ダンジョンズ&ドラゴンズもの練習   作:tbc

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竜のねぐらに冒険をする話前半

「ひえー、ほんとに竜と獣ばっかりですね。とんでもないです」

「竜の島に大型の獣がいることに驚いたが……まあ、いるよな、普通」

 

 俺たちは現在、中央大陸西方から北大陸にかけての中間に点在する「竜の島」諸島、その一箇所にやってきた。目的は三つ、件のドラコリッチの偵察あるいは情報収集、ついでに俺たちの地力上昇(レベリング)、そして出来れば現地のドラゴンと友誼を結びたい。海上でドラコリッチとやりあうのは、飛行魔法が解呪された時に大きな危険を伴う。それを考えると飛行手段……それも生来の、特にドラコリッチとやりあっても平気な飛行能力を持つクリーチャーといえば、やはり同じドラゴンしかいないだろう。

 噂によればこの竜の島、悪の色竜(クロマティック・ドラゴン)もいれば善の金属竜(メタリック・ドラゴン)もいるという。善竜には聖騎士(パラディン)のように高潔な意思を持つドラゴンもおり、彼らなら不浄なドラコリッチを討伐することに心地よく協力してくれるのではないか。しかし、彼らが具体的にどこどこにいるという情報を手に入れることは叶わなかったため、こうして現地を訪れ地道に調査している。

 

 詳細な地図は無かったので、最も中央大陸側に近い第一の島まで長距離飛行して順番に探そうとしたところ、空からワイヴァーン、地上からダイア・ボア―――大猪の出迎えを同時に受ける。立体的な挟撃という滅多にない状況に混乱するマーミアへワイヴァーン迎撃の指示を出し、一方で俺は邪魔なボアを迎え撃とうと着陸した。

 肉体だけなら下手な竜すらも凌駕するボアは早速自慢の牙による突撃をかますが、それを難なくかわし、逆に動物殺し(アニマル・ベイン)流血(ウーンディング)鋭い(キーン)呪文注入(スペル・ストアリング)された片手半剣(バスタードソード)で一太刀入れる。随分と長ったらしく形容詞のついたこの生きる動物殺しに特化した剣は、ボアの厚皮を容易く貫き深い(ダメージ)を与え、更に流血の呪詛がその身から体力を奪う。たった一太刀で半分の体力を奪われたボアに、トドメに込められた“発火(コンバスト)”魔法が刀身を通じて体内に炸裂、焼肉どころか猪の肉体は一瞬で焦げ尽きる。

 既に息の根は止まっているものの、止まらない勢いのまま木々に激突してより悲惨な姿を見せたボアを放って上空のマーミアを見上げる。今までに何度も見た光景ではあるが、俺の妨害なしで遮蔽のない空中でヒット・アンド・アウェイを行うワイヴァーン数匹相手にダメージは与えていても狙いを絞りきれず、苦戦しているようだ。負ける要素はないが、時間がかかるのを嫌った俺は“流星群(メテオ・スウォーム)”(名前の印象に反して星が降るのでなく、隕石のように凄まじい衝撃を伴う高熱の球体を複数個飛ばす魔法)がチャージされた(スタッフ)を取り出し、各ワイヴァーンにそれぞれ一つずつの火球を飛ばした。

 本来、重なり合う複数の爆発が強烈な威力を叩き出すこの魔法は、広々とした上空で散開するワイヴァーンには本来ほどの威力をもたらさないものの、事前に与えていたマーミアの切り傷と合わさってワイヴァーンが撤退するに十分なダメージを与えている。当たりどころが悪かった2体はその場で墜落したが、残りの2体は重傷を負いながらも帰っていった。

 

 

 

 とはいえ逃げ帰るワイヴァーンは、彼らが犠牲者の遺体と共に持ち帰った巣の財宝を手に入れるチャンスでもあるので見逃す理由もない。ひいひいと逃げ帰る彼ら以上の速度を叩き出す高速飛行魔法で悠々と追撃し、巣の洞窟にようやくたどり着いたところでお疲れとねぎらいの言葉をかけてトドメを刺す。その際に更なるワイヴァーンたちとの戦闘も生じたが、同じことの繰り返しなので割愛。

 財宝は十近いワイヴァーンが貯めた金品に、幾つかのマジックアイテム。流石、巣に突っ込んだだけあって懸賞金を含め今までで最大の入手額になる。俺が普段使うアイテムの100分の1にも満たないが、万が一俺が死んだ時にも消えない財産はアクシデントに備えて重要である。

 制限はあるが、中に入れた物の重量を無視する便利な背負袋(ハンディ・ハヴァサック)にめぼしいものをぶちこんでマーミアに背負わせる。やたらかさばり重い割に安っちい銅貨を捨て置いても背負袋複数を使わなければ持ちきれない

 

「ありがとうございますご主人様。うわぁ、改めて見ますと洞窟中が焼けてますね……本気出したらこんなあっさりと倒しちゃうんですね」

「そうだ。だからこそお前に経験を積ませるため、全ての攻撃を任せていたんだが必要もないからな。

 しかし今のように、一瞬で全てを片付けるとは行かない。お前の出番はちょくちょくあるから、本来の役目を忘れて任せっきりにならないようにな」

「ご主人が言う言葉ですかそれー。やっぱ魔法って凄いですね、私も使えないのかな……依存関係……」

 

 うちのメイドはぶつぶつと、以前漏らした俺の好みをつぶやいている。まだあのネタを覚えているのか。

 

「実際、魔法を使わせるだけなら簡単に出来るぞ。準備は必要だから、いつでもとはいかないが」

「え、そうなんですか?」

「そもそも、俺だって魔法を身につけているわけではない。

 魔法が宿った杖を使っているだけだからな、真の意味で魔法を使いこなしてるのとはわけが違うが、使うだけなら簡単だ。

 やってみるか?」

「そ、それじゃ変身の魔法使ってみたいです!」

 

 では、と俺は幾つかの魔法の(ワンド)、杖を引き抜いてそれぞれを構えていく。

 これら魔法のワンド、スタッフと呼ばれるアイテムは、既に魔法を身につけている魔術師(ウィザード)生来の魔法使い(ソーサラー)神官(クレリック)たち術者が魔法のパワーを使い切った時や準備しておらずともいつでも使えるようにと、充電池のように魔法を貯めた装置である。

 誰でも使える魔法のポーションと違い、既に魔法が使える術者専用に調整されたこれらは、通常なら非術者である俺には使えいこなせない。しかし盗賊(ローグ)や幾つかの非術者の職業者たちにはこれら魔法装置を使用するための技術が存在する。かつて妹とともに闇の神殿にいた時期、神殿の蔵書に眠っていたこの技術を学習し、訓練と経験、魔法のアイテムによるブーストを経て比較的簡単な魔法の棒や杖ならば使いこなせるようになった。

 なので、それらの技術をマーミアも習得すればワンドやスタッフに宿る力から、魔法を発動することが出来る。しかしながらその技術は通常、一朝一夕で身につくものではないため訓練が要る。しかし魔法の力を借りれば、俺が持つ魔法装置使用技術の初歩を一時的ながら彼女に教授することが出来る。それが“技能伝達(シェア・タレンツ)”の魔法だ。(魔法を使うために魔法を使うというのも本末転倒な話だが……)

 

「あ、なるほど。なんか、色んなことがなんとなく分かってきました。そういうものなんですね」

「これは一時的なものだ。時間が経てばやがて忘れてしまうが……多少手こずるが今なら難なく使えるだろう。

 そしてこちらが変身の力が込められた魔法の(ワンド)、なりたい姿を想像しながら起動してみるといい」

 

 技能は伝達したものの、魔法装置の使用は初歩だけでは簡単に使えないものだ。そのため、更に幾つかの強化(バフ)魔法を上乗せして確実に使いこなせるよう彼女の才覚(カリスマ)を高めていく。

 穏やかな冬の情景を部分的に再現する“小雪の歌(スノーソング)”が彼女の精神を洗練し、“内なる美(イナー・ビューティ)”が神々しい天使のように彼女を魅力的に作り変えていく。“上位・英雄(グレーター・ヒロイズム)”の魔法が更に魂に物語に語られるヒロインの精神を刻み込み、今や彼女は最老の竜(グレート・ワーム・ドラゴン)にも並ぶ魔性の才覚を得た。

 

「ご主人様、もうよろしいのでしょうか?私、もう待ちきれませんの」

「そ、そうだ。準備は済んでいて、失敗することは万に一つもないとすら断定出来る。しかし……」

 

 言葉は続かなかった。魔法による一時的なものといえ、彼女の高められた魅力は言葉を開くまでもなく俺の目を奪ったからだ。彼女の瞳は俺を愛する曇りなき信頼が宿っており、その眼光が俺を捉えた瞬間、心臓を射抜かれたように揺さぶる。今すぐに愛してる、と申し立ててしまいたいくらいだ。

 

「ご主人様、どうか、なされましたか?」

「ハッ! いや、大丈夫だ。変身を使ってみるといい、きっとそれがお前を素敵な姿に飾り立てることだろう」

 

 危うく心を引き込まれそうになったところで、かけられた彼女の言葉が逆に気付けとなる。

 気づいたが、魅力のせいか口調が変になっている。そんな余計な影響はないはずだが。

 

「ご主人様以上に素敵なことはありません……でも私、変わってみせます」

 

 そうして彼女は“人型変身(オルター・セルフ)”の魔法が宿る杖を発動し、姿を変えた。大半の生物の姿を取ることが出来るこの魔法で、彼女がどんな醜い姿になってしまわないかと心配になったが、俺のよく知る姿に変身したことに安堵し、また彼女がその姿を取った理由に思いあたってなんとも可愛らしく感じられた。

 マーミアの取った姿は、煌めく黒髪に改造ワンピースを身に羽織った闇の勇者ことうちの妹のものである。先日会いに行った時の嫉妬が残っていたのだろう、俺のことを独占したかった気持ちが察せられ、なんとも子どもらしくて可愛らしいものだ。もっと愛でたくなる。

 

「どうでしょう、お兄様。私、可愛いですか?」

 

 妹として見ると、いつも以上に愛らしさを振りまくその姿はとても可愛いらしい。しかし、その正体は妹ではなくうちのメイドだ。人には人の良さがあり、マーミアには天真爛漫に振る舞う姿が似合う。そんな彼女が姿を変えて気を引こうとする素振りも良いものだが。

 

「いいや、やっぱりいつものメイド姿が可愛いな」

 

 お世辞でなく、本心からそう思う。

 偽りなく気持ちを伝えると彼女は、恥ずかしいと言わんばかりにカァーと赤面した顔に手を当てて隠す。妹の姿のままで。本人なら決して取らないようなその動きを見ると、やっぱり姿は同じでも中身が違えば全く違う人物と分かるものだ。

 

 これはこれで、と妹の決して見せない愛らしい姿を一通り堪能したところで、一向に変身を終える気配のないメイドに魔法の途中解除を促す。術者は体から伸びる見えない細い紐のような繋がりで、魔法がかかっているかどうかを意識することが出来る。その細い紐をプツリとやるように意識すると魔法は持続時間中であっても中断することが可能だ、そううちのメイドに教えてやると彼女はすぐに元の姿へ戻った。

 元に戻ったことで、仮初の姿で隠していた溢れんばかりの魅力が今一度、俺の意識をクラッといかせそうになる。カリスマ強化の魔法を切ればそれもなくなるが、こんな場でもなければ魔法を化粧に使う機会なんて中々ない。どうせあとたった7時間弱、戦闘にも有用な強化なのだと思って時間が切れるまでそのままにした。

 

「私、ご主人様から見て可愛いんですよね。本番はダメですけど、少しなら手を出してもいいですよ」

「いや、例え本番はせずとも女性を傷つけることになるだろう。俺はまだ女性の心を傷つけたくはない」

「散々モンスターと戦わせてるのに傷つくも何も」

「切り傷刺し傷は魔法を使えば一瞬で治るが、女性の心の傷は簡単には癒せない」

「かっこよさげなこと言ってだまくらかすんじゃありませんよご主人様。

 私は、本番はちょっと……ですけど、それ以外の覚悟は出来ましたよ。

 例え気持ちを無視されてご主人様に一方的に手を出されて捨てられても仕方ないと思っています」

「俺はそんなことをするほど浅い男にはならない」

「でも女の子を侍らせて、両手に花持つ不純な欲望はあるんですよね」

「………」

 

 それは否定出来ない。

 しかし彼女との会話をやり取りしながら、ふと今いる洞窟外から忍び寄る物音を聞きつけた。大型動物(ダイア・アニマル)が草をかき分けるような大きな物音ではなく、せいぜい人間大かそれ以下の軽サイズが立てる物音だった。

 うちのメイドはそれに気づいた様子もなく会話を続けている。経験を重ねて地力(レベル)がついても、元から素質のない彼女は身体能力が伸びるだけで彼女の知覚を含むその他能力は一切上がらない。

 

「というか、ご主人様は女性から誘われないと手を出さないのでしょうか。実はドM?」

「いや、それはない。女性に振り回されるのは勘弁願うからな」

「でもドSではありませんよね。ご主人様は優しいお人ですから……となるとSM?」

「人を極端だけで評価するんじゃない。それは最善か極悪かで人を分けるような話だぞ、遊ぶのもほどほどにしろ」

「いつもご主人がやってる冗談と同じことじゃないですか。そんなに怒らないでください」

「怒っているつもりはない。ただ軽口を叩く余裕がないだけで……

 外にいるのは誰だ!姿を見せろ!」

 

 会話を続けながら、耳をそばだてて様子を伺うが動く気配はない。相手もこちらの様子を伺い、あるいは話を聞いて情報を集めていると考えた。二人しかいないことはバレてるだろうが、気配を感じ取ったのは少し前だ。気づいていないし、はったりの苦手な彼女が余計な情報をもらす前に行動することにした。

 俺が外に呼びかけた言葉で、マーミアも状況を感じ取ったようだ。とはいえ彼女の耳では外にいる何者かの物音は感じ取れないだろうが…… 俺が言葉をかけたにも関わらず、外の何かは逃げる気配はない。かといってすぐに姿を現す様子もない。

 言葉が通じない?あるいは洞窟の外に出てくるのを待っている?

 いずれにせよ言葉が理解出来て即座に戦いを否定するほど、友好的な相手ではなさそうだ。大型動物ではないとしたら、この竜の島で出てくるのは竜か、その眷属か……しかし互いに姿の見えないお見合いなら、発動音を出さずに強化魔法をかけ続けられるこちらが有利だ。マーミアにその場で身構えるように身振りで示しつつ、クレリックの防御系信仰魔法を蓄えたスタッフから、長続きはしないが強い効果をもたらす幾つかの魔法を発動する。“石の皮膚(ストーン・スキン)”、“意気高揚(イレイション)”、“加速(ヘイスト)”に“朗唱(リサイテイション)”、また持続時間が切れた“上位・英雄(グレーター・ヒロイズム)”のかけ直し、そして声を立てずに会話できるよう“精神結合(テレパシック・ボンド)”をかけた。

 下位から高位まで様々な魔法を二人にかけた上で、再びマーミアには手振りで待機を促しつつ、たった今かけたばかりの念話(テレパシー)で会話する。

 

(念話魔法をかけた。今なら念じるだけで声が伝わる。

 俺は外にいる何かに近づくが、大型動物ではない。竜かもしれない。

 竜の吐息(ブレス)に巻き込まれるのを防ぐため、お前は距離を取って待て)

(いいのですか?こういう時だからこそ、私が動くのでは)

(そこは俺の失敗だ。そもそもお前を偵察向きに育ててなかったのが悪い、だから俺が出る)

 

 後詰めとして今もなお動く気配のない外の相手に近づく。気づかぬうちに音を立てず去っているのであれば別に良いのだが……

 そろりそろりと洞窟の外に近づき、顔を出そうとした瞬間。穴の真横に隠れていた何かがこちらへ向けて、勢い良く黄緑色の液体を吹き付けて視界を奪う。咄嗟に腕で目を庇うも、ジュウジュウと焼けるような音が聞こえ、続いて鼻に強い刺激臭が届く。これは酸だ!

 しかしながら俺とメイドが身につける、ミスラル――鉄より硬くて軽い金属製の鎖帷子(チェインシャツ)に付与された強化特性は、火、冷気、電気、酸の各主要エネルギーに強い抵抗力を与える。不意を打った酸の攻撃は、音に反して周囲の壁面を焼いたのみで俺自身には全くダメージを与えていない。それを知ってか知らずか、洞窟の外からゆったりと入り口を半分塞ぐように竜が現れる。ニヤリと口元を歪ませる悪意に満ちた表情と、緑色の鱗をテカらせている目の前のドラゴンは間違いなく悪のグリーン・ドラゴンだ。人間に近いサイズから、魔法も使えない若竜(ヤング・ドラゴン)らしい。

 

「今の一撃を堪えるか、人間。だがお前が身に着けるミスラルは、俺が持つにふさわしい。今すぐ脱ぎ渡せば命は助けてやらんこともないぞ?」

「ワイヴァーンごときに手こずるようなドラゴンが脅しとは笑わせる、むしろ今からどう逃げるかを考えるべきだな。予想以上に想像通りで、ビビって損したよ」

 

 売り言葉に買い言葉。ドラゴンは俺の挑発に怯える様子もなく、飛翔して洞窟内からは見えなくなる。入り口から顔を出して様子を見ようとすると、かすめるようにドラゴンの爪が迫る。

 躱すまでもなく爪は鎧の装甲に弾かれるが、反撃よりも先にドラゴンはまた剣の間合いから飛び去ってしまった。空を飛べぬものには戦いの土俵に立つ権利なし、ドラゴンお得意のヒット・アンド・アウェイである。これとブレスを交えて常に射程外から攻撃するのが彼らのお家芸で、対策はこちらも飛行するか、接近に併せて攻撃を仕掛けるか、遠距離攻撃手段を使うのがベネ。

とはいえドラゴンは、弓を持ったところに熾烈な突撃を仕掛けてくる狡猾な知性を持ち合わせるのだが。

 少し考慮の後、チートから状況に合った魔法の弓を引き抜く。突撃されても大した危険はないし、あのサイズなら逆にスペック差でゴリ押しの格闘戦が仕掛けられる。

 続いて取り出した特別な矢をつがえようとしたところに、緑竜の急降下突撃が突き刺さる。竜の爪は狙い過たず俺の身体の中央を捉えるが、突き立った爪は鎧に僅かな傷をつけるのみで、しかも強い衝撃がかかったにも関わらず矢をつがえたままの姿勢でビクともしない俺を見て、ステータスを見誤ったことにドラゴンは気づくも、遅い。

 衝撃増加(コリジョン)のパワーに加え(イーヴル)に属するクリーチャーを誅伐する力を宿した矢が同じく(フレイミング)冷気(フロスト)電気(ショック)音波(スクリーミング)のエネルギーと“竜殺し(ドラゴン・ベイン)”を秘める弓よりゼロ距離射撃で放たれ、容赦なく若い竜鱗を貫いて内部でその力を解放し、爆発的な閃光を発する。

 

「グゥアーッ!お前これほどの武器をどこに隠し持って―――」

 

 ドラゴンは苦しむが、突撃のために攻撃寄りに崩れた姿勢はまだ復活していない。そして俺は加速(ヘイスト)の力で、既に二の矢を(つが)えている。弓矢の射程から逃げる時間も距離も足りず、せめてものとドラゴンは再び爪を振るうも俺の体をよろけさせることもなく弾かれる。伊達に数々の最上級の魔法のアイテムの加護と強化魔法を受けてはいない。

 怒りの唸り声と憎悪の形相に、俺は第二の矢を以って答えた。当然のごとく矢はドラゴンの鱗を撃ち貫いてエネルギーの爆発を引き起こし、それに耐えられなかったドラゴンの肉体は裂けるように崩壊した。

 

「と、このように賢い、あるいは狡猾なドラゴンは隙を突くことを躊躇わない。力押しではいずれ限界があるし、そこでマーミアにこの隙の庇い合いをお願いしたい。

 タイマンでは空を飛ぶドラゴンに矢を撃とうとしたところでこのように近づかれるが、複数人なら飛び上がって目の前を封鎖するだけで相手の動きはだいぶ変わるからな」

 

 若いとはいえ、巣には宝物を溜め込んでいたろう。その在り処が不明になったのは惜しかったかもと思いつつ振り返り、安全になったことを伝える。わずか一分にも満たない戦いだったが、本物のドラゴンと戦う上で基本的な要素が詰まっていた。

 

「いえ、あれを真似しろと言われましても、ただの力押しにしか見えませんでした」

「そうだ。実際はもう少し時間がかかるし、特に巨体でタフなドラゴン相手にさっきの動きはリスクを伴う。

 今回は相手が小さめだったから一気に勝負をつけたが、本来なら矢を十から二十本刺してようやく倒す相手だ。

 でも今後、状況次第で同じことをやってもらうのでそのつもりでいるように」

「そう言われても……私、弓ってどう使うのかよく分からないんですけど」

「矢羽を弦に(つが)えて、引いて、敵に向けて放てばあとは魔法の力の助けで当たる」

「そうなんですか」

「そうだ。第一俺も弓を使ったのはさっきが初めてだったぞ」

「ほへー」

 

 本当なら恐怖の象徴であるはずのドラゴンを一蹴した俺に呆れたような何とも言えない表情をするうちのメイドへたった今使ったばかりの弓と矢筒を持たせ、死体の片付けと宿営の準備に入った。この洞窟は丁度いいので竜の島における暫くの仮拠点に使うことにする。衛生は悪いがスペースさえあれば魔法の住宅が作り出せるのは魔法の素晴らしいところだ。お風呂を代表に細かいとこに手が届かないのが難点で、魔法があれば満足とはいかんがね!

 

 




8/1 ウーンディング/Wounding効果は弓矢に乗らなかったので、コリジョン/Collision効果に書き換え、およびスクリーミング/Screaming効果を追加して修正
8/3 グリーンドラゴンは秩序にして悪なのでロウフル武器能力の対象外。該当効果削除

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