Fate/EXTRA-NOCTURNE   作:ドラ

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丸一日お待たせしました、第一話。零話ですかね?
ともかく、物語の開幕と相成りました。長い目でお付き合い頂ければ幸いです。


Over Dream

―――意識が薄れる。視界は端から暗く染まり、全身を蝕む激痛はもはや許容できたものではない。

―――感覚が薄れる。為す術なく横たわる、わたしの四肢は爪先から散り散りになってしまったかのようだ。

―――存在(じぶん)が薄れる。明確な死を予感して、脳は思考を加速させる。消える寸前の蝋燭のように。尽きる直前の焔のように。

 

これを、おそらくは走馬灯と呼ぶのだと思う。

けれど、岸波白野(わたし)には懐かしむ過去も、想起する経験も、記憶から呼び起こすことができない。

だからこの脳裏を駆けていくのは、ほんの数日間の出来事だけ。今はなき仮初の日常。その時のわたしには、確かな現実だった夢。

 

ああ、そうだ。わたしはどうして、こんなところに這い蹲って、命の終わりを待っているのか。瞬きの間に振り返る時間くらいは、くれるらしい。

 

 

 

―――――――――

 

 

 

はじまりは、ほんの些細なことだった………と、思う。

断言ができないのは、今でも実感がないからだ。わたしは未だに、あれが本当に最初の違和感だったのか自信がない。

当時においては気付いたとも言えない、ほんの小さな疑問だった。よくは思い出せないけれど、あの日。

 

―――欠けた夢を、見ていた気がする。

 

どんな夢だったのか、もう分からない。ただ、それからわたしを微かな頭痛が苛み始めたことを覚えている。

もしかしたら、ストレスで悪夢を見ているのかもしれない。そう考えもしたが、ではストレスの原因は? ………やっぱり、分からない。思い出せない。―――或いは、そんなものはない。

だから、気にするものでもないと楽観できた。目を逸らしてしまえば、すぐに霧散するほどに儚い違和感だったのだ。

 

………だった、のに。

きっかけは前兆に。漠然とした予感はやがて、ノイズを伴って世界の色を変えていく。

気持ち悪い。吐き気がする。なんでもない、のんびりとした一日が我慢ならない。特別じゃない、変わり映えのない、ありふれた景色が怖ろしくて仕方がない。

そう、一日。一日か。おかしな表現ではないが、それって、いったい()()なのだろう? 今は何月何日で、わたしは昨日、どこでなにをしていたのだろう?

いつものように通学して、いつもと同じ授業を受けて、いつもの時間に家に帰って、それから―――気付けば、こうして通学路を学校に向けて歩んでいる。いっそどこか遠くに行ってしまいたい、とヤケになっても身体はいつものペースで歩幅を刻む。

 

疑問をひとつ抱くたび、眩暈で視界が白に覆われる。頭痛はいっそう強くなった。考えるほど堪えようのない悪寒が走った。焦燥感は心臓を押し潰し、身体は震え、手のひらはじっとりと汗ばんでいる。

たまらず、わたしは走り出した。なんでもいい、この言い知れぬ不安の突破口が欲しかった。校門で実施された/され続けた、風紀検査を置き去りにしてもいつもの景色は変わらない。

 

違う。これは、ここは違う。ここはもう、わたしの知っている学校(せかい)じゃない………!

理屈が見えないまま、本能が早鐘を打ち鳴らして止まない。ここにいてはいけない。わたしは、こんなところにいるべきじゃない。

逃げないと。醒めないと。でなければ、取り返しのつかないことになる確信がある。あるというのに、分からない。―――では、わたしの居るべき場所はどこなのか?

 

 

 

その答えを見つけられぬまま、いつの間にか放課後を迎えていた。朝からこっち、どう過ごしていたのかまるで覚えていない。それどころではなかったのだ。

頭痛は依然として増すばかりで、視界は今やセピアに色褪せノイズで曖昧にボヤけている。そんな中でも、学内の様子は変わる事がない。

自分だけが異物にでもなったかのようだった。二階にある自身の教室にいることすら耐えかねて、転がるように一階に駆け降りる。そこで、一際強烈な違和感に襲われた。

遠目にも見紛うはずのない、紅の学生服を身に纏った―――あれは、転校生のレオだ。彼が視界に入った瞬間に、その背中が放つ締め付けるような威圧感に挫けてしまいそうになる。

剥がれていく世界観(テクスチャー)の向こうに居ても、彼の色だけは鮮明に映った。レオはこちらを振り返ることなく、一階の教室の前を過ぎ去っていく。

 

………あの先は、どこにも続いていないはずだ。それを知った上で、わたしは縋るような思いで彼を追いかけた。その先に、この状況から抜け出す何かがあると信じて。

不気味なほどに静まり返った一年教室前を躓きながら走り抜け、廊下の先の角を曲がって―――目にしたのは、一面の壁。記憶(ちしき)に沿った行き止まりだけが、そこにはあった。

一筋差した光明にも見えた、レオの姿はどこにもない。彼は文字通り消えてしまった。置いていかれた。でもいったいどこに? 理性は絶望だと嘆いている。本能はこの先だと叫んでいる。

纏まらない思考のまま、無意識に壁に手を添える。ああ、行き止まりなのは間違いない。ないけれど、それはこの壁を指したものではない気がした。多分、この世界そのものが袋小路なのだ。

 

目を■■■な。この偽りの日常に先はない。

目を■■るな。目覚めたことにはきっと意味がある。

目を背けるな! 真実に目を凝らせ―――!

 

ようやく自分の意思で選び取った決意は、何の変哲もない壁を一枚の扉に塗り替える。

理解は出来ないが、わかってしまう。この扉を抜ければ、もう安寧の日々には戻れない。取り返しのつかない、という意味ではこちらも同じだ。

それでも、と手を掛ける。迷いはない。きっとわたしは、この先にある真実を確かめるために、長くて短い夢から覚めたのだ。

 

 

 

扉の先は、まさに異界と呼ぶに相応しい空間だった。この身を取り巻く空気も、無機質な景色も、ひんやりとした雰囲気も、なにもかもがあの校舎と違っている。

ふと、隣に圧迫感を感じて視線を移す。移して、思わず肩をビクリと跳ねさせた。表面のつるりとした、ヒトガタの人形がじっと佇んでいたからだ。その顔に表情は存在しないが、その方向を推測するにこちらを見ていると思われる。

小さく飛び上がってしまった気恥ずかしさに周囲に目を走らせていると、誰かが言った。これは、どうやらわたしの剣であり楯であるらしい。つまり、現れるであろう外敵から護ってくれる……ということだろうか?

相変わらず理解は追いつかないが、何をすべきかは無遠慮に示された。この人形―――ここはドールと呼ぶことにする―――と共に先に進み、どこかに辿り着いた暁に、為すべきことがあるはずだ。

 

しかし、この道。意外にも距離が長い。わたしのやや後方を追走するドールは問題ないだろうが、人によっては苦労するだろう。

その点、わたしは持久走にはちょっとばかり自信があって助かった。人一倍体力があるわけでも足が速いわけでもないものの、我慢強さと諦めの悪さでは基本負けないと思う。それくらいしか誇れるものがない、とも言う。

自分で言っていてなんだか悲しくなってきたので、あとは無心で足を進めることにした。その辺り、フォローや心的ケアの機能は、このドールにはないらしい。喋らないですもんね、あなた。

 

 

 

やがて、果ての見えない通路はひとつの開けた空間に繋がった。

ステンドグラスの貼り巡らされた、息苦しさすら覚える荘厳に過ぎる空間。こんなところにわたしが足を踏み入れているなんて、ひどく場違いに思える。

今、この時代には喪われた、神霊の宿る聖域。訪れるべき終着点。ここが、ゴールだ。

 

そこに、誰かが斃れていた。

名前は知らない。話したことも、ないと思う。けれど、見覚えのある男子生徒だった。

声を掛けてみても、返事どころか微動だにする様子もない。ならば、と揺すり起こそうと身体に触れて気が付いた。―――ああ、なんて、冷たい。

察せざるを得ない事実に、血の気が引く。次第に落ち着きを取り戻していた気が動転し、立ち上がって数歩後ずさる。

と。距離を取ったからか、彼の傍に膝を突いて項垂れたドールが沈黙しているのが目に入った。………そういう、ことなのだろうか。彼のドールは何者かに敗れ、そして彼もまた。

 

―――! いや、と思考を止める。ガラクタ同然の気配を発していた彼のドールが、不意にカタカタと音を響かせて立ち上がったのだ。

それは頭部を此方に向け、少しだけ腰を落とし、力を込めて、わたしへと突進してくる! このドールは、このドールこそがわたしの敵なのか!

わたしの傍らでただ立ち尽くしているだけの我がドールに、声を詰まらせながら指示を出す。と言っても、満足な指揮など出来ようはずもない。ただ護ってほしいと懇願するに等しいものだ。

そして、そんな言葉だけでは太刀打ちできない相手でもあった。同じドールでも性能差があるのか、闇雲に足掻くだけのわたしが悪いのか。

いずれにせよ、わたしの前に立ちはだかってくれていたドールはあえなく粉砕され―――無防備なわたしに、鋭利な腕が迫りくる。

 

ずぶり、と体内になにかが入り込む感触。皮膚を裂き、肉を貫き、ドールの腕はわたしにひとつの穴を穿った。

全身が硬直するほどの激痛に、悲鳴すら上がらない。自然、立っていることなど儘ならず、硬く冷たい床にこの身を投げ出した。

 

 

 

―――――――――

 

 

 

そして、今だ。この床と同じく、冷たくなっていく意識(じぶん)をどこか客観的に眺めながら、短い追想を終える。

どこからか、遠く脳裏に響く声があった。

 

『―――ふむ。君も、駄目か』

 

………君も?

その言葉に引っ掛かって、重い瞼を抉じ開け周囲に目を向ける。そこには、土色の塊がいくつも浮かび上がった。

いや、こうして意識して初めて見えただけで、元からずっとあったのだろう。それは、男女問わず幾重にも重なり果てた学校の生徒たちだった。

先程の彼だけではなかったのだ。ここまで辿り着き、しかしどうにもできず、力尽きて逝った者たちは。

………そして間もなく、このわたしも彼らの仲間入りをするのだろう。

 

『そろそろ刻限だ。君を最後の候補とし、その落選を以て、今回の予選を終了しよう。さらばだ、安らかに消滅したまえ』

 

消滅。実感はないが、言葉にされると重くのしかかるものがある。

けれど、それを否定する力はどこにもない。―――このまま目を閉じてしまおうか。やれるだけのことはやったのだ、もう終わりにしていいのかもしれない。

 

でも、諦めたくない。往生際悪く手足に力を込めてみる。しかし、ダメだ。身体は痛みに動作を拒み、ピクリとも動く気配がない。

それならば、仕方ない。仕方ないから、諦める? いや、それでも………違うと思う。それはまだ、諦めていいことには繋がらない。

その間も激痛は全身を駆け巡り、ちょっとやそっとの辛抱強さで許容できる範囲を大幅に超えている。この痛みが地獄の拷問だとしたら、わたしは疑わず頷くだろう。

 

それでも。

 

正直なところ自分でも、その強迫観念にも似た衝動はよく分からない。

死への怖れから来るものでは、おそらくない。むしろもう楽になってしまいたいと思う気持ちは確かにある。あるのに、分からない。

そうだ。理由は分からない。なぜ殺されるのか、分からない。なぜわたしがここにいるのか。

 

そこまで考えて、急に頭の靄が晴れたように思い至った。不思議なほどストンと胸に落ちて納得する。結局は、きっとそれだけだ。

分からないまま無意味に消えることが、わたしはどうしても認められないらしい。ここで消えてしまうのなら、あの頭痛は何のために。彼らは、何のために。

その疑問を放り出して、分からないで済ませるわけにはいかない。だから、ここで諦めるのは違うと思う。

傷は痛い。死ぬのは怖い。それは自然なことだ。それはいい。痛いままでも、怖いままでも構わないから………考えないと!

 

たとえこの先に避け得ぬ死があろうとも、今ここで膝を屈していい理由にはならない―――!

 

「―――そうか。なら、僕が君にチカラを貸そう。君はいま、新しく目を覚ました。起き抜けの世は理不尽と絶望に塗れていて、心を砕く出来事は枚挙に暇がない。

 それでも、自らの在り方すら儘ならなくとも何かを知りたいと願う君は、或いは誰より強欲と呼べるだろう。………ああ、僕は好ましく思う。その一握りの欲を忘れずにいてほしい」

 

声が聴こえる。感情の篭らない、平坦な声色の―――けれど、たしかな敬意に満ちた声。

 

「まだ、この結論では頷けない。それだけで、這ってでも前に進むコトを止めない君に。きっと、誰より相応しいサーヴァントが、最後に一騎残っている。このチカラを、うまく使ってみせるんだ」

 

その言葉を皮切りに、ガラスの砕けるような音と共に薄暗かった空間に眩い光が奔る。

軋み、悲鳴をあげる身体を無理矢理に動かし、離れ逝く意識をしがみついてでも繋ぎ止めながら、その先に目を凝らした。

光が何かを形作る。それはやがて、ひとつの明確な実体を伴って、わたしの前に現れた。

 

外見からして、異質極まるものだった。

いや、姿かたちこそ、ヒトと大差ないものではある。あるが、全身は発光する緑で縁取った黒い模様、刺青にも見えるモノに覆われている。

ここからは後姿しか見えないが、その後頭部からはツノのようなものが突き出ていた。

何より、ドールなどとは比べ物にならないほどの、人間を超越したチカラ。触れただけで蒸発してしまいそうな、圧倒的なまでのチカラの滾り。

それがあの細くしなやかな体躯のなかに轟々と渦巻いているのが、否が応にも感じられる。その威圧だけでジリジリと肌を灼かれているようだ。

 

「さて………考えてみれば、不思議なこともあるものだね。この霊子虚構世界(SE.RA.PH.)においては、マスターに適したサーヴァントが選出される。

 なら、僕が選定の間に立つことほど無意味なことはない。SE.RA.PH.に限って、間違っても僕を呼び付けることなどあり得ない。………そう思っていたけど」

 

彼―――というのは、声で判断するしかないが―――の言っていることは、やっぱり少しも理解できない。

此処まで来るとわたしの理解力に疑問が残るが、今は据え置くとして。

 

「兎も角。―――サーヴァント、()()()()()()()。その信念に従い()()した。君の小さくも揺るがない欲を糧に、不条理な世界を壊す者だ。間違っても真っ当な英霊じゃない。それでも………君のような者が、僕のマスターか?」

 

と、言われても。激痛にあえいでいるわたしには、まるでピンとこない問いではある。

けれど、答えは決まっている。勿論、選択肢がないから諦めてこう答えるのではない。わたしは、わたしの意思で、彼へとその手を伸ばすんだ。

 

―――はい。きっと、わたしがあなたのマスターだ。

 

「じゃあ、契約成立だ。君の欲が果たされるのか、塗りつぶされるのかはわからない。けど、その結末(おわり)の時まで、()()僕の憎悪と憤怒をも預け、共に戦うと誓おう」

 

彼の、ひどく冷たい手に引かれて立ち上がる。と、握られた手の甲に僅かな熱を感じた。てのひらとの温度差が、いっそう強く感じさせる。

………鈍い痛み。ここに何かを刻まれたようだ。視線を落としてみると、3つの模様が組み合わさった紋章のような、奇妙な印があった。刺青の如く皮膚に浸みこんでいる。そう、たとえば彼の全身に走るタトゥーのように。

それと引き換えに、身体の痛みはいつの間にか和らいでいた。展開に追いつけず、己の手の甲とアヴェンジャーと名乗った彼を交互に見遣る。状況に振り回されてばかりで、すこしも落ち着かない。

今も、頭を整理する時間はもらえないらしい。もう充分に待った、とばかりにわたしを殺しかけたドールが改めて身構える。………先程の惨敗を思い出して、無意識にたじろいでしまった。

 

「恐れることはない。仮に、これが先手を打って取り囲まれていれば死ぬ他ないと思う。けど、そうじゃないなら―――勝負にもならない。君の思うままに、怨みを込めてアレを壊してしまおうか」

 

アヴェンジャーはわたしとドールの間に割って入るように立ち。けれど、言葉とは裏腹にじっと相手を見て佇んでいる。あのー、アヴェンジャーさん?

ドールのほうはもう今にも飛びかかってきそうな体勢で………! とか思ってる間に突進かけてきているわけなのだけども。それでも彼は動かない。さっきのマイドールよりも動かない!

声を掛けてみても、『問題ない』と一言返ってくるのみで。迫るドールはお構いなしに、その腕を鞭のようにしならせて―――パシッと、立ちはだかる彼を吹き飛ばした。

 

う、ウソでしょ―――!!!?

 

そのまま、ドールは無機質な腕をわたし目掛けて振りかぶる。数分前の激痛を思い出して、息を呑んで瞳を硬く閉じる。

視界は暗闇に覆われて、追ってあの衝撃が―――こない。代わりに飛び込んできたのは風を切るような鋭い音と、金属を叩きつけたような轟音。

恐る恐る目を開けて、状況を確かめてみると。頬を赤く腫らしたアヴェンジャーが、ドールの頭を床にめり込ませているところだった。

 

「いや。僕ともあろう者が、油断した。これは随分と勝手が違う………すこし、初心に帰ったほうが良さそうだ」

 

ひとり納得している様子の彼に、わたしは呆れるやら困惑するやら安堵するやらで、どんな顔をしていいのかも分からない。

そんなわたしを余所に、アヴェンジャーはドールを何度も執拗に殴りつけて粉々に砕いていく。いや、えっと、なにもそこまでしてもらわなくてもいいですよ?

でも、とりあえず、ありがとう。そう伝えようとして―――急激に全身から力が抜けて、わたしは膝から崩れ落ちた。

 

『まずは、おめでとう。傷つき、迷い、辿り着いた者よ。主の名のもとに休息を与えよう。とりあえずは、ここがゴールということになる』

 

よく聞こえない。意識が白く焦がされるようだ。辛うじてアヴェンジャーに抱き起される感覚と、響く言葉の節々が聞き取れる。

 

『誇りたまえ。君の機転は、臆病ではあったが蛮勇だった』

 

………あらためて注意を傾けると、その声はどことなく癪に障る。

今はそれどころではないというのに、嫌味を含んだ台詞に文句のひとつもつけてやりたい。無論、そんな余裕はないのだけど。

 

『―――これもまた異例だな。君に、何者からか祝辞が届いている。“光あれ”と』

 

すべてを聞き取れたわけではないが、どうも誰かから祝福されているらしい。

どこの誰かもわからない、見知らぬ何者かから贈られた言葉。………たった一言のそれがどうしようもなく胸を衝くのは、きっと込められた気持ちが真実だからだ。

ただ“君に期待する”と。それは短くても、清い祈りのような言葉だった。

 

『聞け、数多の魔術師よ。己が欲望で地上を照らさんと、諸君らは救世主たる罪人となった。ならば殺し合え。熾天の玉座は、最も強き願いのみを迎えよう―――』

 

その声は正しく主の御言葉のように、不視の伽藍に響き渡った。

魔術師。殺し合い。熾天の玉座。そんな、止め処なく増していく疑問をこの身体に刻み付けるように。

 

『君の決断は、既に見せてもらった。もはや疑うまい。その決意を対価とし、聖杯戦争への扉を開こう』

 

その時。手の甲の印―――令呪というらしい―――が、猛烈に痛みを増した。

身体から生気だけを根こそぎ抜き取ったような虚脱感も、一向に収まる気配がない。

ダメだ、もう耐えられない。限界が来て、意識が白く塗りつぶされて気を失う。

 

その、直前に。あの声の、最後の言葉が聴こえた。

 

『では、聖杯戦争を始めよう。月に招かれた、電子の世界の魔術師たちよ。汝、自らを以て最強を証明せよ―――』

 

ここに、物語は幕開ける。至る結末は月の光か混沌か。今は誰も知る者もなく、少年少女は束の間の微睡みに身を預ける。

そう、まだ、何も知らない。岸波白野(じぶん)は誰なのか。この世界は何なのか。そして、連れているサーヴァントが、【アヴェンジャー】の名が何を示すのか。焔は未だ、燻るばかり。




ザビが契約する英霊は反英雄と相場が決まっているのデス。

感想、評価等はどうぞお気軽に。二話目はもう暫しお待ちください。
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