

 復活した姉様は、回復を施した私に礼を言いつつ、マフィアたちの気配を探ります。殆どのバグベアはビルの外へ逃げてしまいましたが、まだ上にも気配が残っております。そのことを姉様に伝えると、逃げたマフィアの追撃は諦めて上に残る連中の片を付けると決めました。

 

 3階に上がる姉様に追随しますが、その途中大型機械の駆動音らしき鉄が軋む音が聞こえてきたのを警戒して呼び止めます。

 なんだと尋ねる姉様をひとまず制して、音から上で動く謎の機械の正体を探ります……バグベアたち7人分の足音に紛れ、油圧で動く音が聞こえる。サイズは人間の倍以上……機械外骨格(メカ)でしょうか?

 機械外骨格はロボットと同じく、近代機械技術の著しい発達により完成した戦闘兵器です。操縦には特別な時間と訓練、職業が必要となることから冒険者間では流行りませんが、魔法飛び交う現代の戦争を一変した機械外骨格はとても危険なものです。近接戦闘では戦士(ファイター)に劣るマフィアたちといえど、機械外骨格を着こめばオーガに匹敵する筋力増強および大型武器による攻撃力、ゴーレム並の頑強性に全身鎧(フル・プレート)以上の防御力をバグベアが得たならば、姉様など軽々と超えるでしょう。しかし今から姉様の能力を引き上げるには、準備に時間がかかる私の魔法では間に合いません。しかし難敵を前に何もしないわけにはいきません、と背中にくくりつけた禁断の魔法の(スタッフ)を抜き取ってその宿る魔力で模倣した、強い悪の力以外の物理攻撃から身を守る天使の皮(エンジェル・スキン)の呪文を付与しました。今の私に出来ることはこれだけです。

 機械に気をつけて、と姉様に忠告しその後ろ姿を見送ります。私はせめて間に合えばと、昇り階段の途中で追加の魔法を準備し始めました。暫くして姉様と機械外骨格が派手に動く戦闘音が聞こえ出しましたが、まだ準備は終わっていません。完成まで数十秒……といったところで、階段の下に気配。まさかマフィアたちが挟み撃ちにするつもりで戻ってきたのでしょうか?

 今準備を中断すれば折角費やした時間もふいになり、姉様の戦いに間に合わないと心配しましたが、現れたのはバグベアではなく、それも私が一方的に見知っている相手でした。しかし何故ここを呪剣士(ヘクスブレード)の彼が訪れたのでしょう?

 なんにせよ彼もマフィアに用のある人間らしく、人間である私の姿を見てマフィアではないと判断したのか魔法を準備し続ける私に警告を発しました。幸いなことに今準備している魔法に詠唱は必要でなく、余裕があることから準備しながらも彼に、今も上階で戦っている姉様の援護に向かってほしいと手早く伝えました。僅かな言葉でしたが無事意図は伝わったようで、彼は私を通り越して早急に上階へ向かってくれました。私が準備するまでの時間稼ぎにはなってくれるでしょうから、そこは安心ですが……そもそも先日から姉様の気落ちする原因を作った人物である以上、別の問題が発生しないとは思えません。丁度今、ようやく完成した魔法を携えて急ぎ姉様の援護に向かいます。無事でいてくれれば良いのですが。

 




機械外骨格(メカ)
 二脚、あるいは四脚の人型をした乗り込み型機械、というよりも強化スーツに近い。機械外骨格を纏った状態でも人型生物の体と同様の動きを取れるよう、搭乗者の技術をなるべくそのまま活かせるように設計されている。が、それでも幾つか不都合があるため高レベルの戦士なら素で戦った方が強いという話。
 冒険者的な話はさておいても、多少の操縦技術の訓練を取るだけでオーガやトロル以上の戦闘力を発揮できること、そして全身鎧よりも遥かに攻撃から身を守る性能が高いことから、折角訓練を受けさせた兵士が即死する危険を防げることから国軍や企業の私設軍隊、そして悪の組織などでも採用されている。

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