勿体ないので残すが
徹夜明けで疲れた体を無理に動かし、這い上がるようにベッドから起き上がった私は自室にあるミニ冷蔵庫から取り出したポーションで疲労を回復しました。お姉ちゃんは魔法に頼りすぎると体に悪影響なんて仰られますが、私見としては中毒にせよ病気にせよそれこそ魔法で治せるのですから問題はないかと思われます。最悪の場合でも、文字通り万能の魔法で定命の身体を
しかしポーションでは腹は膨れません。料理を作る魔法もありますが、紙のような激マズか、宴会のような豪勢すぎる料理の二択はいささか極端にすぎます。私の貧乏舌にはジャンクフードやお姉ちゃんの料理くらいが丁度良いのですよ、ええ。
壁にかかった掛け時計に目を通すと、時刻は既に十時を回っているではないですか。朝というには遅い時間帯、お姉ちゃんはとうに学校へ登校して授業を受けている最中です。ならいつも通り、料理を作れない私を配慮しての作り置きがあるでしょうとキッチンへと赴きます。
一人ぼっちの我が家の廊下に出ますと、まるで時が止まった空間かのように心地よい静寂に包まれておりました。ふと見ればリビングはまるで天国のように暖かな日差しに包まれておりまして、あのソファーで再び微睡みに包まれれば気持ちいいだろうなと怠惰な感情に浸りそうにはなりましたが、腹の虫が勝手に異論を訴えたので気分は台無しです。どうやら私の本能は理性よりも理性的なようで。
他ならぬ自分の身体が反対するならば仕方ないでしょうし、最高の二度寝は諦めましてキッチンへ。食卓の上にはフレンチトーストが大皿に載せられており、虫よけに被せられた布製のカバーと共に何やら書き置きが残されていました。
「炭水化物だけじゃ栄養が足りないのでタンパク質とビタミンも取りましょう。それと閉じこもってばかりいると病気になりますよ」
余計なお世話です。しかし言われたとおりに、いや言われなくてもそうするつもりでしたが冷凍庫からレトルトのお肉と野菜ジュースを取り出して足りない栄養を摂取します。別に少し栄養バランスを崩したくらいで、ドラゴンも泣いて逃げ出すこの強靭な体が不調を起こすとはとても思えないのですけれど、食事というのは一食一食大切に味わうものだと以前の生活で私はしかと学びました。ええ、あの頃の経験で江戸時代の大名が脚気にかかる気持ちが分かりました。贅沢は敵です。身を滅ぼします。
使い終えた食器を片し、部屋から呼び出した我が血を分ける醜きホムンクルスに洗い物を任せ、テレビのニュース番組を見ながら本日の新聞を読み通します。今日日も我が国は太平洋沖の海底に繋がるポータルを通じて海王星アトランティス国家と散発的な戦いを続けておるようで、しかし南アジアのドラゴンどもの横槍、資源目当てのUS企業に雇われたPMCの介入もあり、あちらを叩けばこちらが叩けずと戦いは泥仕合で終わる気配が見られません。
一方で太平洋と反対側のユーラシア大陸でも、中東~中央アジアに出現した土星へのポータルを巡って、地球国家のみならず他惑星の来訪者までも交えた争いを日夜繰り広げているようです。今は亡き土星を支配していた神様の爪痕により、表面は砂嵐のような激しい『時の乱流』に覆われているため通常の宇宙空間から侵入することはほぼ不可能な惑星なだけに、唯一ノーリスクで安全に通過できるポータルは近隣国家のみならず、土星の貴重な金属資源を目当てにする様々な勢力を呼び寄せ、争いを助長する要因となっているのですよ、ええ。
我が国近隣で現在発生中の戦いは大きくその二箇所ですが、他が平和かと言えばそんなことはなく、相も変わらずドラゴンマフィアにゴブリンギャング、その他ヴィランどもは場所や国を問わず蠢いておられるようで。まあ、そのおかげでお姉ちゃんみたいな戦士系の人間が食い扶持に困らないわけですが。
世は止まぬ争いに満ち溢れておりますが、国を攻め込み攻め込まれの攻防に発展してないだけ平和とも言えます。自国に引きこもってゆったりと暮らしてる分には、寿命を迎えることが出来るのですから。しかも、例え事故死したところでたったウン百万円で蘇生の魔法を受けられる素晴らしい世界なのですからね。