でも書いては消して、3話ちょいまで書いたけど、主人公の反応がおかしいとこあったので固め直すまでボツに。
これは記録兼進捗用
西暦20XX年、未成年のみ通行を許される異世界への“門”が現代に現れる。攻略のため冒険者学園が設立されて3年、誰も“門”の創造主に会えず。高みを諦めた冒険者たちが現代へ新技術を持ち帰ることに熱を入れる中、
一周回って冒険者学園もの。
ある時、地球に現れた異世界への“門(ポータル)”。未成年しか入れないその世界は、童話に
“門”の周辺には異世界を調査する主力「冒険者」のための学園が設立されたが、三年間 誰も異世界の神の元へ辿り着き、“門”を作った真意を知ることは出来ず。
それよりも従来の不可能を可能にする「魔法」の力を異世界より持ち帰ったことで、やがて冒険者は異世界の恩恵を地球にもたらす存在へと変わっていってしまった……。
=1=
「バック、オーライ、オーライ……中身はなんだぁ?」
「乾物だよ!『海賊町』からのサメの干物だ!」
いくら
剣の腕は野犬や狼一匹を撃退するのがせいぜい、魔法使いの呪文も弓矢並の威力の魔法を一日数発飛ばせる程度では戦場の華には程遠く、そんな新入生だけでパーティを組んで冒険に出れば、たちまち馬並みの馬力を誇るオーク集団に囲まれボコされ殺されるのがオチだと、経験者(先輩方)は語った。
ゆえに新入生は2、3レベルになるまでは上級生と同行し、学園が掲示する輸送クエスト等で野外行進が楽になるレベルまで経験を重ねるのが定番らしい。
「おう新入生、よく無事で帰ってきた。ゴブリンの槍が窓から飛んできて、胸に風穴が開いたりしなかったか?」
「これでクエストは二度目ですよ。一度目はオークに腕の肉をバッサリやられました、先輩からポーションもらえなきゃ死んでましたね」
「そうか、良い先輩に当たったな。じゃあ、次からはこの金貨で自分のポーションを買って気をつけるようにな」
声をかけてきたのは、“門”の異世界側近くにある街から雇われた現地の人夫たちだ。“門”を通り抜けられるのが未成年と機械のみとあって、圧倒的なマンパワー不足に悩まされる冒険者学園はたくさんの現地民の人手を借りている。
この人夫もずっと以前からこの仕事に務め、数々の冒険者を見て 事情を知ったふうに語っているものの、所詮 現地の一般人の感覚しか持たない彼は冒険者の悩みが分からない。
(今回の報酬、金貨50枚はちょうど
一般人を抜け出すには金貨1000枚はする「魔法の装備」を手に入れなきゃならないのに、保身を考えてポーションを買ってる金があるものか)
片道1000kmを一週間かけて往復し、クエストを終えて手に入れた0.5キログラムの金貨袋。
現代に持ち込めば(含有量を考慮せずとも)軽く一万円は超えるだろう
よって2000金貨までクエストを手に入れるには20回受けなければならないが、そんな悠長なことをやってられるわけにはいかない。
(エリートの奴らはもう魔法の装備を揃えて、とっくに一年生だけで冒険に出ているのを見た。
金も力もなけりゃそれだけスタートが遅れて、まだ誰も訪れてない「未到達地点」攻略のような栄誉は遠ざかるばかり……くそっ)
心の中で悪態をつくが、この悩みを誰かが聞いてくれるわけでもなし。
聞く価値もないと軽蔑し この場を立ち去ろうとした矢先、同じクエストに従事していた一年生たちが声をあげた。
「おい、あれ見ろよ、トラックに乗ってるの てんしさんだ」
「本当だ。入試で主席を取ったのに『攻略組』の誘いを断ったって、ホントだったんだな」
俺に向けた言葉ではないが、声に釣られて そちらを見る。
既にある
新入生で最も有名で、顔の狭い俺も顔を知っているほどのその女子は
先約があったとか入試のインチキがバレたとか様々な噂が流れており、断った話すら半信半疑ではあったものの、稼ぎも効率も悪い護送クエストのトラックに乗っているところを見るに攻略組を蹴った噂は本当らしい。
彼女は俺のように才能不足で燻っている連中とは決定的に違うはずだが、なぜ冒険者の底辺に身をやつすのか。パラディン様らしい聖騎士の誓いに準じたボランティアか、何の酔狂か知らないが、非才を持つ彼女なら多少遅れても底辺から上に舞い戻るのは間違いなく簡単なことだ。
多くの才能を持つ彼女は、冒険者としてやりたいことは何でもできるだろう。トラックのドアから飛び降り、曇り一つないキレイな笑顔を浮かべて駆ける
底辺冒険者の俺は彼女を見ていると住む世界が違うと感じ、己の気恥ずかしさで目を焼かれる前に顔を背け、急ぐように立ち去ろうとした。
「そこの、あなた! わたしとパーティを組んで!」
だが、その天上人が誰もが羨み、待ちわびていた言葉を発するなど予想だにしなかった。
=2=
後方から発された
目を向けずとも決意を込められた言葉であることを身体が理解したが、決して
他の人を差し置いて、俺に選ばれる合理的要素はないと分かっていたから。
あ、と驚きの声を上げる仕事仲間のいたところを過ぎる。駆け足の音が近づいてきて、ポンと肩に衝撃がかかった。
衣服越しにほんのりとした人体の温もりが神経に伝わる。この手は誰の手だ。
「探してたの、あなたみたいな目をした人。わたしと同じ目を持った人」
吐息がかかるほど間近で声をかけられ、まさかまさかと俺は恐る恐る顔を横に向けると、そこには俺が思って
「その目よ。その目は『攻略隊』では得られなかった。
多くの冒険者が忘れた、高尚な気持ちを持つ人が必要なの」
何故だ。何故 俺なんかにその手を伸ばす。それは紛れもなく あなたが手に入れられる栄光を汚す行いだ。
決して優れた冒険者になれないと宣告されて、わずかばかりの可能性のために泥塗れの
何より選ぶ意味がない。彼女にあって俺にないものは、それこそ「ない」という要素くらい。まさか、哀れみをかけているのか。馬鹿にしてるのか。
「俺に、そんなものは……ない!」
突然の驚きに頭が回ってないと自覚してはいたが、言葉を止められなかった。
凍りついていた身体は怒りの熱で一瞬にして溶けて、肩にかかった手を振り払う。空回りそうになる足で必死に地を踏みながら、俺は走った。
傍目から見るとバカな子どものように全力で走って、学生寮に駆け込むまで足を止められなかった。
自分に割り当てられた部屋に飛び込んで、ベッドにうつ伏して、情けなさに嗚咽を漏らす。
「どうして、なんで俺なんだよ……」
=3=
俺が冒険者学園に入った理由は「憧れたから」の一言に尽きる。
魔法のある未知の異世界を見たかった、剣と魔法を身につけてヒーローになりたかった、現代では得られないロマンがあった、など。
色々な憧れが混じっていて、とてもその気持ちを言葉にまとめられない。でも間違いなく一番大きな憧れは、先に入学し、優れた戦士として華々しい功績を上げた二つ上の姉の存在だ。
運動能力は劣るけど、血を分けた俺なら我が姉ほどの、あるいは別分野なら姉以上の功績を成すことも出来るだろう。
そう思って冒険者学園の入学試験に志願し、そして合格した時に俺の喜びはピークに達した。だが入学後、俺は絶望に叩き落とされた。
『
基本四職クラス全てに最適正なし、よって才能なしと判断する』
冒険者学園の入試は最低限を測るもので、本当の才能の有無は入学後に判断されると、俺のうぬぼれはすぐに思い知らされた。
俺と違い、才能ありと判断された新入生たちは次々に二、三年生に勧誘されていった。中でも入試次席の女の子―――鉄面皮の仏頂面がトレードマーク―――は非常に高いウィザードの適正を見込まれており、俺の目の前で大勢の先輩が波のごとく押し寄せて攫っていった。
もちろん、俺たち才能なしと判断された新入生にその人波は寄ってこなかった。代わりに学園の事務員がやってきて、例の護送クエストを紹介してくれただけ。
あくまで俺が才能なしとされたのはファイター、ウィザード、ローグ、クレリックの重要で必須な四クラスのどれも最適ではなかったからであって、それ以外に目を向ければ最適なクラスはあった。
身体を武器防具とするのに特化したモンクや、自己防衛能力を高めたローグ亜種であるニンジャなどは高い【敏捷力】と【判断力】を持つ俺に適していた。
しかし基本から外れるのはそれだけ選ばれない理由もあるわけで、モンクは前衛でありながらファイター以上の高能力値が求められる難クラス、ニンジャはローグとして重要な技能面を削ってわざわざ生存能力を高めた、つまるところ自分本位なクラス。
そんな扱いの難しいクラス、あるいは最適ではないクラスになった冒険者を、最前線でギリギリの戦いを繰り広げて余裕のないパーティが欲しがるわけがない。そういう遊びのある冒険者が入るパーティとは最前線から外れた、「魔法のアイテムを現代に持ち帰りたい」とか「金稼ぎしたい」とか攻略を二の次にしたような連中である。
考えが甘かったのは認めるが、俺は利益のために冒険者学園に入学したわけじゃない。俺は姉のように冒険者として、現代では到底出来なかった功績を上げるために入学したんだ。だから将来性を捨てて、単なるローグやクレリックになる選択肢はとても選べなかった。
クレリックなら一日数発の
だが俺はそういった甘えを捨てて、ニンジャとなる道を選んだ。底辺で泥塗れになっても冒険者であるために。
=4=
次の日、今日もまた稼ぎを得るために学生寮を出た途端、俺は見知らぬ二年生たちに建物裏の暗がりへと連れ込まれた。
原因は他ならぬ昨日、一方的に声をかけて俺の心を惑わしたあいつであって、俺に原因があるとは思えないのに。
「お前みたいなやつが。ふざけるなよ、お前みたいな
いいや、お前の存在こそが侮辱だ。お前みたいなやつが冒険者であるのがいけなかった」
戦士系クラスの何かだろう、高い【筋力】差とレベル差で無理やり引きずられて抵抗は叶わなかった。
ぐりぐりと、拳が脇腹にねじ込まれて じわじわと痛めつけてくる。
「なんとか言えよ。謝まれ。冒険者になったのが間違いだったと。
お前が冒険者を辞めれば、誘われたことはなくなる。」
「それは出来な――ッ」
否定を口にしかけた途端、気を失うほど強烈な拳が捻り込まれた。
そして意識が覚醒する。わずかな治癒の力が浸透して、無理やり覚醒させられる。
「《
冒険者の力は簡単に悪用される。火球を放てば大勢の人間を焼き殺せるし、逆にこうして怪我や傷を負うたびに回復してやれば気を失うことも死ぬことも許されない。
「俺たちはお前が謝るまで決して許さない。
火、水、空や地下の世界を潜り抜けて制覇した先輩の誘いを断った挙げ句、彼女がお前を誘うなんて絶対におかしい。
お前が先輩より優れているなんて、ありえない」
「……うう」
二年生はまた俺にじりじりと素手で継続的な痛みを与え続ける。
俺だってあれは何かおかしなことだと思う。どんな世界を旅してきたのかは分からないけど、その先輩は俺よりずっとずっと先を冒険した功績を立てているんだろう。
と、傷と痛みで言葉にならない呻き声だけが口から漏れる。
「ただのパラディン様が気違えただけなら良かった。だがあんな気違いでも今年の主席で、先輩が勧誘した時から今でもずっと注目を集めている。
そんな気違いが再び気違えて
そんな。やっぱり俺は関係ないじゃないか。
「だから、お前は断られなければならない。分かるか、説得しろと言ってるんじゃない。気違いに話が通じると誰も思ってないからな。
彼女がお前を勧誘したことを絶対に諦める理由が必要だ。
簡単な話だ、そう、お前が
「……意味が、分からない。何も、悪く、ないじゃ、ないか」
常に与えられる痛みが思考と発言を阻害する。
「いいや、お前が悪いんだ。あの気違いに誘われたお前が……力も才能もない
この世界は強ければ自由だ。弱いお前は不自由なのが当然、それがあるべき姿だ。
お前は弱い。弱いお前は真の『冒険者』になれない。優しい先輩の忠告だ、諦めろ。はいと言え。イエスだ。頷け」
違う。俺は
「
しかるにその行為は
かつて憧れていた、聞き慣れた声が響く。俺に与えられる痛みが止まった。
=5=
囲んでいた上級生がパッと離れ、支えを失った俺の体はその場に崩れ落ちる。
「いやいや生徒会長サマ、誤解してませんかねぇ。
これは質問していたんですよ、ご存知でしょう? 昨日、あの難攻不落の主席サマがこの新入生を誘ったんですよ。
一体 何があれば彼だけが選ばれるのかととても不思議に思いまして、いても立ってもいられずこんな朝っぱらから無理やり気味に誘わざるを得なかったんです」
俺を取り巻く二年生のうち拷問的な
たった今 俺を苦しめていた奴らの言葉とはとても思えないが、取り締まることは出来ないだろう……傷という証拠はきっちり施された
「その話は聞いている。しかし、一年生が同じ一年生を誘いたいと思うことは不思議ではない。
新入生が自由な冒険することを望み、従来の先輩たちに率いられる慣習を好まないのはよくある話だ」
「それならば、やはり優れた『攻略組』の一年生と組んだ方が安全で安心もできるでしょう? 私たちはそこが不思議なのですよ」
「……私見ながら、お前たちのそういうところが原因だろうよ。
安藤二年生、他二名。下級生への接触はパワーハラスメントにならないよう注意せよ」
表面だけは無傷な体にようやくフラフラだった感覚が追いつき、立ち上がれるようになった。
しかし彼らの会話に口をはさむ前に、注意を受けた上級生は首をすくめて早々に退散した。どうせ追求したところで、無駄にしかならなかったろうが……。
「ありがとう……ございます、会長」
俺は礼を言った。先ほどのやりとりは聞いてたし、顔も名前も役職も知っている相手だ。
冒険者学園三年生、現・生徒会長。高レベルの
「今この場には私しかいない、プライベートな場だ。人が来るまではいつも通りでいい、タカ」
「はい、姉上」
だが俺にとっては冒険者を志したきっかけ、憧れの姉上でもある。この人のようになりたいと思い、入学して理想と現実の違いを味わった。
「散々な目に合ったな。今まで全ての誘いを断った主席が、初めて誘ったという話を聞いたが……良くも悪くも本当だったか」
「良いことじゃなかった。俺は上位互換のある立場だし、彼女がわざわざ選ぶ理由はなかったはずだ。
なんであんな言葉をかけられたのか、今でも分からない。昨日のことは彼女の気まぐれだと思ってる」
「理由がないことはないだろう。先ほどの安藤二年たちは“
「たしかにそうだけど。それを言うなら俺だって悪人ではないけど善人でもないし、パラディンの仲間にそぐわない」
とはいえ、落ち着いた後でそれは短気だったと反省している。しかし そうするとあんな言葉をかけられた理由が急な気違いしか思い当たらなくなった。
それはそれで幸運な話だが、先のように嫉妬を買うのだから不運な話でもある。
「悪でなければ、パラディンのパーティメンバーにはなれる。誘われない理由にはならない」
「でも優秀な技能役なら『攻略組』に十数名はいるはずで、それを無視して俺を選ぶ理由が思いつかない。
まさかその全員が悪人だったから誘えなかったことがあるわけないし」
「そうでもない。恐らく、タカにも分かる単純なことだ」
「……どういうこと。
姉上はあのパラディンの考えが分かったの?」
「十中八九。しかし正確なところは本人に聞くべきだろう。
彼女はタカのことを調べてるようだ。少し学園を回れば直に向こうから見つけて会えるだろう」
だが姉上の口ぶりでは、運や気まぐれでないと考えているようだ。俺にはそれが分からず、聞き返したが答える気はなさそうだ。
俺が入学してからというものの、姉上は昔よりやや冷たくようになったと感じる。今のように人目のない場ではプライベートで接してくれるし、生徒会長の立場を気にしてるわけではないようだが……甘やかせまではいかずも、優しくしてほしい。
「やだよ、そんなことしたら理由なんか関係なしにまた先輩たちに絡まれる。
それに今日はクエストを受けない。これからダンジョンに行くつもり」
「ダンジョン……まさか
タカのレベルや装備では厳しいぞ。力量を超えた敵が出た時に覆す手段がない」
「知ってる。でも敵を避けて財宝を見つけるだけなら一人でもできる。クラスをニンジャにした理由の半分はそのためだから」
ダンジョンはこの
ここ“門”のある地の南方の祠内に四つの階段があり、そこから降りた先が別々の部屋に繋がっている。部屋は更にいくつか別の部屋への通路が繋がっており、部屋によっては危険な罠や敵が待ち受けている。その部屋にしたって日をまたぐ毎に部屋と部屋との繋がりや構造が変化し、昨日 敵が部屋に襲撃をかけたら今日は罠に引っかかるなんてこともあるそうだ。地下と地上をつなぐ階段は別の空間をつなぐ魔法の出入り口になっていて、祠内の北の階段を降りて少しまっすぐ南に向かえば、必ず南の階段が見つかるわけではない。
そんな複雑なダンジョンだが、一方で棲み着いた敵が部屋に財宝を蓄えていることがある。運が良ければ敵がおらず、宝だけが隠されている部屋もある。大抵は隠した上で鍵や罠がかかっているものの、ローグ系クラスの亜種であるニンジャにはそれを発見し、外すことが可能だ。
「金を稼ぐなら、
「癒やすために前に出る必要があるんじゃ、将来【筋力】不足が足を引っ張る。それをしっかり説明したのは
「そうだな、強制はしない。だが無理はするな、一年生に時間はあるんだ。三年間で行けるとこまで行けば、やがて夢も叶うだろう」
「……夢は叶えるものだよ、姉上」
計算込みであると語り、ただの無謀ではないと悟った姉上はせめてもの言葉をかけてくる。だがその中に、憧れの姉上からは聞きたくない言葉があった。
姉上は、生徒会長になるまで自力で夢を叶えたのではないのか?
やはり姉上は昔から変わってしまった。異世界側では実質 学園の最高責任者であることもあって、生徒会長の仕事が大変なのかもしれないが……。
いや、まだ未熟な俺には姉上の苦労を語れるほどの知識も経験もない。余計な憶測は止めるべきだ。
「うん、行ってきます。十部屋ほど回れれば、すぐ帰ってくるつもり」
「行ってらっしゃい。無事を願っている」
姉上に別れを告げ、俺はダンジョンのある祠へと向かった。
=5=
ゴブリンが騒ぐ部屋、虫の羽音がする部屋、一見静かでもあからさまな怪しい複数の死体が転がっている部屋などを避け、隠された落とし穴や大鎌が飛び出る罠を回避し、ようやく部屋の片隅の裂け目に隠された財宝を見つける。
顔にかけた暗視ゴーグルを頭に上げて、覆いをずらしたランタンの光に宝を照らす。
「宝石に両手剣。
作りは良い。魔法は……かかってなさそうだな」
色のついた小ぶりで不透明な
俺が回った部屋の数は十にも満たず とても自慢できないが、罠や敵に遭遇しないよう二時間かけ慎重に進んだ末の成果である。
鞘代わりに布に包んでバックパックにしまい、置いていたランタンを拾って今日の探索を終え、帰ろうとする。
しかし扉を挟んで地上への階段までわずか100メートル程の帰り道についた矢先、遠くから金属音が響き始めた。
発生源は遠いが、今まで静かだったダンジョン中に何もなしに鳴ることはない。冒険者とモンスターの戦闘か、モンスター同士の戦闘か、罠によるものか。いずれにせよ何かが近くに踏み込んだことはほぼ間違いない。
金属音は一度では止まらず、戦闘のように断続的に続いた。片耳を覆い、発生源の向きを特定すると、その方向は……一番、帰り道の方角でよく聞こえた。そのあたりに罠はなかったから、
俺はバックパックからなけなしの金で買った虎の子、酸入りの瓶を取り出す。硬い鎧や分厚い外皮を纏ったモンスターには下手に武器で攻撃するより、触れただけでダメージのあるこういった道具の方が効きやすいのだ。勿論、銃や爆弾の方がよりダメージは大きいのだが、許可を得るのにライセンスが必要で、また高額であるし、そうでなくとも爆音が別のモンスターを呼び込むので結局 使えたもんじゃない。
俺は慎重に通路を進み、そっと部屋の扉の前に立った。扉でくぐもってはいるが、戦闘音はこの扉の奥で今も続いている。
いや、たった今 その音が止んだ。どちらかが決着をつけたか。奇襲をかけるなら今がチャンスだと、頭に上げていた暗視ゴーグルをかけ、ランタンに蓋をして、モンスターが残っていれば奇襲をかけるつもりでそっと扉を開き、中を覗き込む。
部屋の中には、倒れ伏すゴブリンが数体と、剣を手に死体を見回して残心する軽装の人間一人の姿。良かった、モンスターではない……でも
罠の危険を知らされている学園の
利益を重視しての人物ではない。なら、一体どんな戦闘狂がやってきたんだと、その面を伺った。
それは昨日 俺を最も悩ませた当人の女の顔をしていた。なんだ、戦闘狂じゃなくて気違いのパラディンなら安心……できねえわ。俺は扉を叩きつけるように閉じた。
そんな慌てた行為によって、つかつかとこっちに近づく靴音が響く。不味い。暗闇に紛れようにも、向こうは
通路をそろそろと後ろ歩きに下がるが、あいつは思い切りがよく俺が5メートルも離れないうちに扉を開けた。明かりの範囲に照らされる前に背後を振り向いて、前の部屋に走って逃げる。
「待って、一緒にパーティを組みましょう!」
追ってきた。しかも既に俺だと確信されている。ダンジョンを潜ることは姉上しか告げていないのにどうやって突き止めてきたか。
「冗談じゃない! なんであんたと……」
悪態を付きながら、扉を開けて、入ってすぐに閉める。部屋は明かりで照らしきれない広さがあった、どうにか部屋の隅の暗闇に隠れれば上手くすり抜けれるだろう。どこが一番暗闇に隠れられるものかと暗視ゴーグルで部屋を見回す。
いや、ここはさっきまで誰も……ああ、
「ここね! ……あれ」
コボルドにとっても急な出来事だったようで凍っていた場にパラディンが乱入してきたことで場が動いた。
=6=
「hUmAns! kIll thEm All!」
「畜生!」
龍の眷属であるこの五体の爬虫類人はゴブリン並に単体はひ弱なものの、数に任せた集中攻撃は防御の薄い俺にとって危険である。
しかしたった今 エントリーしてきたパラディンが邪魔をして、最寄りの扉の奥に避難することが出来ない。では、今は戦うしかない。
ランタンを握った手の人差し指、中指だけをピンと伸ばし、簡易な印を組む。
「幽遁の……」
ニンジャの能力名を呟きながら、すうっと身体を暗闇に溶け込ませる。
実際はわずか一呼吸の間だけ身体を透明化させるだけのこの忍術は、ローグお得意の敵の不意を突き、急所を穿つのに非常に役に立つ。
こちらの姿を見失った先頭のコボルドめがけ、握ったままだった酸を投げつける。酸の瓶は手を離れればすぐに解けるが、避ける間もなく顔面に直撃し、目や粘膜を焼き焦がし戦闘不能にした。
攻撃にいきり立った残りのコボルドが俺のいた空間をつついてくるも、既に一歩ズレておりただ空を斬った風音だけが響く。
そうするとコボルドたちはちょうと扉の少し前、つまり扉を開けたパラディン様の目の前で隙を丸出しにしている状況であり。敵意を顕にした、悪の龍の眷属であるコボルドたちにパラディンが容赦をする理由もなく。
「敵か! チェストー!」
二体目のコボルドがズンバラリと引き裂かれた。戸惑っている残り三体のコボルドたちの目の前で、俺はすうっと姿を現し……またすぐに印を組んで消え、引き抜いた
今の攻撃はコボルドの鱗に防がれたが、消えては攻撃を繰り出す俺を警戒してコボルド一体の注意をこちらに向けさせた。酸を使ってしまった俺にもう確実な有効打はないが……そんなのがなくても、あのパラディン様がいる。
「やっ、はっ! ずぇえい!」
俺が手を出すまでもなく、一、二、三撃で残りのコボルドをその鱗や皮鎧もなんのそのと切り捨てる。学園最高級の天才はその名に恥じず、その腕一本でコボルドの群れを容易く倒す様を見せつけた。
幽遁の術を切らしてすうっと姿を現した俺に、彼女はやはり屈託のない笑顔を浮かべて例の言葉を述べた。
「どう、これでまた聞けるね。ねえ、私とパーティを組んでちょうだい!」
「そうだな、あんたに俺の力なんていらないことがよく分かる。
コボルド一体倒すのがやっとの俺の、どこがあんたみたいな天才に見合う?」
俺と彼女しかいないこの場で言葉を選ぶ必要もない。気は引けたが、俺は率直に最大の疑問をぶつけた。
彼女はきょとんとした、理解できないといった顔をする。
「俺の言いたいこと、分からないわけじゃないだろう。俺の上位互換なら、『攻略組』の新入生に限らず沢山いる。
なのに、なんで俺みたいな冒険者の底辺を誘った。パラディン様が弱者を哀れんだ、なんて冗談はよせよ」
「まさか。あなたは私よりも強くて、あるいは勇気ある人よ」
「強くて、勇気? 他ならぬパラディンがそれを言うのか。何がだ」
恐怖への耐性を得て勇気には事欠かず、また能力を完全発揮するにはファイターを超える能力値を要求されるパラディンが弱いわけがない。
「一人で危険なダンジョンに潜るなんて、リスクを負っても『冒険』する勇気がないと出来ないことよ。
それを決意できるあなたの心は強くて、何より、それが一番冒険者らしい」
「……いや、これも結局は計算ずくの安全を見越しただけだ。敵を避けて罠捜索に徹すれば、財宝だけを得られると思った。
でも、それもたった今さっき思わぬワンダリング・モンスターで目論見が崩れるところだった。ただの危険を冒したバカだよ」
「私はそういう冒険者を一番仲間にしたかったのよ」
「バカな冒険者なら
「違うわ。『冒険者』じゃなくて、『冒険』する者」
「それの何が違うんだ」
「冒険を目的にしてる人。金とか、魔法とか、あるいは強さとか、それを目当てにしていない人が、仲間に欲しかった」
「それくらい、沢山と言わずそこらを探せば一人くらいいるだろう?」
そんなの理由にもならない。冒険に憧れる学生がいないわけがないだろうと俺は反論する。
「ええ、そうね。一人くらい いた」
「それなら、真っ先に俺を誘う必要はなかっ……なんだよ、その目は」
俺の言いかけた言葉は、こちらに真っ直ぐ向いた彼女の目を見て 止まった。
その目はいつもの曇りなき瞳ではなく、光を欠き、澱んだ瞳であった。まるで希望を絶望に叩き落とされた人間のような目。
口にせずとも悟ってしまった俺は、この時ばかり自身の
俺が彼女の審美眼にかなった冒険者第一号とは光栄であり、実に不運だ。
「クソッ。俺はあんたと釣り合わなすぎる、たとえあんたが良くても、周りは才能も実力も劣る俺のことを許さないだろう。
それがある限り、俺はあんたと冒険することはできない」
彼女と組みたくない理由には自分の不甲斐なさ、彼女への嫉妬があるも、それらは結局は自分の問題。
本当に彼女と組めない外的要因は、俺以上に他人の嫉妬を受けることだ。幸運、ことさらに自分で勝ち取っていないように見えるものは特に妬まれるから。
「他人は志なんて見ない。それは十分、実感してきたんだろう」
「私はその志を何よりも重くみている。
あなたも志を遂げるのに等しい、誓約を果たせばいい」
勿論、その誓いは多くの人が知るところゆえにその名自体が悪の誘いを断つ抑制となるだろう。
「俺もパラディンになれば解決、ってか?
冗談を、俺はそこまでそもそも才能が足りない」
「同様の誓いを立てればいいのよ。
冒険者のうちで有名で、それ自体に誓約を持つもの。ここにとっておきの用意があるわ」
そう言って彼女は紙を差し出した。そんなものあるものか、と訝しげに暗闇に浮かぶそれを、ランタンで照らす。
「……生、徒会?」
「今朝、生徒会長がくださったわ」
暗闇に照らされたそれは、無記名の生徒会入会届。
冒険者学園における生徒会は地球の代理人だ。殆どの学生は生徒会を敵に回す行為を避けるだろう。義務による拘束は増えるが、それは異世界にある他の組織でも同じこと。
彼女にとっては、俺に関わる問題をスマートに解決する手段だったのだろうが。
「ダメだ。
「どうして? あなたが私と組めない原因を取り除くのに、これは適しているでしょう」
「確かにそうだろう。ただ最適ではあっても、俺にとって最善ではないんだ」
この入会届を彼女に渡したのは生徒会長。生徒会長は俺の姉。俺がこのダンジョンへ行ったことを知っていて、彼女に教えたのもきっと姉上。
これは姉上の身内贔屓だ。いや、もし姉上にその意図がないとしても、今の生徒会に関わってはどこかで身内贔屓が入ってしまう。
俺の思う立派な冒険者の姿は努力や実力の上に成り立ったもの。幸運や血縁の上で成り立った冒険者には決してなりたくなかった。
だが、この内情は結局 俺の問題であり、他人に語れる話ではないし理解してもらいたいとも思っていない。
抜きん出た才能を持つ彼女に理解できる話とも思えない。自分の問題は、自分で解決しなければならないのだ。
「俺は問題を抱えてて、今はあんたとは組めそうもない。
戦闘の助力については感謝する。これはその礼だ、コボルドの持ち物共々持っていってくれ。
ただ、これからは俺には関わらないでくれ。そうした方が互いのためだと思う」
説明できない謝罪の代わりに、先ほど得た宝石を押し付けて彼女のお誘いを断った。逃げ去る俺の背中に、彼女は何も声をかけてこなかった。
=7=
姉上の警告が効いたのか、暴力的な先輩が現れることはなくなった。
その代わり、俺からあの子のことを聞き出そうと、人が連日やってくるようになる。
魔法の武器防具なんて贈ろうとして俺の口を滑らせようとした人もいるが、彼女の価値は金で買えるものではないため、全て固辞した。
翌日からはパラディンや
しかし二、三日すると様子が変わった。
「どういう気持ちの変化ですか。将を射るために馬を射るつもりなら、勘違いですよ。
」
「そないなこともあらへん、ダンジョン潜ってお宝売ってる一年生は珍しいからな。
うちによく売りに来てるやろ? 抜きにしてもお得意さん」
今の話し相手は、青葉貿易のお偉いさん。
通用“ブルー”とも呼ばれる、異世界にいち早く乗り出しその技術と産物を吸収し大成長した企業の一つ。
特に冒険者にとっては異世界では手に入らない現代アイテム等の輸出元である。
主人公が受け身すぎたのでボツ。