ALO:Rhinemaiden   作:小糠雨

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1st Act / キャリバー I:まあホワイトなんでしょうね。今どき珍しい。

 

 ――二〇二五年、一二月二八日。午前九時三〇分。

 仕事が正月休みに入り、朝食後になんとなくつけたテレビの画面――年末特番らしい――をこたつでボーッと見ていた壺井遼太郎の携帯端末が着信を告げた。

 

「――おう、キリの字か? どした? は? 響子? 居るけど、それが――何ィ!? そんなん行くに決まってンだろ! おう。おう、一〇時だな!」

 

 通話を終えた遼太郎はこたつの上に置いていたカップのコーヒーを一気に飲み干し、隣の部屋へ声をかける。

 

「響子ー! 今からALOいけるかー?」

 

 すると引き戸が開き、癖の無いプラチナブロンドのロングヘアーに(みどり)の瞳、褐色の肌の女性――少女と言っても通るかもしれない――が顔を出した。読書中だったらしく、フレームの細いアンダーリム眼鏡をかけている。

 

「いけるけれど……何、急に?」

 

 彼女は羽渕(はねぶち)響子、一九歳。

 父方の祖父が日本人で他は欧州圏の血がいろいろ混ざっているため容姿は日本人離れしているが、生まれも育ちも日本。細身で背はそれほど高くない。

 また、知人一同からはいまだに不思議がられているが、()()()()()()()()()。三年前に巻き込まれた事件にて彼と出会い、紆余曲折を経た後付き合い始め、今では同棲にまで至っている。至っているというか、彼女がガンガン押してなし崩し的にそうした。

 本当ならば、同棲どころか年齢的にはイケるわけだから結婚してしまいたい、というのが彼女の本音だが、やむを得ない事情により叶っていない。

 

「キリの字が伝 説 級 武 器(レジェンダリーウェポン)取りに行くらしくてよ。付き合わねェかとさ」

 

伝 説 級(レジェンダリー)? 和人が欲しがりそうなのっていうと……エクスキャリバーかしら?」

 

「当たり」

 

「ちなみに遼太郎さんは行くの?」

 

「ったりめえよォ!」

 

「そう。なら行くわ。今すぐ?」

 

「一〇時にリズベット武具店に集合らしいから……そうだな、できりゃーすぐだな」

 

「りょーかい。じゃあ行きましょうか」

 

 眼鏡を外して扉の向こうに引っ込む響子。それを追って遼太郎もまたその部屋――寝室――に入り、二人並んでベッドに寝転ぶ。

 頭には、ヘッドギアめいた機械、《アミュスフィア》を装着している。

 

『リンクスタート!』

 

 そして二人の意識はネットの海――VRMMORPGアルヴヘイム・オンラインへと飛んでいく。

 

 

 

 

 ★

 

 

 

 

 いかに日曜日とはいえ、年の瀬の午前中に八人ものメンバーがすんなり集まったのは、召集をかけた影妖精族(ス プ リ ガ ン)キリトの人徳――ではなく、今回の目的たる伝説級武器《聖剣エクスキャリバー》がネットゲーマー魂をくすぐったからだろう。

 イグドラシル・シティの目抜き通りに看板を出すリズベット武具店。集合場所となったこの店の工房では、鍛冶妖精族(レ プ ラ コ ー ン)の店主リズベットが皆の武器を順に回転砥石に当てている。大掛かりなクエストに挑む際、途中で武具の耐久度が切れて壊れましたでは困るどころの騒ぎではないため、事前に耐久度を最大まで回復させておくのが常道なのだ。

 一方で、リズベット以外の面々は自由に寛いでいる。

 景気付けと称し、壁際のベンチで胡座をかいて酒瓶を煽っている遼太郎――このALOでは火妖精族(サ ラ マ ン ダ ー)のクラインというキャラクターだ――に、猫妖精族(ケ ッ ト シ ー)の獣使いシリカが尋ねる。

 

「クラインさんは、もうお正月休みですか?」

 

「おう、昨日っからな。働きたくてもこの時期は荷が入ってこねーからよ」

 

「年末年始に一週間も休みがあるんだからウチは超ホワイト企業だ、って毎年毎年自慢してるわよ、あのアホ社長」

 

 クラインの言葉を引き継ぐように言ったのは、彼の隣に座る音楽妖精族(プ ー カ)のウォクス。現実での容姿ほぼそのままの、ALOでの響子である。

 さて、知り合ってから数えて未だ三年というところ、しかもうち二年は現実世界に居られなかった彼女が、何故社長が毎年自慢していることを知っているかと言うと。

 

「クラインとこは輸入商社だっけか?」

 

「そうよ。規模は極小、お給料はお察しだけど、福利厚生はしっかりしてるってアホ社長が自慢してたし、何よりアホ社長がアホほどお人好しに過ぎるから、まあホワイトなんでしょうね。今どき珍しい」

 

「誉めてるのか貶してるのかわかりにくいな……」

 

「誉めてるわよ、多分」

 

「多分て。()()()()()()()なんだから確定で誉めてやれよ」

 

「やーよ。あのアホが反対したせいであと二年も待たなきゃならないんだから」

 

 この通りである。何の偶然か、クラインの勤め先の社長はウォクスの父親だったのだ。

 自分の娘もかの事件に巻き込まれたゆえか、はたまた生来のお人好しゆえか、クラインが現実に帰還した際は彼の面倒をきちんと見てしっかり職場復帰もさせている。

 ついでに娘のゴリ押しに負けて同棲を許し、決して多くはないが彼女に生活費を支給してもいる。一人の社員にそこまでして問題にならないのかという懸念はあるが、そこはそれ、娘への仕送りという(てい)である。タテマエはタイセツなのだ。

 ただし条件として、結婚は今の学校を卒業するまで禁じられたが。それがいたく不満らしい彼女は父親に感謝しつつも文句たらたらなのである。

 

「つーかよ、なんでオメエが答えてんだよ……」

 

「いいじゃない別に。間違ったことは言ってないでしょう?」

 

「まあそうだがよ……。

 っと、そうだキリの字よ、もし今日ウマイことエクスキャリバーが取れたら、今度オレ様のために《霊刀カグツチ》取りに行くの手伝えよ」

 

「えぇー……あのダンジョンくそ暑いじゃん……」

 

「それを言うなら今日行くヨツンヘイムはくそ寒いわよ。ワタシ寒いの苦手なのよねー」

 

「じゃあ留守番するかよ?」

 

「するわけないでしょう」

 

 などと程度の低い言い合いに発展していく中、キリトの左隣からぼそっとひと言。

 

「あ、じゃあ私もアレ欲しい。《光弓シェキナー》」

 

 三人ともが言葉を詰まらせてそちらを見遣る。

 キリトと同じような姿勢で壁に背中を預け、腕組みをして立つのは、水色の髪の猫妖精族のシノン。最近ALOを始めてキリトらの仲間に加わった女性プレイヤーだ。

 同じ猫妖精族でもシリカは人懐っこいマンチカンのような雰囲気だが、シノンはクールさと獰猛さを備えたヤマネコを思わせる。

 

「き、キャラ作って二週間でもう伝説級武器を御所望ですか」

 

「リズが作ってくれた弓も素敵だけどさ、できればもう少し射程が……」

 

 キリトのお伺いにシノンが答えると、工房奥からリズベットの声が飛んでくる。まさにその弓の弦を張り替える作業中だったようで、砥ぎと違って静かなため聞こえていたらしい。

 

「あのねぇ、この世界の弓ってのは、せいぜい槍以上魔法以下の射程で使うもんなんだよ! 一〇〇も二〇〇も離れた位置から狙おうなんて普通しないの!」

 

 対してシノンは肩をすくめ、

 

「でも欲を言えば今の倍くらいは欲しいわ」

 

 ALOで弓使いと言えば、機動力のある風妖精族(シ ル フ)でショートボウを使うか、腕力と耐久力に秀でる土妖精族(ノ ー ム)でヘビーバリスタ装備の砲台になるかが定番だ。

 が、彼女はそれを無視して、射程特化のロングボウを、九種族中最高の視力を持つ猫妖精族で使うというビルドを選択。本拠であるガンゲイル・オンラインでは対物ライフルを用いて距離二〇〇〇にも及ぶ超々ロングレンジ狙撃を得意とする彼女、こちらの世界でもどうしても狙撃がしたかったのである。

 この世界の弓矢は適正距離を超えるとシステムアシストによる命中補正が無くなるのだが、彼女はそんなものは知ったことかと言わんばかりにバスバス当てる。少し練習しただけで、おそらくALOでは唯一の、物理による長距離狙撃が可能なプレイヤーとなったのであった。

 

「あ、あはは……そうだ、ウォクスさんは欲しい武器とか無いんですか?」

 

「ワタシ? そうねえ……特に無いわね。今判明してる槍の伝説級武器ってスピアだし、ワタシには今使ってるのが一番よ」

 

「言っとくけどアンタが全ALOプレイヤー中一番頭おかしいスタイルだからね?」

 

 シリカに問われたウォクスは興味なさげに返したが、そこにまたしてもリズベットの声が飛んだ。

 

「自覚しているけれど、これが一番やりやすいんだから仕方ないでしょう? 今更他の装備なんて考えられない」

 

 彼女の装備は、左手に太くて巨大なランス、右手に短 槍(ショートスピア)

 ランスの方はリズベット作の、白銀のランス。短槍の方は、これまたリズベット作の、見た目は少し柄の長い両刃の片手直剣、という風な黒い短槍。

 かつてソードアート・オンラインというゲームに閉じ込められた際から続けているスタイルだった。

 

「や、装備も頭おかしいけど、アンタは種族とプレイスタイルが合わなさすぎなのよ」

 

 ウォクスの種族は音楽妖精族。

 これはHPが低く、防御も紙で、MPは全種族中最高という調整をされている。豊富なMPを使って種族固有スキルの「歌」を謳い、味方にバフをかける後方支援系の種族だ。種族間の抗争もまたALOの醍醐味であるため前衛をやる音楽妖精族も居るのは居るが、耐久力の問題でたいていはいわゆる魔法剣士スタイルになる。

 

 しかし、ウォクスは――多くの旧SAOプレイヤーと同じく――()()()()()

 

 彼女は貧弱なHPと防御力をものともせず敵に突っ込み、両手の槍で暴れ回る。そして豊富なMPは主にソードスキルを連発するために用いられる。

 

 ――ところで、このALOというゲームでは、筋力や敏捷等の数値がウィンドウに明示されない。ある装備が装備可能かどうかの境界も曖昧で、“楽に扱える”から“やや重く感じる”、“身体が振り回される”、“持ち上げるのも困難”、“びくともしない”へと無段階的に移行する。

 故に、持ち上げることさえできるならば装備自体はできる――扱えるかどうかは別として。

 しかし、システム上では数値で管理されているはずで、アバターの種族や体格で決定されるその数値を装備やスキル等で補正する。

 最も違いが出るのは、種族熟練度を上げることで得られるボーナスポイントでの補正だ。

 種族熟練度が上がること自体ではステータスは変化しないのだが、これを一〇上げるごとにポイントが一得られる。このポイントはHPとMP以外の各ステータスに振り分けることが出来、その上限は無い。種族熟練度は一〇〇〇まで上がるので、得られるポイントの上限は一〇〇だが、これをひとつのステータスに極振りするのもいくつかに分散するのもプレイヤーの自由だ。

 まあ、先に述べたようにステータスが数値として見られないため、このポイントによる補正がどういう計算式でどうなっているのかはわからないのであるが。

 

 話を戻して、彼女は旧SAO時代のスタイルを再現するために、ボーナスポイントの振り方もあの頃のビルドに合わせている。筋力と敏捷が四:六くらいの割合だ。装備やスキルによる補正もおおよそそのようになる構成にしている。

 こうして得られた高めの敏捷値に加え、かつて二年間もVR空間にダイブし続けたことで鍛えられた彼女の反応速度――この場合はアミュスフィアからの信号を脳が処理して運動信号を発するまでの速度――はキリトほどではないがかなり速い。おかげで、敏捷値だけでなく反応速度もアバターの運動速度を決めるファクターとなるALOにおいて彼女の動きは素速く、「当たらなければどうということはない」をある程度実践してのけている。

 加えて、SAOからキャラクターデータを引き継いだ彼女の槍スキル熟練度はカンストしている。武器スキル熟練度は数値に応じて攻撃のスピードと威力に補正がかかるため、攻撃時、特に突進のスピードは目で追うのも難しいほど。

 結果として、「中量級の後衛種族でそれほど敏捷値が高くないはずの音楽妖精族がとんでもないスピードで突っ込んで二槍で敵を薙ぎ倒す。しかも避けまくる」という、一般プレイヤーからすれば非常識にも程があるビルドになっているわけである。

 

「ていうかさ、もう半年以上経ってて今更なんだけど、なんでアンタ音楽妖精族なんか選んだわけ? 敏捷値的に影妖精族とか猫妖精族とか闇妖精族(イ ン プ)とか、そういうのにするかと思ってたのに」

 

「そりゃあ、あれよ。歌でバフをかける、っていうのに惹かれたの」

 

「歌ぁ? そりゃ確かにアンタは歌上手いけど……え? それだけ?」

 

 かつて彼女が、ホームとしていたアインクラッド一〇層主街区・ルールライ――大河の両岸に煉瓦造りの建物が並んでいた――の橋の上でよく歌っていたのを、リズベットは知っていた。クリア間際には扱いが知る人ぞ知る観光スポットめいていたくらいである。

 

「それだけよ?」

 

 ガクッと崩れ落ちるリズベット。

 それと時を同じくして――

 

「たっだいまー!」「お待たせー!」

 

 工房の扉が勢いよく開いて、水妖精族(ウ ン デ ィ ー ネ)と風妖精族の少女が入ってきた。水妖精族がキリトの恋人のアスナ、風妖精族がキリトの妹のリーファだ。

 ふたりとも彼に頼まれてポーション類の買い出しに行っていたのだが、買ったものをストレージに格納せずに運んできたらしい。バスケットから色とりどりの小瓶や木の実が取り出されてはテーブルに積み上げられていく。

 アスナの肩からは、いかにも妖精といった手のひらサイズの少女が飛び立ち、キリトの頭に座った。ナビゲーション・ピクシー――ということになっているトンデモ性能AI――のユイ。キリトとアスナの娘だ。

 

「買い物ついでにちょっと情報収集してきたんですが――」

 

 ユイ曰く。

 エクスキャリバーがあるはずのダンジョン――以前キリトが偶然発見し、しかし仲間内以外にその情報は公開しなかった――に到達できたプレイヤーやパーティーは()()()()()

 が、今回こうして集まったのは他でもない、エクスキャリバー発見の報がネットワーク上を駆け巡ったからである。

 ではどうしてエクスキャリバーのある場所がわかったのか。実はエクスキャリバーそのものが目撃されたわけではなく、エクスキャリバーが報酬として提示されるクエストが発見されたらしい。

 

「でもよぉ、ヘンじゃねえ?」

 

 とうとう火酒を一瓶飲み干してしまったクラインが、口を拭いつつ口を挟む。その横ではウォクスがストレージから新しい火酒の瓶を出してクラインの前に置いていた。まだ飲む気らしい。

 

「聖剣エクスキャリバーってのは、おっそろしい邪神がウジャウジャ居る空中ダンジョンのいっちゃん奥に封印されてんだろ? それをNPCがクエの報酬にするってどういうこった?」

 

 受け取った瓶を傾けながら、ついでに首も傾げて彼は言う。

 ちなみに、邪神がウジャウジャ居るという情報は、随分前に様子見で乗り込んだキリト、アスナ、リーファがもたらしたものである。

 

「言われてみれば、そうですね」

 

 シリカも、自身の相棒たるモフモフした小竜ピナを抱きかかえたまま首を捻った。

 

「ダンジョンまで移動させてくれるっていうならわかりますけど。ほら、ヨツンヘイムって飛行禁止エリアなのに、例のダンジョンは飛ばなきゃ行けない位置なわけですし」

 

「シリカに同意するわ。正直、ワタシたち以外にあそこまで行ける連中が居るとも思えないわけだしね。

 敵を、それもおっそろしい邪神を助けようなんて考える物好きなプレイヤー、リーファくらいのものよ。報酬がダンジョンへの転送って方がよほどしっくりくる」

 

「ウォクスさん酷い! あんなにかわいいのに!」

 

「かわいいのはワタシも認めるところだけれど、そうじゃなくて、おそろしいのはステータスの話よ。

 ただでさえ死を覚悟して戦わなきゃいけない邪神同士が潰し合ってる状況だもの。便乗してどっちも倒す、あるいはドサクサで撤退する――普通はそんなものじゃないかしら?」

 

「それはそうだけど……」

 

 口の中でブツクサと呟き始めたリーファは放っておいて、ウォクスは今度はユイに話を振る。

 

「まあそれはともかく――ユイちゃん、クエスト報酬はエクスキャリバーなのよね? ダンジョンへの移動じゃなくて」

 

「はい。クエストを発生させるNPCは、報酬にはっきりとエクスキャリバーを提示しています」

 

「なら――考えられるのは、『あのダンジョンにあるエクスキャリバーが偽物』、『報酬として提示されたエクスキャリバーが偽物』、『クエストクリアでダンジョン最奥からエクスキャリバーが転送されてくる』。これくらいかしら?」

 

 口では「エクスキャリバーをやる」と言っておきながら、実際はブツがある危険地帯まで連れて行って「欲しくば自ら取ってこい」と言う――なんて手法は、現実ならばともかくゲームの仕様としては考えづらい。炎上は免れまい。

 まあ、偽物を渡されるというのも、大炎上しそうな案件ではあるが。それでもどちらがより有り得るかといえば、偽物だろう。

 

「三つ目の可能性は無いと思うけど――ま、とにかく行けばわかるわよ。そのクエストを受ける気は無いんでしょう?」

 

 どこまでも冷静なシノンがそう言い、

 

「ああ。俺たちは直接ダンジョンに乗り込む。違ったらそん時は大人しく諦めるさ」

 

 と、キリトが返した直後。工房の奥でリズベットが叫んだ。

 

「よーっし、全武器フル回復ぅ!」

 

『おつかれさま!』

 

 全員でねぎらいの言葉を唱和。新品同然の輝きを取り戻したそれぞれの愛剣、愛刀、愛弓、愛槍を受け取り身につける――ただしウォクスは、ランスの方はストレージに仕舞った。

 何故なら、彼女は槍を腰の後ろに、柄が下を向くように斜めにして吊すのだが――ランスは長すぎてリズベット武具店の入口に(つか)えるからだ。外に出てから改めて吊さねばならない。

 それから各々がポーション類を腰のポーチに収納。オブジェクトで持ちきれない分はストレージに仕舞っておく。

 午前十一時。準備を完了した八人と一人と一匹は、イグシティの真下のアルン市街地から地下世界ヨツンヘイムへと繋がる秘密のトンネルを目指し、気合いを入れて工房を発った。

 

 

 

 

 ★

 

 

 

 

 ローブめいた長い衣装。背中から足許まで波打ち流れる金髪。何より特徴的なのは、三メートルはあろうかという巨体。

 

 かつてキリトとリーファが助けた、象のような水母のような躰に蟲めいた翅が生えた邪神――トンキーに乗って飛行すること暫し。トンキーと同種の邪神がプレイヤーと巨人型邪神によって虐殺されていく光景を目の当たりにしたキリト一行の目の前に、巨大な金髪美女が現れた。

 

「で――でっけえ!? でも美人ぐはぁっ!?」

 

 そしてほとんど反射で叫んだクラインは、ウォクスの肘鉄を食らって崩れ落ちた。

 

「クライン?」

 

「お、おう、いや、あのな?」

 

クライン?

 

「……すみませんでした」

 

 貼り付けたような満面の笑みのウォクスの気迫に、クラインは正座して項垂れることしかできなかった。

 

「私は、《湖の女王》ウルズ」

 

 そして巨体の金髪美人はそんな二人を完全に無視して話し始めた。傍から見ているキリトたちにとってはシュールの一言に尽きる。

 

「我らが眷属と絆を結びし妖精たちよ。そなたらに、私と二人の妹から一つの請願があります。どうかこの国を、霜の巨人族の攻撃から救って欲しい」

 

 そうしてウルズが“請願”について話し始めたのだが。

 

「ねえクライン、ワタシ、そんなに魅力が無いかしら?」

 

「いやいやいやそんなこたぁねえよ!? 魅力の塊だって!」

 

「本当に? その割には、よく目移りしてるわよね。この間も、街で美人なアバターと擦れ違ったときに鼻の下のばしてたし」

 

「いや、あれは――」

 

「ワタシ、言ったはずよ? 本や映像作品なんかは別に気にしないけど、浮気は嫌よ、って」

 

「わぁってる。覚えてる」

 

「じゃあ、せめてワタシと一緒のときは、例えNPCでもワタシ以外にそういう反応するのはやめて欲しいわ。結構傷つくのよ?」

 

「はい! すみませんでした!」

 

 この二人、まるで聞いちゃいなかった。

 

「おーい、そろそろいいかー?」

 

「あら、話は終わったの?」

 

「とっくに終わったよ」

 




 ボーナスポイントのくだりやアインクラッド一〇層のくだり等は捏造です。
 キャリバー篇はほぼ書き終わっているのでそれなりに早いと思います。
 それ以降は興が乗ったら続きます。乗らなければ続きません。

 以下、ファンタジーっぽい装備を捏造した主人公の簡単な設定。


ウォクス(Vox)/羽渕響子
一九歳
 髪:白金
 瞳:碧
 肌:褐色
身長:一五八センチ
装備:
右腕:短槍(ショートスピア)《ネッカー》
   ……黒い短槍。
    全長一二〇センチ。
    うち刃渡り六〇センチ。
    どう見ても槍というより剣。
左腕:騎兵槍(ランス)《イストロス》
   ……白銀の騎兵槍。
    最大直径三〇センチ。
    全長二メートル半。
 頭:《音楽妖精の羽根飾り》
    ……種族の象徴。
     特に効果は無い。
 胴:《ノースリーブシャツ》
    ……黒。
     形状はタンクトップに近い。
   《シレーネジャケット》
    ……飛行時最高速度上昇。
     歌スキル効果上昇。
     白いノースリーブジャケット。
   《シレーネフォールド》
    ……飛行時旋回力上昇。
     歌スキル効果上昇。
     白い腰布。
     前面以外を足元まで覆う。
 腕:《グラムの腕甲》
    ……筋力上昇。
     左腕のみを覆う籠手。
 脚:《ショートパンツ》
    ……黒。
     丈はもはやホットパンツ。
     黒いサイハイもセット。
   《シアルフィブーツ》
    ……敏捷上昇。
     黒褐色の革の編み上げブーツ。
首飾:《フギの首飾り》
    ……敏捷上昇。
指輪:《リング・オブ・マグニ》
    ……筋力上昇。
   《結婚指輪》
    ……読んで字の如し。
護符:《スレイプニルの(たてがみ)
    ……敏捷上昇。
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